銀色の月   作:月光カナブン

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第15話 旅立ち

 昼が過ぎた。夕方にはヴィネを出てカナンに帰る予定だ。でないと帰宅が夜中になってしまう。

 ロイド達は庭で昼食をとった。家が大きめとは言え、大人数で食事できるような部屋は無かったのだ。馬車からビリーを呼ぶ。

 用意されたのはバーベキューだ。

 マドカが投げる串が野菜を貫き、ソフィが射た串(弓でも放てる長大サイズ)が無情にも肉を穿った。

 それらを火にくべると、じゅうじゅうと音をあげ肉の焦げる匂いがあたりに充満した。

 その匂いにつられ現れたのは、ゴスロリ姿の小悪魔。

 

「焼き肉が私を呼んでいる。ならば私はその呼び声に応えよう」

 

 アーシアは紙袋を抱えていた。

 

「やっぱり、うるさいしタバコ臭いから耐えられない。喫茶店で抹茶飲んできた。これ、お土産」

 

 紙袋の中に入っているのは薄い煎餅。

 

「和国名物、ケルビ煎餅だよ。和国の古都にある公園にいるケルビが食べるみたい。飛燕、好きでしょ?」

 

 ケルビ煎餅は留学した時つい出来心で食べた事がある。草の味がした。

 

「い……、頂きます」

 

 顔をひきつらせつつ、飛燕はケルビ煎餅を手に取った。アーシアの期待を裏切れないらしい。

 

「ふがふが(如何にもシリアルだね)」

 

 バリバリと煎餅を頬張るアーシア。

 擬音はバリバリだけど、ふがふが言ってるのは気にしてはいけない。

 隣で草の香りがする味気ない煎餅を飛燕が齧る。渋い顔をしていた。

 

 マドカとソフィはティアに肉を与える事に夢中だ。本来、野生の生き物は炭化した肉は食べないらしいが、火を吹く火竜種はそうでもないらしい。だから、ティアに焼き肉を与えると喜んで食べるのだ。

 串をにぎり、ロイドはのほほんと言った。

 

「いじられてるな、飛燕。廃人にならないといいが」

 

 夕刻。廃人にはならなかったが、ケルビ煎餅で腹を痛めた飛燕は、カナンへ向かう馬車の中で唸っていた。

 マドカとルトガーとは途中で別れた。

 

「今日はソファで寝られるな」

 

 ロイドは安堵した。

 

 街の門でアーシア達とも別れ、飛燕と帰宅する。

 ロイドはソファで寝台を作り、その上に寝転んだ。読みかけの本を開いていると、飛燕が話しかけた。

 

「アーシアは何か、悩んでいるのですか?」

 

「何故そう思った?」

 

 アシュレイの家でカダスという地名に、アーシアは反応したが、それに飛燕が気づいていたようには見えなかった。

 

「オルゴールです。カナンに着く前の野宿で、アーシアが聞かせてくれたオルゴール。あの時、オルゴールを聞く彼女はとても懐かしそうで、寂しそうだった」

 

 なるほど、あの時か。

 

「よく見ているな」

 

 ロイドの素直な感想に飛燕が赤面した。

 

「いえ、そんな……事は、……ありました」

 

「確かにアーシアは見とれるくらい綺麗だし、君がドギマギするのも無理はない」

 

 飛燕の気持ちは良くわかる。ロイドもドギマギする事はあるのだから。例えば、頭突きされて鼻血を散らせた時とか(ドギマギというよりズキズキだ)。

 飛燕は控えめながらもその心境が表に出やすい。彼はアーシアに特別な感情を抱いている節があるので余計にリアクションが大きくなるかも知れない。

 

「アーシアは心に弱さを抱えているのさ」

 

 飛燕にアーシアの弱さについて、少し話す。先日はソフィにも話した。話す度にロイド自身、アーシアの事が気がかりになっていく。

 

「ただ、彼女は自分の弱さを恥じているのか、他人に弱さを見せたがらない。いや、誰だってそうだ。

 周りを心配させまいとしている。だから普段通りに接するんだ」

 

 飛燕が頷くのを確認し、締めくくった。

 

「そして、出来るなら支えてやってくれ」

 

 

 

 

 

 

 五日後。

 ロイドとティア、飛燕は街の入り口にいた。

 ティアを人前に出すと色々と問題が起こると思ったが、幼竜なので皆危険を感じていない事がわかってきた。

 まだ早朝だというのに各地から集まった商人達で賑わっている。ロイドは顔見知りの商人に色々と押しつけられた。

 

「本当にカナンは賑やかですね。例えではなく、街全体が市場なんですから」

 

 この五日間、ロイドと飛燕は旅の支度をしていた。時間に余裕はあったので飛燕を観光させていたようなものだったが。

 飛燕の着物も新調した。

 以前着ていたものは武具店で改造した。着物の内側に細かな鎖帷子を埋め込んだのだ。防御力は上がったが、重さが増した。飛燕は見た目以上に屈強だから問題なく使いこなすだろう。ただ、普段着としては機能しなくなってしまった。

 言い出しっぺのロイドは責任を感じて、飛燕に新しい着物を買い与えたのだった。

 

 飛燕は紺を基調にした着物を好んで着る。ロイドは赤い外套を愛用している。外見的特徴が見事に反対になっている二人が立っていると目立つ。

 待ち合わせ場所にいると良い目印になるらしかった。

 長く待つことはなく、ソフィの馬車と、ビリーの馬車がやってくる。

 ビリーの馬車に荷物とともに乗り込む。馬車の中には大量の荷物があった。ノアが用意した物資だ。ビリーの馬車は荷物の大半を乗せることになっている。ノアは物資の管理のためビリーの馬車に乗ることになるだろう。

 ソフィの馬車にはすでにアーシアが乗っていた。

 行き交う人々の邪魔にならないように、馬車を街道の脇に移動させる。気がつくとノアがいた。行き交う商人に紛れて現れたらしい。

 

「うふ、みんなおはよう」

 

 ノアはビリーの馬車に乗り込み荷物の点検を始めた。

 

「あら大変。蠅叩きを忘れたわ」

 

 いらないよ、そんなもの。

 

「私のメイド服も忘れたわね」

 

 ノアはふざけた調子を崩さないが、目は真剣だった。

 

「大丈夫だよ。ノア以外のみんなの分はきちんと用意してある」

 

 馬車の中から返って来る声。無論アーシアだ。みんなうちにロイドや親父が含まれない事を祈りるばかりだ。

 

 ルトガーとマドカ、アシュレイがやや遅れて到着した。

 ルトガーの手に愛銃は無い。代わりに大きなケースがあった。中身はボウガンのパーツだろう。

 ルトガーは馬車の中で組み立てるなんて事はしないだろうが、常識が通じないので断言は出来ない。

 

「さて、皆揃ったし出発しようか」

 

 ロイドの声にビリーとソフィが頷いた。

 

 これから災厄との戦いが始まる。

 第一歩が封竜剣だ。

 その第一歩はロイド達にとってのもの。ロイド達には始まりの一歩。

 

 そしてルトガーとアシュレイは10年以上前から災厄と戦っている。二人にとってこれは決着をつけるための一歩なのだ。

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