銀色の月   作:月光カナブン

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第17話 月下の砂漠

 空が赤い。視線の先で、太陽が地平線の先に沈んでいく。

 

 夜に備え、各自で防寒具を取り出す。寒村で着用されるマフモフを用意してあった。

 ノアとアーシアはいつも通りの恰好に布をまとっただけだった。

 ノアの装備は飛竜の翼膜を幾重にも重ねたものだが、一枚が薄い(特注)。

 アーシアにいたってはノースリーブのタツジンメイルだ。赤フルフルのロングスカート(特注)は暖かいはずだが、足の付け根近くまでスリットがある。ちなみにスカートの下はハーフパンツだ。アーシア曰く、豪快にめくれようが問題ない、らしい。

 寒くないのだろうか?

 ロイドも普段と大差は無いが、厚手の外套は防寒着としても機能する。

 夜の砂漠は冷え込んだ。凍てつく空気。防寒着が無ければ風邪を引いてしまいそうだ。

 肌寒さを感じロイドはホットドリンクを飲んだ。ほのかに体が温まる。これで風邪を引くことも無いだろう。皆ホットドリンクを飲み干すが、アーシアとノアは要らないようだった。恐るべし。

 ちなみ、辛いものが全く駄目なルトガーは生姜を利かせた甘酒を飲んでいた。

 

「父さん、私も欲しいです」

 

「こんな事もあろうと、マドカの分もタンブラーに用意してある」

 

 よもぎのあんころ餅まで懐取り出し、親子はおやつを楽しみだす。

 

 月光に照らされた砂漠。息をのむほどに美しかった。何より星が綺麗だ。大気が乾燥しているため、よく見えるのだ。青白い無数の光点と白い月。

 その光を頼りに夜明けまで砂漠を歩くことになる。

 寒さは身にしみるが、昼間の暑さと比べれば大したことはない。何より水分を奪われずにすむのはありがたかった。

 

 先頭をアシュレイとルトガーが歩く。

 一歩踏み出せば、足が沈む。固い大地を歩くより疲労は激しく、速度も落ちる。

 アーシアの脇をティアが羽ばたいていく。

 飛べたら楽だな、と思う。ティアは飛ぶのに慣れ始めていた。しかし、長くは飛べず、ふらふらする度にアーシアやマドカに抱き止められていた。

 

「私も抱き止めてくれない?」

 

 ロイドの隣を歩くオカマが言う。その言葉に寒気を感じた。見ているだけで寒い服装に体感温度が下がった。

 寒くなったので水筒の熱いコーヒーを飲む。飛燕とオッサン達は飲酒していた。

 

「酔って道を間違えないと良いが……」

 

 ロイド達の殿はファフニールと飛燕だ。竜が後ろを歩いているのは少々畏怖を感じる。しかも黒い体は夜見えにくいので余計に怖い。

 ふと、ファフニールの気配が小さくなった。

 

「ロイド、すまないがコーヒーをくれ」

 

 そういったのは長身の青年だ。整った顔つき、隙のない立ち振る舞いで、体からは威圧感がにじみ出ていた。これがファフニールの人の姿だ。籠手のような右腕の鉤爪を武器とするらしい。

 ロイドがカップを渡す。

 

「ふむ、癖のない味だ。マイルドな味わいも良いが刺激が欲しいな」

 

 コーヒーを飲むとファフニールは元の姿に戻った。

 竜のままだと一杯のコーヒーは量が少ない。人の姿なら一杯のコーヒーで人並みに楽しめるが、人の姿でいることは大変な力を使うようだ。

 

 

 

 途中に休憩を取りながら砂漠を進む。

 

 朝日が昇り始めた頃、キャンプをはれそうな岩場を見つけた。

 この日はオッサン二人が見張る事になり、ロイドはテントで休息をとった。

 強行軍の疲れから、すぐに眠りについた。

 

 日が沈みかけた頃に目が覚めた。夕日が地平線に沈み、辺りが闇に包まれていく。

 休憩を挟みながら歩く。休憩中にオッサン二人と飛燕が酒を飲んでいた。ロイドが手に入れた魚竜のキモを肴にして。

 ロイドはファフニールとコーヒーを堪能した。体感温度が下がった。

 アーシアとマドカとノアは持ってきた菓子を食べていた。

 ロイドはティアに肉を与えながら思う。砂漠の中で嗜好品を食す。相当贅沢な行為である。

 再び歩き、そのまま翌日も歩き続けた。

 日が昇ってから数時間。

 アシュレイが地平線の先を指さす。その先にあるのはオアシスだ。

 

「あそこから遺跡まですぐだ。給水も出来る」

 

「蜃気楼ではないようだな」

 

 ルトガーが目を凝らして確認した。双眼鏡を使っていないが信用出来る。

 

「私は走馬灯が見える……」

 

 暑さにやられたアーシアとノアがふらふらしていた。

 オアシスまでたどり着くと、アーシアとノアは湖へ向かっていった。

 キャンプを設営し竜車に積んだいた水を全て使いきり、新鮮な水を補給した。

 この地点から、地平線を越えたすぐ先が目的地だ。夜になるまでロイド達は英気を養った。

 

 月光の照らす中、遺跡にたどり着いた。

 遺跡にはオアシス同様に多少の草木は生えているが、建造物の風化が激しい。

 アシュレイがその中で一際大きな建物へ案内した。

 所々倒壊している。人の大きさならば入れるが、ファフニールは難しいだろう。

 

「我は残ろう。シェンガオレンも気になるしな」

 

「わかりました。ではファフニール、何かあれば」

 

 飛燕とファフニールは心話出来るから連絡には困らない。

 アシュレイを先頭に遺跡の内部、地下へ潜っていく。

 着いた先は、大きな箱のような部屋。行き止まりだった。

 壁の一角に何か文字が書かれている。

 アーシアが一目見ていった。

 

「ミミズ腫れだ」

 

 違う。古代文字。アシュレイが言う。

 

「これは一見壁だが、扉だ。この先が封竜剣に続いている。と、ここに書いてあるだろう」

 

 アシュレイが古代文字を示す。

 

「そう言われても、ここにいる中で古代文字を読めるのは親父だけよ」

 

「うむ。だが俺は古文は苦手だ。そこいらの学生よりもな」

 

 アシュレイが胸を張る。

 

 ロイドとルトガーのドロップキックが炸裂した。 絶妙に息の合った二人のキックは、アシュレイには当たらなかった。アシュレイはヒラリと脇によける。

 

 標的を失ったルトガーはそのまま壁に着地。ロイドは壁をぶち抜き、その向こう側に消えた。

 崩れた壁から身を起こす。

 

「何だこの壁は。もろいぞ」

 

 ロイドが壁を叩くと崩れてしまう。

 

「いや、ルトガーの蹴りでは崩れなかった」

 

 アシュレイが壁を叩いて回る。壁はびくともしない。

 

「銀色の月の守護者であるお前の蹴りで壊せたのは……、封竜剣がお前を招いているのか」

 

 ロイドは自分で空けた穴を広げる。狭い一本の通路が現れた。どうやら地下に続いているらしい。

 

 他の壁も調べていき、計三本の通路を見つけた。

 穴をのぞき込んでみる。何とも言えない不快感を感じた。

 

「いるな」

 

 竜車から持ってきた装備をルトガーが背負う。

 いるとは無論、飛竜などのモンスターだ。

 

「この三本の中で、一つだけ封竜剣に続いているのか、途中で合流しているのか……」

 

 アシュレイが思案している。

 

「ともかく入ってみないとわからないな」

 

 三本に別れた道。

 ロイド、ルトガー、アーシア、飛燕、マドカ、ノア、アシュレイ、そしてティア。八人(?)もいるのだ。普通は分かれるのがセオリーだが。

 

「手分けして探してもいいが、あえてセオリーに反発しよう。全員で一つ一つ行こうか」

 

 ロイドが物語の主人公にあるまじき言動をする。

 

「悪くないな」

 

 皆依存は無かったらしい。いいのか、これで。

 改めて装備を整え、薬などの道具を点検する。竜車は安全と思われる馬車においてきた。モンスターに襲われないよう、念のため周りにこやし玉を使っておいた。車を引いていたアプケロスはよく訓練されていたし、大丈夫だろう。

 最初にロイドが空けた穴に入る。少し進むと通路の壁が人工物から岩になった。どうやら洞窟と繋がっているらしい。進むうちに通路の幅が広がっていき、いつの間にか開けた空間になっていた。

 

「うっ、あ……」

 

 アーシアが右目を押さえて呻く。

 

「どうした!?」

 

 慌ててロイドと飛燕が駆け寄る。

 

「大丈夫。少し痛んだだけ」

 

 そう言う彼女の息は少し、荒い。

 

「この先から、奥から、すごい力を感じる。下の方、かな? これは……ティアマトと戦った時に感じた竜脈と同じ?」

 

 という事は、ここにも竜脈が流れていることになる。

 

「確かに、ここは竜脈が流れている。しかし、アーシアの目が痛む程とは、尋常ではないな」

 

 ルトガーの言うことはロイドも同感だった。

 セレムでもアーシアの右目は竜脈に反応した。ティアマトが竜脈から力を吸収したためだ。しかし、ティアマトが力を引き出す前まではアーシアは何ともなかった。

 今アーシアの右目が痛むのは、ティアマトの様に竜脈の力を引き出した化け物がいるか、竜脈の流れが濃いか。あるは両方か。

 

「でも、これは熱い。すごく熱い炎が燃えているみたい」

 

 アーシアが一息つく。

 

「大丈夫、痛みは引いたよ。……ん?」

 

 アーシアが立っている床、というより地面を見た。

 

「何かイヤな感覚が這い上がってくる……」

 

 アーシアに言われて、ロイドも意識を集中した。

 瞬間、ロイドの本能が警鐘を鳴らす。

 

「まずいっ」

 

 ロイドは床に走った亀裂を目撃する。

 ロイド達は一斉に駆け出す。

 亀裂はロイドの足より早く走る。

 ロイドの体が、がくんっ、と揺れた。

 地面が砕け、崩れる。その先にはポッカリと底の見えない穴が空いていた。

 ロイドは全力で前に飛んだ。とっさにまだ崩れていない床を掴む。

 しかし、その床もはげ落ちてしまう。

 ロイドの体は為す術もなく穴へ吸い込まれた。

 

「おおおおおおおおおお!?」

 

 

 

 

 

 

 

 衝撃は思ったより早く来た。背中で着地したが、幸い大きな怪我はしていない。柔らかい砂の上に落ちたことと、外套がロイドを救ったのだ。のだが、腹部と胸部への衝撃が大きく痛い。

 ロイドの上に誰かいる。その人物にはロイドはクッション代わりになり、衝撃は少なかっただろう。そしてロイドへの衝撃は倍増した。

 周囲を見回す。雷光虫がいるらしく、うっすらと明るい。

 とりあえず、ロイドの上にいる者をのけようとして止めた。なんか良い匂いがする。

 

「やはり、人は重いな」

 

 頬に触れる柔らかな髪がこそばゆい。

 

「どこを触ってるんですか、兄さん」

 

 ロイドの上にいたのはマドカだった。

 

「肩だが」

 

「ご名答」

 

 ラッキースケベを期待したロイドとしては寂しい限りだ。

 

 ロイドとマドカは身を起こす。怪我はなかったが、薬のうちいくつかは瓶が割れてしまった。

 

「父さん達とは、はぐれてしまったようですね」

 

 マドカが辺りを見て言う。

 

「いや」

 

 ロイドは落ちてきた穴を見上げていった。ティアが羽ばたき降りてくる。

 マドカがティアを抱き止めた。

 

「ともかく進もうか」

 

 マドカが指を舐めてかざす。

 

「空気が抜けています」

 

 マドカが示した先。アーシアが言っていた方向と同じだ。

 ロイドは刀を抜いた。雷の力を内包する鬼斬破はうっすらと輝いた。ロイドが闘気を集中させるとその輝きが増す。松明の代わりにはなる。

 刀の灯りを頼りに洞窟を進み始めた。

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