銀色の月   作:月光カナブン

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第19話 地面と壁からこんにちは

 地面が、床が崩壊する。崩れ落ちたその下に、暗い穴が空いていた。

 飛燕は亀裂を避けて走る。壁際にいた飛燕は幸運だった。

 崩落は床の中心から始まり、壁までは達しなかった。

 壁の近くの床は崩れていなかったのだ。

 

 遺跡での罠やアクシデントになれているのか、アシュレイも崩れていない箇所に避難していた。

 

「アーシア! ロイドさん!」

 

 だが、床の中央にいたロイド達は為す術もなく、穴へと落ちていく。

 

 その中で崩壊の落下にあらがう者がいた。ルトガーだ。

 重力に引き寄せられる床の破片。ルトガーはそれらを足場とし、宙を駆ける。跳躍、ルトガーの体が飛び出す。足に僅かに触れた破片を蹴り付け、舞い上がり、進む。

 あっと言う間にルトガーは崩壊から逃れた。

 羽ばたいていたティアが空中に残る。ルトガーを一瞥し、彼女はすぐにロイド達を追った。

 ルトガーが穴に向かって叫ぶ。

 

「マドカ、待ってろ。今行くからな」

 

 アシュレイがひざまづき崩れた床の断面を観察した。ルトガーは無視だ。

 

「天然の洞窟の絶壁に粘土で床を作ったのか。なるほど、風化もしているから、一定以上の重みが加われば崩れて当然だな。ロイドがセオリーを無視したから罰が当たったんだ。アーシア達はそのとばっちりを受けたか」

 

 飛燕は穴を覗くが底は見えない。辺りが暗いせいもあるが、なかなか深そうだ。

 

「おい、ルトガー。先に進むぞ」

 

 バンジージャンプを試みようとするルトガーにアシュレイが声をかけた。

 

「穴の底から水の音が聞こえた。マドカやアーシアは身が軽いから大丈夫だ」

 

 ルトガーが松明をかざして穴を見る。

 

「ダメだ。暗くてよく見えないな」

 

 暗闇の中ではルトガーの遠視能力も低下するらしい。

 

「ルトガー、マドカを追うのは止めた方がいい。下手に水に浸かったら弾が使えなくなるかも知れん。ガンナーには致命的だ。もちろん俺もだ」

 

 アシュレイの武器はガンランス、海王槍リヴァイアサンだった。防具はモノブロスを使ったもの。水に入れば沈んでしまうだろう。

 

「僕の服にも鎖帷子が仕込んであるので、泳ぐ事は難しいですね」

 

「先に進めば合流できるだろう。大丈夫だ、ロイドがついてる」

 

 力強いアシュレイの言葉。ここまでの旅でロイドをコケにするような発言もあったが、本心では誰より息子を信じているからこその言葉なのだろう。

 

「アーシアもいます」

 

 あの可憐な狩人の強さは今思い返しても戦慄を覚える。

 そしてマドカも。カナンで過ごした数日で彼女の身体能力を目の当たりにした。膂力は劣るが、速さ、身のこなしに関してはアーシアすら凌駕するほどだ。

 

 彼女達の強さを思えば心配は要らないのかもしれない。

 だが、もしものことがあれば……。そんな微かな不安が心に滲む。

 

「信じろ。この程度でうろたえてどうする。この先、もっと過酷な状況、戦いを超えていかなければならないんだ」

 

 再度アシュレイがルトガーに促した。

 他に選択肢も無い。飛燕達は奥へと歩む。

 

 ルトガーがマドカを案ずる気持ちはわかる。飛燕がアーシアを心配する気持ちと同じだ。

 だが、それはアシュレイとて同じ。彼にとってロイドは息子。幼い頃から知るマドカと、一年以上共に暮らしたアーシアは娘の様な存在だ。更にノアは彼を師のように慕っている。心配でないはずが無い。

 だが、揺らがない。

 信じているのだ、彼らを。そして、信じる強さがある。

 この人は、強い。

 

「地面が変わったな」

 

 通路を通り過ぎ広い空間に出た時、アシュレイが言った。

 かなり広い、天然の洞窟らしい。奥へ続く道は無いようだった。

 

「さっき床が崩落した部屋とは違って、ここは手を加えられていないのか」

 

 アシュレイが壁に手を触れる。

 

「迷宮、遺跡には行き止まりに見えて、そうじゃないところもあるからな」

 

 地面は岩と砂。ごつごつした岩の間に砂が埋まっている。

 飛燕達と離れた位置で、パラリ、と壁が動いた。

 

「何か来ます」

 

 飛燕は腰の刀に手をかけた。アシュレイが槍を引き抜く。

 

「壁の向こうからか。通路があるかも知れないな」

 

 腕の筋肉が少し衰えてしまったが、骨は完治していた。戦闘は十分に可能だ。

 

「俺が見て来ようか」

 

 ルトガーがシルバースパルタカスに弾を込める。

 鈍い音がし、部屋全体が揺れる。不気味だった。薄暗い洞窟の中なので、余計に気味が悪い。

 揺れが激しくなり、壁が崩れ始める。

 いや、揺れているのは壁だけではないらしい。

 地面から砂を舞い上げる何か。岩を砕きながら飛び出したのは、白い棒。

 

「モノデビルか」

 

 棒はモノデビルの角だったのだ。

 

「大方、争っていたモノデビル同士だろう。どちらかが逃げ、追いかけてきたんだろう」

 

 ルトガーは壁へ向かっていく。

 

「壁を揺すっている奴は任せろ」

 

 飛燕はアシュレイとモノデビルを迎え討つことになった。

 モノデビルが飛び出すのと、壁が崩れ、角竜が現れるのは同時だった。

 角竜、その体は黒い。砂漠の悪魔と称されるディアブロスの亜種だ。

 

「一人で頑張れよ」

 

 我関せずと言わんばかりにアシュレイが言った。

 一角竜の体に傷は無い。角竜も同じだ。争った形跡がない。

 

「そっちこそ、しくじるなよ」

 

 ルトガーは角竜に先手を打った。ボウガンから徹甲榴弾が放たれ、角竜の意識がルトガーに集中する。

 ルトガーは角竜が空けた穴に飛び込んでいく。角竜はそれを追い、飛燕の視界から消えた。これで角竜と一角竜が入り乱れる心配は無くなった。

 しかし、

 

「アシュレイさん、ルトガーさんは大丈夫でしょうか」

 

 飛燕は唸り声をあげる一角竜から眼をそらさず言った。

 角竜はガンナーやハンマー使いの天敵として知られている。動きが素早く、強力な突進は避けるのが困難だ。熟練のハンターでも防御出来ない武器で角竜を相手にしたくないという。

 また堅い殻はボウガンの弾を受けつない。

 

「大丈夫さ。あいつはトリックスターだ。そして奴には、パンツァーファウストという妙技がある。

あいつの心配はいらん。それより俺たちだ。頼りにしてるぞ、若いの」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃあああああああああああああ!?」

 

 無重力感が襲う、体が落下する。アーシアは驚愕の悲鳴をあげた。

 

 同じく穴に落ちた者達の悲鳴が聞こえてくる。

 焦燥感のある悲鳴はロイドのもの。何故か楽しそうな悲鳴は、ノアだ。そして弱冠余裕のあるマドカの悲鳴。

 

 だが、ロイドとマドカの悲鳴が突然途切れた。

 

「っ! ロイド、マドガボベヘフっ」

 

 アーシアの呼びかけと水飛沫の音が重なった。

 意識が飛びそうになる衝撃が背中を叩き、落下の勢いはアーシアの体を沈めていく。

 目の前の大量の気泡が視界を奪い、荒々しい水の流れがアーシアを翻弄した。

 水を吸った衣服、装備が重い。

 水中でもがきながら、体勢を整えようと試みる。

 指先が何かに触れる。

 

(岸?)

 

 アーシアはそれを掴み、体を一気に引き寄せる。

 しがみつこうとして、止めた。ノアだったのだ。

 水面に浮かび上がり、視界に入った岸を目指す。

 

「アーシア、大丈夫? 人工呼吸と心臓マッサージが必要だったら遠慮せず言ってね」

 

 ノアも水面に浮かんでくる。

 腕を伸ばして固い地面を掴んだ。そのまま体を引き上げ、水流から脱した。

 水をあまり飲み込まなかったのは不幸中の幸いだった。

 隣ではノアも岸に這い上がってくる。

 

「濡れちゃったな。まずは服を乾かそう」

 

 アーシアもノアも服から水を滴らせていた。

 

「そうだね」

 

 アーシアも服を乾かすのは同意見だった。

 アーシア達がたどり着いたの鍾乳洞らしく、冷え込む。いくらアーシアとノアが寒さに強いとはいえ、濡れた体ではそうはいかない。

 

「へっくしっ」

 

 ずびずばーっ。

 アーシアのくしゃみに鼻水が舞う。

 

「ええい、チキショウ」

 

 一旦岸に戻り、顔を洗う。その間にノアは火を起こしていた。

 ノアが持っていたのはマッチだ。このマッチには火竜の器官である火炎袋がつかわれている。水に濡れても火が点り、しかも一本あれば野外で暖がとれる優れものだ。

 ただし非常に高価で数が少ないので入手が困難だった。そんな物を持っているノア、流石は行商人である。

 

(ブラとか透けてないよね……)

 

 防具は厚手の素材で出来ていたので、心配したような事態にはなっていない。

 肌に張りつく服が不快だ。脱いでしまえば楽になるが、そんな事をすれば、男子が(主にロイド等が)悶絶しながら吹き出した鼻血の勢いで宙を舞う、そんな艶姿が出来上がるだろう。

 この場にノアがいるのでそれは出来ない。

 唯一、スカートは外した。下にちゃんとハーフパンツをはいているので問題はない。本来はスカートではなく、足を保護する防具である。

 ノアも外見上差し支えない程度に服を脱ぎ、暖をとっていた。

 風が吹いていて、火が揺れる。どこかへ繋がっているのだろう。それが水流から繋がっていないことを祈ろう。

 服は乾きつつあったがその下、下着はそうはいかない。

 

「アーシア、私のアンダーウェアあげようか?」

 

「やだ」

 

 いそいそと服に手をかけるノアをどやしつけた。

 

「ロイド達とはぐれちゃったね」

 

 穴に落ちた時、途中でロイドとマドカの悲鳴が途切れた。見えなかったが、あの穴は二つに分岐していたのだろう。あの時、アーシアが見たのはルトガーだった。床の破片で飛び回る彼はやはり化け物だった。

 戻る手だてもないので道なりに進むしかないだろう。

 

「少し、まずいね」

 

 アーシアは危機感を感じていた。

 ロイドとマドカ、ルトガーとアシュレイと飛燕、彼らにあって、アーシアとノアに無いもの。

 

「どうしよう、ノア。ツッコミがいないよ」

 

 マドカや常識的な飛燕が、そしてロイドがツッコミ役だった。アーシアとノアは完全にボケである。ボケが二人、ツッコミがなければボケは堂々巡りし、いわゆる無限ループが発生するのだ。

 

「仕方ないから、今は私が突っ込む。ノアはボケ」

 

「私はいつも通りか。楽で良いわ」

 

 体も温まってきた。アーシアはポーチをまさぐり蓋をしたカップを取り出した。中身はフルベビアイスだ。

 

「ふがふが」

 

「ちょっと待って。何故今アイス。砂漠で食べてなかったのに」

 

 アイスを頬張っているとノアが突っ込んできた。

 

「オカマが細かいこと気にしちゃ駄目だよ」

 

「ごめん、アーシア。私がツッコミする」

 

 結局、アーシアはボケのままだった。




ソフィ:……。

アーシア:どうしたのソフィ、スマホ片手に。

ソ:いえ、ルトガーさんなら水中でも戦えるんじゃないかなって。

ア:そうだね。でもこの話を書いた頃はまだ3は発売されてなかったんだ。ガンナーの水中戦は出来ないと作者も思っていたんだよ。

ソ:なるほど。

ア:今書いたら、ルトガーは水中どころか溶岩の中でも戦えるよ。

ソ:わかります。

ルトガー:(俺は一体何だと思われているのだろうか)
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