銀色の月   作:月光カナブン

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第6話 鬼人

 一瞬、ロイドの目にはルトガーが爆風に吹き飛ばされたように見えた。

 しかし実際は違う。ルトガーは爆風を利用して岩壁に跳躍したのだ。

 

 だが、このままでは岩に頭をしこたま打ち付けて自滅する。

 

 ロイドの心配をよそに、ルトガーの身体は宙で反転し片足で岩壁に着地した。続く片足で踏み込み地面と水平に走り出した。それは跳躍と爆風の慣性を利用した曲芸だ。

 

 ルトガーは“トリックスター”の異名を持つ。相手を翻弄する動きは東方の忍のそれだ。

 

 ロイドを驚かせたのは壁を走った事だが、壁走りは以前見た事があった。しかし、人一人を抱きかかえてやってのけるとは思わなかったのだ。

 

「化け物」

 

 と、アーシアの声が聞こえた気がした。激しく賛同。

 

 ロイドと同じく驚愕した竜の攻撃が弛まる。その隙にサッサとルトガーは岩壁の裏に姿を消した。

 標的を無くした竜がロイドと向き合う。

 ロイドは静かに息を吐く。その呼吸と反対にロイドの中で闘気が渦を巻き嵐となって吹き荒れた。

 

「うぅおおぉぉぉぉぉ!!」

 

 ロイドの獅子吼に大気が弾けた。ロイドの身体は哮る闘気を身に纏っていた。

 

 本来は双剣で発動させる鬼人化だ。鬼人化は自らの気を使い潜在能力を引き出す技。

 その鬼人化を他の武器に応用するのは決して簡単では無いが、難しい事でもない。

 ただ、危険を伴う。というのも重量のある武器を鬼人化して振り回すのは、身体に過度の負担を与えてしまうからだ。筋肉は断裂し骨は砕ける。

 最悪の場合は再起不能だ。故に数あるハンターの武器の中で最も軽量である双剣は鬼人化に最も適した武器となり、双剣以外の武器での鬼人化はある意味で禁忌となった。

 

 雄叫びが轟き、天から銀光が降ってきた。地響きと共に竜の足が大地を踏み抜いた。

 竜の一撃を横飛びに避けながら、その姿勢からロイドは剣を振った。唸りを上げる刀は鱗に弾かれる。

 シルバーソルに変化してから、ただでさえ堅い鱗が更に硬度を増した様子だ。

 竜が噛みついてくる。それをロイドは真っ向から迎え撃つ。二合、三合、刀と牙が打ち合い、ぶつかり合う力がついに両者をはね飛ばした。

 

 

 

 衝撃で後退しながらも体勢を立て直す。

 竜が地を蹴った。

 避ける余裕は無い。

 

 ロイドは銀光の疾駆を真っ向から迎える。

 ロイドはカウンターをねらう。疾走する竜に一太刀浴びせるのだ。

 実現するには、間合いを計らねばならない。

 

 間合いが狭まる。竜が迫る。

 まだだ。竜はまだロイドの間合いに入っていない。

 身体に竜の威圧感が重くのしかかる。

 

「ーーッッ!」

 

 ロイドは鋭く息を吐き、右足を踏み出した。

 刀が駆ける。

 

 もはや竜は眼前、吐く息が届く距離。

 

 だが、振り下ろされた刀が空を斬る。

 竜は飛び上がる体勢をとっていた。その構えはサマーソルト。

 油断した。突進からの急停止は火竜達の十八番ではないか。

 そして、そこからの後退がこうも速いとは。

 

 ロイドが刀を引き寄せ、竜が跳ねる。ロイドは己を潰そうと迫る銀の風を感じた。

 当たれば、運が悪ければ即死。良くても全身を砕かれ、立つことは敵わないだろう。

 

 そう、当たればの話だ。

 今のロイドは竜より速い。

 

 凄まじい唸りとともに迫る尻尾。それを迎え撃つ刃は烈風を裂き、走る。

 尻尾が両断され胴体と切り離される。吹き飛んだ尻尾が大地に叩きつけられた。

 たまらず竜の身体がバランスを失い落ちる。ロイドはその機を逃がさない。

 竜が大地に付くより速く刀が走る。竜の胴を深々と切り裂いた。

 噴き出した血が自身にかかるより速く、次の太刀をあびせる。

 まだ足りない。まだ遅い。

 一太刀、二太刀。斬る度に刀が走る速度が上がっていく。最後の太刀が竜の顔を砕き、吹き飛ばした。

 

 ロイドの壮絶な乱舞を浴びながらも竜はまだ息があった。吹き飛ばされながらも竜は火球を飛ばす。

 

 今度こそロイドに避ける術はない。砲弾をはるかに凌駕する一撃がロイドの身体を打ちすえた。火球はロイドを岩壁に叩きつけ押しつぶした。圧倒的な熱量が全身を焼く。ロイドの身体は地に落ちた。

 

 常人なら即死だ。

 だがロイドはまだ生きていた。呻きながらも竜を見据えた。竜はゆったりと立ち上がり、足を引きずりながらロイドに近づいてくる。

 

 ルトガー達が来る気配は、わからない。だが来たところで彼らが自分を救う事は出来るだろうか。

 ロイドは静かに終わりを感じていた。

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