銀色の月   作:月光カナブン

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第7話 銀色の幼竜

 竜がロイドの前にしゃがみ込み、ロイドの顔を覗き込んだ。

 

「息があるようだな。人とは思えないしぶとさだ」

 

 荒い息とは対照的な落ち着いた声が投げかけられた。

 

「どうした、俺を殺さないのか」

 

 ロイドは精一杯意地を張って言った。

 

「強がっても声が震えている」

 

 図星だった。

 

「そう言うあんたもな」

 

 ロイドは恐怖と満身創痍で声が震えていたが、それは竜も同じだった。

 

「くっ……」

 

 何とか身を起こす。フルフルの外套が傷を少しずつ癒やし、ロイドも少しずつ動けるようになってきた。竜は黙ってそれを見守っていた。

 

「我はもうすぐ死ぬ。だがその前に、我が使命を汝に継いで欲しい」

 

「誇り高き竜が人に意志を託すのか?」

 

「そうだ」

 

 竜が頷く。

 

「ロイド!」

 

 誰かが呼ぶ声。剣を抜いたアーシアが走って来る。

 

「アーシア、待て!」

 

 ロイドの言葉にアーシアの走りが止まる。アーシアが首を傾げて歩み寄る。

 

「ロイド、黒こげじゃない」

 

「そういう君こそ眼は大丈夫か?」

 

 返事がない。アーシアはロイドを凝視し、

 

「ロイドの丸焼き……、まずそう」

 

 悪かったな……。

 

「アーシアは大丈夫だ。お前が竜を打ち負かした事で竜脈が静まり痛みも引いたようだ」

 

 いつの間にかルトガーが側に立っていた。油断なく得物を構えて。

 

「いや、俺の負けだ。彼が俺に寄ってきた時、俺は動けなかった。あの時、彼が俺を殺すのは造作も無いことだった」

 

 竜は答えた。

 

「戦いの中で汝の哮る魂に触れ、曇りの無い心を感じた。我が使命は希望の守護。これまでも幾多の敵を打ち倒してきたが、汝との戦いでもうそれも敵わない。汝は死ぬには惜しい。我が使命を継いで欲しいのだ」

 

 ロイドは竜を見上げ、不適な笑みを浮かべた。

 

「分かった。救われた命だ。あんたの希望、守ってみせるよ」

 

 竜は安堵の息をつきその身を横たえた。翼が差し出された。

 

「持っていけ、我が魂は汝と共にある」

 

 ロイドは翼に乗せられた一枚の鱗を受け取った。

 

「我が希望、愛しい子はまだ幼い。どうか守り抜いてくれ。それがいつか世界を救うかもしれぬ」

 

「希望ってあんたの子どもなのか?」

 

 竜が頷き、アーシアを見る。

 

「そちらのお嬢さんの眼は、何と玉なのか」

 

 アーシアが頷く。

 

「これは面白い。そちらの御人もいい眼をしている」

 

「最後に聞かせてくれ。名は?」

 

「ティアマトだ」

 

 荒かった竜の息が小さくなっていく。

 

「そろそろ、眠らせてくれ」

 

 

 ティアマトの瞼が閉じる。それが開かれることは、もう無い。

 

「ああ、お休みティアマト」

 

 ロイドは動かなくなった竜に一礼した。

 

 

 

 

 

 

 怪我をした時、可愛い女の子の手当てを受ける。男なら感激する。しない奴は変態か変質者、またはホモだ。

 ロイドはそう思う。

 一部の者に対する偏見にもなるので余り口には出さないが、共感する者は多い。多いはずだ。

 共感しない奴もきっとホモだ、もしくはBL好きだ。

 

 ロイドはアーシアの手当てを受けていた。アーシアは可憐な少女だ。

 

 にもかかわらず、ロイドの目には苦痛の涙が浮かぶ。

 

 乱舞により痛めた腕に薬を塗り、包帯で固定する。そこまではまだ良かった。

 回復薬。傷口の出血を抑え、その修復を促進する、飲む傷薬。薬草とアオキノコを煎じて作られるそれは、命の危機に陥った者しか飲めない匂いを放つ。市場では飲みやすく改良した物が売られているが、アーシアは飲みにくく改良した薬をロイドの口にしこたま流し込んだ。

 

「どう、効く?これがええんか?これがええんか?」

 

 ロイドは泣きながら訴えた。

 

「(b^-゜)」

 

「ダメ。女王様って呼んで」

 

 返事が無い。ただの屍の様だ。

 

「ルトガー、ロイドが」

 

「これは電気ショックで蘇生するしかないな」

 

 ルトガーが電撃弾を取り出すと、おもむろに得物に装填、照準をロイドに合せた。

 

「星が、豚が飛んでるぅ」

 

 ロイドが跳ね起きた。アーシアとルトガーが舌打ちした。

 

「もう大丈夫だ。心配かけたな」

 

 ルトガーが黙ってロイドに肩を貸した。ロイドはポーチから携帯食を取り出した。

 それはシュウが作った代物で、味は極上の焼き菓子だ。口直しに一つ食べた。

 

 ロイドは改めて竜の亡骸を見る。力を失い銀の輝きは消え元の蒼い体に戻っていた。

 ロイドの手の中の鱗は蒼く、淡い銀の輝きを残していた。ティアマトの使命を継ぐ。この鱗はその証なのだろう。

 ロイド達はティアマトの亡骸から翼を切り取った。

 

「すまないな、仕事なんだ」

 

 ロイドの中でティアマトをある意味で戦友になっていた。ティアマトから素材を剝ぐのは友を辱めるようで心苦しい。討伐の証拠の翼だけを剥ぎ取った。

 

「ロイド、尻尾は?」

 

 尻尾も体と同じく元の蒼色に戻っていた。

 

「俺はいい」

 

 アーシアが尻尾を剥ぎ感嘆の声を上げた。

 

「紅玉だ」

 

 きっとティアマトからの贈り物だろう。そうロイド達は納得した。

ティアマトは自分の巣を護る様に立ちふさがった。巣には彼の言う“希望”があるのだろう。ロイド達は巣に向かった。

 岩壁の隙間を通ると洞窟の入り口があった。洞窟の中は一本道だった。すぐに大きな広間にでた。天井には大きな穴が開いていた。

 ロイド達が通った道と天井以外に出入り出来る場所は無いようだ。

 

 広間の真ん中で動く物があった。ロイド達の視線が集中する。

 

「シルバーソル……」

 

 それは銀色の幼竜だった。

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