銀色の月   作:月光カナブン

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外伝Ⅰ まどろみ

 人の人生の半分は夜。

 陽が落ちれば人は寝る。光は松明などの照明のみの暗い闇に世界は包まれる。

 灯りがあれば夜更かしは可能だ。しかし、日が沈めば寝るという事は生物にとって最も健康的な事だろう。

 

 厳密には野生の動物は眠らない。天敵を警戒して身体を休める、というのが正しい表現だろう。

 

 ロイドの住む商いの街、カナン。商売が盛んなこの街は日が沈んでからも静かな賑わいを見せる。発展した街であり同時に眠らない街でもある。

 人工的に発展する事で眠らなくなった街。眠らないのは野生動物も同じ。発展したが故に野生と同様になった街。自然の対義語は人工だと言われているが、これは何という皮肉だろうか。

 

 ロイドの家は街の外れにある。彼はカナンは好きだが、夜うるさいのは玉にキズだと思っていた。それ故、静かな街外れに住居を構えたのだ。

 

 その夜、ロイドは特にすることもくサッサと寝ることにした。

 

 

 

 翌朝、ロイドは日の出ともに目覚めた。カナンの朝もまた早い。眠らないのだからそれも当然だが、朝から各地から商人が街の門に集まってくるのだ。

 さて、少しばかり早いが自分も起きるか。

 ロイドは身を起こしベッドから下りた。

 

 ガシャッ

 

 と、硬質な音が響く。

 

「何だ、またヨシツネあたりが粗相を起こしたか?」

 

 ゴリゴリと頭をかく。

 ……ゴリゴリ? それは、おかしいぞ。

 

 ロイドは自分の姿を確認する。全身を暁丸で包んだ鎧姿。

 しまった。アイテムボックスで装備を普段着に替えるのを忘れていた。鎧のまま寝るなんて、ただの馬鹿ではないか。

 

 いや、待て。鎧のまま寝るのは当たり前だ。鎧のまま飯を食い、街をねり歩くのがこのMHという世界のルールではないか。例えズボンをはき忘れようと、下着姿にまがまがしい武器を背負っても何一つ問題ないのだ。

 

 改めてその事を確認したロイドは安心して部屋を出た。そんな世界にあって外出時に服を着ることを忘れない自分を、ロイドはもっと誇って良いと思う。

 

 居間に行くと、茶色の豚達が出迎えてくれた。手招きすると駆け寄って来る。たくましい肉体とそれを飾る雄々しい角が突進してくる。

 ロイドはそれを抱き止め、吹き飛んだ。起き上がり別の豚に跳ねられる。再び起きようとして、踏まれる。聞こえてくるのは荒々しい鼻息。

 

 最初は小さな子豚だったが、すくすくと育ち今は立派なブルファンゴになった。どさくさに紛れてモスになった豚もいるが問題ない。

 豚達に跳ねられながら、キッチンに向かった。

 

「ご主人様、おはようございますニャ」

 

 元気のいい声が投げかけられた。

 

 声の主は、アイルーフェイクを被りメイドシリーズで全身を固めた謎の生命体。

 ネコミミメイド。女性が男性をもてなすときにこの格好をすると喜ばれる。と、持っている蔵書に書いてある。無論ロイドも大喜びである。

 

 顔はアイルーフェイクに隠されてわからない。心なしか筋肉が盛り上がっている気がする。案外中身は男かも知れない。ルトガーとか入っていそうだ。

 これでは中身がアーシアやマドカであることは期待できない。 

 

「あんた何者だ」

 

 油断なく愛槍ハイパーバキュームと盾を構える。

 

「ご主人様、よく俺の正体を見破ったニャ」

 

 謎の生き物がクロームデスレイザーを構えた。

 

「いや、何も見破ってないから。っていうか何だその剣。俺も欲しいぞ、くれ」

 

「俺に勝ったら、剣と俺をあげるニャ」

 

「ヒィッ、ゴメンナサイ」

 

 背筋に悪寒が走り思わず謝ってしまった。

 

「ふはははは!隙ありだニャ」

 

 容赦なく降り下ろされる剣。 

 だがロイドはそれを盾で受け止めた。

 ボヨヨ~ンッ!

 鋼と鋼がぶつかり合う硬質的な音が響く。

 

「もらった」

 

 素早く槍を突き出す。謎の生物は脇に転がってそれを避ける。

 だが、ロイドの振るう槍は魔槍。対象は必ずその吸盤の餌食になるのだ。

 槍は正確に狙いを捕らえ、張り付いた。

 

「参ったニャ、俺と剣をあげるから許して欲しいニャ」

 

 言いながら飛びついてくる謎の生物。脇によけ、勢い余ったそれを居間に放り込んだ。 荒い鼻息と悲鳴が聞こえてくるが気にしない。

 キッチンの床に置き去りにされた剣を拾い微笑んだ。

 

「前から欲しかったんだよな、ヒャッホー」

 

 ロイドは喜びのあまり飛び上がった。

 

 宙に浮いた体が地に着かない。代わりに途方もない浮遊感。 

 

 何だ?

 

 気づいた時には重力がロイドの体を我が元へと引き寄せようとしていた。

 

 

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 床に叩きつけられた衝撃で目が覚める。

 

「……、夢か」

 

 どんな夢だったか。思いだそうとするが、微かな記憶は霞の様に掴みようがなく、消え去った。

 

「まぁ、いいか」

 

 床から起きあがる。ベッドから転げ落ちて起きるとは、まだまだ自分も子どもだな、と ロイドは自嘲した。

 

 夢。

 それは眠りの中で自分だけに語られる淡い物語。目覚めとともに消える儚き幻想。

 その輝きに魅せられ人はまた、夢を見る。

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