ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』 作:sisid
この作品は、オリジナルキャラクターのみで構成されているお話も沢山あります。
クロスオーバーとなる回には、前書きに必ず作品名を記入しております。
他作品色々と、一話完結形式というタグを付けさせていただいている通り、基本的にどのお話から入っても問題ありません。
ですので、クロスオーバーのお話しか興味がない場合は、前書きを確認して読んでいただけると幸いです。
長々と失礼しました。それでは第一話、よろしくお願いします。
「はぁ……」
ホウエン地方のカナズミシティのポケモンセンターにて一人、深いため息を溢す少年がいた。先程、ポケモンバトルをして見事に完敗したのである。
カナズミシティにあるポケモンジムに一昨日負けてから、力をつけようとポケモントレーナーとバトルをしていたが、全戦全敗。
「才能ないのかなあ」
ポケモンの治療が終わり、ポケモンセンターを出る。そんな落ち込む彼に、良い香りが漂ってきた。なんとなくその匂いの方へ目を向けると、左手の薬指に、手作り感のある緑に輝く指輪をつけており、黒髪のアシメで穏やかな表情をしている、その少年よりは一回りぐらい歳が離れているが、それでも若い青年が車の中でカフェを営んでいた。
ミニスカートの女の子たちが揃って飲み物をもらった後、歩きながらその飲み物を美味しそうに飲んでいる。少年はなんとなく、そのカフェに足を運んだ。
「いらっしゃい。ご注文はお決まりですか?」
「ええっと、ちょっとだけ待ってください」
「はい」
穏やかで、安らぐ声だ。少年はホットカフェオレを頼むと、青年はさっそく準備に取り掛かった。
「…なにかありましたか」
「え?」
良い香りを漂わせながら、反時計回りにゆっくりと混ぜている最中、彼は少年にそう聞いた。
「失礼、元気がなさそうに見えたので」
「そうですか。…そうですね。僕、まだ駆け出しのポケモントレーナーなんですけど、全然勝てなくて…今日も戦ったんですけど、完敗で。始めの頃はまだ勝てたのに、少しぐらいしてから壁にぶち当たってて」
「そうなんですか。ポケモントレーナーでしたか」
「え?はい。あれ、そう見えませんか?」
「ポケモンを見てませんから。はい、お待たせしました」
「あ、ありがとうございます」
渡されたカフェオレを飲むと、ほんわり落ち着いた。温かく、荒んだ心が癒やされていくような、そんな気分になる。
「貴方の手持ちのポケモンは?」
「えーっと一匹だけですけど、出ておいでミズゴロウ」
「ミジャア」
元気そうに振る舞うその少年のミズゴロウ。それに対し、カフェの青年は優しく微笑む。
「サナリス」
「サァ」
「サナリス…?わっ、綺麗」
「サーナイトというポケモンです。僕は彼女にサナリスと名付けています。他のサーナイトとは色素が違うので、貴方は非常に運が良い」
「へえ…髪が綺麗で…」
左に、透き通った綺麗な緑色の宝石が装飾されている腕輪をつけている。サナリスはミズゴロウにパンを渡す。ポケモンでも食べられるオボンのジャムが塗ってあるパンを、ミズゴロウは嬉しそうに食べる。
「一度の経験が、自身の成長を妨げることもある」
「え?」
「勝つことだけがポケモンバトルではありません。いかにポケモンと寄り添えるかが大事だと、僕はそう思います」
青年はミズゴロウを優しく撫でる。
「負けたくないという気持ちは大事ですが、気負い過ぎると逆効果ですよ。この子をしっかり見てあげれば、カナズミジムであれば戦えるはずです」
その穏やかな声色と同じ、穏やかな表情でそう言った。
「心の声を、読み取ってください。そうすれば…」
「た、助けてくれえ〜!!」
「…おや?」
大人の助力の声が、サナリス達のところまで聞こえてくる。カナズミシティの中でも飛び抜けて大きいビル、デボンコーポレーションから赤い衣装を纏った男がカバンを持って走って行っていた。
その後ろからコーポレーションの社員であろう男が息を切らしている。
「どうされましたか?」
「あ、ああ。大事な書類を、マグマ団に盗まれたんだ!あれが…なきゃ…はぁ……はぁ…」
「深呼吸を。僕がこの少年と共にその大事な書類とやらを取り返して見せましょう」
「え!?」
少年の手を掴み、サナリスにコンタクトを取ると、場が一転、いつの間にか先程の赤装束の男の目の前に立っていた。
「なっ…!?なんだおまえら!」
「その手に持っているカバンを取り戻したく、やってまいりました。抵抗はしない方がいいですよ」
「うるせえ!これは必要なもんなんだ!いけ!ポチエナ!」
「ほう、ポチエナですか。ミズゴロウを出してあげなさい」
「えっ、あ、はい。…よし!いけ!ミズゴロウ!」
少年はミズゴロウを出して、早速構える。ポチエナのことを観察し始めた。
「へっ、ミズゴロウ如きで俺のポチエナがやられるかよ!ポチエナ!"かみつく"だ!!」
「躱せ!ミズゴロウ!」
「ミッ!!」
トレーナーの声に反応出来ず、かみつくをモロにくらってしまうミズゴロウ。
「くそっ!ごめんミズゴロウ、反応が遅れた!次はこっちの番!ミズゴロウ、み…」
「ストップ」
「えっ」
後ろから両肩にそっと手を置き、顔を少年の耳元に近づけ、静かに呟きはじめたのは、カフェの青年。
「貴方は、エリートトレーナーですか?」
「い、いえ」
「そうですよね。ですが、貴方の動きはエリートトレーナーそのものです。冒険を始めたトレーナーとしての段階を飛ばしている」
「段階…?」
「僕が貴方に言ったことを思い出して」
そう言うと、手をどけて再び後ろに下がる。少年は青年に言われたことを思い返す。声に何か仕掛けでもあるのか、こころが落ち着いていた。
「作戦会議は終わったか?何してきても変わらねえけどなっ!ポチエナ!もう一度"かみつく"だ!!」
「エナァ!」
「ミズゴロウ!"みずでっぽう"!」
「ミッジュゥ!!」
「なに!?」
今度はポチエナを
見事にポチエナより早く攻撃をすることが出来たことに、ひどく興奮する。
「ミズゴロウ!もう一回!」
「ポチエナ!くっ…!!」
みずてっぽうが決まり、ポチエナは戦闘不能に。それを見て青年から拍手を贈る。
「やはり地力はありますね。お見事です。ミズゴロウも、久しぶりに勝てて嬉しいでしょう」
「はい!俺、なんか今ならジムも負けない気がします!」
「ええ。きっとそうでしょう。…さて、返してもらいましょうか」
青年が敵に目を向けると、舌打ちをされる。
「そういうわけには行かねえんだよ!」
そう言ってカバンを持って逃げようとする。が、すでに向かう先は青年達がおり、下がればさっきのところへ。どうすればいいか考えようとした時、自分の身体が宙へ浮いていることに気づく。
「カバンを離しなさい。そうすればそこから落とさずに助けてあげます」
「お、おい、冗談だろ?そんな非人道的なこと…」
「ちなみに高度はどんどん上がっていくので、そこのところはよろしく」
「ひっ!!分かった!分かったぁ!!」
情けない声を出しながらカバンを離す。そのカバンも、敵もゆっくりと降ろされる。
「サナリス。ご苦労様」
「サナァ♪」
撫でられご機嫌になるサナリス。その光景が微笑ましいと思うと同時に、青年の脅し文句が怖いと思う少年でもあった。
「…あれ?技…」
「落とすなんて、冗談なんですけどね。…さて、返しに行きましょうか」
「あ、はい」
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「さて、急な出来事が起きてしまったために、もうこんな時間ですね」
太陽が眠りに落ちそうな時間帯、オレンジ色でカナズミシティが染まっていた。
「あの!本当にありがとうございました!」
おやすみが近づいているというのに、少年のその元気な声は疲れた社会人達の背筋を伸ばすほど。
「なんか、今ならジムで恥じない戦い方が出来そうです」
「それは良かった」
「それで…聞きたいことがあるんですけど」
「なんでしょう」
「どうやったらお兄さんみたいに強くなれますか?」
「えっ」
目を輝かせながら聞いてきた。青年はポリッと頰をかく。
「僕はそんなに…」
「いいえ、絶対強いです!」
「あはは…恥ずかしいですね。ですが僕はしがない移動カフェの店主。今日のはたまたま…ということにしておいてください」
「えぇ…じゃあ、名前だけでも」
青年はそういえば名乗ってなかったなと言われて気づく。そして優しく微笑んだ。
「僕の名前はアンペル。また、どこかで巡り会いましょう」