ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』 作:sisid
ーー昔の人は偉大だ。けどどこかしら頭のネジが飛んでいるとも思う。
リシテアは今回の移動カフェの先でそれを痛感した。
周りを見渡して分かるのは雲海だ。雲の上に今、私達はいる。そして足を少しでも滑らすと命はない。どうしてこんな場所に、昔の人は建物を建てたんだ……
「キッチンカーを置くスペースをなんとか確保出来て良かったです」
「サナリスちゃんのテレポートがなかったらそもそも山登れませんでしたしね。坂が急すぎますよ」
「サナァ……」
今回、なぜこんなところに来たのか。それはある大学の学長の依頼だった。アンペルはそれを引き受けたらしいのだが……
「ここはある人が作った、昔の修道院です」
「ええ、そうなんです。ですが、私達の大学と密接な関係を持っておりまして。ここの修道院を建てた方が、数年の時を経てから私達の大学を建てたのです。遺産として大切に保存されていますが、この7日間だけ、使用許可を国から頂けまして、理由なんですが……」
アンペルと学長が話を進めている。この時間はリシテアにとっては退屈な時間ではある。
「サナリスちゃん。理由がなんであれここで商売するって大変じゃない?酸素薄いし」
「サナァ?」
「あ……サナリスちゃんは気にならないか。まあ、私もそこまでしんどいとは思わないけど。一番は寒いってところね。うー厚着でも寒い……」
「リシテアさん」
「あ、はい!」
アンペルに呼ばれ、駆けつける。すると、学長が頭を下げる。慌てて同じように頭を下げる。丁寧に手入れされた白いフサフサの髭をなぞるように触りながら学長はリシテアを見て話しかけた。
「リシテアさん、せっかくですから彗星を観てみませんか」
「え?」
「天文学部のみんなで今日から7日間、ここで、1000年彗星を観るんです。この建物の屋根や、安全なところでも、それぞれの場所から望遠鏡等を使って観るんです」
「でも、私、そういうの詳しくなくて……」
「だからこそです。アンペルさんから、貴女はとても感情が豊かだと聞いています。そういう方に、観てもらいたいのです」
「豊か……え、私豊かなんですか?」
「豊かですよ」
ーーアンペル先生のことを知りたいと思ってお世話になってるけど、私、全然この人のこと知らないのに、逆にアンペル先生は私のこと知ってるんだ。
「……他人を知ることより、まずは自分から」
「え?」
「貴女自身がまず、何が好きなのかを見つけてください。僕が出来るのはそれぐらいですから」
言われてリシテアは気づいた。確かに、自分は他人のことばかりを気にしていたと。自分が劣等生だと思っていたから、そこで決め打ちしていたから……
「自分の知っていることを、そのまま"
「もしかして、私の為にこの依頼を引き受けたんですか?」
「それもありますが、僕も1000年彗星を観たいのです」
そうして、夜になるとアンペル達は天文学部達に料理と温かい飲み物を用意していく。天文学部の人達は1000年彗星の時間までに準備を済ませ、待つ。
夜が深くなってきた頃、リシテアは、天文学部の一人の男に声をかけられていた。
「学長からリシテアさんに星について色々教えて欲しいと言われた。アスターと言う。よろしく頼む」
「よろしくお願いします。アンペル先生ー!行ってきます!」
「?1人で大丈夫ですか?」
「いやこの人と……」
「さあこちらへ」
手を差し伸べられる。
ーー見た目通りの紳士な方だな。
リシテアはその手を繋ぐ、リシテアよりも遥かに大きい男の手は非常に冷たかった。
「……誰かいましたか?」
「サァ?」
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「ここは灯りがないから、足元に気をつけて」
どこからか、ヒトモシが出てくる。その小さな灯火が少しだけ辺りを照らしてくれた。
「このヒトモシは、アスターさんのポケモンですか?」
「そうだ。ヒトモシにはいつも助けられている。夜は本当に危ないからな。ただ、たまにイタズラに私の髪を燃やすんだ。おかげで綺麗な茶髪だったのに、今じゃチリチリ頭だよ」
「ふふっ、何をいってるんですか」
場が和む。この人はアンペル先生とは違う安らぎを与えてくれる。
着いた先ではまだ1000年彗星は見えていなかった。
「さあ、人生で一度しか……いや、7日間観れるんだから、人生に7回は観れるのか?」
「一度でいいんじゃないんですか?」
「ではそうするか。かなり貴重な体験だぞ。噂によると、ジラーチという幻のポケモンが姿を現しているということらしいからな」
「へえ……」
料理と温かいラテを飲みながら、座って他愛のない会話をしていた。移動カフェの生活はどうだったとか、どんな人がいたかとか。
「アルセウスという幻のポケモンについての話を、以前アンペル先生から聴きましたね」
「アルセウスか。幻なだけあって、私は一度も見たことがない。しかし……いて欲しいものだな」
「なんでですか?」
「そりゃあ、ロマンがあるからさ」
「ロマン?」
「おっ、始まった!」
思わず立ち上がったアスターの顔を星明かりが照らす。リシテアはその方角へと顔を向けた。たった一つの大きな曲線を描く星が際立っていて、その光景に思わず白い息を溢していた。
刹那の呼吸を忘れるぐらいの胸の高鳴り。
「これが1000年彗星だ。こうやって観ると壮観だな」
「綺麗……」
「そうだろう!こういうのが……」
アスターは喋るのをやめて、腰を下ろした。リシテアが夢中になっているのに気付いて、邪魔にならないようにした。
それからの7日間は常に2人は一緒にいた。
観る場所は固定だが、それでも1日目に比べて景色が変わっているのが、アスターはもちろん、リシテアにも興味を示すものだった。
「ご飯いらないんですか?」
「ああ。草食なんだ」
「へえ……」
次の日も、そのまた次の日も、アスターは何も口にしなかった。
「寒くないんですか?飲み物だけでも飲みませんか?」
「基礎体温が高いんだ。これぐらいの寒さはへっちゃらさ。それよりも、君の話を聴かせてくれよ」
「特に面白い話なんてありませんよ」
「じゃあ一つ質問させてくれ」
「どうぞ」
「君はいつもアンペルさんの話をしているが、その齢にして旅に近いことをしてて、親に怒られないのか?」
「……親はいませんよ」
「あっ……すまない」
リシテアは首を振る。
「気にしないでください。元より心の繋がりなんてありませんでした。私にとって唯一の父ではあったと思いますが、今は全くそんな気持ちもないんです」
屈託のない笑顔を見せる。実際に彼女は吹っ切れていた。
「袂を分かって正解だった。こんな景色を観られたから。自分がこんなに感情を表に出せるようになったのは、アンペル先生や、巡り合った人たちのおかげだと、そう思っています。まあ、今の時代だと珍しい話かもしれません」
「……そうか。それなら良かった」
アスターはニコリと笑った。
「そういえば……ロマンがあるって言ってましたね。こういうことを言うんですかね」
「それは君自身が見つけることだと思うぞ」
「自分自身にとって、ロマンとは何か?ということでしょうか」
「そう。それが生きる上で大きな物となる。私にとってのロマンはそれだ。後は……間違ってなかったって思いたい」
「間違ってなかった?」
「私も、実は親と絶縁していてね。宗教の考え方の違いで、親は神様に近づこうとしないこと。私は神様に少しでも近づきたいだったんだ」
アスターは両手を目一杯に広げた。
「ここなら、もしかしたら神様に近づけるかもしれない。浅はかかも知れないが、だからここにきたんだ」
「それが……間違ってなかったって?」
「そう。それを信じたい。私の考えは間違ってなかったって、そう信じたいんだ」
「ふふっ、いいですね」
「そうだろう!君ならそう言ってくれると信じていた!……あっ」
最後の1000年彗星が姿を現した。その彗星の大きさは7日目が一番大きかった。
「他の人がアスターさんのその思想を否定したとしても、私は肯定しますよ」
「……ありがとう。心に焼き付けよう。最後の1000年彗星だからね」
「……はい」
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「いやはや、ありがとうございました。皆さんの分の料理を準備してくださって……」
「いえ、それが仕事ですから」
アンペルが学長と話をしている中、リシテアは天文学部の人達を見渡していた。
「あの、アスターさんは……」
「アスター?どうしてリシテアさんがその名前を?」
「え?」
アンペルの質問に思わずリシテアは首を傾げた。アンペルは学長と目を合わせるが、学長は軽く首を振る。そして、リシテアの方に目を向けると、
「アスターさんは、この修道院を建てた方なんですよ」
「え……」
「天に神様はいると、星は、神様が見せてくれる輝きなのだと説いていた時代がありまして。今でもその宗教は実在していて、それが私達です。しかし、昔は天に近づくことはダメだと言われてました。傲慢過ぎるということで。彼はそれを『神様に近づくことは、神様のことをもっとより知ることができるということだ』と説いたのです。そうして建物が建てられる上で、険しい場所……ここに修道院を建てた」
「これはそういったことから、世界遺産として大切に保存されているんですよ」
ーーじゃあ、私と一緒にいたのは、アスターさんの……
アンペル達は別れの挨拶をした後、テレポートして安全な場所へと移動した。
リシテアは空を見上げた。
「………」
「リシテアさん、どうかしましたか?」
「サナ?」
「いえ……貴重な体験だったなと」
「そうですか。楽しかったですか?」
「そうですね。私……もっと"自分知"から出て色んなことに触れていきたいと思います」
きっと、そういう未知を恐れずに、無知から何かを見つけることこそが、ロマンだと思うから。
アスターは日本語に訳すと星なんですって。
好きなゲームに崩壊スターレイルっていうゲームがあるのに全然知らなかったや。