ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』 作:sisid
「この子、大丈夫でしょうか」
「サナリスのいやしのはどうで体力自体は回復してると思いますよ」
次の展開場所へと移動中、空から1匹のポケモンが湖の中へと落ちて行ったところを見かける。アンペル達は急いでそのポケモンに手当てをし、目が覚めるまで待つことにした。
「しかし……珍しいポケモンですね」
「え?」
「彼女はラティアス。伝説のポケモンです」
「サナ!サナァ」
「ええ、アルトマーレのとは違うラティアスですね」
怪我という怪我はなく、疲労困憊といった様子のラティアスは結局夜になっても目を覚ますことがなかった。
しかし、サナリスのおかげか目のクマはなくなり、気持ちよさそうに眠っていた。
「あ……泣いてる」
リシテアはそんなラティアスに毛布を掛けてあげた。
次の日になると、ラティアスは目を覚ましていた。リシテアが朝からご飯を作ってラティアスに食べさせていた。
「美味しい…と思います。どうぞ」
匂いを嗅いでから、そのサンドイッチを食べる。
「クゥ〜」
「美味しかった?」
「クゥ!」
「ほっ……良かったです」
遠くから安堵しているリシテアを見て、アンペルは我が子が育っているかのように優しく微笑んだ。
「怪我とかなくてよかった。疲れてただけみたいで……しかし、非常に遠いところからやってきたみたいですね。しばらく安静にしておきましょう」
「サナ!」
「ん?どうしたんですかサナリスちゃん」
「サナサナ」
「クゥ〜」
サナリスがラティアスとお話を始めた。すると、ラティアスは涙を流した。慌ててリシテアはハンカチを取り出してその涙を拭いてあげた。
サナリスは遠くにいるアンペルを見る。
「サーナ!」
「どうしましたか」
「サァ……サナ」
「……そうですか。通りで」
「なんて言ってるんですか?」
「ラティアスにはお兄さんがいましてね、ラティオスというんですが、どうやら喧嘩をしてしまったらしいですね」
「喧嘩……」
「はい。そして、嫌になって家出をしてしまった……と、そういうことみたいです」
ーー家出……
「じゃあラティアスは今、孤独なんですね」
「そうですね。孤独感がたまらなく悲しいのでしょう」
ラティアスの頭をサナリスが撫でている。ラティアスの嬉しそうな鳴き声がする。
「ラティアス、本調子に戻るまで、私たちと一緒にいませんか」
「クゥ?」
「あ……もちろん、アンペル先生が良ければですけど」
「構いませんよ。最終手段として、テレポートがありますしね」
「サナ!」
任せなさいというように胸を張るサナリス。それからこの綺麗な湖のところでしばらく過ごした。
毎日、リシテアはラティアスのためにご飯を作り、飲み物も作っていった。
その度にアンペルに出来を聞いていたが……
「アンペル先生、どうですか。美味しいですか」
「もう、何も言うことはありませんよ。美味しいです」
「ではっ」
楽しそうにするリシテアと、ラティアスの心が繋がっていくのが分かる。アンペルはその光景をしっかりと焼き付けることにした。
「クゥ〜!」
「わっ!ちょっとラティアス!急に水をかけないでくださいよ!」
「クゥクゥ〜!」
「仕返しですー!」
眩しく、楽しそうな日常。このような日々がしばらく続いた。
「うん、ラティアスもだいぶ元気ですね。これなら大丈夫でしょう」
「サナ!」
「そう……ですか。では、そろそろお別れですね」
「クゥ?」
「……何か話したいことがあるなら、今日中に話してみれば良いですよ」
「……そうですね」
日が暮れる。リシテアとラティアスはまだ一緒にいる。アンペルとサナリスは先にキッチンカーの中に入っていた。
「ラティアス」
「クゥ〜?」
「私は、貴女がちょっと羨ましい。喧嘩って良くない響きではあるけど」
夜になっても綺麗だと思えるのは、湖が月を綺麗に反射しているからだ。そこの幻想的な空間は、スイクンがいないのが不自然なぐらい。
その綺麗な湖の水を掬ってラティアスに飲ませる。
「……喧嘩が出来て、それで涙も流せるって、素敵な絆を感じる。私ね、親みたいな人がいたけど、愛情なんて注がれなかったから……泣いたことが実はあまりないの。物心がついてからだと多分片手で足りるぐらい」
「クゥ……」
「あ、違うの。だから貴女が嫌いとか、そういうのじゃない。嫉妬とか、そういうのじゃなくて……後悔してるんじゃないかって思っちゃったの」
そう言うと、リシテアはラティアスの顔を両手で優しく触った。
「だから泣いてるんじゃないかって。私はこの生き方に後悔なんてしてなくて、むしろ良かったって思ってる。だけど貴女は……お兄ちゃんと仲直りがしたくて夜も泣いてるんじゃない?……当たってる?」
ラティアスはしばらく黙っていた。そうして湖に映った自分の姿を見た後、再びリシテアの方へと顔を向けて、頷いた。
「……そう。それなら、元気になったら元いた場所に帰りなさい。疲れないようにオレンのみとか用意するから」
「クゥ、クゥクゥ」
「なーに?ふふっ、くすぐったいよ」
「クゥ〜」
「……ごめんね、私はいけない。アンペル先生と、サナリスちゃんと一緒にいないといけないの」
「クゥ……」
「ごめんね。私、見習いだから。いつか、"安らぎ"を引き継がないといけないから」
ーーあれ?
視界がぼやけてるのが分かった。あ、私……泣いてるのか。ダメだな。こんなにすぐに情が湧くなんて思ってなかった。
ラティアスはその涙をペロッと舐めた。
「くすぐったいって……」
「クゥ〜」
「ふふっ、いい子ね……」
「元気でね、ラティアス」
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「ラティアス、また、どこかで巡り逢いましょう」
アンペルのいつもの言葉を聞く。そう、お別れの日が訪れた。ラティアスは最後、サナリスと話をしていた。
「クゥ〜」
「サナ!サナサナ」
「え、ちょっと!?」
サナリスがねんりきでリシテアを持ち上げ、ラティアスの背中に乗せた。
「どうやら、最後だけ一緒に空を飛びたいみたいですよ」
「ちょ、ちょっと心の準備が……」
「クゥ〜!!」
「ちょっとぉおお!?」
思わずガシッと掴み、目を閉じる。浮遊感が堪らず、力を目一杯入れる。
「クゥ」
「ん……うわ……」
目を開けると、世界が一望できた。海の向こうまでは見えなくてもその端っこまでは見える。
世界の広さを今、改めて実感させられた。
その景色を観せたかったのか、満足げにラティアスは緩やかに下降しアンペル達のところへと戻った。
「ルァ!」
「!クゥ〜」
ラティアスの元に、ラティオスがやってきた。リシテアはそれを見て少し、悲しくなった。
ーーお別れか。
絆を感じた。仲直りの舞なのか、ラティアスとラティオスは空中で円を描くように飛んでいる。そしてお互いにおでこを当てて……
「さようなら、ラティアス」
そう独り言を呟いた。
「クゥ〜!」
「えっ」
リシテアにラティアスとラティオスからのプレゼントが贈られた。
「おや……"むげんのふえ"じゃないですか」
「むげんのふえ?」
「それを吹けば、ラティアスとラティオスが来てくれますよ。どれだけ遠くにいたとしても、ね」
リシテアはラティアスを見た。小さな手で一生懸命手を振っているのが見えた。
「……っ、またね〜ラティアスー!ラティオスも今度会ったらお話ししようね〜!」
精一杯、身体を大きく使って手を振る。どんどんラティアス達が小さくなっていく。星のように小さくなり、やがて見えなくなった。
「……リシテアさん」
「……なんですか」
「僕は、貴女の気持ちを尊重しますからね」
「え……」
「では、戻りましょう。少し遅れるかもしれませんが、今日はキッチンカーを運転したい気分です」
「サナ!」
むげんのふえをぎゅっと握りしめた。リシテアは胸の奥に秘めた物を大事にしながらアンペル達の後ろを歩いた。