ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』 作:sisid
着いた先は小さな村だった。休日に、その農村で食材の確保をすることが目的だった。
「ここで採れるきのみや、特選林檎は絶品でしてね。ここでしか頂けない料理もあるので、後で食べにいきましょうか」
「へえ、楽しみですね」
「サナ〜」
空気が澄んでいて美味しい。リシテアは大きく伸びをして息を吸った。
気持ち良さそうにしていると、ツインテールの銀髪の女性が、マフォクシーと大きな鞄を片手に農村に入ってきた。
「あれは……」
「アンペルか。こんなところで会うとはね」
「それはこちらの台詞ですよ」
「そうだね」
「あの、アンペル先生、この方は?」
「彼女はフリーレンさんです」
サナリスとマフォクシーがはじめましてと、挨拶をしている。フリーレンは無表情のまま、リシテアをジーッと見た後、
「アンペル、拉致でもしたの?」
「人聞きの悪い事を言わないでください。彼女は安らぎで働いている女の子ですよ」
「なんで?」
フリーレンのその問いに、アンペルは穏やかに笑っただけで答えなかった。
「……まあいいか。なんとなく想像は出来るしね。アンペルが人を雇うなんてあり得ないし、ましてや引き継がせるなんて無理だから」
「えっ?」
「宿に鞄を預けてくるよ。その後、せっかくだから話をしよう」
「分かりました」
ーー引き継がせるなんて無理ってどういうこと?
リシテアは初めて会った時のことを明確に覚えている。その時に引き継がせるということを言っていたのもしっかりと記憶していた。
リシテアはアンペルを見ると、アンペルはコクリと頷いた。
「彼女の言うとおりです」
「じゃあ、どうして私を……」
「本当のことを言ったら、無茶すると…なんとなくそう思ったからです」
アンペルはそれ以上答えなかった。リシテアはフリーレンが向かった宿へと足を運んだ。
「フリーレンさん」
「何?」
「お聞きしたいことがあります。アンペル先生は何も話してくれなさそうなので」
「相変わらず不器用だねアンペルは。いいよ」
そうしてベッドの上に横並びで座る。リシテアはまず自分の境遇について話をした。
フリーレンはそれを聞いて「大変だったんだね」とそう答えた。そして、本題に入った。
「引き継がせるのは無理ってどういう意味ですか」
「そのまんまの意味だよ」
「私が足手纏いだからとか……アンペル先生の足元に及ばないとか……そういう理由ですか」
「違う。年齢的な意味でだよ」
「え?」
「アンペルは長寿の人種だ。あれでももう数100年生きている」
「数ひゃ……」
「私はもっと長いけどね。初めて会った時にはラルトス……サナリスもいたよ」
「ポケモンってそんなに長生き出来るんだ……」
「どうかな。ポケモンによると思うけど」
疑いそうになる話だが、フリーレンの様子を見てリシテアは本当の話だと確信する。
「だから引き継がせるなんて無理な話なんだ。どう足掻いても、リシテアがアンペルより長生きすることはない。それこそ大きな事故が起きない限り」
「じゃあ、なんでこんな無駄なことを……」
「……」
俯くリシテアを見てもフリーレンは表情を変えることはなかった。そして彼女は立ち上がり、鞄を開けた。
「遥か昔、アンペルと会った時の話なんだけどね」
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戦争跡地。とある産業会館がポケモンのりゅうせいぐんによって壊された。
戦争が終わった後、そこでアンペルがやっていたのはその保存だよ。
『ここに人がいたという事実は残しておきたいじゃないですか。木ではなく煉瓦造りですしね』
『それで沢山の人を呼びかけて保存しようとしてるのか。なんでこんなことするの』
『歴史は、残しておく物です。誰にも見られないなんて悲しい話じゃないですか』
『戦争が終わったばかりで、私たちのような戦わなかった者のできることがそれだけだからでしょ。アンペル、それは自己満足だ。無駄なことだよ』
『そうかもしれません。けれど、後世に伝えるべきだと思ったのです。人間と、ポケモンが共存する為には、このような負の遺産も残していかないと』
アンペルはそんな夢物語を語っていたよ。当時ラルトスだったサナリスも、懸命にお手伝いしてた。
『ポケモンは理解してくれる。違う世界がどうかは分かりませんが、この世界なら、共存出来ると僕は信じています』
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その時、ずっと表情を変えてなかったフリーレンがふと笑った。
「その産業会館、どうなってると思う?」
「え……どうなったんですか?」
「これ」
フリーレンが見せた銀貨には、壊れた建築物が彫られていた。
「そこの地域の特別な銀貨だ。こうして今の人たちに受け継がれているんだ。どうしてそこまで他人を思いやれるのかは分からない」
銀貨を鞄の中に閉まうと、フリーレンは「でもね」と話を続けた。
「私が間違っていたんだ。『無駄なこと』をアンペルはしない。だから、リシテアを乗せているのも、きっと理由があるよ」
「理由が……」
「リシテアはあの移動カフェにお世話になってから、何を体験した?」
「えっと、料理に、世界の広さや歴史……あとはラティアスと心を通わせた……とか」
「じゃあ、多分、あれだ」
「分かるんですか?」
「多分だけどね」
それをフリーレンは教えた。リシテアはそれを聞いて、アンペルが以前言った、『リシテアの意思を尊重する』という意味を理解した。
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ここに滞在してから数日が経った。
フリーレンもそろそろ旅を再開するそうで、最後に、アンペルが作ったモクローのもっちりチーズピザを食べていた。
「うん、さすが、エピから受け継がれたレシピだね。味も変わってない」
「そうですか。残念です」
「何が?」
「あの人より上を行くのが、僕の今の目標ですから」
「それは無理じゃない?人間の上達の早さ、私たちより遥かに上だよ」
「僕は貴女より長生きしませんけど」
「そうだね」
2人でキッチンカーを背もたれにしながら空を見ていると、リシテアが荷物を背負って2人の前に立った。
外できのみの収穫をしていたサナリスとマフォクシーが手を止める。
「私、席を外そうか」
「いえ……フリーレンさんもいてください。……アンペル先生」
「はい。なんですか」
「ありがとうございました」
頭を下げた。色々な事を思い出しながら……
「私、1人で世界を旅したいと思います。料理も、自分のしたい事も……」
荷物の中からリシテアが取り出したのは、むげんのふえだった。
「ポケモンも……今の私には貴方のおかげで、ありますから」
「……そうですか。それが、貴女の気持ちなら何も言うことはありません」
「自分の家に……"
「はい……」
「だから……だから……さようなら、アンペル先生、サナリスちゃんも」
「サァナ……」
「そうですね。さようならは寂しいですね。もっと違う言葉を」
「違う言葉……」
ーーそっか。さようならは、もう会えないかもしれない言い方だもんね。
なら、私が言うべき言葉は……
「いつか、また、どこかで『巡り逢いましょう』」
「はい。いつか、また巡り逢いましょう」
清々しい朝に、綺麗な笛の音色が聴こえる。
ーー不思議だ。それなりに日が経ってるはずなのに、もう逢えるのが楽しみで仕方がない。
「クゥ〜!」
「ルァ!」
「ラティアス、ラティオス。これから私、色んな世界を観に行きたいの。まずは、フリーレンさんから教えてもらった産業会館に行くから、手伝ってくれる?」
「クゥ!」
リシテアが飛び去って行く。これから先、彼女に沢山の苦難が待ち受けている事だろう。けれど、それ以上に快楽の道のりが待っているはずだ。
「アンペルせんせ〜!手紙〜!書きますから〜!」
そう叫ぶリシテアは大きく手を振っていた。アンペルも、サナリスも手を振りかえした。そしてやがて姿が見えなくなった時、フリーレンも鞄を持ち上げた。
「それじゃあ、私もそろそろ行くよ」
「どちらへ?」
「70年前に、自然を枯らす伝説のポケモンが暴れた時があったでしょ」
「ありましたね」
「それを一緒に鎮めた仲間がいてね。20年ぶりになるんだけど、会いに行こうと思ってね」
「貴女が戦ったんですか……さて、その人は生きてますかね」
「分かんない。長年の酒が祟ったって前は言ってたけど」
「ではキッチンカーで送りましょうか?」
「いや、いい。歩くついでに人助けもしたいから」
アンペルはきょとんとした。それは初めて会った時のフリーレンとは全く違ったからだ。
ーー貴女を変えたのも、きっと人間なんでしょうね。
「それじゃあまたね」
フリーレンが歩き始めると、マフォクシーも手を振って去っていった。
そのマフォクシーもまた、野生のポケモンらしく、フリーレンに助けられたことがあったらしい。
ーー変わっている。少しずつ。
「またどこかで、巡り逢いましょう」