ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』   作:sisid

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クロスオーバー パワプロクンポケット13 になります。


第十八話 怪我をして良かった

「無理をしちゃダメだよ」

「でも、エンペルトが頑張ってるのに……!」

「ダメ。取り返しのつかないことになってもいいの?」

 

 少年は怪我した右手をギュッと力強く握りしめた。それを見た医者のアサミは、自分自身の右手首を見せた。キツく固定されたテーピング。

 

「それは……」

「私は無理をして、大好きだったバスケを辞めなくちゃいけなくなったんだよ。この怪我はもう絶対治らない。……君はポケモンピンポンを辞めたいの?」

「辞めたく……ないです」

「でしょ?安静にしないとダメだよ。先生みたいに無理しちゃダメ」

「……分かりました」

「そう。後悔しないようにね」

「先生は、後悔してるんですか?」

「……昔はね」

 

 アサミの緑色の髪が揺れる。笑顔が魅力的な彼女が、怪我をしてから笑えなくなり、その挫折から立ち直った話。

 

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「これはもう無理です」

 

 そう言われて、後悔した。手首の激痛と将来ずっと付き合っていかなくちゃいけないと思うと、無理をしてバスケを続けた自分が憎くなる。

 

 この痛みを感じたら自然とバスケのことを思い出して、枕を濡らしてしまうと思ったから。

 

 17歳とは思えないぐらいその場でギャン泣きしたのを今でも覚えている。

 

 病院から帰ってる途中でも思わず泣きそうになって、人目のつかないところで実際に泣いた。人生そのものをたった一つの選択ミスで失ったショックはこれからも続く……はずだった。

 

「サナ?」

「……?色違いの、サーナイト?」

 

 そのサーナイトがティッシュを渡してくれて、なんて優しい子なんだろうって思った。

 

 そしてその子に連れられ、私は移動カフェの店主さんに会った。アンペルさんは何も言わずに飲み物を渡してくれた。

 

「うーん、こういう時は本当はシンプルにお肉なんでしょうけどね」

「お肉?」

「はい。トリプトファンがたっぷり含まれてますから。幸せホルモン剤みたいなものなんですよ」

「へえ……」

 

 その温かい空間に少しだけ癒された。でもまだ癖で使ってしまう右手でカップを持ってしまったから、痛みと共に溢してしまった。

 

「す、すみません!」

「構いませんよ。怪我をしてるなら尚更」

「……」

「どうされましたか?」

「あ、い、いえ!……なんでも、ありません」

 

 まずい、堪えろ私。これ以上醜態を晒してどうするんだ。

 グッと下唇噛んで悲しみより痛みをと、そう思っていた。

 

「泣きたい時は、泣きましょう」

「……えっ」

「泣いて、泣いて、空っぽにしましょう。誰も笑いません。我慢するより解放する方がスッキリするものです。泣きたい時は、泣きましょう」

 

 そんなことを言われて、泣かない人なんているんだろうか。いやいるんだろう。けど私はそう言われたら泣く以外の選択肢なんてなかった。

 無茶をして怪我をしたこと。

 それを無視して強引に練習を続けたこと。

 結果バスケが出来なくなったこと。

 これらをアンペルさん達に話して、それらを全部涙に落とし込んだ。そしたら本当にちょっとだけスッキリした。

 

「なんか、すみません」

「いえ。今日はおやすみですから」

「サーナ」

「あ、ありがとう……」

 

 お菓子もくれるなんて、どんだけ優しいんだこの人達は。

 

「そうですか…では、これからはニューアサミさん、ですね」

「へ?」

「新しいアサミさんが、新しい夢を見つけて、それに向かって全力で頑張る。そういう1日だったんですよ。今日は」

 

 新しい私……

 

「もちろん、そんな簡単に割り切れるものじゃない。けれど、そうやって起き上がれば、きっと……」

 

 アンペルさんはそう言って私に改めて飲み物を用意してくれた。

 

「『人生における最大の栄光は、決して転ばないことにあるのではない。何度転んでも起き上がることにあるのだ』」

 

 それは昔の人が説いたという言葉らしい。今の私に相応しいって、そう思って贈ってくれた言葉。

 私の道だったはずのバスケはもう出来ないけれど、これから……バスケのことを引きずってでも、違う道を模索していこうって、そう思った。

 

 話を聞いてくれて、真っ暗そうな私の道にはまだ明かりが灯っていることを教えてくれたアンペルさんに感謝の言葉を伝えた。

 その時、ちょっと気持ちが楽になっていたからかな?

 

「素敵な笑顔ですね」

「え?」

「貴女はきっと、笑顔が一番ですよ」

 

 笑ってたらしい。笑顔が一番か……なら将来は、痛みを感じても、懐かしいって笑えるようになったらいいなって、そう思った。

 

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「まあ、そうは言ってもやっぱり枕を濡らしたものだよね。そんな簡単に割り切れないって、あの人も言ってたけどそりゃそうようんうん」

 

 彼女はそれを思い出のように語っていた。

 

「でもね、好きな人が出来てね、その人にも新しい私にしか出来ないものを探せばいいんだって言われて……しかも協力してくれたんだよ。彼も野球に専念してたのにね。……ああ、そんな彼にも酷いことも言ったなあ」

「酷いこと?」

「その人も怪我をして、野球は無理だって言われてたのに、治しちゃったんだよ。凄い医者だよね」

 

 その人に診てもらってダメだったから諦めたんだけど。と、彼女は続けて

 

「あいつ、『怪我をして良かった』とか言うんだよ。ありえなくない?怪我して良かったとかどういうこと?って思ったんだよね」

「それは、確かに……」

「でしょ!でもね……そういう、怪我で苦しんじゃう私みたいな人を少しでも減らせればって……自分勝手な理由だけど、そうしたいって思ったんだよ」

「それで、医者ですか」

「うん、今ではこう思ってるよ。『怪我をして良かった』って」

「え?」

「だって、君みたいな人を助けることができるんだからね」

 

 そう言うと、アサミは左手を差し出した。そして笑顔を見せた。

 

ーーああ、そういえば彼も、私は笑顔が一番似合うって言ってくれたな。

 

「だから、私と一緒に怪我を治そう!」

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