ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』 作:sisid
「なあ、無理してカロリー制限すんのやめな?」
幼馴染の男にそう言われて、ムカついた。私だって別にやりたくてやってる訳じゃない。こんなのしんどいに決まってるじゃん。
「デートというのはね、自分が綺麗になれるチャンスでもあるの。分かる?私は今、トランセルからバタフリーになろうとしてるのだよ」
「何言ってんだお前」
鼻で笑ってはないんだけど鼻で笑われたような感覚だった。こいつの天パをガシッと掴んでめちゃくちゃにしてやりてえ。
「あー、あんたといるとムカつく!いい?タカト!幼馴染じゃなかったら絡んでないから!私を怒らせたらいよいよ友達いなくなるよ!」
「はあ?友達ぐらい他にもいるってーの」
「見栄を張るなばか!」
「ば……っ!?」
大学から私は出て行って、最近いい感じに距離が縮まってる男の人に会いに来た。
「ミカリさん!ごめん、待たせたかな?」
「ううん!今来たところ!」
こういうの。こういう理想的なデートがいい。イケメンと時計台で待ち合わせ……なんてロマンティックな……
……と、思っていた矢先
「ブニャッ」
私のブニャットがモンスターボールから突然出てきた。
「ブニャット!?そんな、今日はもうご飯あげたじゃん!」
「ブーニャ!」
「ミカリさんのポケモンなんだ?」
「へ!?あ、いや、あの、知り合いの……」
「そうなの?すごい大きいね〜」
どうしよう、うちのブニャットは知らない人にはなりふり構わず……
「ブニャッ!!」
「うわぁああ!?」
「わー!すてみタックルしないで〜!!」
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「……さいっあく」
せっかく良い感じだったのに。結局服を汚させてしまって、しかも怪我をさせてしまったから、デートは中止になった。
ブニャットにあげる餌代のせいでこれ以上おめかしなんて出来ないし……
いや、もう会うことはないか。第一印象は決して悪くなかったはずだけど、ブニャットとそう付き合える男はそういない。
たまたま通った先に、すごく良い香りがする移動カフェがあったから、そこでデザートとコーヒーを頂くことにした。安らぎというそれは名前の通り、心が休まる空間だった。移動カフェなのにそういう空気に包まれているのはある意味、異空間のような気もする。
「あっ、ミカリじゃん」
「ゲッ」
「『ゲッ』ってなんだよ」
一番会いたくない奴と出会してしまった。タカトの他に男1人と女1人がいた。
「あ……友達本当にいたんだ」
「当たり前だろ。すんません、このダグトリオサンド3つ」
「かしこまりました」
私の知らない男女2人は2人で話し込んで、その間は私がタカトの相手をする。
「んで?デートはどうだったんだよ」
「それ、今聞く?見れば分かるでしょ」
「まあ……」
「あーだから会いたくなかったのに」
「それはすまんかった」
「謝るなよ。余計に惨めになるだろ」
バシッと軽いグーパンをする。それをタカトがさすってると、ちょうど色違いのサーナイトがダグトリオサンドを渡してきた。
「じゃあな、後で話聞いてやるよ」
「なんで上からなんだよ」
タカトが友達と一緒に食べ歩く。それが凄く楽しそうに見えた。普段無愛想でいつも眠そうなタカトが、その友達と絡んでる時だけ笑顔だったからだ。
「仲が良いんですね」
「え?」
安らぎの店主さんがそう言った。いやいや、何を見ていたんだこの人は。どう見てもタカトと私は仲良くなかっただろ。
「私達は別に……ただの腐れ縁です」
「そうですか?あの方は貴女とお話ししてる時、非常に自然体な感じだったと思いますが」
「サナ!」
「ほら、サナリスもそう言ってますし」
「まあ、そりゃあ、幼馴染だから私も自然体でいられてるとは思いますけど」
「良いですねえ」
「サナ〜」
……なんだこの人達。ほんわかしてるというか、私の話を聞いて少し笑ってるのがなんか、惚気話を聞いて勝手に幸せな気分になってる人みたいな感じがする。
「サナ?」
「おや、貴女はあの人のことが好きなのでは?」
「え?いや……何を言ってるんですか?」
「ああ、すみません、人のことをとやかく言うのはよくありませんね」
「それは良いんですけど、何をどう見てそう思ったんですか?私、あいつといるとムカつくことの方が多いんですけど」
「あ、それは失礼しました」
「サナ、サナサナ」
「こらこら、サナリス」
「……これ、もしかして、『なんでムカつくの?』って聞いてきてます?」
「あはは……すみません」
なんか、この空気感がいいのか分からないけど、あまりイライラしないな。普通、こんなに詮索されたらムカつくのに……。この店主の声と、サーナイトの可愛さと、あとはこの店の料理とコーヒーが美味しいからか。
「今日デートだったんですよ。まだ付き合ってなかったんですけど」
「はい」
「そしたらやっぱり可愛く見せたいからカロリー制限したり、おめかしするじゃないですか。それこそが恋だと思うんですよね。それをあいつは変に心配するんですよ。『やめろ』って絶対に言う。なんかね、私に向かって恋なんてするなって言ってるみたいで」
「……そうなんですか」
その時、初めて店主さんの顔がポカンと間抜けな顔になっていることに気づいた。
「え?なんか変なことを私言ってますか?」
「いえ、正しいと思います。恋をしたいとか、恋をしたその瞬間はやっぱり、その人には良い見た目で見られたいものですよね」
「そう!そうなんです!分かってますね!」
「ええ。ですが……それを好きかと言われると、僕はちょっと」
「ん?"好き"と"恋"は違うって言いたいんですか?」
「そうですね。あ、でもこれはあくまで僕の価値観です。正確にいうと、"愛"と"恋"の違いでしょうか」
え、なんだ?この人もしかしてそういう倫理的な?哲学的なことを話せるタイプの人なのか?
そしてちょっと興味が湧いてしまった私は、店主さんの話を聞くことにした。
「恋をすると、その人に見てもらう為に努力をしますよね。可愛くなれるし、多少の我慢も出来てしまう」
「うん。そりゃあそうですよ」
と、その時だった。また私のブニャットがモンスターボールから勝手に出てきた。
「あ!もう……どんだけ食べるのよ〜……」
「サーナ」
「え?あ、お菓子いいんですか?ありがとうございます」
「ブニャッ!」
「美味しいの?良かったね。あと店主さんもそこにいてくれて良かった」
「はい?」
「流石にキッチンカーの中に入ってすてみタックルはしないので」
「すてみタックルするんですか……それは怖いですね」
「はい。困ったブニャットなんです」
「でも、大切に育ててる」
店主さんは自分用のマグカップなのか、それにラテを入れて一口飲んだ後、私の目を見た。私は思わず頷いた。
「ニャルマーから一緒でした?」
「はい」
「ブニャットになった時どう思いました?」
「大きくなったなあって……」
「それでも手放したりしない……そういうのが、愛だと思うのです」
「え?あ、ん?どういうことですか?」
「要は、恋をした先に、愛があるということです。好きな人の前でも、ぶくぶく太ることが出来るのは、自然体でいても大丈夫だという安心感があるからです」
恋をした先に、愛がある……?
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店主さんの言葉を考えながら、次の日私はいつものようにタカトといつも駄弁っている大学へと向かって行った。
ーーそういえば、私のお母さんも……お父さんがいるのに太ってる。どうして太るんだろう?
ニャルマーからブニャットに進化した時、私ってどうしてたっけ……?
「……喜んでたな……」
ーーもしかして、私って……
その時、タカトが昨日と同じ女の子と話をしていた。
「あはは。だよなー!分かるぜ……っと、じゃあな!」
そうして女の子と別れて、私のところに来る。いつものようにサンドイッチを買って。
「お前、振られたらすぐいつも通りの量に戻るのな」
「………」
「……ん?どうしたんだよ」
「あんたって、共感出来るんだ」
「は?」
「私の時はいつも『何言ってんだお前』のくせに」
「そりゃあ、お前が頓珍漢なこと言ってるからだろ」
「あの女の子なんて言ってたのさ」
そう言うと、タカトは少し言い淀んだ。けど、私がしっかりタカトを見るからか、降参したかのように答えた。
「『好きな人には綺麗な自分を魅せたいよね!』って」
「私と変わんないじゃん!あんたお世辞で言ってんのか!」
「いや、そういうわけじゃねーよ!?そらまあ、内容によってはお世辞で共感だけしとくみたいなことはあるけど、今回のはマジでそう思ったの!」
「じゃあ私の時も共感しろよ!なんでしてねーんだよ!」
「そりゃあお前っ……」
タカトがグッと言うのを堪えたのが分かった。それと同時に、少し顔がオクタンみたいに赤くなってるようにも見えて……
それで、気付いてしまった。
「……言いなさいよ」
「チッ……共感したくなかったんだよ」
「なんで」
「だって、カロリーとか気にし出したらいつも恋とか言うから……」
「だから?」
「いつも通りで良いんだよお前は。そうじゃないと心配するっていうか……」
「はっきり言え」
「あー!もう!」
タカトが私に向かって思いっきり指を差した。それはもうみっともない間抜けな顔をしながら。
そしてこう言った。
「お前は元からバタフリーみたいに綺麗だろ!」
ーーああ、なるほど。やっぱりそうか。
「ふふっ、あっはっは!」
「な、なに笑ってんだよ……」
「いや、もうなんか、アホらしい〜」
「はあ!?」
「あんたといるとムカつくってずっと思ってたけど、逆だったんだわ!」
ずっと遠回りをしてきたんだなって今日、分かった。
そりゃあ恋をしようとしてんのに、『しんどい』って気持ちが湧くわ。
これが、私にとってのーー
「ブニャットみたいに太ってもバタフリーみたいって言ってくれるのかい?」
「馬鹿か。そんなん言ったら俺だってよぼよぼのハゲたジジイになるわ」
「じゃあ、そん時は笑ってあげる」
ーー愛の形だって分かった日。
一話完結形式で書いてきていますが、それは今後も変わらずのつもりですが、
この形式で書き続けている方々本当に尊敬します。話を思いつくのに時間を要します。
最近は雰囲気も気を付けて書いているので、その空気感も楽しんでいただけたらと思います。