ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』 作:sisid
「楽しんでくれてますか?」
「うん」
「嫌なこととかありますか?」
「あったら言う」
「これどんな感じですか?」
「……あのさ」
私は質問攻めをしてくるヤチ君の顔を見た。
これは今日だけじゃなくて、会うと大体こうなる。インタビュアー病って名付けようかな。
八重歯と、大学生とは思えない童顔のせいで、寂しがっているワンパチみたいに見えた。
「別に無理に合わせようとしないでいいよ」
別に彼氏というわけでもなく合コンで出会っただけの関係。そこから彼が連絡を入れてきて、それに私が答えているだけ。
……正直なところ、私は好きとか恋が分からない。
高校の時、周りが彼氏を作るから、私も告白してきた一つ上の先輩と付き合ってみた。
でも、結局私から振った。致命的にそこら辺が分からないのだ。
「あー素敵な彼氏がほしー!」
ゼミの人達とご飯を食べていると、突然友達がそう言ってきた。
「ミズノっちはいいよねえ、良さそうな彼氏でさ!」
「彼氏じゃないけど」
「「「ええ〜!?」」」
……うるさ。
「まじ?あれで?最初こそごく稀だったけどさ、今はほぼ毎週一緒にいない?」
「てか最近ずっといるじゃん!」
「向こうが勝手にだよ。私が『好きにしたらいい』って言ったから」
「えぇ〜脈とかないの?」
「ない」
「じゃあうざいだけか〜」
ゼミのみんなは良い人なんだと思う。彼氏がいないのは損だってことで合コンを誘ってきたのもゼミの子だったし、今回の話でも、アイツ……ヤチ君の印象が悪く写ったのか「なんかあったら言いなよ!」と言ってきた。
けど、別に何も感じてないから何に対しても協力してもらえそうなものはない。
小さい頃から、何もトラウマがあるというわけでもなく感情が乏しい。
だから高校ぐらいまでは周りに合わせていたけれど、今はそんなこともしない。
それでいて私に気があるのか分からないけれど、大学生になってから近づいてくる男が増えた。
けど、しばらくすれば連絡が来なくなる。
だからまあそれに比べればだけど、ずっと連絡してくれるヤチ君は、他の人よりも好印象ではある。それが伝わってるかと言われると、全くなんだろうけど。
「それで、今日も彼氏君来てるの?」
「いや、今日は来ない。お婆ちゃんの体調が悪いらしくて看病だって」
ゼミのみんなと別れてから、私は大学を出た。学内は外であればポケモンを連れ歩けるけれど、教室に入るたびにポケモンを戻すのが面倒だから、いつも大学を出た瞬間。
「今日はまっすぐ帰るよ。ポニータ」
「ポニ?」
「ヤチ君が今日来れないらしいから。寄り道せずに帰ろ」
「ポニー、ポニタ!」
「どうしたの?」
ポニータが私に付いてくるようにと言ってるかのように先導した。着いた先は、移動カフェだった。
「こんにちは。今日はお連れの方はいないのですね」
「はい。お婆ちゃんが病気だそうで」
「サナ!」
「ポニ!」
サーナイトがポニータにご飯をあげていた。ここのご飯がそんなに好きなんだ。
「今日が最後なので、ヤチさんに会えないのは残念ですね」
「そうなんですか」
「はい。毎日来てくださって感謝しています」
「私は別に。ヤチ君が毎日行こうって言うから合わせただけで」
「それでもですよ」
「サーナ!」
私の頭を撫でてくるこのサーナイト……サナリスは、私以上に表情が表に出る。きっとこの子は好きな人の前だともっと可愛くなれるんだろう。
そう思いながらサナリスを見ていると、首を傾げてきた。
「サナ?」
「ごめん、見過ぎた」
どうせ来たんだから注文をしないと。そう思ってメニューを見る。
「じゃあ、ヒトモシのマシュマロココアを一つ」
そういえば、目に留まるのはいつもこれだな。私は知らず知らずのうちにこれが好きになっていたんだ。
差し出されたそれを飲むと、温まる。相変わらず美味しい。
「来てよかった。ありがとう、ポニータ」
「ポニ!」
「ヤチさんもいてくれたら良かったのですが……」
「そうですか」
「そうだ、せっかくですし、こちらをお渡ししていただけませんか。お代はいりませんので」
「えっ」
そう言って、彼は私にガケガニサンドイッチを袋に入れて渡した。
キョトンとしていると、彼は穏やかに笑った。
「ヤチさんと一緒にいる時の貴女は、笑っていましたので」
「私がですか」
「ええ」
気付かなかった。……といえば嘘になる。確かに私は笑っていた。
……そうか、笑っていたんだ。
笑ったことがあるのは彼と一緒の時だけだ。
『別に無理に合わせようとしないで良いよ』
『俺がしたいんだよ。俺が、ミズノさんと一緒に遊びたいの』
ふと、思い出す。合コンで喋らない私と、空回りして結果ハブられたヤチ君。ハブられた者同士で一緒に遊ぶようになって……
そんな彼が私と遊びたいなんて言って、でも私は表情を表に出さなくて。そこからたまのたまに遊んでた。
でもそうだ、"安らぎ"に初めて来た時は、『毎日行こう』って彼が言ったんだ。
その時の彼は、嬉しそうな……それでオクタンみたいな茹で上がった顔をしていた。
多分、私が笑ったから。
「あの。これ、もう一つください」
「かしこまりました」
"家どこ?"
"〇〇だけど、どうしたの?急に"
"安らぎの店主さんからガケガニサンドイッチ貰った。届けに行く"
笑うのは。
笑える場所は。
住所を見るや否や、サナリスが私をテレポートで送ってくれた。
「ありがとう、サナリス」
「サァナ!」
「ポニッ」
「サナ!」
ポニータはサナリスのことが好きらしい。でもそれは恋愛的なものではないと思う。
……私はどうなんだろ。分からない。
でも、確かなことは一つある。
「ミズノさん!わざわざごめんね」
「ううん。私がしたかったから」
「え?」
「私が、ヤチ君と一緒に食べたいの」
ヤチ君の表情が固まった。これまたオクタンみたいで、ヤチ君は私のことが好きなんだってなんとなく分かった。
うん、確かなことは、ヤチ君といると笑えるってことだ。
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「好きってどんな感じ?」
そうゼミの子達に聞くと、テンションを上げて答えてきた。
「んー?なんかね、ふとその人のことを思い出しちゃうの!」
「一緒にいるとドキドキするよねー!」
じゃあ違うな。まだ私はそんな風にヤチ君のことを思い出さないし、ドキドキもしないや。
『なんか……俺の気持ち見透かされてる気がするんだけど、俺のこと好きになってもらうように頑張る、からさ!』
『そう。頑張って』
うん、私がヤチ君のことを好きって言えるように、ヤチ君には頑張ってもらわなきゃいけないな。
「珍しいね」
「何が?」
「質問してきたの初めてじゃない?」
「そうだっけ」
「そうだよ!ミズノっちは基本受け身だし!なんかインタビュアーみたいだった!」
思わず「えっ」と声が漏れた。
「あー……うつったのかな」
インタビュアー病。
みなさま、良いお年を。