ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』 作:sisid
原作 磯崎 十海先生
作画 佐々木 恒太先生
がお届けする読切 Pick Up という作品とのクロスオーバーです。
非常に素敵なお話でしたので、原作準拠で書いています。もしこれで気になったら、原作もお読みになって頂けると幸いです。
よろしくお願いします。
放課後の体育館裏、同じのクラスの女子から手紙で呼び出し。
よくある展開やな〜とかそんなこと思っとった。無視するなんてことは出来ない。やからちゃんと来た。
「あの……!ガチャを回してくれませんか!」
眼鏡か曇りそうなぐらい赤い顔をしながら、スマホロトムを見せてそう言ってきた。
……それは想定外。
「あー、それ、ここでする意味あんの?」
「えひひ、そうですね。ほんまは教室でええんですけど……私なんかと一緒にいたら変やし……イリエくんに迷惑かな〜って……」
「?意味わからん。同じクラスやし変とかないやろ」
君の笑い方のほうが変やし。
「えひひっ、そうですよね……」
鬱陶しそうなぐらい長い髪を後ろにまとめてる、パッとしない女の子。そんな子が曇り顔をするから、スッと手を出した。
「回そうか。なんで俺が回すんかよく分からんけど」
「あっ、あっ!あの、ですね。なかなか推しが出てくれなくて。物欲センサー働きすぎて……!でもこの前教室で、イリエくんがゲームで欲しいの1発で当ててたの聞いちゃって」
「なるほどな。まあやってみっか」
その後、見事に欲しかった推しのキャラのSSRが出て、大興奮している姿を、今でも鮮明に覚えとる。
その後感謝されて、またお願いしますって言われた。押すだけやしなんも困ることないから承諾した。学校でもその子は……マツバラさんはいつも通りで、俺もあの日のことをそこまで気にしてへんかったから、自分から話しかけるなんてことはしなかった。
ただ、時々、
授業中や休み時間に変な笑い声が聞こえると、マツバラさんの笑い顔が過ぎる。
それから2ヶ月後にまた呼び出しがあった。
「ピックアップをね、して頂きたいんです」
「ふーん」
「では、お願いします!」
「マツバラさんの好きなキャラ……Aくんって、あれやな。ムクホークの擬人化みたいな感じやな」
「え、あー言われてみると確かに」
「自分この子好きやなー。Bちゃん。ニンフィアの擬人化っぽくて」
「えひひひッ、なんでも擬人化で例えるんですか?」
それ以外になんて言ったらええか分からんかったから……と言おうとしたら、マツバラさんの笑顔が前より綺麗に見えた。
「なんか、雰囲気変わった?なんか眉毛整えた……?」
「え、ひひっ、はい、あの、ゲームのイベントがあって、見た目だけでもって……」
「ええやん。俺はそっちのがええと思うで」
「っ!!」
その日は、俺が好きなニンフィアの擬人化のSSRが出て、その後何回か回したけど、ドブッた。
それから少し気になって、自分もこのゲームを始めた。
「イリエくん本名で登録するんですね」
「名前考えんのめんどくて」
「強い……」
「マツバラさんは?」
名前:どすこいユキノオー
レベル:209
"冬に運動すると湯気が出るタイプです。Aくん推し(๑˃̵ᴗ˂̵)"
「冬に……って、ははっ!めっちゃ分かる!」
そんな何気ない日常が堪らなく愛しく感じるようになってた。マツバラさんが感情を昂らせて俺の手を握って感謝してくれた時とか……胸の高鳴りを覚えるくらいには、自分の思い出の中で一番最初に切り取りするぐらいには。
自分の染めた金髪を、同じ黒に戻そうかと一瞬過ぎるぐらいには。
「落ち葉見とるとさ、もみじ饅頭食べたならん?」
「あー……あと焼き芋とか」
「分かる〜」
季節は巡り……
「あ!雪です!初雪ですね!」
「ホンマや」
「え、なんか今なら自引き出来そう!」
「お、かましたれ」
それで卒業。
「イリエくん!今……お時間ありますか?」
「……うん」
手紙でのやり取りはせんくなった。それぐらいには仲良くなったと思う。けど、俺らの始まりはゲームのガチャから。
マツバラさんは季節が変わるたびに綺麗になった。コンタクトに変えて、髪も肩にかかるぐらいにまで切って。でもそれ以上に、笑顔が増えた。そんな子から呼び出しとか……
「このガチャ……!回してください!」
告白……かと思った。けど、懐いな〜この感じ。
「初めて頼まれた時に並に顔赤いやん」
「あ、あの、なんかやっぱり最後やし……」
「!……最後か。まあ、そっか、卒業やもんな。……じゃあ」
最後の最後でAは出なかった。
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時は巡り2年。マツバラさんとは会っていない。連絡先も知らない。ゲームのガチャから始まった繋がりで、それ以外で会うことなんか無かったから。
「ニンフィア。帰るで〜」
「フィ〜!」
ただ、執着してたんやなって思う。大学になっても、あのゲームをやめることはせんかった。対戦ゲームでもあるから、暇つぶしにちょうど良くて。
「フィ?」
「どした?……おお、ええ匂いやな」
移動カフェ安らぎ。ニンフィアがその匂いに釣られて行く。小腹も空いたから、ちょうど良かったかもしれん。
「サナ!」
「おっ、色違いやん。ウチのニンフィアと一緒やな」
「フィ〜!」
「サナサナ〜!」
早速フェアリー同士で仲良くしとる……ええ子やなこのサーナイト。ちっちゃいし。
「いらっしゃいませ。色違いのニンフィアとは、お珍しいですね」
優しい声色がキッチンカーの中から聞こえる。アンペルさんというその方は、ニンフィアにサービスのポケモンフードをプレゼントしてくれた。
「うーん、運命やと自分でも思います。好きなゲームのキャラに似とって」
「そうなんですか」
「ええ。推しなんですけど……これです」
「おや。確かに似ていますね。……プロフィールの写真は、そのBというキャラじゃないんですね?」
「ああ、これは……Aってキャラで……まあ、なんというか、これも推しです」
「そうなんですか」
「あ、すみません。ええと、イーブイのパンケーキひとつ」
「かしこまりました」
その時、太陽の光が反射してキラッ光った。アンペルさんの薬指に嵌めている指輪と、色違いのサーナイトことサナリスの腕輪が一緒の緑色をしていることに気づいた。
「ペアルックみたいなもんですか?いいですね」
「あはは。ええ、まあ。好き同士ですから」
「好き同士で指輪とか腕輪とか……憧れますわ」
「おや、貴方にはないんですか?好きな人とか」
「おるにはおる……けど、気持ちを伝えることをせんかったから。今でも向こうが同じゲームをやってたら、繋がりとしてはそれだけで。もう交わることはないんかなって」
「そうでしょうか」
イーブイのパンケーキが出来上がって、それを差し出される。すると、アンペルさんはニコリと笑っていた。
「欲しいと貴方が願うなら、会いたいと願うなら、好きと思うなら、引き当てることも出来るんじゃないですか?」
「え?」
「僕は科学者じゃないですから、クサいことを言わせていただくと……愛は確率を超えます。貴方の色違いのニンフィアと、僕のサナリスが、それを証明してくれているでしょう?」
「あっ……」
ニンフィアを見ると、美味しそうにポケモンフードを食べていた。サナリスを見ると、拳をギュッと握って、「頑張れ」と、俺を応援してくれているようだった。
そういえば、あの時、2回目のガチャの時、俺が好きだと思ったキャラが出てきたんよな。
そんなことを思いながら徐にスマホロトムを取り出して、ゲーム画面を開いた。それで対戦相手を選ぶ画面を見た。
名前:どすこいユキノオー
レベル:320
"とあるキッカケでBちゃん推しになりました。最推しはAくんです。"
「ははっ」
告白やと思うやん。こんなん。
"プロフィールの変更を保存しますか?"
"はい"
「さて、ニンフィア。ちょっとしばらく外にいよか。用事できたから」
「フィ〜?フィ!」
「アンペルさんとサナリスちゃんも、今度は1人じゃなくて、2人で行きますわ」
「サナ!」
「その用事は今日で済みそうですか?」
「確かに、人生賭けた、運試しってやつやし、済まへんかも。けど……やっとかんと後悔するって思ったから。それに、好きな子が言うには、俺は結構引き良い方なんです」
「そうですか。それでは……また、巡り逢いましょう」
午後4時。ちょーっとどころかかなり悪ーいことをしてるかもしれへん。けど、まあ母校やしちょっとぐらいは許してくれるやろってそう思って……
確証はない。まず気づいてくれるかすらわからない。
けど、マツバラさんのおかげで自信はあった。
数分後に足跡が聞こえた。走ってる音だ。でも走りづらそうな少なくとも運動靴じゃない多少甲高い足跡だ。その音はどんどん近づいてきて、目の前に現れた。
「あ、あの!イ、イリエくん!?」
慌てて走ってきたのが丸わかりで、息を整えるのすら困難なぐらい真っ赤にしている、2年ぶりのマツバラさんの顔。
それを見て、安堵している自分がいた。伝わったんだと確信したから。
「ははっ、やっぱ引きええんやな俺って」
「だ、だって、こんな、こんなプロフィール見たら、さ……」
「期待するよな〜。俺もそうやから」
名前:イリエ
レベル:105
"とあるキッカケでAくん推しになりました。
今夜、いつものところで待ってます。"
遅れましたが、あけましておめでとうございます。