ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』 作:sisid
になります。
ちなみに、タイラズマです。
卒業式の時に、思わずこれからも会えるかって言ってしまった。それまで何か吹っ切れたかのような顔をしていた彼女だったけど、びっくりしたのかその場で発狂?してた。
まあその後クラスの人達とカラオケに行ったりしたから、なんかすごく気まずかったけど。
そして大学。離れ離れになった今でも、そいつとは会う。
とはいっても、こうして夏休みとかに実家に帰るときとかで……
「……あっ」
キッチンカーが珍しくあるな。しかもカフェ……あいつ好きそうだな。
そう思って見ていたら、本当にそこに彼女がいた。声をかけようかと思ったけど、そこには他にも人がいて、仲が良さそうに見えた。
それで思わず早足でその場から離れてしまった。
「……いや、まあそうだよな」
アズマは人気者だから。俺なんかよりもずっと。すぐ友達が出来て、そいつらと遊んで、そしてどんどん俺や高校の奴らと縁が切れていく。
アズマに限った話じゃなくて、みんなそうだろ。
俺だけが、今も過去に縛られている。
……いや、こんなのは俺の悪い癖の、いつもの後付けか。
アズマを見ているとそういう嫌いな自分が出てくる。何かの気持ちに気付かないように見ないことを徹底している。
そんな自分と、そろそろ縁を切るべきだろ。
「いらっしゃいませ」
「サナ!」
いねえじゃん。
「あの、さっきいた人達って……」
「先程どこかへ行きましたよ。お知り合いでもいたのですか?」
「いや……高校の時の友人がいて」
「ああ、知らない人と遊んでるところを見ると、声かけづらいですよねえ」
ーー俺、だっさ。
店主の言ってることはその通りだと思う。けど、そうじゃない。これが全然違う人ならなんとも思ってない。
あいつだから。
これは後付けの理由なんかじゃなく。
ずっと俺の大切な居場所で……
「サナ?」
「……可愛いですね」
俯く俺を気にかけてくれたのか、エプロン姿の色違いのサーナイトが覗き込むように俺を見ていて、そしたら自然と声に出た。
こんな簡単に言えるのにあいつの前では簡単に言えない。
まるで、コップから溢れそうで溢れない水のような……表面張力で保たれているような。
「サーナ」
「ふむ。そうですか」
「なんですか?」
「いえ、大人だと思いまして」
「え?俺が……大人?」
「はい」
何を言っているんだ?と思わず怪訝な目で店主を見てしまった。すると、その人はクスッと微笑んだ。
「子供なら、難しく考えずに好奇心で色んなものに手を出します。他人の気持ちは二の次ですから。けれど、貴方は……他人の気持ちを優先している」
「俺は……そんな」
「ふふっ、少なくとも僕にはそう見えました。ですので、たまには子供みたいに自分を優先して見ても良いのでは?いえ……そうしようとしたから、ここにいるんですね」
何もかもを見透かされているような気がするのに、嫌悪を抱くことはなかった。むしろ、理解してくれていることに、認めてくれていることに心が落ち着いていた。
「サナ、サナサナ」
「ん……なに?」
「ご注文は?と言ってます」
「あ……じゃあ、『ニャビーのパンケーキ』で」
「かしこまりました。ニャビーがお好きなのですか?」
「いや、これは……」
受験勉強をアズマとして、その帰りの時に出会った野生のポケモンがニャビーだったってだけ。なんとなく投げたモンスターボールでそのまま家族になったんだよな。
けど、ひどく俺に懐いてて、アズマが笑ってたっけ。
『たまには私にも様子を見させてよ。私、ニャビー好きなんだよね』
「はい。俺の好きなポケモンです」
「いい笑顔ですね」
「初めて言われたかも」
「おや、そうですか?それなら、お友達に連絡してみては?きっといい笑顔だと言われますよ」
連絡……連絡か。
「ありがとう、ございます。えっと……」
「アンペルと言います。こちらはサナリス」
「サナ!」
「貴方の気持ちが報われることを祈っています。それでは、またどこかで巡り逢いましょう」
どこまでも、神秘的な人だな。
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アズマが人気者だとか、大学行ったらみんなとどんどん縁がなんだとか。そうじゃない。
ずっと、表面張力で繋いでいたような日々だった。
誰かを疑う癖はとっくにの昔に捨てたくせに、自発的に動かない、動けない自分はずっとそのままだった。
もう、いいだろ。関係を崩したくないだとか、今が一番心地いいとか、何かと理由をつけて、逃げるのは。
もう、いいだろ。溢れ出して。
「タ、タイラ!」
「よお」
「よお。……じゃなくて、えっ、珍しくない!?タイラから誘うなんて……」
「うん、まあ色々と整理がついて」
急に呼び出したからか、呼吸が乱れていた。それに気づいて乱れたクリーム色の髪の毛を触ったり、服とかも確認したり……
「……可愛いな」
「えっ、かっ……!?ど、どうした?」
「いや、言いたくなって」
「〜〜〜っ」
月明かりが俺らを照らす。その先に映ったアズマの表情は、ひどく紅潮してて、口元が緩んでて、目があったと思ったら咄嗟に視線をずらして……
「なあ、覚えてる?ニャビーのこと……」
「へっ?あ、うん!もちろん!」
「たまに見たいって言ってたよな。実家にも連れてきてるから、俺んちに来ない?」
「タ、タイラんち!?」
「うん。嫌か?」
「……嫌、じゃないけど」
「じゃあ行こう」
手を掴んで引っ張っていく。自分らしくなくて多分、俺も今ほのおタイプかってぐらい赤くなってる。でも、もう止まらなくて。
キモくないかとか、キザっぽくないかとか、俺がアズマ側の世界にいるのはやっぱり変じゃないかとか、ネガティブな自分がこうしてると出てくるけれど、それも込みで自分を認めていきたい。
そう思えるようになったのは、ずっといてくれたーー
「ほ、ほんと、今日どうした!?」
「もっと一緒にいたいって気持ちがあったんだよ」
「えっ……」
「俺、ずっとそういう気持ちがあったんだと思う。気付くのが遅くなったけど」
これからも、この先も、どれだけ歳を重ねても、関係が変わっても、俺とは正反対の君と一緒にいたいって。
心から、そう思ったんだよ。