ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』   作:sisid

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第二十四話 捨てられたぬいぐるみ

『ルンパッパは笑ったよ。釣られてナマケロも笑ったよ』

 

 あの日のことをふと思い出した。あの日……私がした罪を清算しなければならないと、そう思った。

 

『ルンパッパは踊ったよ。パッチールも踊ったよ。釣られて僕も踊ったよ』

 

 ゴホゴホと咳をしながら、電車に揺られ、目的の駅へと後一本。

 

『ゴーストが笑ったよ。みんな怖いって逃げるけど、僕はゴーストと笑ったよ』

 

 あの絵本の子のように、私もあの子と笑いたい。

 

▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣

 

「……おや?」

 

 杖を持ったお年寄りが、ゴホゴホと咳をしながら、杖を使って歩いていた。すっかり腰が曲がっていて一苦労していそうだった。

 アンペルはキッチンカーを止めて、そのお年寄りに声をかけた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 顔を上げたお年寄りはアンペルとサナリスを見て、「おやぁ」と声を上げた。

 

「可愛いお人形さんねえ」

「サナ?」

「この子はサナリスと言って、僕の大切な子です」

「サナサナ」

「はあ、そうなの。私も、大切な子に会いに行こうと思って、電車でここまで来たんだよ」

「そうですか。……お連れしましょうか?あ、もちろん怪しいものではなく、移動カフェ安らぎのアンペルと申します」

 

 プルプルと膝が限界を迎えているように見えたアンペルは思わずそう言った。

 

「じゃあ、お願いしようかねえ。危ない場所だけどね」

「どちらでしょうか」

「"呪われた家"まで」

「………はい?」

「サナ?」

 

 どうやらそう呼ばれている曰く付きの家が存在するらしい。テレポートで送ろうとしたが、せっかくだから景色を見たいということだったため、キッチンカーに乗せてそこまで運転することにした。

 

「サナリスちゃん。これどうぞ」

「サァ?」

「リボンが似合う可愛い子だねえ」

「リボン……お持ちになってたのですか?」

「好きだからねえ」

 

 アンペルはニコニコしながらそう語る姿を見て、釣られて笑った。

 

「釣られたね」

「ええ、まんまと」

「昔、ある子に読み聞かせていた絵本にも、そういうのがあってねえ。『ルンパッパが笑ったよ。釣られてナマケロも笑ったよ』」

「ああ……あの絵本ですか。その年のベストセラーでしたね」

「そうだったんだねえ」

「ええ。しかし、読み聞かせですか……」

貴方も(・・・)、おかしいって言うかい?」

「まさか。……とても微笑ましいと思います」

 

 アンペルは本心を伝えた。それがちゃんと伝わったようで、満面の笑みを見せていた。

 

「嬉しいねえ。貴方みたいな人に、もっと前から知り合えたら良かったのにねえ」

 

 そしてどうして呪われた家に行くのかを打ち明けた。

 

「私はある日に、よく読み聞かせていた、あの子を捨てたのさ。そしてしばらくしてから、私は親と引っ越ししてしまってねえ」

「その引っ越し前が、目的地の……」

「そう。呪われた家」

 

 なんでも、現実では起き得ないことが立て続けに起きたらしく、その怪奇現象から逃げるために出て行ったのだという。

 当時は怖いとしか思っていなかったらしいが、今になってそれがその子の怨念なのではないかと思い、天命を全うする前にそこに行こうと決めたのだそうだ。

 

 とある街の、少し外れた寂れた空き家。そこが例の呪われた家。アンペルとサナリスはその禍々しい雰囲気を肌でひしひしと感じていた。

 

「誰も入りたがらない家に、入ろうとする老人がここに。さて、どうなってるんだろうねえ」

「僕達も行きますよ。少しでも危険だと感じたらサナリスのテレポートで外へ」

「サナ!」

 

 その言葉に、静かに頷く。そして杖を使いながら玄関の前まで歩き、当時の家の鍵を差し込んでゆっくりと回した。

 ガチャリと扉が開いた音がした。

 

「……では」

「お願いねえ」

 

 アンペルが慎重にドアノブを捻り、開けた。すると……

 

「サナ!」

「!!……シャドーボール……サナリス。助かりました」

「サァナ♪」

 

 咄嗟の判断で、サナリスはまもるを繰り出していた。シャドーボールを繰り出したのは、この真っ暗な家の中に潜むポケモンだろう。

 

 アンペルは持ってきていた懐中電灯で部屋を照らした。するとそこにいたのは……

 

「ジュペッタですか」

「ジュゥア……!!」

「サァナ!」

「おやあ……ジュペッタがいるんだねえ」

「ジュア!!」

 

 再びシャドーボールを繰り出す。しかしそこはサナリスのムーンフォースで相殺する。狭い部屋で、長いこと使われていなかったために建物が崩れそうになっていた。

 

「逃げましょう!ここは危険です!」

「ここは私の家なのに、どうして逃げないといけないの?」

「建物が崩れそうだから…」

「駄目。あの子をまた見捨てるなんて出来ないねえ」

「……え?」

 

 アンペルは直後にハッと気づく。

ーーそうか。ジュペッタは……

 

「『ルンパッパは笑ったよ』」

「……ジュ?」

「『釣られてナマケロも笑ったよ』」

 

 興奮状態だったはずのジュペッタの動きが止まった。ジュペッタはその老人のシワシワになった瞳を見た。

 

「『ルンパッパは踊ったよ。パッチールも踊ったよ。釣られて僕も踊ったよ』」

 

 その光景が目に浮かぶような。そんな朗読だった。

ーー読み聞かせのお相手は……ぬいぐるみだったのですね。

 

 一字一句間違えず、ジュペッタに向けて優しい声色で届けた。

 ジュペッタはそれで誰なのかが分かったらしく、先程のような興奮状態ではなくなっていた。

 

「ジュリー。ごめんねえ。私があなたを捨てたばかりに」

「ジュ……ジュア……?」

「私が、男だから(・・・・)ってくだらないことでねえ……」

 

 周りから男なのにぬいぐるみが好きとかおかしいと、リボン作るのとか変だと。そう言われ続けてきた。私は私の好きなことを捨てる必要なんて無かったのに。

 

「ずっと、ずっと後悔していたんだよ?あの絵本の子みたいに、みんなと違っても、あなたと笑えば良かった」

 

『ゴーストが笑ったよ。みんな怖いって逃げるけど、僕はゴーストと笑ったよ』

 

「ごめんねえ。私はもうあなたを捨てないから、罪は背負うから。あなたに呪われるならそれも本望だから。だから……これから、私と一緒にいてください」

「ジュ……ジュペ………」

 

 ジュペッタのチャックが開いた。すると、黒い魂のようなものが現れては、静かに消えていった。ジュペッタは動かなくなった。……いや、もうジュペッタではなく、可愛らしいぬいぐるみに変わっていた。

 

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 捨てられたぬいぐるみに怨念が宿りポケモンへ。自分を捨てた子供を探す。

 

ーージュペッタとしての生は決して心地よくなかったでしょうに。戻ってくると信じていたのか……探さずに待っていたのですね。

 

「ありがとうねえ」

「いえ。僕達は何も……」

「サナ……」

「充分してくれたよ。私が私であることを、微笑ましいと認めてくれた貴方達のおかげで、私はあの場で読み聞かせが出来たのだから」

 

 彼はそう言って笑った。

 

 数年後、彼は天国へと旅立った。かつて呪われた家と呼ばれた場所は、愛が溢れた家だったとある日を境にそう言われるようになった。

 彼の最期の姿は、ジュリーと絵本を抱きしめていたという。

 

『貴方達はずっと一緒にいるんだよ。大切な子なんだからねえ』

 

 アンペルは最後に言われた言葉をしっかりと胸に刻み込んだ。サナリスは、貰ったリボンを付けながら、似合ってるかどうかを聞いた。

 

「とても似合っていますよ」

「!サナ、サナ?」

「ええ。いいですよ。それで営業をしてみましょう。移動カフェ、安らぎ。これからもずっと一緒に盛り上げていきましょうね」

「サナァ!」

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