ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』   作:sisid

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第二十七話 遠くの日には青くなる。(後編)

 エントランスで今日も料理を振る舞うアンペル。昨日のことを思い出しながらそれでも業務はしっかりと熟す。

 そこに、一人の少年が声を掛けてきた。

 

「あの!」

「……おや、スグリさん。おはようございます」

「お、おはようございます」

 

 スグリはキョロキョロと周りを見て、誰も聞いていないことを確認してからアンペルにだけ聞こえる声量で話しかけた。

 

「今日、もしよかったらポケモンバトルお願いしてもいいですか」

 

 ーーやはり、昨日は強引にでも断れば良かったか。

 

「あ、俺じゃないんですけど。えっと、ハルトっていう、俺の友達が今日来るから……」

「そうですか。ですが僕は……」

「いや、さすが元チャンピオン!良いこと言うねぃ!」

「カキツバタ!?なんでここに!?」

「いや、おいらも生徒なんだから当然だろぃ?」

 

 カキツバタがへらへらとしている様子を見て、アンペルは少し安堵する。しかし昨日のことを引きずっているのか、気にしていないわけではなさそうだった。

 

「おいらじゃ手も足も出なかった。元チャンピオンもきっと無理だろ。でもきょーだいなら……」

「カキツバタさんのご兄弟さんですか?」

「違う。カキツバタが勝手にそう言ってるだけ……」

「いやいや、もう盃を交わした仲よ」

「してないだろ。ややこしくなるからやめろよ」

 

 グルルっと、マフィティフのように威嚇をするスグリだが、カキツバタはそんなスグリの鋭い眼光をするりとすり抜けて、

 

「アンペルの旦那には戦ってみて欲しいんだ」

 

 力の抜けた柔らかい表情でありながら、それが真剣にお願いしていることが分かった。

 

「……なぜでしょうか」

「まあ、正直な話、おいら達はこんなんでもリーグ部所属のポケモントレーナー。アンペルの旦那がポケモンバトルが好きじゃないのは薄々勘付いてたっつーか」

「であれば、誘うのは違うのでは」

「だから……あー、元チャンピオンに説明してもらおうかね。悔しい話、きょーだいのことを一番知ってんのは元チャンピオンだし」

「その呼び方やめろって……まあ今はいいや」

 

 スグリは諦めてアンペルのことを一度見てから、少しの間目を閉じた。

 

「俺はすげえ馬鹿みたいにポケモンバトルのことを勉強した。努力してここのチャンピオンにもなった。その目標はずっとハルトを倒す為だった」

 

 一つ一つ、頭の中にある思い出の棚を開けて、最奥から引っ張り出して言葉を紡いでいく。

 

「けど、ハルトには勝てなかったんです。俺がどれだけポケモンバトルに時間を費やしても、ありったけをぶつけても」

「それは、さぞお強いのでしょうね」

「うん。でも、だから戦って欲しいってわけじゃなくて……一度でいいからハルトを見て欲しい。自分勝手だった俺にもずっと一緒にいてくれて、ずっと忘れていた感情を思い出させてくれたハルトを」

 

 その強い眼差しに、アンペルは少し考えた。彼にとって忘れていた感情というのはおそらく、ポケモンバトルがどれだけ楽しいかということだと推測していた。

 ーーしかし、僕にとってポケモンバトルとは……戦いとは……

 

 その時だった。パチパチと大きな拍手をカキツバタがしたのだ。

 

「いやあ、素晴らしい演説!さすが元チャンピオン様は違うねぃ!」

「馬鹿にしてる?」

「そんなわけないでやんすよ。愛が伝わっておいら感動しちまった!」

 

 カキツバタはそう言うと、サナリスを見てニヤリと笑った。

 

「サナ?」

「リーグ部はポケモンバトルが好き。愛しているってわけよ。そんな中でも、現チャンピオンのきょーだいは人一倍愛がある。"愛"の気持ちに応えるのは、悪いことじゃないと思うんだけどねぃ」

「……なるほど、それが貴方が戦って、昨日話をして思いついたことですか」

「はて、なんのことやら。……っと、きたきた!」

 

 リーグ部の現チャンピオンであり、パルデア地方のチャンピオンでもあるという、ハルトがやってきた。

 

「スグリ!久しぶり!」

「久しぶり!ハルト、今日戦うんはこの人さ!」

 

 鈍った言葉になるほどに、心を開いているのが伝わる。アンペルにはカキツバタよりもスグリの方がよく知っているとそれで確かに伝わった。

 

「貴方がアンペルさん?あれ、パルデア地方にも何度か来てます?」

「ええ、まあ」

「やっぱり見たことあるなあって思いました!」

「アンペルの旦那は知名度あるねぃ」

「今日はポケモンバトル1対1だと聞きましたけど、もしかして、色違いのサーナイトが相棒ですか?」

「はい。……せっかくお越しいただいたわけですし、カキツバタさんのご要望通り、戦いますよ」

「へへっ、ありがてえ」

「では……」

「ちょい待ち。やっぱみんなを呼ぶべきだろ」

 

 カキツバタはスマホロトムでリーグ部のみんなを呼ぶ。タロを始め、アカマツ、ネリネ、そしてスグリの姉、ゼイユもやってきた。

 

「ねーちゃんも来るとか、意外だべ……」

「なによ。暇じゃないのに来てやったんだから感謝してもらいたいわ」

「ゼイユはハルトが来てると知ると、すぐに」

「ちょ!ネリネ、黙って!」

「?ハルトに会いたかったん?」

 

 そんなわけないじゃない!とゼイユが叫ぶ。それを見てクスクス笑うタロと、そんなタロに見惚れるアカマツと。四天王とその四天王に匹敵する実力を持つ人達が集まった。

 

「すげー強火のバトルを期待しちゃう!ジャッジは誰がする?」

「アカマツがジャッジするのは無理だろうな」

「アカマツ君よりカキツバタの方が無理でしょ。私がやります」

 

 タロが審判を務めることになり、試合開始の合図をする。ハルトはパルデアで最初の相棒となったというラウドボーンを繰り出した。

 

「対戦よろしくお願いします!アンペルさん!」

「はい。よろしくお願いします」

「ラウドボーン!フレアソング!」

 

 ラウドボーンが放つフレアソングがサナリスに一直線に向かっていく。

 

「……出た。テレポート」

 

 昨日のように何も合図を出さずに、テレポートをしているサナリスがいた。

 

「うわっラウドボーン!"いいよ"!」

「サァナ!」

「グゥ!……」

 

 サナリスが繰り出したのは、シャドーボール。それが空から放たれる。そしてそれは見事に的中した。しかし……

 

「凄い!そんな使い方が出来るんだ……!」

 

 ハルトは顔を紅潮させながらそう言った。

 ーーいいよ……とは、そういうことですか。

 

 ラウドボーンの体力は減っていない。ハルトの合図に従い、シャドーボールを喰らった後、"なまける"で体力を回復させたのだ。

 

 ーーテレポートを使った攻撃に驚きながらも、刹那に対応されましたね。

 ーーサァナ。サナ。

 ーーええ。そうですね。僕達の方が驚かされましたね。

 

「行きますよ!ラウドボーン!フレアソング!」

「サァアアアア!!」

 

 フレアソングを、サイコノイズで相殺する。……が、しかしその威力が足らずにサナリスに多少の攻撃が当たる。

 

 ーー大丈夫ですか!

 ーーサナ!

 

 しかし、二人の意思疎通をする隙を許さないかのように、ラウドボーンがフレアソングをし続ける。炎を纏う歌声がどんどん威力を上げていく。

 

「ラゥウアア!」

 

 これで5回目のフレアソング。使う毎に鋭く、早くサナリスへと向かっていく。

 ーーこれがもう一つの手か。サナリス、サイコキネシス。

 

 その言葉にサナリスは答える。サイコキネシスを繰り出し、そして……

 

「うわっ!」

「グァッ……」

 

 フレアソングを捻じ曲げる。先ほどサイコノイズのように相殺するのではなく、"流す"。そしてその方向はラウドボーンへと向かわせる。

 

 ーーなまけるの隙は与えずに。サイコノイズ。

 ーーサァナ!

 

 これで勝敗喫した……はずだった。

 ハルトの手元が突然光り始めたのだ。

 

「むっ……」

 

 アンペルは目を見開いた。一瞬で戦況が劣勢になっているのが分かった。それは、ラウドボーンがあくタイプの冠を頭に身につけていた。

 

「来たべ!」

「ハルトの判断が的確。テラスタルでサイコノイズを無効化した」

「相変わらず強えー!アンペルさんの強火の攻めをこんな簡単に!」

 

 ーー否、それだけならなんとかなります。フェアリータイプですからここから攻めればなんとか。……しかし真に注目すべきは……特性が"てんねん"というところ。

 

 つまり、あれほどの威力があったはずのフレアソングを食らってもなお、平然としていた。サイコノイズは封じられ、結果として無傷。

 

「アンペルさんのサーナイトは、トレースじゃないでしょ!」

 

 ハルトが笑顔でそう言った。アンペルは表情こそ変えなかったが、ハルトの言っていることは正解だった。

 

「なんで、戦闘中に分かったん?」

「さあ?おいらにもわかんね」

「……多分」

「タロ?」

「多分、サナリスちゃんが直撃を避けているからだと思う」

「あーなるほど。特性をトレースしてりゃ、いくらラウドボーンがフレアソングしたって、影響ねえもんな」

「さすがタロ、サナリスをよく見てるのね」

 

 故に、現状においては明らかにアンペル側が劣勢だった。シャドーボールもエスパータイプの攻撃技も通じない以上、先ほどのサイコキネシスのような使い方をしなければならない。しかしそれも、なまけるで回復が間に合ってしまう。

 

 アンペルの脳裏に、敗北の2文字が浮かぶ。その時だった。

 

「ラウドボーン!フレアソング!」

 

 誰もがアンペルの敗北を確信した6回目のフレアソング。サナリスに直撃し、戦闘不能に……なると思っていた。

 その手前で、フレアソングが霧散したのだ。

 

「は?」

「へえ、サナリスってまもるも覚えてるんだ!強火の攻めだけじゃなくて、防御も備えてるのか!」

「いやいやいや、おかしい。おかしいって」

 

 まず真っ先に違和感を覚えたのはカキツバタだった。その後からタロ、そしてスグリも気づく。

 

「何がおかしいのか、ネリネにも教えてください」

「昨日おいらは、はどうだんでブリジュラスを倒されたのよ。でも今日は使ってねえ。昨日の間に忘れさせたのかと思ってた」

「なんで?」

「あ、……確かにおかしいわね」

 

 ゼイユがアカマツを置いて行き、ネリネと共に理解を示す。

 

「テレポート、シャドーボール、サイコキネシス、サイコノイズ……もうすでに四つの技を使っているのに、どうして五つ目の技を使えるの?」

「あー!言われてみれば確かに!」

「おいおい、ポケモンの枠にとらわれないのかよ、サナリスは」

 

 アンペルやサナリスにとって、これは望まない努力故に身につけたものだった。彼らにとってポケモンバトルは"生き延びるため"のものだったから。

 ゲーチスの時も、それよりも昔の出来事の時も、苦い思い出しかなかった。

 

 ーーしかし、なるほど。確かにハルトさんは人を動かす何かがあるようです。

 

 スグリに言われ、ハルトを見ていたアンペル。その表情はどのような状況であれ笑顔であり、楽しそうにしていた。

 

「なぜ貴方は笑っていられるのですか」

「楽しいから!」

「貴方はポケモンバトルでポケモンが傷つくのが怖くないのですか」

「?考えたこともなかったです!でも、考える必要がないと思ってます!」

「なぜ?」

「だって、自分が笑っていられるんだもの。嫌な思いをしても、それを上書き出来るのがまたポケモンバトルなら、ポケモンも笑ってくれるから、今、僕はここにいます!」

 

 ーー上書き出来るのが、またポケモンバトルなら……か。

 ーーサナ!

 ーーええ、そうですね。昔とは違いますね。……楽しめていますか。

 ーーサァナ!

 ーーふふっ。貴女がハルトさんの感情に呼応しているなら、僕達も上書きしなければなりませんね。

 

 サナリスがコクリと頷く。すると、アンペルとサナリスが嵌めている指輪と腕輪が輝き始めた。

 

「……!まさか……」

「以前、フェルム地方に訪れたことがありましてね。サナリスが複数技を使えるのもそこで学んだものです。そして、これは僕らの愛ですよ」

 

 メガシンカ。カロス地方で見られるものが、今、違う地方で姿を現す。

 

 ーーサナリス、煌びやかに参りましょう。

 ーーサナ!

 

 特性"フェアリースキン"。あくタイプになったラウドボーンにとって一撃を示す。しかし、6回フレアソングを放ったラウドボーンの攻撃力は、サナリスにとって一撃を示す。

 

 正真正銘、互いの最後の攻撃。どちらが、攻撃を貫くか。

 

 ーーサナリス、ハイパーボイス!

「ラウドボーン!シャドーボール!」

「サァアアアア!!」

「グゥアアア!」

 

 互いの魂の一撃が交わる。それによる衝撃波、リング上が砂埃で視界を奪う。

 最後まで地に立っているのは……

 

「……サナリスちゃん、戦闘不能!勝者、ハルト君!」

 

 ーーおつかれさまでした。

 

 天を仰ぐ、その青空はとても綺麗で、眩しかった。

 

「ありがとうございました」

「こちらこそ!すごく強かったです!……ネモが食いつきそうな強さだったな……」

「ハルトダメ!ネモさ連れてきたら面倒なことになるべ!」

「そうよ!サナリスの命が何個あっても足りないわよ!」

 

 スグリとゼイユが一生懸命止める。それを笑って冗談というハルト。その右手は優しくラウドボーンの顎を触っていた。

 

「おつかれさーん。アンペルの旦那、これ使って」

 

 カキツバタがげんきのかけらと、かいふくのくすりをアンペルに渡す。

 

「ありがとうございます」

「楽しかったろ?」

「……ええ。そうですね」

 

 サナリスを元気にさせて、アンペルはよしよしと頭を撫でた。

 

「本当に、子供から教わることは多い。……カキツバタさん」

「ん?」

「ありがとう」

「……いんや、きょーだいがいなけりゃ、なんもできなかった」

「そんなことはありませんよ。昨日の貴方の瞳は、ポケモンバトルを楽しんで欲しいと訴えているようでしたから。……分かっていたのに、知らないふりをしたのです。でも、貴方は諦めなかった。きっと、ハルトさんがいなくても、どうにかしようとしたでしょう」

「あーやめやめ。そういうのこそ、知らないふりをしとくべきですぜ、アンペルの旦那」

「……そうですね」

 

 ーー今まで黒ずんでいた筈なんですけどね。ポケモンバトルで、まさかこんなにも透明で綺麗な気持ちになれるとは。

 ーーサナ。

 

 サナリスがアンペルを抱きしめる。「ひゃっ!」と、タロが声を出す。負けて悔しいのか、サナリスは泣いていて、アンペルはよしよしと背中をさすった。

 

 ーー悔しかったですか。

 ーーサナ!

 ーーでも、泣けるほどに楽しかったのですね。

 ーーサァナ!

 

 二人して笑う。周りに人がいるのに、二人だけの空間かのように。

 アンペルはハルトに感謝をして、リーグ部のみんなに特性サンドイッチを振る舞った。

 その笑顔でいっぱい空間に、アンペルの心は温まっていく。

 

 ーー目の前にある空気が遠い空ではあんなに青いように、いつかこの思い出も遠くの日には青くなる。ならば澄んだ、透明感のある青い色にどんどん染めていけるように、苦い思い出を上書きしていこう。そしてこれからも、綺麗な思い出を作っていけるように。




というわけで、SVのDLC青の円盤の方々に出てもらいました。
ネリネ、ゼイユ、アカマツの出番をもっと増やしたかったなあと反省。
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