ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』 作:sisid
サナリスことサーナイトは出ません。
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ポケモンは危険な生き物だと、幼い頃に言われた。モンスターボールという技術がまだ生み出されていなかった時代……というよりは、まだ僕の住む村まで普及していなかった時代だ。
でも、どうしてだろう?僕にはポケモンが美しく見えたんだ。
『アンペル!危険だからやめなさいと言っているだろう!』
『お母様。安心してください。ポケモンは怖い生き物だなんて、そんなのは嘘です。僕は今まで…』
『危険なの!運が良いだけなのだ!お父さんが怪我して戻ってくることもあるのは知っているだろう?』
『……ですが…』
『絵の具に必要な石は、お父さんが持ってきてくれる。だから、村の外には出てはいけない!村長もいい加減許してくれないぞ』
絵の具を作ること。これが僕が石を集めるきっかけだった。お父様が警備の一環である洞窟から手に入れた黒曜石というものを僕にプレゼントしてくれたのが全ての始まり。
光沢のある石なんて見たこともなく、しかもそれを絵の具にすることが出来ることに、自然の不思議の魅力が詰まっている気がした。
そしてその好奇心が、僕を外へと連れていってくれたのです。
この村が出来たのは、ポケモンによって街を滅ぼされた人々が集まって出来たもの。合掌造りというもので出来た家屋は、豪雪地帯でもあるこの村で生活が出来るために工夫されたものだった。
雪解け水で生成された天然水や、寒さに強い植物などを育てるなどして、この村は生活をしていた。
歳を重ねれば重ねていくほど、僕は僕が正しいと思うようになり、親の言うことを聞かず、人目を盗んで外に出ることが多々あった。
親の目を盗んでは外に出て、そこで仲良くなったポケモンとおしゃべりしながら、僕は1日を過ごす。ほらやっぱり怖くない。スコルピも、デンヂムシも、ケムッソも。みんな可愛くていいポケモンだ。
大人の言うことは古いんだ。
『もういい。お母さん諦める』
『え?』
『あんた、バレてないと思ってたのかい?外に出てポケモンと遊んでいるだろう。自分の息子が何をしてるかなんてすぐ分かるわ。それは許されないことなんだ。だから、村長に会いに行くよ』
お母様に腕を掴まれ、村長の家に連れて行かれた。囲炉裏で暖をとっている中、お母様は正座になって村長に頭を下げた。村長はそんなお母様の顔をあげさせた後、僕を見た。
『アンペルや、お前はポケモンが怖くないのかい』
ほうれい線が動いたか分からないぐらいの声で僕にそう言った。僕がコクリと頷くと、村長は目を閉じて話し始めた。
『ワシらはな、お前が生まれる前は別のところで暮らしておった。しかしそこに怪我をして大暴れしているドラゴンポケモンが、村一体を炎で焼き尽くしたんじゃ。ポケモンは、怖い生き物なんじゃ』
『……それは怪我をしていたからではないですか?ポケモンが僕らを見て襲いかかるとは……』
『襲いかかる。だからこんなところで暮らしておるんだ。塩硝を作っとるのもそれが理由なんじゃぞ』
『塩硝?』
『……まあ良い。これ以上警備隊の目を盗み、外に出ると言うのなら、いくら子供といえど容赦はせん。親と共に出て行ってもらう』
それからの日々は物足りないものとなった。僕がズレているのかどうかでいうなら、きっとズレているのだろう。僕以外の子供は外に出なかったから。
お父様が持ってきてくれた石を使って絵を描いた。殺風景な村の絵だ。人が勤しんでいる姿だけが描かれていく。
ポケモンと人が共に仕事している姿をこの目で見たいと思う。ケムッソの糸は服の素材に出来そうだし、デンヂムシの電気から何か新しいものが作れそうだ。なのにそれは叶わない。
僕が外に出てしまうと、家族に迷惑をかけてしまう。でもそれ以上に僕の好奇心は大きかった。
警備隊のみんなのうち一人は僕を見守る役割を持つようになった。まるで自由が効かない。外に出ようとする素振りがあれば止められ、お母様に怒られる。
『……決して悪いことなんてしていないはずなのに』
我慢の限界が来てしまった僕は、ついに最終手段をとることを決意した。なけなしのお金だけを握り、夜、一人で外に出た。
そして、その一歩。今まで進んだことのない未踏の地へ足を踏み入れた瞬間。その景色に圧倒された。
空気が澄んで星が輝き、その星空の灯りで照らされる草原。お尻が光るポケモンや、ほぼ気体でできているポケモンが仲良しそうにしていた。
指を月に向けて振っているポケモンはピッピなのだろうか?よくお父様が話していた気がする。
もっとポケモンのことを知りたいから、村から離れて一人で生きる。
これが、僕の冒険の始まりだった。
何もかもが初めての経験で、胸の高鳴りが、指先まで伝わったままの毎日だった。僕の声を聞くと、ポケモンが寄り添ってくれるのです。村に伝わる短い歌も、ポケモンは理解してくれているのか分からないけれど、楽しんでくれている。
僕はもう立派な大人になった気分で、どこまでも一人で、ポケモンと共に歩んでいけるものだと思っていた。
『ヒュ〜』
『あなたのその凸凹した甲羅に乗ればいいのですか?』
『ヒュウ!ヒュウ!』
後にラプラスという名前だと知ったそのポケモンは、人を乗せるのが好きだと言う。その甲羅に乗せてもらってついた先は、コトブキムラという場所だった。
そこでは、モンスターボールがすでに普及していて、そこでギンガ団がポケモンを研究していた。
『ポケモンには助かってるぜ。おかげでこんなにミントが作れるようになったんだ!』
『旅人さんはこの光景を見るのは初めてなのかい?まあ私たちも、想像していなかったけれどね』
『ポケモンは確かに怖い生き物だが、ちゃんと分かり合えるのさ』
自分が思い描いていた景色が目の前にあると知ると、僕は絵を描きたくなった。この光景を帰って村の人たちに見せたくなった。
こうやって共存しているんだよと。閉鎖的になるのは良くないんだと。
絵を描きたいとコトブキムラの組織であるギンガ団の人に声をかけると、画材からなにから全てを用意してくれた。
『君の絵が、後世に残ることを願うよ』
その言葉を受けて、神経をすり減らすぐらいに集中して描いた。柔らかく、時には荒々しく。その一瞬一瞬を思い出して描いた。
まるでそれを伝えるために生まれてきたんじゃないかと思うぐらいだった。
そうして数ヶ月間の冒険は幕を閉じることとなる。……はずだった。
帰りは特段困ることはなかった。僕の声はどうやら心地が良いらしく、その声に応えてラプラスや、道中仲良くなったポケモン達に助けられたから。
この光景も、しっかりと見せたい。外に出たことは怒られるかもしれないが、それでも見せるべきだと思った。僕の絵が、村を変えることになるのではないかと思うと、なんとも心地良い気分だった。怒られることも苦ではないと、足取り軽く故郷へ帰ろうとした。
そうして着いた、僕が知る故郷は、そこには無かった。
『……なんですか、これは…』
合掌造りの家屋は全て崩れ落ち一部は炭と化していた。ある場所は炎が燃え盛り、ある場所では嗅いだこともない肉が焼けている臭いがした。
警備隊の姿も、村長も、お母様もお父様も見当たらない。
自分の、家も、見つからない。。。
ーーザシュッ!
自分が今、きりさくをされたことに気がついた。持っていた絵が守ってくれたが、僕の右腕からボタボタと血が流れていることに気がついた。僕を襲ったのはリングマだった。その姿は狂気に満ちていた。
『君!大丈夫か!』
銃声と共に、駆けつけた青年がいた。僕は今まで知らなかった初めての感情で言葉を出すことができなかった。
『……ん?アンペル?アンペルか!なんでここに……』
その青年は僕のことを知っていて、僕も顔を見てようやく分かった。この村の者で、僕が外に出てから数ヶ月の間に警備隊に入っていたらしい。
『グァアア!!』
『このサイズのリングマは危険だ!走れるか?無理なら俺の肩を貸してやる!』
ーー怖い。
『ポケモンの生命力は凄いからな。塩硝から作った火薬銃でも牽制するのでやっとだ』
青年の力を借りて、僕は村から出た。自身が住んでいた村の被害は相当なもので、被害者の数は半数を超えているらしい。
『……お母様とお父様は?』
『それが、分からないんだ。あまりに唐突に戦争が始まってしまって……混乱していたから』
行方不明というその事実に、最悪のケースを想像してしまった。そして、自分が悪いことをしたと、そこで初めて自覚した。
『……ポケモンは、怖い、生き物………なんですね』
『ああ。ポケモンとの戦争が始まった。俺たちも今は軍に入って戦っているんだ。もう何も奪わせやしない』
ポケモンに両親が命を奪われたというその青年は、覚悟を決めていた。いつ終わるか分からない戦争が始まってしまった。ポケモンが疲弊して人間を恐れるようになるのか、それとも人間が戦争を途端にやめるのか。そもそもこの戦争の発端は?分からないことだらけだった。
自分がコトブキムラで見た光景は、いったい何だったのか……それが分からなくなってしまった。
それ以来、絵を描くことが出来なくなってしまった。
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いい加減、アンペルを掘り下げないといけないなと思い書きました。
こんな形で、時々アンペルの過去回やります。もちろん、サナリスとの出会いも書きます。
次回からまた通常運転です。