ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』   作:sisid

31 / 32
第三十一話 森の魔女

「どこだぁ〜?どこに行きやがったんだぁ?」

 

 積荷には物騒な物がたくさんある。そのうちの一つを取り出した男は静かに森の奥へと入っていく。

 ……すると。

 

「うっ……な、なんだ……?頭が、急に……!!」

 

 突然の頭痛が男を襲う。まるで締め付けられているかのような痛みに、汗と息切れが止まらなくなっていく。ぼやけた視界には、自分が追い求めていたポケモンがいたのだが、その隣には、また別の姿があった。

 

「な、なんだこいつは……!?う、うわぁあ!」

 

 男に向かってビームが放たれた。意識が朦朧とする中、男は走って逃げて行った。

 

▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣

 

「本当なんだ!間違いねえ!ありゃあ森の魔女だ!」

 

 男は近くの村でそう言って、人々に噂を流していた。そこで移動カフェ"安らぎ"の営業を行っていたアンペルとサナリスもその話を聞いた。

 

「森の魔女、ですか……もし本当にいるのなら、それは興味深いですね」

「あそこの男が目撃したっていうんだけどね?どうせ何かの見間違いだろう。よそ者だし、誰も信じてないけどね」

「あちらの男性が……」

「サナ?」

「どうしました?」

 

 サナリスはその男の姿を静かにずっと見ていた。アンペルがお客さんの注文を聞き、商品を渡すまでの間、ただずっと……しかし表情が少しずつ訝しげになっていくのが分かった。

 そこでアンペルはその男性に直接話を聞く事にした。

 

「俺の話を聞いてくれるのか!」

「ええ。僕も移動カフェを営んでいるだけの、よそ者の1人ですから。ぜひそのお話をお聞きしたいと思いまして」

「そうかそうか。いやあのな?俺があるポケモンを求めて追いかけてたらよぉ」

「あるポケモンですか」

「ああ。まあ。……いや、その話はいいじゃねえか!大事なのはそのポケモンが逃げた森の中にいた森の魔女の話だろ?」

 

 ーーああ、なるほど。そういうことですか。

 

 アンペルは彼の頑丈そうなチョッキや、それに合う動きやすそうな服と、ポケモンの話をはぐらかしている様子を見て、サナリスがどうして訝しげな表情をしたのかを理解した。

 

「その森に入ってしばらくすっと、頭がガンガン痛くなっちまったんだ!」

「それはそれは……」

「あ!言っとくが俺ぁ偏頭痛持ちでも、そういう病気を持っているわけでもねえぜ?けどな、そこで俺は見たんだよ!俺らよりもデカくて、帽子と長い髪が地面にまでついた魔女を!ビームを撃ってきてよぉ!」

「それは非常に興味深いですね。ぜひ、その場所を教えていただけますか?お店は本日は終了致しましたので」

「ああ!もちろん!俺のトラックも実はそこに置きっぱにしちまっててよ!案内するぜ!」

「……ええ」

 

 男に案内された場所は至ってどこにでもある森だった。

 

「この先だ。あんたなら、その色違いのサーナイトさんであの魔女に太刀打ち出来るかもしれねえな!」

「貴方はポケモンを持っていないのですね」

「ん?ああ!だから村で声をかけてたんだ!誰か力になってくれねえかってな!」

「そうですか」

「サァナ」

「へっへっへ。あんたさんのサーナイトも随分可愛いじゃねえの」

「ありがとうございます。ところで、その積荷にある物はなんですか?」

「あ?これは秘密よ!じゃあ、後ろからこっそり着いていくからよ。森の魔女さんをなんとかしてくれ!」

 

 アンペルは深く息を吐いた。ちらりとこちらを見るサナリスにニッコリと笑顔を見せて、

 

「参りましょう」

「……サナ!」

 

 いざ足を踏み入れて、真っ先に感じたことがある。それはポケモンの気配が非常に少ないことだった。

 

「サナ……」

「確かに、不気味ですね。鳥ポケモンすらいない」

 

 森の奥へと進んで行っても全くポケモンと遭遇する気配がなかった。

 

「おっと!その先をまっすぐ行けば、急に頭痛がし始めた場所に着くぜ!」

「そうですか」

 

 と、突然、アンペルに頭痛が襲いかかってきた。

 

「むっ……」

「サナ!」

「誰かいますか」

「サァナ……」

「ブリム!!」

 

 ビームが放たれた。しかし、それをサナリスがまもるで防いだ。

 

「サナ!サァナ、サナ!」

「ありがとう、サナリス。なるほど……ブリムオンですか」

 

 森の魔女の正体は、ブリムオンという、せいじゃくポケモンだった。

 

「サナ」

「分かっています」

 

 男の姿が見当たらない。しかし、どこかに行くことは想定済みだった。

 サナリスは静かに目を閉じた。ブリムオンは後ろにいるポケモンを庇うようにして、アンペルを睨んでいた。

 

「すみません。そちらの……色違いのポッチャマに手を出すことはしませんよ」

「ブリィム?」

 

 ーーおそらく、その怪我をしているポッチャマは一生懸命逃げた先で、たまたまブリムオンに会ったのでしょう。ブリムオンはその痛々しい姿を見て、助けることを選んだ。

 

「安心してください。貴女が、そのポッチャマを守ろうとしているのは分かります。実は……きっと、そうだろうと思いまして、ある物を用意したのですが…」

「サナ!」

「おや、サナリス、もう大丈夫ですか?」

「サァナ♪」

 

 任せなさい。というように胸を張りながら、サナリスはオボンのみで作ったジャムパンをブリムオンに半分こにして渡した。そして、自分は自分ので用意しておいて、それを食べた。

 

「ン〜サァナァ」

 

 美味しさをアピールして、ブリムオンとポッチャマにも食べさせる。

 

「ブリィ……」

「ポチャ」

「サナ、サァナ、サナサナ」

 

 少しずつ警戒心を解いていくブリムオンとポッチャマ。サナリスが話をしていて、それが終わると、ブリムオンは静かに頷いた。

 

「ブリムオン。どうでしょう。僕を信じてくれますか?」

「ブライ!」

「信じてくれているってことで、いいですかね?」

「サナ!」

「それは良かった。では、また会いましょう」

「ブリム」

 

 そうして、ブリムオンがその場から去ろうとするその時、サナリスが突如としてサイコキネシスを繰り出した。

 

 そしてそれは、死角から突然現れた網を止めたのだった。

 

「なぁ!?俺のランチャーが……」

「やはり、ポケモンハンターでしたか。貴方」

「て、てめぇら!分かってて近づいたのか!」

「そうですね。僕らは生憎、ポケモンハンターが大嫌いでして」

「サナ」

 

 サナリスはそのまま、ポケモンハンターを空中へと持ち上げて行った。

 

「へっ!?あの!?ちょっと!?」

「色違いのポッチャマは諦めて、大人しく自首をしなさい。そうすれば、そこから落とさずに助けてあげます」

「お、おいおい!勘弁してくれよ!そんな非人道的な、どっちが悪い奴かわかりゃしねぇじゃねえか!なあ!」

「ちなみに自首をするとお答えしてくれないと、高度はどんどん上がっていくので、そこのところはよろしく」

「わ、分かった!分かったから!やめろ、やめろ!やめてくれ!」

「自首は?」

「す、する!します!させてください!」

 

 情けない声が森全体に響く。どんどん高度を下げて、ゆっくりと地上に着かせた後、

 

「ブリム」

「へあ!?森の……ま、じょ……」

 

 ブリムオンのさいみんじゅつによって、眠らされた。

 

「色違いのポッチャマはこれからもここで暮らした方が良いでしょう」

「ポチャァ?」

「ブライ」

「サナ、サナサナ」

 

 ポッチャマとブリムオンが一緒に暮らすことが決まったので、サナリスがその記念として、オボンのみをプレゼントする。

 

「それはもしかして、僕らの料理に使うものでは?」

「サナ、サナ」

「……まあ、オボンのみはまた採ればいいですからね」

「サナ!」

 

 頭でアンペルの身体をすりすり触るサナリスに、思わずアンペルは笑った。

 

「ポケモンハンターは、未だにいるものなんですね。さて、この男を連行しましょうか」

「サナ!」

「ポチャマ!」

「ブリィム!」

「ポッチャマ、ブリムオン。これからの日々は安寧で幸せな日々であることを願っています。それでは、またどこかで、めぐり逢いましょう」

 

 アンペルとサナリスはその場を去った。色違いのポケモンはポケモンハンターに狙われやすい。サナリスもはるか昔に狙われた。

 

「傷だらけの、サナリスを思い出しますね」

「サァナ……」

 

 そよ風が吹く。暖かな夕日が木々を眩しく照らした。

 ーー僕が知らないだけで、このような理不尽な痛みを負っているポケモンは沢山いるのか。

 平和の裏で、心に痛みを負うよな虚しい出来事が、今後無くなっていくことを、アンペルは切に願った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。