ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』   作:sisid

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第三十二話 出会い、出逢った

『すみません、そこのお方。足をくじき、まともに歩けなくなってしまったこの哀れな私を、目的地まで運んではくれませんか』

 

 雪山にしては非常に薄着で、少しでも浴衣が崩れてしまえば、肌が見えてしまうほどで、透き通るほどのような肌白い顔の女性が男にそういえば、力自慢の男は大抵こう答える。

 

『そいつぁ大変だ。どれ、目的地まで運んでってやろう』

 

 おんぶしては指さされた方へと歩いていく。そうして男はやがて力尽きる。

 その女の本当の狙いは、男の命なのだ。

 

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「うえー怖いねえ」

 

 子供の声が聞こえる。たまたまこの街を歩いていたアンペルとサナリスの前で、おばあさんがこの地に伝わる都市伝説なるものを絵物語して語っていた。

 

「その女さんは、この後どうなるのー?」

 

 数人いる子供のうちの一人がそう聞くと、おばあさんがにっこりと笑いながら、

 

「この話には続きがあるんじゃ」

 

 と言って、1ページめくる。

 アンペルとサナリスが、おばあさんの絵物語を聞くために腰を落ち着かせた。

 

「お兄さんも、気になるかの?」

「そうですね。気になりますね」

「サナッ」

「わあ、サーナイトの色違い初めて見たー!」

「サナサナ」

「ほほっ、では続けようかの」

 

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『すみません、そこのお方。どうか私をこちらの方角へと連れていってくれませんか』

 

 いつものようにその女は青年にそう言った。しかし、青年はすぐ頷くのではなく、駆けつけては、

 

『足を挫いたのですか?まずは手当てをさせてください』

 

 と、返した。吹雪が強く、顔がよく見えないその青年ではあったが、その優しさだけはその女に伝わった。

 

 一つ。

 

 ぽつりと優しさの音がその女性の胸を叩いた。足を見たその青年は、応急処置に包帯を巻いて、その女性を起こした。

 

『寒くはないですか?温かい飲み物がありますが……』

『大丈夫です』

『そうですか。……あ、そういえば、ここではない地方にですね』

 

 寂しい想いをさせまいと、青年は女性に話をする。

 

 二つ。

 

 また胸を叩いた。それに反して、今、自分がしようとしていることにキュッと胸が苦しくなった。

 

『まだ、歩きますか』

『はい。まだこの道のりをまっすぐ』

 

 息が乱れ始める。青年の腕がプルプルと震え始めた。冷たく、赤くなった耳に雪が積もっていたが、それが今、崩れ落ちた。この身体の限界が近いことを察した。しかし、それこそが彼女の目的であり、成すべきことだった。

 あと少し、あと少しで……と、そう思っていた時だった。

 

『お姉さん』

『はい』

『寒くないですか?』

『………』

 

 休むための口実ではないと、顔を見せないからこそ分かった。歩みを止めず、言われた通りに雪を踏んで行く。その健気に相手を思うその心の柔らかさが、

 

 三つ。

 

 酷く凍った胸の心を叩いて、彼女を溶かし始めた。

 

 青年は背中が軽くなったことに違和感を覚え、その時初めて、後ろを振り向いた。自分がおんぶしていた彼女の姿が見当たらず、自分自身の足跡だけが視界に映った。

 

 彼女の姿は、ポケモンだったのか、はたまた幽霊だったのか……誰も知ることはなかった。

 

 しかし、声が聞こえた。『優しい心をお持ちの貴方に逢えてよかった』と。気付けば、岩山ではなく、岩山に囲まれた平地だった。

 その不思議な体験から、青年は、その地をこう名付けた。

 

 ーー心形岩山と。

 

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「へえ、それがヒスイ地方の昔話?」

「ああ。あまり有名な話ではないけどもね」

「青年さんはその後どうなったの?」

「それが、どの資料にも載っていないさね。似たような昔話は沢山あるが、時代が経つにつれて変わっていくからねえ」

「ふーん」

 

 時代が経つにつれて変わっていく……か。

 

「それにしても、他人をずっと思いやる人って、素敵ー!」

「ボクとかそうだけど?」

「ウソ!いっつもわたしをいじめるもん!」

「はぁ!?ドジなのがいけないんだろ!」

 

 子供達が口喧嘩をしていて、クスッと笑いながら、アンペルは立ち上がった。サナリスがアンペルの右手を徐に握る。二人して昔話をしてくれたおばあさんの前に立ち、一度頭を下げると、

 

「そのお話。一つ訂正を加えるなら、ポケモンでしたよ」

「ん?」

「幽霊ではなく、ポケモンでした。それだけです。素敵なお話を、ありがとうございます」

「サナ!」

 

 アンペル達はそれだけ言って、その場を後にした。おばあさんはキョトンとしたままだったが、それはそれで良いと思った。

 

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『……ユキメノコ、だったのですか』

『………ひゅ』

 

 彼女が示した方向に目を向けた。吹雪が止み、その視界に映ったのはーー

 

『色違いの、ラルトス……?』

『ひゅっ……』

 

 気を失った、傷だらけの色違いのラルトス。手当てをできるだけして、アンペルはその子を安全なところへ避難させた。

 

 そうしてユキメノコは姿を消した。どうしてユキメノコがラルトスを守っていたのか、当時のアンペルには分からなかったが、これだけは分かった。

 

 ユキメノコは、僕に託したのだと。

 

『任されました。この子の面倒は、僕が……』

 

 ーーザシュッと、アンペルの頬を何かが掠めていった。

 

 ラルトスのマジカルリーフだった。傷を負って、まだ息が荒れているのに、睨んできているのが分かった。アンペルはそんなラルトスを優しく抱きしめた。

 ラルトスは抗い、攻撃を仕掛けたが、彼はそれを受け入れた。

 

『ルゥ〜〜ッ!』

『敵対心を、受け入れます。きっと、酷い仕打ちをされたのでしょう。受け入れます。受け入れますから……どうか、僕を信じて』

 

 出会い、出逢った、かけがえのない思い出。そうする為に、アンペルは気を失うまでラルトスの、サナリスの攻撃を受け入れた。

 

 ーー目の前の命を、守らなければならない。お父様とお母様ならば、そうしますよね。外に出る僕を、何度も注意してくれたように……大切にしてくれたように。

 

 アンペルの知らないところで戦争に巻き込まれ、行方不明になった両親を、アンペルは探している。

 

 そしてそれは今もーー

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