ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』 作:sisid
カラカラと強い日差しの中、涼しい風が吹く。通称"海の都"と呼ばれるアルトマーレでは、夏になると毎年恒例の水上レースが行われる。
今大会では、その手の大会で名を残す人達が揃っており、その為に観光に訪れる人たちも溢れるほどいる。
水上をポケモンに引っ張ってもらい進むこのレースでは、いかにポケモンを信用して早く進めることが出来るかが鍵となっている。
ーーこの大会、絶対に勝ちたい。けど…
動きやすいように半袖短パンで、健康的な肉体美が目立つ、藍色の髪を頭の上に小さな団子のようにして結っている一人の女性が、大会の決勝前に自身の手首を見ていた。少し腫れている。
少し捻っただけだし大丈夫だと思うけど…これで私がミスをしたら、頑張ってくれたタマンタに申し訳ないわ。少しでも痛みを抑えないと…
アイシングをするものの、あまり効果がない。それでも続けている。
「タァマ」
「ん?平気よ。私は強いもの!」
「タァマン」
「知ってるって顔しちゃって。…あ、水分補給も忘れないようにしないと」
そう言って持ってきていた水筒を手に持つ。するとやはり少し痛みが走る。さりげなく左手に持ち替えて水を飲みはじめたその時だった。
「失礼します」
「えっ」
「先程のレースで痛めてましたよね?治療道具を持ってきたので使ってください」
その顔はこの夏になると必ず見る顔だった。
アンペルは救急箱を置きながら、隣に座る。
「僕が応急処置をしましょうか?」
「ええと…じゃあお願いします」
「では、失礼して…」
優しい手つきで丁寧に処置をしてくれる。そんな中、他愛無い話をしてくれた。
「マロンさんは昨年も出場してましたね。昨年は惜しくも準優勝でしたか」
「え、よく覚えてますね」
「サナリスがね、貴方のファンなんですよ」
「えっ」
「サナ!!」
サナリスが色紙を持ちながら待っていた。
私のことが好きって言うポケモンっているんだ。今まで興味なかったけど、もしかしたら他にもいるのかも。
「こらこら。サインはやめなさいって」
「いや、応急処置のお礼があるし、そういうことなら、サインします」
「!サナァ♪」
「ふふ、可愛い」
サナリスは深くお礼をする。するとタマンタとも目が合い、ニコッとお互い挨拶を交わす。
「タンマ」
「サナ!サァナ!」
「そうですね。頑張ってください、タマンタ。…はい、完了です」
マロンは右手を確認する。痛みは完全になくなったわけでは無いが、一回ぐらいは思いっきり動かしても支障は無さそうだった。
「ありがとうございます。では、そろそろ始まりますので、その後サインということで」
「はい。お気をつけて。サナリス、持ち場に戻りますよ」
「サナ」
するとサナリスと共にその場から姿を消した。
「テレポート…」
彼が技を言う前にあのサナリスって子は技を使ったの?
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「決勝戦を喫したのは、マロン選手だー!」
司会者の声と同時に頭を下げ、そして手を振る。お客さんの歓声がとても気持ちいい。
あ、そうだ。お礼しに行かないと。
そうしてマロンはアルトマーレを彷徨く。
「えーっと、あ、いた」
思った以上に早く見つかった。というのも、人気の高い移動カフェなだけあって長蛇の列だ。
「サナ」
「あら、サナリスちゃん。その看板は…あ、私でちょうど終わりなのね」
「サナサナ」
今はまだお昼をちょっと過ぎたあたり。閉店時間ではなく休憩時間ということだろう。
「いらっしゃいませ。ご注文は」
「じゃあ、アイスコーヒーで」
「かしこまりました」
そう言って先程作ったばかりのようである熱々のホットコーヒーを取り出した。そして、BARとかにあるような大きくて少しゴツゴツした丸い氷の入ったコップの中に注いでいく。
ーーパキッパキッ!
急冷させることで氷が音を立てて割れる。それがさらに美味しさを引き立たせる。
マロンはごくりと唾を飲む。すっごい美味しそう。
「お待たせしました。どうぞ」
「いただきます」
「サナリスもお疲れ様でした。休憩にしましょう」
「サナ」
テーブルと椅子を取り出す。アンペルとサナリスはそこで食事をするようだった。
マロンはアイスコーヒーをごくっと飲む。
「美味しい…」
「それは良かった」
まるで先程までの疲れが抜けたかのような感覚に陥る。今からならまだまだ頑張れそうなそんな気持ちになる。
「サナァ!」
「あ、サインね」
「サァナ」
「ん?…これは、なに?」
「サッ」
「?」
サナリスは固まった。サナリスがマロンに渡したのは布で出来た何か。形が歪の四角形だが、よく見ると、蓋がある。
マロンはそれが小物入れであることが分かった。そしてしばらくして理解した。
「あ、ああっ!?プレゼント!?ごめん!!ごめんね!?」
「ふふっ…はっはっは!」
アンペルは大笑いをして、サナリスが赤く染めながらぷくーっと頬を膨らます。
ポカポカとアンペルを叩くけれども、アンペルは笑いを止めなかった。
「受け取ってください。サナリスは手先が不器用ですから歪過ぎて、小物入れには見えないかも知れませんが」
「いえ!素敵なものだと思います!」
「ええ。その通りです」
先程の笑い方とは違って、優しく包み込むような優しい笑みを浮かべる。そしてサナリスの頭を撫でながら、その落ち着きのある声で続けた。
「サナリスにはこだわりがありまして。基本的には超能力を使えば、小物入れを作るのだって苦労はしません」
「え、超能力って凄い…」
「ええ。まあ、物を作るときにそんな使い方はしませんが」
「ですよね」
「はい。サナリスは"気持ちを込めた"物を作る時は、不器用ながらも一生懸命手作りで完成させるんですよ」
「……あっ、じゃあこれ…」
「はい。サナリスなりの愛情表現です」
サナリスぷくっと未だに頰を膨らませながら、ジト目のような感じでマロンを見た。マロンがサナリスに近づくと、アンペルはそっとサナリス頭から手を離す。
「ありがとうサナリスちゃん。大切な物を作ってくれたんだね。宝物にするわ!」
「!サナァ♪」
サナリスはマロンにも頭を撫でられて気持ちが昂揚する。
「では、僕から…いえ、僕たちからはこれを」
「これは…」
海水のような清涼な青色をした宝石が装飾されたネックレスである。首にかける部分が少々不恰好だが、宝石の方は綺麗に研磨されており、その周りも綺麗に装飾されていた。
「アクアマリン、という宝石です。作らせていただきました」
「えっ!?」
「貴方にピッタリだろうとサナリスがいうものですから、僕のお気に入りの石から一つ」
「ちょ、ちょっと待ってください!?え、これって作れるんですか!?」
「そうですよ。天然石ジュエリーという物ですね。僕とサナリスの合作です。僕も"気持ちを込めた"物しか作りません。どうかこの小物入れに入れながら…布ですし高級感はありませんが」
「いえ、こんな素敵な贈り物…ありがとうございます!サナリスちゃんも!」
「サナッ!」
店主さんに影響を受けて、サナリスちゃんは手作りを始めたのかなとそう思ったマロンだった。
「あ、サイン!」
「サナァ」
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「今日は手当もしてくれてありがとうございました」
「いえいえ」
夕方になってアンペル達の営業も終わり、明日にはここから立つその前に、マロンが挨拶にやってきた。
「店主さんみたいなしっかりした人に出会えて良かったね、サナリスちゃん!」
「サナ」
「あはは。僕はけっこう変な人ですけどね」
「そうですか?そんな風には見えないですけど」
「…知ってますか?こんな話」
「なんですか?」
「『人と結婚したポケモンがいた。ポケモンと結婚した人がいた。昔は人もポケモンも同じだったから普通のことだった』」
「あ…なんか聞いたことがあるような」
「昔の話ですが、今結婚してる人がいたら流石に驚きますよね。当時はおそらくモンスターボールとかないでしょうが、今はありますし」
「え?ええ…そうですね。驚きますね」
「ふふっ。そうですよね。それではまたいつか巡り逢いましょう」
そう言って左手を出す。マロンもつられて左手を出し握手を交わす。
右手、じゃあ無いんだ。確かコーヒーを出す手は右手だった気がするけど…
握手を交わした後、マロンは自分の部屋へと戻っていく。戻りながらモヤモヤしていた。
…なんであんな話を?サナリスちゃんと結婚してるって言いたかったのかな?いやいや、そんな突飛な話今時…
そう思った刹那、マロンはアンペルの左手の薬指に付けてあった指輪を思い出した。
緑に輝く宝石、ジェダイトという宝石が付いており、それはサナリスの左腕にもあった。
…あれ?確か店主さんの指輪…サイズこそピッタリだったけど、形は歪だった。サナリスちゃんの腕輪は凄い綺麗だったけど、あんなサナリスちゃんにぴったりな腕輪なんて多分どこのお店を探しても見つからない。だってポケモンの為に作る腕輪のお店なんて聞いたことがないもの。
……まさか…
『サナリスは"気持ちを込めた"物を作る時は、不器用ながらも一生懸命手作りで完成させるんですよ』
『僕も"気持ちを込めた"物しか作りません』
「あっ…なっ…え、えぇえええ!?!?」
マロンは思わず叫んだ。
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「ふふっ、今頃びっくりしてますかね」
「サナ」
サナリスは、ラルトス時代…アンペルがまだ幼かった頃からずっといる、最高で最愛の、"野生"のポケモンである。
次回から色んな作品のキャラも出していこうかなって。
タグに"転生"とかその類のものはつけません。この作品は、知る人ぞ知る作品…という感じが、作品の雰囲気的にも合うと思うのです。
ーー追記ーー
タグに、 クロスオーバー 他作品色々 を追加しました。
コメントで指摘をいただき、作品に対してのリスペクトが足りないなと自分で思った為です。
加えてクロスオーバーとなっている回は、前書きに作品名を記入させていただくことにしました。よろしくお願いします。