ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』 作:sisid
名前は、ポケモンを軸にしているのでカタカナ表記になります。
ーーガタン!
車内に積んである物が軽く跳ねる。少し道路の整備が甘い場所を運転しているアンペルは後ろに聞こえるように少し大きめに声を出す。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
赤いボブヘアーに、一眼レフを肩から下げている、色白でそばかすが特徴の女の子が後部座席でサナリスと一緒にいる。
「キッチンカーって、後部座席あるんですね」
「種類や、作り方によってあるのとないのがありますが、僕たちはありますね」
彼女の名前はマヒル。次の目的地に行くその直前、乗せて欲しいと言ってきた。
「乗り心地が悪いでしょうが、僕たちの移動先までなら付き合いますから」
「ありがとうございます。移動してくれるなら、それで」
「……目的地はないんですか?」
「…はい」
「そうですか」
まだお日様が顔を出したばかりで、展開する目的地までにはまだまだ時間がかかる。
「少し、休憩にしましょうか」
「あ、はい」
アンペル達はテーブルと椅子を置いて、マヒルをそこに誘う。マヒルが座ると、フルーツサンドイッチと、紅茶を用意した。
「モモンのみをメインとしたサンドイッチです。モモンのみはそれだけで甘いので、身体に悪い砂糖のような物は一切入れておりません。朝にはピッタリです」
「そんな、悪いです。ただでさえ無理させてるのに」
「無理してませんよ。どうぞ」
「…では、いただきます」
マヒルは一口食べる。ジュワッと果実が口の中に広がりながらもしつこくなく食べやすい。
「…美味しい」
「それは良かった。…やっと少し笑ってくれましたね」
「え?」
「失礼。今日乗せて欲しいと仰った時からすでに、顔がこわばっていたものですから」
そう言ってもう一つの椅子に腰を下ろし、姿勢を正しながらマヒルを見た。
「無理をしているのは、貴方の方ではありませんか?」
マヒルはワンテンポ遅れてから、
「そんなことありません」
と言った。
「そうですか」
「はい」
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「ヒナタおにぃ!マヒルおねぇ見てない!?」
「コイズミ?いや、見てないけど…ってサイオンジ!なんだその服装は!着付けの仕方は教えてもらったんだろ!」
「し、仕方ないでしょ!おねぇに教えてもらったけど、今までずっとやってもらってたし…まだ一人じゃ上手くできないの!!」
「にしたってヨレヨレすぎだろ!」
舞踏家の服装だが、ちゃんと着付けがなってない小さな女の子のサイオンジ。ネクタイと白い制服、髪のアンテナが目立つヒナタ。ヒナタが外に出てすぐにサイオンジに捕まっていた。
そこにパーカーを着て、お茶目なヘアピンをつけた女の子もやってくる。
「二人ともどうしたの?」
「ああ、ナナミ。コイズミを見なかったか?サイオンジが探してるんだけど…」
「うーん見なかった…と思うよ?何かあったの?」
「サイオンジがな?着付けをして欲しいのにいないからって…」
「あ、ごめんそうじゃなくて」
「ん?」
「サイオンジさん、コイズミさんと何かあったの?」
「えっ!?」
図星なのか、ビクッと後ろに一歩下がる。「そうなのか?」とヒナタも聞く。
「あ、あんたらにはカンケーないじゃん!」
「関係なくはないだろ。同じマスターハイスクールなわけだし」
「そうそう。それに私は委員長として、仲が悪いところは見たくないのです。だから話すべき…と、思うよ?」
「うぐっ……」
「ははあ。さてはサイオンジ、自分がコイズミに対して酷いことを言ったかなんかしたんだろ?だから言いづらいんだろ?」
「違う!わたしは悪くないもん!」
「どうだか。嫌いなら昔の、まだ仲良くなかった時みたいに"コイズミ"おねぇって言うだろうに、今だに"マヒル"おねぇだもんな」
「大好きだもん!当たり前でしょ!」
「じゃあ素直になれって。お前が悪いんだろ?」
「だから違うっ!悪いのはあんたっーーもういい!」
サイオンジはモンスターボールを取り出した。
「ホォォオ!」
「ムクホーク!マヒルおねぇ探すから手伝って!」
「お、おいサイオンジ」
「べぇーっだ!役立たず!地味アンテナ!」
サイオンジはヒナタにそう言って空へと飛んでいった。ヒナタはポカンとしている。
「ヒナタくん、何かしたの?」
「……まったく心当たりがない」
「でもヒナタくんが悪いって」
「なんなんだ…ああくそ!ウインディ出てこい!」
ヒナタはウインディの上に乗る。
「なんかよく分からないけど、コイズミが行方不明になってるなら探すのが良いよな!」
「うん。いい判断…だと思うよ。じゃあ私は、近くにいるかも知れないし…この辺りを聞き込みしてみるね。何か分かったらスマホロトムに連絡入れるから」
「ああ、頼んだ!」
そう言ってヒナタは走り出した。ナナミはそこでハッと気づく。
「そうだ。まず初めにコイズミさんに電話するところから」
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マヒルは食事を終えるとキチンと顔を拭いた。ごちそうさまでしたと一言言うと、サッと食器を片付け始めようとした。
「片付けはしますよ」
「そんな。ご迷惑をおかけしてますし…」
「迷惑ではありません。お客様…ではないけれど、人の笑顔を見ることが出来た。僕にとってそれは至福ですから」
優しげに微笑む。
ーーなんか調子狂っちゃうわ。ダメ親父に比べてしっかりし過ぎてて…男って変な人ばっかだと思ってたけど、こんな人もいるんだ。
…いやいるのは知ってる、けど…
脳裏に浮かぶ相手は…マヒルの写真を褒めてくれた男。
「サナ」
「きゃっ。なに?サナリスちゃん」
「サァナ」
マヒルの服越しにスマホロトムの画面が光る。マヒルは慌てて画面を表示すると、すぐにポケットにしまった。
「…出ないと逆に問題になるかも知れませんよ」
「えっ?」
「おそらくですが、何も言わずに遠出しているのでしょう?」
そう言われて、マヒルはコクッと静かに頷いた。
「貴方は清楚な服装で、カメラも丁寧に手入れされている。さらに言うと気遣いも出来る。『私生活において隙がない方』です。そういった方は周りから"頼れる人"、"大切な人"と思われます。そんな方が何も言わずに出て行ったとなれば、みんな探すでしょう。出来るだけ遠くへ…でしたよね?ならば心配しないでとお伝えした方が、より遠くへ行けるかと」
その通りだ。確かにアタシは遠くへ行きたい。そう思い切って飛び出した。アタシらしくもない、最低限の物だけ持って行って。
アタシは折り返した。
「ごめん、チアキちゃん。さっきは電話に出れなくて」
『ううん。大丈夫だよ。ところで今どこにいるの?サイオンジさんが探してたよ?』
「そっか。ごめんね。ちょっと散歩してるだけだから。今は夏休みだしね。夕方までには帰るから、ヒヨコちゃんにも伝えといて…ね」
『そっか。分かった。サイオンジさん…あ、そうだった。ヒナタくんも探すって言ってどっか行っちゃったから、ヒナタくんにも連絡しとくね』
「え?ヒナタが?」
『うん。行方不明なら探した方がいいよなって。ヒナタくんもサイオンジさんも、コイズミさんのことが大切なんだ…と、思うよ』
マヒルは少し固まる。
ヒナタが…アタシを……大切って…
いやいや違う。そう言う意味じゃない。だってアイツの大切な人は…
『コイズミさん?』
「……あ!ごめん!ちょっとぼーっとしてた!」
『大丈夫?』
「大丈夫大丈夫。ごめんね」
『ううん。じゃあ夕方まで待ってるから。あと…』
「なに?」
『深くは聞かないけど…サイオンジさんの電話にも出てあげてね』
「っ!!」
『それじゃあ』
電話が切れる。ツーツーと音が鳴り終えるまでマヒルは一言も喋らなかった。
ーーさすがチアキちゃん。ヒヨコちゃんが電話に出ないなんて言わないだろうし、推測したんだ。それを確信めいたように…
いや、確信したんだろうな。アタシの声色とかで判断して…
マヒルの表情が暗くなる。アンペルはそれを見てサナリスとアイコンタクトを交わす。
「では、遠くへ行きましょうか」
「えっ」
「夕方に本当に帰るのか否か…それは貴方次第です。僕はそのお付き合いなら全然いいですよ」
「あっ…ありがとうございます」
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「本当?コマエダくん」
ナナミがそう聞いた相手は、深緑に後ろには赤の紋様が入ったパーカーを着た、白い癖っ毛の男だった。
「うん。ボクが今日たまたま散歩してたら会ったよ。コイズミさんに。あっちの方角だから…アラモスタウンかな」
「その方角なら、一番近いのはそうなるね。それでも車とか、ポケモンの力を借りないと、夕方には帰れそうにないけど」
「そうだね。コイズミさんのポケモンはニャルマーだし…そうなると、昨日までここにいた移動カフェの人の車に乗せてもらったとかかな」
「ああそういえばいたね。昨日の夜に車を移動させてたからもうどっかに行っちゃったと思ってたけど」
「ボクも昨日まではそう思ってたけど、たまたまコイズミさんの前に見てるんだよね。サーナイトと食事してたよ」
「じゃあ可能性高いね。さすがコマエダくん」
「ナナミさんの力になれるたなんて光栄だなあ!ボクのゴミみたいな才能も役に立ったならこれ以上嬉しいことはないよ!」
自分自身を過小評価しながら相手を褒めちぎるコマエダを横目に、サイオンジ達に連絡を入れる。
「これで問題ない…かな」
連絡をすぐに確認するのはヒナタ。走っている先が思いっきり正反対の方角であることに驚愕する。
「おーいサイオンジ!」
「なんだヒナタおにぃ!追いかけてくんな!」
「コマエダがコイズミを見たんだって!」
「え!?」
「方角が逆だ!アラモスタウンの方へ行くぞ!移動カフェの人と一緒にいる可能性が高いって!」
「昨日までいた"安らぎ"ってとこの!?」
「多分それ!」
「マヒルおねぇ…」
少し俯く。こういう時、自分の口下手が嫌いだ。もっとマヒルおねぇの気持ちを考えないといけなかったのに。
「ヒナタおにぃありがとう!後はわたしだけでいいから!ムクホーク、お願い。マヒルおねぇのとこに行って」
少し鳴いて、ムクホークは逆方向へ軌道を変え走り出す。風でヨレヨレの服が靡く。
「きゃっ!」
「わっ、おい!服!気をつけろよぉおお!」
「うっさいエロアンテナ!!」
「えぇ…」
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「アラモスタウン…ここが」
「来るのは初めてですか?」
「そうですね。なんだかんだ遠いところで、ニャルマーしか持ってないですから」
「ああ…確かに、車や、ライド出来るポケモンとかでないとあそこからはキツイですね」
時空の塔と呼ばれる、このタウンの一番の観光地がマヒルの首を疲れさせる。
たっか…公園とかもあるし、観光地としても有名なだけある。
「さて、営業を始めるまでまだ時間がありますし、お話でもしますか」
「お話…ですか?」
「はい。そうですね…どんな写真を撮られるんですか?」
「えーっと、基本的には人物写真とポケモンの写真です。一番好きで、一番得意…です」
「お見せしてもらうことは可能ですか?」
「え?」
ドクンと心臓が鳴る。
ーーいや、何を躊躇ってるんだアタシは。この人はきっと褒めてくれる。アタシの一番だと思う才能を…この人なら。
そう思う気持ちとは裏腹に手は震える。
「ど、どうぞ……えっ」
それをサナリスが制す。フルフルと首を振ってマヒルの両手をサナリスの冷たくも温かい両手が包む。
「サナリスは人の感情に敏感ですからね。貴方の心に触れてしまったのでしょう」
「サナリスちゃん」
「サァナ」
「ふむ…」
アンペルはちょっと失礼と一言言ってからスマホを取り出し、何かを調べ始めた。
「……これは失礼しました。貴方は、有名な方なんですね」
「っ!」
「マスターボール級と呼ばれる様々な才能を持つ者を勧誘する"マスターハイスクール"に入学している方の一人…写真家…ですか」
マヒルは顔を下に向ける。自然と自分のスカートを強く掴んでいた。心臓がバクバクと鳴る。
「……写真は好きですか?」
「えっ」
「写真を撮るのは好き…ですか?」
その時、マヒルは困惑した。変な質問をしてきたからではない。
ーーなんでアタシ、答えるの躊躇ってるの?アタシはもう写真が好きじゃない……ってこと?
「……わかり、ません」
そう答えるや否やすぐに手で口元を隠した。昔ならすぐに「好き」と言えたのだろうに。
一体どこでアタシはこの好きを捨ててきたのかな。
「分かります。その気持ち」
「…え?」
「僕も好きなことをしてるだけで、それを共有してるだけで日々叩かれてますよ」
笑いながらそう言って見せる。アンペルは喋りながら作っていたソクノ茶をマヒルに渡した後空を眺める。
「そういう時、どこが正しい道で、どこが間違った道なのか、分からなくなる。そうこうしているうちに何かを落とした気になる。その最中、喧嘩とかすると余計に…自分を見失う」
「!!」
マヒルはサイオンジと昨日話したことを思い出す。ネットの声に敏感になって、ネガティブなことを考えるようになって、スランプに陥っていたアタシに対して、ヒヨコちゃんは気にせずアタシに我儘ばっかり言ってきた。
『おねぇ!着付けお願い!』
『ちょっとヒヨコちゃん、そろそろ自分一人で出来るようになりなさいよ。鏡を見れば出来るでしょ?』
『やだやだやだ!おねぇにしてもらいたいの!』
『もう、わがままばっかり。そんなんじゃいつまで経っても出来ないわよ』
『おねぇがいるなら大丈夫じゃない?』
『…あのねヒヨコちゃん。アタシはいつまでもヒヨコちゃんのルームメイトじゃないのよ?卒業したら離れ離れになるでしょ。今のうちに出来るようになっときなさい』
女の子に対してアタシはそこまで怒らないけど、色々が重なってたから、ヒヨコちゃんに対してちょっときつい態度になっていた。
『おねぇ、どうしたの?嫌なことでもあったの?』
『別に』
『分かった!ヒナタおにぃでしょ!』
『は、はぁ!?』
アタシは思わず動揺してしまった。
ネットの声より、ヒナタの声が聞きたかった。ヒナタの感想が、アタシは欲しかった。
アタシの写真を"好き"って言ってくれるアイツの顔を、見たいって思ってた。だからそれを言われた気がして、思わず大きな声を出した。
『やっぱりねえ。おねぇはしっかりしてそうで、恋愛事は消極的だもんねえ?』
『う、うるさい!』
『でもナナミおねぇのことが好きだもんなあ』
『っ…』
うん、知ってる。アイツはチアキちゃんのことが好きだってことぐらい。見てきたから知ってるわよ、そんなこと。
『…着付け、するわよ』
『え…あ、おねぇ、ごめん。そんなに気にしてるなんて思ってなかった』
その時のアタシは涙を堪えるのに必死だったけど、口を震わせながらだけど、喋ってみせた。
『何が?アタシは別にアイツに好かれたいわけじゃないもの。っていうかアタシみたいな口うるさいやつ、大切な人として見てもらえるわけないじゃない。アタシはさ、写真しか取り柄がないんだよ。だから大切にされなくてもいいから、アタシの写真を褒めて欲しいだけ。アイツに見てもらいたかっただけなんだよ』
『じゃ、じゃあ今からでも見に行ってもらおうよ!そうしたらいいじゃん!何怖がってるの!』
見たくないんだよ。チアキちゃんとヒナタが一緒にいるところ。お似合いだなってどうしようもなく思っちゃうから。助け合いながら、一緒にゲームしながらチアキちゃんを見るヒナタの顔が…
アタシが今一番撮りたい写真なんだもの。でもその表情は横顔じゃなくて…
正面がいいんだよ。
それを撮って、見て欲しいんだよ。アタシが思う最高の一枚をアイツにだけ見せたい。
そんなの叶うわけがないのに。
『はい。終わり。じゃあアタシ用事があるから』
『お、おねぇ』
『ヒヨコちゃんはさ、ちょっと周りを見た方がいいわよ』
その言葉を最後に、次の日朝早くに起きてヒヨコちゃんから離れた。
別に家出ってわけじゃない。ヒヨコちゃんと話してるとまたドス黒い感情が出てきそうで怖いから、話したくないだけ。あそこにいると、話すことになるから。
そんな今のアタシが良い写真なんて、撮れるわけないのに。
「アタシ、どうしたらいいんでしょうか。どうしたら、みんなに認めてもらえるんでしょうか」
「それは無理じゃないですか?」
即答。同じ境遇になったことがある人から、否定された。でもその言葉になんでか知らないけど興味を示してしまった。
「僕は今でも批判されます。でも、今は楽しいですよ。そういうのも楽しめるようになりました」
「どうして?」
「好きなんだって、再認識出来たからです」
「好き…?」
「料理、ハンドメイド…それで救われる人の笑顔。僕はそれが好きなんです。それを忘れていた…というより要らないものが貼り付いてきていた」
そう言うと、アンペルはたくさんの紙が張り付いているそれなりに大きなゴミのような玉を取り出した。
「苦しい、きつい、大変、評価……」
一単語につき一枚紙を剥がしていく。ネガティブと捉えれる感情や、世間。それらを剥がしていくと、少しずつ玉が小さくなっていく。
「こうやって一枚ずつ自分の"やっていること"に対して不要なものを剥がしていくんです。そうやって全部剥がしたら、こうやって"原点"が見える」
赤く透き通った宝石。燃えるようなその色合い、ガーネットと呼ばれる宝石である。
「僕には"情熱"がある。それは誰にも奪うことはできない。なぜなら僕はこの仕事が"好き"だから」
「…!」
「だから貴方も"好き"だと思いますよ。今は迷ってるだけで、いつか好きを取り戻せる。貴方にその気持ちがあるのなら、絶対に」
そう言ってガーネットをマヒルに渡す。マヒルはそれをギュッと握りしめて胸のところまで持っていく。
ーーアタシは弱い。気が強いふりして凄い弱いけど、それでもアタシにだって写真を撮りたいっていう"気持ち"がある。
それはきっと好きだからなんだと思う。
サナリスがアンペルと目を合わせる。それを見て、クスッと笑う。
「凄い普通のことですが、良い言葉をお伝えしますね」
「え?」
「好きは最強の感情です。一度思い切って周りのことなんて気にせずにやりたいことをしてみては?」
「それは…ちょっと怖い、かも」
「そうですか?ですが見本となれるような人はいるみたいですよ?」
「えっ?」
サナリスがマヒルの肩をポンと叩き、空を指差す。マヒルはその方向へ顔を上げると、見知った顔が全速力でやってきているのが分かった。
「おねぇ〜!!!」
「ヒヨコちゃん!?!?」
「おねぇを誑かす悪い奴らめ!わたしが成敗してやる!」
「おっと、そうなりますか」
「待って待って!ヒヨコちゃん違うの!」
「何が!!こいつら、おねぇの様子を見て連れ去ったんでしょ!!誘拐犯は成敗するべき!!!」
「アタシが!お願いしたの!ヒヨコちゃんと話したくなかったから!!」
「っ…!!」
マヒルの正直な言葉に、ヒヨコは覚悟をしてはいたようだが固まった。次第にぷるぷると身体を震わせて、いかにも泣き出しそうな表情だ。
「わ、わたし、おねぇに嫌われた…?」
「その考え方はピンボケだよ」
マヒルはヒヨコを抱きしめる。
ーーなんだろう。会いたくないと思ってたけど、いざ会ってみたら心が落ち着く。嬉しい気持ちになる。
「ごめんね。ヒヨコちゃん」
「ふぇ…?」
「ヒヨコちゃんは今のままでもいい。アタシのことをずっと好きでいて。アタシも…ヒヨコちゃんが好きだから」
「!!」
「ヒヨコちゃんよりアタシの方がよっぽど子供だった。アタシも自分と向き合わなきゃね」
「う、うわぁーん!!おねぇ!おねぇえええ!!」
ヒヨコの不恰好な姿をしっかりと直して、一枚写真を撮る。ヒヨコの泣きじゃくった跡がしっかりと残っていて不細工だった。だがそこには笑顔もあり、綺麗な一枚になっていて、マヒルにとって手応えがあるように思えた。
「これ、どうですか」
「どれどれ…ほう、見事なまでに涙の跡がくっきりと」
「うわぁあ!見るなこの変態!」
「こらヒヨコちゃん!アンペルさんに失礼でしょ!」
「あはは。すみません、僕はこういう自然な一枚の写真、大好きですよ」
「!ありがとうございます!!」
変なことを、嫌なことを考えるのはもうやめよう。ヒヨコちゃんみたいにたまには、わがままを言ってみよう。好きをもっと全面に出してみよう。そしたら、アンペルさんみたいに見てくれる人は見てくれる。
「ありがとうございました!またいつか!」
「はい。いつかまた、巡り逢いましょう」
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「あ、帰ってきた」
「うん。良かったね」
ヒナタとナナミが二人の帰りを待っていた。ムクホークから降りて、ヒヨコを抱きしめながら降ろすマヒルを見て、ヒナタはぷはっと笑う。
「サイオンジ、まるでコイズミの子供みたいだな」
そう言ったヒナタを見て、マヒルは少し深呼吸をした後、一歩前に出る。
「ヒヨコちゃんがアタシの子供なら、アタシの夫は誰になるのかしらね」
「え?」
じっと真剣な眼差しでヒナタを見るマヒルに、ヒナタは何故か緊張して、もごもごする。
「…あはは!何よその反応!」
「なっ!お前が変な質問してくるからだろ!」
「いやー面白い顔が見れたわ!」
マヒルはヒナタとナナミの前を通り過ぎて、くるっと振り返って二人の写真をパシャっと撮る。
「アタシ、魅力をどんどん上げていくから!シャッターチャンスは逃さないでね!チアキちゃん、アタシ負けないからね!」
「あーっ!待ってよおねぇー!!」
何か吹っ切れたように走り出す。ナナミはヒナタを見てちょっと顔を膨らます。
「照れてる」
「いや…そんなことは……」
「うーん、ヒナタくんは結構奥手だもんなあ…」
ボソッとそう呟きながらナナミもマヒルの方へと歩き出した。
「おい、ナナミ今なんて言ったんだ?」
「コイズミさんは強敵って言った」
纏めようと思ったけど長くなりました。