ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』   作:sisid

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クロスオーバー パワプロクンポケット10 です。


第七話 記憶しておきなさい

「こんな貧乏な家族なんて、私はいらない」

 

 今まで一度も見たことのない、冷酷な目で私にそう言った。お姉ちゃんはその言葉を最後にお父さんと私とワンパチを置いて出て行った。

 

 元々人見知りで、お姉ちゃんにべったりだった私は、何を信じていいか分からなくなり、お父さんとワンパチがいる家しか休まる場所が無かった。

 

 でも、今は、稀に訪れる移動カフェも私を救ってくれる場所になっている。

 

「お久しぶりです」

「お、お、お久しぶり…です!」

 

 黒髪で桃色のリボンを頭に結んでいる。アンペルに顔を合わせることは少なかれどそれでも懸命に声にする女の子。

 

「サラさんはここに僕が訪れたら必ず来てくれますね」

「い、いけませんか?」

「まさか。僕は貴方の笑顔が好きですよ」

「あ、ありがとうございます。う、嬉しいです」

 

 サナリスがサラにブリーのみから作った『ブリー茶』をお渡しする。

 

「ありがとうございます。サナリスさん」

「サァナ!」

「ワン!」

 

 サナリスとワンパチが戯れ始める。サナリスの親友と言ってもいい。

 

「あの!次はいつ頃こちらへ来るのでしょうか」

「うーんそうですね。僕は世界各地でカフェを営んでいますからね。具体的な日を決めるのが難しいのです。ですから、まだ未定ですね」

「そ、そう…ですか。でも、明日はいますよね!?」

「ええ。しばらくはここにいます」

「よ、よ、良かったです。ここのカフェは色んなものがあって美味しいですから…」

「ブリー茶しか頼んでませんけどね」

「細かいことはいいです!」

 

 サラはグッとブリー茶を頂く。アンペルはそんなサラを見てクスッと笑う。

 

「いつも僕の休憩時間前に来てくれて、そしてこうやって話をするタイミングを作る…最初の方は買ってすぐにどこかへ行ってしまったのに」

「す、すみません。ご迷惑でしたか…?」

「いえ。そうではなく、成長しているのかなと思いまして」

「そ、そんな。アンペルさんは話しやすくて、…声も落ち着くし、なぜかお父さんとお話ししてるような感じがして緊張しないんです」

「そうなのですか」

「はい。私、極度の人見知りなんですけど。ア、アンペルさんなら平気です」

「それは良かった」

 

 しばらく茶会をした後、営業を再開する時間になる。そこでサラとお別れをし、また明日会う約束をする。

 

「すみません!これとこれください!」

「"ガケガニサンドイッチ"と、"カフェオレ"ですね。少々お待ちください」

 

 緑色の髪をした、元気はつらつな女の子。サンドイッチを作り終え、そのタイミングでサナリスがカフェオレを作り終える。

 

「お待たせしました」

「わあ!ありがとうございます!」

「いいえ。ところで"ブリー茶"は頼まないのですか」

「えっ」

「サラさんの、お姉さん辺りでしょうか」

「え!?な、なんで!?」

「そっくりですので」

「ど、どこかです!?」

「顔」

 

 アンペルはニコッとしながらその子にそう言った。髪型や、テンションこそ違うが、顔だけは非常に似ていた。

 

「でもそれだけじゃ、ないですよね?だって今日初めてお会いしたのに…」

「いいえ。僕は貴方がサラさんをずっと見ていたのを見ていましたよ」

「えっ…私の隠密行動がバレていた!?」

「サナリスはそういうのが得意なんです」

「サナ!」

「あ…なるほど。ポケモンの力で…」

 

 その子の名前はナオと言った。小さい頃に大富豪の家の養子になったという。それ以来サラとは会っていなかった。

 

「でもパパの仕事先がこっちになったから引っ越したんですよ。故郷に戻ってきた時はサラに会える!…って思ってたんですけど、ちょっと訳ありで、私からは近づけなくて」

「サナリス曰く、『貴方は罪を背負っている』」

「!!……あの、今日お話しできる時間はありますか?」

「ありますよ。十七時には営業が終わります。どこで落ち合いますか?」

「では、私の家の庭で」

 

▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣

 

「お招きいただき、ありがとうございます」

「サナ!」

 

 用意されたテーブルと椅子。大富豪と言っても差し支えない豪邸。野生のポケモンなのか、管理されているのか…沢山のポケモンがいた。

 

「おかけください!」

「失礼します」

 

 この豪邸に招いたナオは、さっそく話したいことについて話した。

 

「私とサラは小さい頃にお母さんが亡くなってて、それ以来はお父さんが一人で私達を育ててくれました」

「父子家庭ですか」

「はい。小さな会社でしたけど、何不自由なく過ごせていたんです。ですが、ある日お父さんの事業が失敗して、多額の借金を背負うことに。その助けをしてくれたのが、今のパパです」

「借金の肩代わりとかですか?」

「…鋭いですね。その通りです。それともう一つ、私を養子として迎え入れることです。正確には…私かサラのどちらかを養子にするというお話しです」

 

 ママは身体が弱くて子供が出来なかったんですよ。だから子供が欲しいってパパはずっと思っていたらしいです。だからこの話を持ち出したんですよ。

 

「…ふむ。それだけではないですね?」

「はい」

 

『借金を肩代わりする代わりに、どちらかを養子にする。いいな?』

 

「こんな言い方してましたし、私も最初は弱みにつけ込んで酷いこと言うなって思ってたんですけど…借金は無くなっても無一文ですもんね。私とサラ二人を養えるほどの経済力が、お父さんにはない。またすぐに借金生活を送ってしまう。パパは私達のことも知ってましたから、あえて敵に回るような言い方をして、私とサラの仲に亀裂が入らないようにしようとしたみたいですよ」

「僕のような大人には察することができる内容ですが…」

「はい。サラは違いました。ずっと私にべったりでしたからね。養子の話なんてしたところで、パパのところにサラが行ったって意味がない…というより、サラはパパを恨むでしょうね。あの子はずっと殻にこもってしまう…なら、お父さんのいる家の方がマシですよね」

「しかし、貴方がいなくなることに代わりはありません。何を言ったんですか」

「パパはお父さんを助けてくれた、恨んでほしくない。だからサラが私を恨むように…『こんな貧乏な家族なんて、私はいらない』って言いました」

 

 思った通り、自分の世界を壊した私を、サラは憎んだ。あの子は私がいなくても生きていけるようになりました。大袈裟ではないですよ。本当にそれぐらい周りが見えてなかったんです。

 だからどちらかが養子になるというパパの話すら、サラは知らない。

サラは私がパパの養子になるって言い出したという話を、お父さんから聞いているはずです。

 

「…さぞお辛いことでしょう」

「私ですか?私は元気ですよ!」

「すみませんが、嘘と本当の見極めは得意なつもりです」

「…自分で蒔いた種ですから、元気でいないとダメなんです」

「サナサナ」

「…?」

「『真実は言わないのか』と聞いています」

「言うつもりはないです。だって…」

「だって?」

「あの子は、ずっと私を恨んでますから。気持ちが高鳴っちゃって…どうしても話がしたくなって、サラに声をかけた時があったんですよ」

 

『ナオさん。どうして私に会いにきたんですか?貴方は私達のことなんてどうでもいいと思っているくせに』

『そんなことは思ってない!あのねサラ、私またこっちで暮らすことになったの!だから…』

『ふざけないでください!』

 

 今まで一度も見たことのない、鋭い目。その眼光は、この私を一歩引かせるぐらいに怖かった。

 

『貴方は私達を見捨てたんです。そんな人とお話することなんてありません。昔みたいな距離感で、近づかないでください。二度と関わらないでください。では、さようなら』

 

「真実を話したら、あの子は自分を責めてしまう。また元のサラに戻ってしまう…」

「大丈夫だと思いますよ」

「えっ?」

 

 アンペルは茶菓子を一口頂きながらそう呟いた。

 

「美味しいですねこれ」

「あ、ありがとうございます。…えぇと」

「大丈夫な理由ですか?僕とお話ししてるサラさんはとても誰かを心の底から恨めるような人ではないからです」

「………それは、そうですけど」

「なら、真実を話しても大丈夫でしょう。ね、サナリス」

 

 サナリスはコクコクと頷いた。

 

「今日この話をした理由は、私の代わりにサラを支えて欲しいってことなんです。真実を話すっていうその協力をお願いしたいわけじゃないんですよ」

「それは無理なご相談ですね」

「え…なんでですか!あんなに親しくお話してるのに…!」

「それは僕がお父さんに似ているからですよ。ですがそれは所詮偽物です。本物には勝てない。僕がサラさんを支えることは不可能です。支えることが出来るのは、お父さんと…貴方でしょう」

「……」

「あと…ワンパチ」

「!!」

「貴方とサラさんのポケモンですね?貴方はポケモンを持っていないようですし」

「えっ、どうして持ってないって…」

「ワンパチとサナリスは仲良しなんですよ」

 

 サナリスがワンパチから話を聞いていて、アンペルはその話をサナリスから聞いていた。

 

 ワンパチはナオとも遊びたいけど、サラが嫌がっていて思うように動けなくて辛いと言っていた。

 

「……怖いものですよ」

「え?」

「大好きな人や、ポケモン、それらが自分の視界から消える時…それは形容し難い胸の痛みと、恐怖に苛まれます。一度サナリスと離れ離れになりかけた時がありまして。あの時は…本当に怖かった」

 

 ですから、お節介なことは重々承知の上で伝えるべきだと思います。

 

 ナオはその言葉を聞いて、しばらく沈黙した後静かに頷いた。

 

▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣

 

 次の日になり、アンペルが昨日と同じ場所でお店を開くその時だった。

 

「アンペルさん!助けて下さい!!」

「サナ?…サナ!!」

「ワンパチが…」

 

 ワンパチの身体が熱い。かなりの熱でこれは何かしらの病気であることは確定していた。

 

「サァナ……」

「いやしのはどうでもダメですか。体力面ではないようですね…」

「ワフ……」

「ワンパチ…!!貴方までいなくなったら、私は…っ!!」

 

 サラの表情が険しくなっていく。また一つ大事な自分の世界が壊れていく。

 彼女の世界は極端で怖いものだった。0か10しかない世界。お父さんとワンパチが10。それ以外はアンペルとサナリスを入れても0。0は信用出来ない。10は信用できる。

 

 しかし、その信用出来るものが「怪我をしない」と言って、怪我をしたら0に失墜する。

 

 サラはワンパチはずっとそばにいると思っていた。そのワンパチが病気か何かで意識が朦朧としている。

 

ーー貴方までも私を裏切るの!?じゃあ、お父さんも…

 

 彼女の世界だとそうなるのも必然だった。

 

「ポケモンセンターに連れて行きましょう。僕やサナリスの専門じゃない。いいですね?」

「は、はい!」

 

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「これは…ストレスですね」

「えっ…」

 

 ジョーイさんの第一声に、サラは膝から崩れ落ちそうになった。

 ストレス…?ワンパチは、私と一緒にいることが、辛かったってこと…?

 

「そんなはずないです!わ、私とワンパチは小さい頃からずっと一緒だったんです!ストレスなんて、そ、そんなことありえません!」

「そうは言っても、ワンパチちゃんの容態を見ると、それしか考えられないの」

「ありえません!もう一度ちゃんと調べて下さい!」

「ちゃんと調べた結果なんです。思い当たる節とかありませんか?」

「あるわけがありません!」

「………」

 

 人見知りの女の子とは思えないぐらいに大きな声でジョーイに喰らいつく。その猛攻に、ジョーイも一歩下がるが、アンペルがそこで口を挟んだ。

 

「ありますよ。ストレス」

「え…な、何を言ってるんですかアンペルさん!わ、わた、私の育て方に問題があったとでも…」

「いいえ。貴方は素晴らしい育て方をしてると思います。サナリスとも仲良くしてくれてる」

「じゃ、じゃあストレスなんてないに決まってるじゃないですか!」

「ありますよ。貴方が気づいていない…いえ、気づかないようにしているのではありませんか」

「!!………アンペルさんには失望しました。あの人と会ったのですね。だからそのようなことを…!」

「そう返してくるということは、貴方はやはり、あの人が好きなのですね」

 

 先程から大きな声を出しすぎたせいで少し息が乱れている。そしてそこにアンペルが核心をつく言葉を放ち、過呼吸気味になる。

 

「ワン」

「ワンパチ…ワンパチは、どうなるんですか」

「今日は一日こちらでお預かりします。様子が見たかったらいつでもいらして下さい」

「……はい」

 

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 沈黙が続く。アンペルとサラはキッチンカーの前にテーブルと椅子を置いて向かい合うように座っていた。

ブリー茶も飲まない。何もしない顔を伏せてずっと暗い。

 

「今日は、ワンパチのそばにいた方が良いと思いますよ」

 

 何も気にすることないように、サナリスが持ってきたアイスコーヒーを飲みながらそう言った。

 

「…………後で会いに行きます。……あの人といつ会ったんですか」

 

 晴天とは裏腹のそのサラの表情はまるで見えないが、泣いていないことだけは確かだった。声は震えておらず、アンペルに聞こえるぐらいには声量は出ていた。

 

「貴方と別れたその後です」

「それ以前に会ったことは?」

「ないです。昨日が初対面でした」

「………なんで、あの人と私が姉妹だって分かったんですか」

 

 髪の色も、性格も何もかも違うはずです。

 

「顔はそっくりでしたよ」

「それでですか」

「いえ、僕にはサナリスがいますから」

 

 人の感情に敏感な彼女は、何を考えてるか、どう思っているかぐらいは簡単に読み取れるのです。

 

「…なら勘違いです。私はあの人のことが嫌いです。全てを捨てたあの人のことをどうして私が好きでいられるんですか。そう読み取られたのなら心外です」

「……人は、仮面を作って演じる…」

「はい?」

「『記憶しておきなさい』」

 

 アンペルはサラに近づき、人差し指を顔を上げたサラの額にトンと置きながらそう言って続けた。

 

「『君はこの世界という演劇の一人の役者であると。君の役割はただ一つ。与えられた役を見事に演じること』」

 

 そう言うとアンペル座った。サラは触られた額を触りながら頭が混乱していた。

 

「僕の好きな人の、好きな言葉です。人は知らず知らずのうちに仮面(ペルソナ)を作り演じる。ある仮面では本音が言えなくても、違う仮面では本音が言える。貴方は今、演じることができていますか?」

「……それは」

「普段僕に見せている貴方を、今日は演じることが出来ていますか」

「…いいえ」

「演じてみませんか…」

 

 サラがアンペルに見せる姿は

 

「好きでは…ないですが、嫌いにもなりきれません…私は、過去の、あの人と一緒にいた時間を、なかったことにしたくありません」

 

 いつも本音を言っていた。

 

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「ワンパチ…今日はお昼ずっとここにいるからね。私、今日はアンペルさんと話しててちょっと心が軽くなったから…話してみようと思うんだ」

「ワゥ…?」

「サラ!!」

「!!………」

 

 突然扉が開いて驚いたと同時に、ナオの姿を見て心拍数が上がっていった。

 

「アンペルさんから話を聞いて…ワンパチは大丈夫!?」

「は、はい。大丈夫…です」

 

 ナオはワンパチの背中をさする。身体がゴロゴロと鳴っているのが分かる。

 

 違う。違うんだ。私は、ちゃんと演じないといけないんだ。私はちゃんとこの人と話をしないと…

 

「ごめんね、サラ」

「え?」

「二度と関わるなって言われたのに、来ちゃった」

「…アンペルさんから聞いてここに来たってことは、お昼に私に会いに行こうと思ってたんじゃないですか」

「うっ…」

「昨日アンペルさんに何か言われましたか?」

「…なんでもお見通しだねサラは」

「お見通しはアンペルさんですよ。いえ…サナリスちゃんでしょうか」

「あはは、そうかもね」

「……私は、貴方を許していません。でも、嫌いにもなれないんです。あの時の貴方は、…いえ、今も貴方は私のお姉ちゃん…だから」

「!…アンペルさんに何か言われた?」

「う、うん…しっかり演じろって」

「えん…?え?」

 

 サラはナオの両手を掴む。その手は震えていて冷たかった。

 

「ワンパチはストレスで倒れました。私は貴方を遠ざけていたから…昔みたいに仲良くしてほしいと思ってくれてるワンパチの気持ちを蔑ろにしていたんだと思います」

「それが…原因」

「悔しいけど、それ以外に心当たりが見つかりません。だから…向き合います。……どうして養子になったの?おねえ…ちゃん」

 

 サラは一歩を踏み出した。ナオはサラに『お姉ちゃん』と呼ばれることはもう二度と来ないと思っていた。

 だからそれがあまりにも嬉しくて、涙腺が緩んで溢れた。

 

「ごめん…ごめんね。本当は……」

 

 真実を明かしそれからお互いが謝罪し、どうして謝るんだと言い合い、泣き、笑い、そしてーー

 

▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣

 

「サナァ!」

「ワン!!」

「ちょっ、私のサンドイッチ食べるなこのー!!」

「待ってお姉ちゃん!近くで暴れないで!」

 

 …休憩時間なのに休憩出来ませんね…




こちら、原作を知っている方がいましたら語りたいぐらいです。
今回の話には出てませんが、13の緑髪のキャラが一番好きです。いつか書きたいなって思ってます。

とはいえ、流石にこの手の話ばかりだと嫌なので、そろそろオリキャラを使った話を展開して行きたいと思ってます。
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