ポケットモンスター 『移動カフェ"安らぎ"』   作:sisid

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第九話 楽をする為なら

 何もせず生きてみたい。

 まあ簡単に言ったら、働かずに生活したい。なんだっけ…不労所得ってやつか。将来は働かないで金だけ貰えるような、そんな生活をしてみたい。

 

 というのもさ、俺はこんなぽっちゃりで、ケッキングみたいな顔してるけど、俺よりも五歳下と七歳下の弟達の世話をしてんだ。うるさくてしつこくてほんと嫌になるんだ。加えてブニャットの飯にかかる金がすげえ。

 

 疲れちゃって嫌になる。だから働く年齢になった時は、今まで頑張った分弟達が俺に孝行してくれたらなんて思ったりする。

 

 けどまあそんなことはしないだろうし、アイツらが落ち着くまで俺は世話しなきゃなんだと思う。

 

「ハァ…」

 

 父ちゃんは仕事で帰りが遅いし、母ちゃんも飯作ってる間は弟達の世話なんて出来ねえし。

 でもなんで俺がやんなきゃなんだってなっちまって。

 

 将来は働かないで暮らしていきたいってなった。

 

「タクロウ!今日帰りどっか寄らねえか?」

 

 友達が俺にそう言ってくる。

 

「悪い。帰んなきゃいけねえんだ。母ちゃんの体調が悪くてさ、弟達の飯使ってやんねえと」

「ええ、大丈夫かよ」

「大丈夫大丈夫。母ちゃんはちょっと具合悪いだけで、一人で薬飲んで寝てるから」

「あー、なら別にちょっとぐらい息抜きしてもいいんじゃね?頑張りすぎだぜお前は」

「息抜き…まあ確かにな。でも今日は帰るわ。明日ちょっと遊ぼうぜ」

「おおそうか?分かった!また明日な!」

 

 そう言う約束をして俺はハイスクールを出る。息抜きかあ、確かにあんまりしてなかったなあ。

 たまにはそういうことをしても、バチは当たらねえ…よな?

 

 そう考えていると、良い香りがこちらまで漂ってきた。その匂いは目の前で営んでいた移動カフェの、ラテの匂い。

 

「サナ?」

「うお!色違いのサーナイト!しかも、なんかちっちぇ」

「あはは。少しばかり身長は低めかもですね」

 

 タクロウは店主のアンペルの声に反応した。この人がこのサーナイトのパートナーか。

 

「何かいただきますか?」

「ああ、いや、俺これから帰ってご飯の支度しなきゃなんで…」

「それは素晴らしいことですね。疲れているのに、ご苦労様ですね」

「え、分かりますか?」

「はい。猫背になっていて、身体が怠そうでした」

「うわ〜、なんかそう言われると恥ずかしいっすね」

 

 サナリスがタクロウの肩を軽くトントンと叩く。タクロウはそれにちょっと笑った。

 

「人懐っこいなあ」

「頑張ってる人を応援したくなるんですよ。彼女は」

「ああ、健気っすね。俺は感心こそするけど、疑問にも思っちゃうからなあ」

「疑問ですか?」

「はい。ほら、働かなくてもお金を稼いでる人っているじゃないっすか?ああいうの、良くないですか?俺も将来はあんまり働きたくないんすよねえ。だから労働する人達を見てると、なんで働いてんだって思っちゃうんすよねえ」

「サァナ」

 

 ちょっと予想外だったようで、「へえ」というような反応を示すサナリス。

 

「貴方みたいな人は、きっと働くことに価値を見出して働きそうですけどね」

「そっすかねえ…」

「ですが、確かに魅力的ではありますよね。働かずにお金を稼ぐ…」

「でしょう?」

「まあ…それは難しいかもしれませんが」

「え?なんで」

「『労働』は、僕達『人間』と切り離されたことがないですから」

 

 タクロウは首を傾げた。するとアンペルはクスッと笑い、コップを取り出した。

 

「僕の愛用のコップです。僕は情熱ある"赤"が好きですが、ホットココアを飲む時などは両親が好きだった"青"と"緑"のラインが入ったコップを好みます。落ち着くんですよね、これ」

「は、はあ…」

「このコップも…名も知らない人が『労働』して作った物」

 

 アンペルはそう言って両手を広げる。

 

「このキッチンカーも、貴方の服も、コンクリートも建物も何もかも…人とポケモンが『労働』して作り上げた物」

「………」

「昔は、『労働』して水や、食糧といった『必要な物』を手に入れていた。ですが、今は『労働』して『暇』を手に入れるようになった。だから貴方のいう、働かずにお金を稼ぐというのは、難しいんですよね。スイッチ一つでお風呂が沸いたり、立ってるだけで移動するエレベーターだったり…労働せずとも『必要な物』を手に入れられる…結果、僕達は暇を持て余してます」

「えぇ…俺、けっこう頑張ってるせいで、暇なんてないんですけど」

「ふふ。そうでしょうか?ですが確かに…人は楽をする為なら永遠の努力をします。結局、将来は『働かずにお金を稼ぐ』方法を模索する…そういう『労働』をすることになるでしょうね」

「………」

 

 考えたこともなかった。

 あまりにも身近なものすぎて、実感が湧かなかった、というのが正しい気がするけど。

 俺が今着ている学生服も、モンスターボールも、このサーナイトの左腕につけている腕輪も、ラテも、コーヒーも看板も…

 

 労働の跡。

 

「ところで、時間は大丈夫ですか?」

「あ!いっけね!すんませんあざした!」

「いえいえ。またどこかで巡り逢いましょう」

 

 タクロウは走って帰る。運動神経は良くないし、体力も全くないが、ちゃんと走って帰った。

 

「ああいうちゃんと真面目な方が、幸せになれる世の中であるのは、いいことですよね」

「サナ」

「ん、休憩にしましょう」

 

▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣◙▣

 

「母ちゃんは、おかゆで、弟達には…」

 

 フライパン。これも労働で、あ、そう言えばこの家もか。労働で…

 本当に何もかもが労働で出来てるんだなあ。

 

 そういや、スマホとかもそうか…

 

 人は楽をする為なら永遠の努力をする…か。

 

 確かに、スマホってすげえ便利だし、無かった時代のことを考えると凄い楽になったよなあ。

 

 便利=楽…ってことなのかも知れない。

 

 そうして世の中機械だらけの世界になって、そうして狂いのないどれもこれも同じクオリティの物が出来上がっていく世の中に…

 

 なんか、なんかなあ。

 

 便利なんだけど、それってモヤモヤする。胸の辺りにシコリが出来て気持ち悪い感じ。

 

 その時、テレビの放送が聞こえてくる。

 

『今日は職人のガンテツさんにインタビューしていきます!ずばり!ガンテツさんにとって、モンスターボールとは!』

『命!この一言に尽きる!』

 

 命…命?

 

 ああ、でもそうか。なんとなくスッキリした気がする。

 

「にいちゃん!どしたのー?」

「にいちゃんちょっと考え事してた」

「珍しい!どんなこと?」

「『労働』っていうのは、『生きること』と直結してるのかもなって」

「?意味わかんなーい」

「お前もいつかは分かるよ。さて、めしつくっぞ!」

「わーい!!」

 

 そうだ、俺…母ちゃんの作った手料理が好きだ。

 機械だったらきっと毎日同じ料理を出したら、毎日同じ味がするんだろうけど…母ちゃんは目分量だから、毎日同じ料理を出しても、毎日違った味がするんだ。

 

 でもそれが良いってわけでもない。『労働』って奥が深いんだな。

 

 移動カフェのお兄さんも、移動カフェを経営することが『生きること』になっているのかもな。

 

「ふはっ」

 

 思わず笑ってしまった。

 なんだ俺、働きたくないとか言ってるくせして、働くことについてすっげえ真剣に考えてんじゃん。




第一話ぐらいの文章量です。ですからかなりサクッと読めたと思います。
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