さて、大変なことになったぞ。
『これがエールだなんて俺は認めない!!!!』
思ったことをそのまま声に出してしまったせいで一躍注目を浴びることになってしまった。
どうにかしてこの場をやり過ごすしかない!
「初めてエールを飲んだのですが、このような味なのですね!びっくりして声をあげてしまいました!!」
俺はエールを頼んだメイドに向かって叫んだ。
「!そうだったのですね。まだ他にも多くの種類のお酒がありますので是非飲んでみてください」
さすが、リーングランデ公爵家のメイド、落ち着いていますね。
「そうですか!ではワインというものをいただけますか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
と言ってメイドは裏方にワインを取りに行く。
「リーフ兄さん、エールはどうだった?」
いつからいたのだろうか、アルが聞いてきた。
「ああ…すごく不味かった…いや、不味いは失礼だな。すごく酷かったよ」
俺は正直に言った。
「どっちも失礼だよ…」
アルは困惑する。
「まさか…これほどまでとは思わなかったよ。王都の公爵家でこのレベルなら庶民に流通しているエールはさらに酷いのかもしれない」
「リーフ兄さんの味覚に合わなかっただけかもしれないよ?」
もちろんその可能性もある。が、それを加味してもあの味は酷かった。
「まず、麦の味が全くしなかった、そして風味も無かった、あるのは炭酸ぐらいだった」
俺は淡々と話す。
「1度あのエールを作っている醸造所に行く必要があるね。どんな作り方をしているのか非常に興味がある」
「リーフ兄さん、今すごく目がキラキラしているね」
アルがニコニコしながら話す。
「うん。その自覚はある。この世界のエールをさらに美味しく出来るチャンスが目の前にあるんだ。ワクワクが止まらないよ!」
「リーフ兄さん、俺がエールを飲める年齢になるまでに美味しいものを作ってね」
アルが言ってくる、俺の答えはもちろん決まっている。
「当たり前だ」
俺はそう言って手に持っているエールを飲み干した。うん、不味い。
でも、不味いからこそ美味しくなる要素がたくさんある。これからが非常に楽しみだ。
「リーフ様、お待たせしました。こちらワインでございます」
メイドがワインを持ってきた。
「ありがとうございます」俺はそう言って受け取る。
「色は赤ワインだね。さっそくいただきます」
俺はワインを飲む。
「………貴族がエールを飲まない理由が分かったよ…普通に美味しい」
うん。普通に美味しい、もっと飲みたいとも思えるぐらい美味しかった。
「ところでリーフ兄さん、向こうからノルド父さんが歩いて来たから俺は空間魔法で逃げるね」
「逃げても追いつかれると思うよ。俺はもう諦めた」
ワインを飲んでいる最中に向こうからやって来る父さんを見つけた。周りから見れば優しそうな笑顔をしているが俺から見ると身体が震え上がるほど怖い笑顔だ。
「この交流会で、俺とアルは粗相をしてしまったからね。本当に父さんを困らせてばっかだよ」
「あはは、そうだね。俺たちは「ノルド父さん困らせ隊」って感じだね!」
そんな隊には入りたくない。
俺はそう思うとワインを飲み干した。このワインで酔ってこの後怒られたという記憶ごと無くせますようにと願いながら。