醸造所を造ってから1週間がたった。
その間俺は食料庫に保存してあった麦を使い、浸漬→発芽→焙燥そして出来た麦芽を粉砕…するところまで出来た。
そして今、温度を上げ麦のデンプンを糖に変える作業である糖化作業をしているところだ。
アルが作ってくれた土鍋…じゃなくてビールタンクは相当な魔力が込められているのか俺の火魔法でも壊れることはない。そのため全力で魔力を込めて温度を上げることができる。
「ふぅ…暑いなぁ。これであとは濾過すれば麦汁の完成だ!」
さすがに前世の大企業が造るものより美味しいとは思わないが、この世界でも飲めるなんて俺は本当についているな!
「リーフ様、ダイニングでエルナ様がお呼びですよ」
「!?びっくりした。サーラさんか」
作業に集中しすぎて人の気配に気づかなかった…
母さんに呼ばれたということなので俺は火を止めてダイニングに向かう。
「リーフ、あなた何を造っているの?」
開口一番母さんから質問された。
「え?何を造っているって、エールだよ?」
「嘘よ。エールだったらこんな甘い匂いはしないわよ」
「今はまだ麦を煮沸している所だからこれから苦くなる予定だよ」
先日シルヴィオに頼んだ植物採集で採ってきてくれた植物を入れようと考えている。
ホップがあれば前世と同じようなものが造れるのだが、中々見つからないためとりあえず香草などで代用して造ってみる予定だ。
とりあえず、俺は一刻も早く麦汁が飲みたい。あれは本当に甘くて美味しいものだ。と、いうわけで…
「ええと…話はそれだけかな?俺はこれから煮沸した麦の味見をしなくちゃいけないので…」
「味見…ですって?」
「あ」
口が滑った、というやつですかね。はぁ…仕方がない。
「母さんもよかったら味見しますか?」
「リーフがそこまで言うなら仕方ないわね。早く持ってきなさい」
母さんはそう言うと颯爽と椅子に腰を下ろした。心なしかワクワクしているようだ。
「…一応家族全員分持ってくるから、みんなを集めておいてね。母さん」
俺はそう言って醸造所に向かう。
独り占めしようと思ったのになぁ…なんで口に出してしまったのだろうか。
「リーフ様!」
醸造所の前にはメイドのミーナが立っていた。
「リ、リーフ様!先程からすごく甘い匂いが漂ってくるのですが…これは一体なんですか?」
「ああ、確かに…結構匂いが充満してますね」
この微かに香る感じ…ビール工場の見学を思い出す。
「手伝っていただけるのでしたら後で飲んでも…「お手伝いさせていただきますぅ!」
食い気味できたな。そんなに楽しみなのか。
「じゃあ…お願いしますね」
そう言って俺は醸造所に入る。
「おい、リーフ。もちろん俺もこいつを飲ませてくれるんだろうな?」
そう言ってくるのは、我が家の料理人であるバルトロさんだ。
バルトロさんは最初俺のことを「リーフ様」と呼んでいたがやめてもらった。
「勿論ですよ!今から一緒に飲みましょう!」
バルトロさんはエールを造るにあたって、料理人だからか色々助けてもらったからね。
麦汁を濾過し、コップに注ぐ。温度は人肌ぐらいかな。
並々注いでバルトロさんと一緒にいただきます。1番最初に飲めるのは生産者の特権だね。
「では…いきます!」
エールではないけど生まれて初めて自分で造ったもの…どんな味がするのだろうか。
俺はそう思いながらも麦汁を口に流し込む。
「熱っ…でもこれは甘くて…」
「おお!甘くて美味いなこれは!」
バルトロ大声をあげた。
…喜んでくれるのは嬉しいけど台詞取られた。
「これならエルナも喜ぶと思うぞ。それにエルナの好きなロイヤルフィードにも勝てるかもな」
ロイヤルフィードのは母さんが好きな王都の紅茶である。ちなみにすごく美味しい。
「とりあえず美味しいって思ってくれれば俺は嬉しいですね。じゃあさっそく持っていきますか」
俺は麦汁を容器に入れダイニングに向かう。
「さぁ!どうぞ、お召し上がりください」
家族全員が席につき一斉に飲み始める。
「甘くて美味しいね」
「これはいいわ!」
「うん。美味しいね」
「リーフ兄さん。美味しいよ」
家族それぞれが飲んだ感想を言ってくれる。どうやら好感触のようだ。
あとは母さんだけだが…
「…」
何も喋らない。口に合わなかったのかな?
「これは王都の砂糖を使っているのかしら?」
母さんは口を開き質問をしてきた。
「いえ、王都で購入した砂糖は一切使用していませんよ」
「嘘よ、ならなぜこんな甘いのかしら?」
「王都の砂糖がどんな作り方をしているか分かりませんが、この麦汁…麦のジュースは麦芽糖という麦から取れる糖を使っているからです」
俺はそのまま話を続ける。
「甘さは通常の砂糖の半分なので甘さ控えめって感じですが、その分飲みやすく特にダイエットには効果的「なんですって!?」…なんですよ」
母さんが口を挟んできた。ダイエットという言葉に反応したのだろうか。
「リーフ、エール造りなんてやめてこれから麦ジュース一本でいきなさい」
まさかの俺の目的全否定!?
「いやいや、俺の目的はエールを造ることであって、この麦ジュースはその過程で出来たものなんですよ!?」
「リーフ、エールはここからどうやって作るんだい?」
父さんが聞いてきたので答える。
「この麦ジュースに香草を入れて発酵させれば完成する予定です」
あくまで予定だ。前世では醸造の免許なんて持っていなかったし、全ては前世でのネットの情報に頼るしかないのだ。
「それならエール用と麦ジュース用で二つ造ることはできるかな?」
「…父さんの手伝いが多少疎かになりますがそれでもよろしければ」
「うっ…それでもお願いできるかな?」
きっと父さんは母さんにいい顔をしたいのだろう。父さんの手伝いはめんどくさいのでここは攻めの姿勢をとらせてもらおう。
「分かりました。これからは造る数を増やしましょう」
「話はまとまったみたいね。リーフ、おかわりをいただけるかしら?」
「私も!」
母さんとエリノラはそう言って空いたカップを差し出す。
「母さん、麦ジュースは美味しかった?」
俺は母さんに質問する。
「まだまだね。これから精進しなさい」
うざっ。少し意地悪をしてやろう。
俺は母さんのカップではなくエリノラのカップにおかわりをそそいだ。
「なぜ私じゃなくエリノラが先なのかしら?」
「美味しいと言ってくれなかったので…」
「エリノラも言ってないじゃない」
「エリノラはこれはいいわ!と言ってくれましたよ」
「…」
「…」
お互い無言が続く。そして、
「美味しいと言っていただければおかわりをそそぎますよ?」
ふふふ…さぁ、美味しいと言うんだ!母さん。
「…ロイヤルフィード程ではないけれど美味しいわ」
母さんは苦しそうに言葉を捻り出した。
「よおしっ!じゃあ母さんにもおかわりをそそぎますねー」
初めて母さんに勝った気がする。なんだろう少し嬉しい。
その後、使用人にも麦ジュースが配られ、好評を博した。
自分が造ったもので人が喜んでくれるのは素直に嬉しい。
嬉しいのだが…
「兄さん、麦ジュースは?」
「ありません」
「リーフ、麦ジュースを早く淹れなさい」
「ありません」
『なんでないのよ!!』
その2人の言葉に俺はついにキレる。
「あんたらが全部飲んだからだよ!!」
俺の声は屋敷中に響き渡った。
麦汁が飲みたいんですが大手は商品化しないんですかね?