転生して田舎でエールが飲みたい   作:高校ジャージ10年目

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55話目です。よろしくお願いします


ラガーの魅力を伝えたい

今にもエールを奪おうとしそうなルンバさんをなんとか説得し2人は中庭にやって来た。

 

そこにはアル、シルヴィオ、エリノラが剣を振りそれを父さんが眺めるという、普段よく見る光景があった。

 

よくもまぁ…こんなクソ暑い日なのに剣なんか振れるよなぁ。

 

「お前は長男のくせに剣を振らなくていいのか?」

 

「あれ?今俺声出てました?」

 

まさか無意識に声を出していたとは…

 

「長男は剣を振る以外にやることがあるんですよ」

 

「俺からしたら剣から逃げているようにも見えるがな」

 

ルンバさんは相変わらず鋭いな。

 

もちろん、剣からは逃げている。だって扱えないから。それ以上でもそれ以下でもない、だから剣以外の家のことは大抵やっているつもりだ。

 

「まぁ、稽古をしないことでこうしてエールや麦ジュースが出来たわけですし、そこら辺は評価してもらいたいですよね」

 

「だったら俺に飲ませてくれればすぐ評価してやるぞ?早くよこせ!」

 

「だから!先に父さんに飲ませるって言っているじゃないですか!?このビールは飲みやすいビールなんでルンバさんに飲ませたら一瞬で無くなりますよ」

 

「2人でいったい何の話をしているんだい?」

 

ルンバさんとのお喋りに夢中になっていたせいか、背後からの気配に気付くことができなかった。

 

「リーフも稽古に参加したくなったんだね」

 

眩しい!?眩しいよ!父さん。そんな「引き篭もりがやっと外に出てくれた!」みたいな顔しないで。

 

「兄さんが外に出てくるなんて珍しいわね!ちょうどいいわ。私と勝負しなさい」

 

木刀を振り回しながらこっちに向かって来るのは、我が妹であるエリノラだ。

 

地面に突っ伏している2人の弟の屍を越えて向かってくる。

 

非常にマズイ…俺は剣は扱えないんだぞ。こうなったら、

 

「る…ルンバさん!このエールが1番美味しくなる方法を教えます!」

 

「お!?それはなんだ!?今すぐ教えろ!」

 

よし。

 

「このエールを美味しく飲む方法はたった1つ…汗をかくこと!俺の代わりにエリノラと剣の稽古をお願いします!そして汗をかいてキンキンに冷えたこのエールを飲みましょう!!」

 

俺は冷えたタンクを指差す。

 

「分かった!!汗をかいたらそのタンクは全部俺のモノなんだな!?よし、やってやるぜ!」

 

ルンバさんはそう言ってエリノラの方に走って行った。

 

…ん?話が飛躍していませんか?あのタンク全部飲まれるんすか?10リットルぐらいありますよ?

 

いや…エリノラと剣の稽古よりは大分ましだ。エールならまた造れるからな。

とりあえず次は父さんにこのエールを飲ませないと!

 

「父さん!!ルンバさんが飲む前に、是非この新作エールを飲んでみてください!!」

 

「た…確かに美味しそうだけど、この後も仕事があるからね。夜にでもいただくと「仕事ならもう終わってますよ」

 

俺が途中で口を挟む。

 

「もちろん、父さんの許可がないと出来ない仕事もありますが、それ以外の今日の分はやっておきましたよ」

 

ちゃんと外堀は埋めてあるんですよ。父さんに飲んでもらいたいが為に徹夜して頑張ったんだから。

 

「さぁ〜もう父さんには飲むしか選択肢は無いんですよ。大人しく飲んでいただけませんかねぇ」

 

「わ、分かったよ。飲むよ」

 

すごく嫌そうする父さんであった。

 

「ではさっそくエールを注ぎますね」

 

俺はタンクからエールをグラスに注ぐ。

 

アルの氷魔法のおかげでエールはキンキンに冷えている。それはエールから溢れ出る冷気が証拠だ。まるでエール自身が氷魔法を唱えているようだ。

 

「ゴク…」

 

「ゴク…」

 

思わず生唾を飲み飲んでしまう。汗をかいていないとしてもこれ程までに冷えたエールは絶対に美味しいだろう。

 

…ん?誰だ?俺以外に唾を飲み込んだやつは?

 

俺は周りを見渡す…するともう一度「ゴク」という音が聞こえた、下から。

 

「リーフ兄さん…」

 

今にも死にそうな人間…アルフリートが声を絞り出していた。

 

「リーフ兄さ「ダメだ」なんでさ!」

 

アルが飛び上がる。

 

「気持ちは分かるよ、でもお前は今7歳だ、エールは15歳からだ。OK?」

 

「NO!」

 

NOじゃねえよ。

 

「あんなキンキンに冷えたエールを見せられたら飲むにきまっているじゃないか?逆に飲まないとエールに失礼だよ!」

 

「その通りだ!その言葉を俺じゃなくて父さんに言ってくれ」

 

「リーフ…兄さん」

 

…そんな辛そうな顔をしないでくれよ。精神は大人でも身体は子供。万が一何か起こったら責任が取れないんだ。

 

「…醸造所にアルの氷を使って麦ジュースを冷やしてあるからそれで我慢してね。頼む」

 

「分かったよ。今日はそれで我慢するよ」

 

今日はだと?次があるのか?

 

「次までに何か策を考えないと」

 

アルはシルヴィオを連れて渋々醸造所に向かった。

 

「さて…邪魔が入りましたが、父さん…飲んでもらいますよ」

 

俺は再びタンクからキンキンに冷えたラガーをグラスに注ぐ。

 

「どうぞ」

 

「はぁ…じゃあいただくね」

 

観念したのか父さんは恐る恐るグラスを口につける。そして、

 

「!?」

 

一気に飲み干した。

 

「はぁぁ」

 

父さんのそんないやらしい吐息初めて聞いたよ。もちろん、その吐息が出るってことは…

 

「すごく美味しいね。王都で飲んだエールよりも格段に美味しい」

 

喜んでくれたことに俺は胸を撫で下ろす。

 

「それはよかったです。今回のエールは「味」より「飲みごたえ」を重視しました。この「飲みごたえ」が1番輝くのは喉が渇いた時、なので…

 

「僕たちの稽古が終わった時を選んだ…ということだね」

 

「はい。しかもこのエールは「飲みごたえ」と同時に「飲みやすさ」にも気をつけています。だから必然的にもう一杯飲みたくなるような…そんなエールですね」

 

「なるほど…気をつけて飲まないと簡単に酔ってしまうということだね」

 

さすが父さん。すでに気づいていましたか。 

 

「エールだけ飲めば酔うのは当たり前ですよ。それと同時に食事や水を飲むことをオススメします。でも1番このエール…いやラガーが輝くのは…」

 

「汗をかいて一仕事終えた時なんです!!」

 

「リーフの伝えたいことがなんとなく分かったよ。じゃあもう一杯もらおうかな?」

 

「どうぞ、どうぞ。もういくらでも飲んでください!」

 

俺はそう言ってタンクに手を伸ばそうとするが…

 

「あれ?タンクが無い!」

 

どういうことだ?確かにここにあったはずなのに。

 

「おおおお!こいつは確かにうめえぇや!!」

 

俺は声のする方に振り向く。が振り向いている途中で声の主が分かってしまい絶望する。

 

「ル…ルンバさん」

 

「おお!リーフ。これは確かに汗をかいたあとに飲むべきだな!このキンキンに冷えたのも良いが、シュワシュワもたまらん!そして何と言っても後腐れが無いから常に新鮮な味を楽しめるな!」

 

流暢に語りながらルンバさんはラガーを飲み続ける。

 

てっきり美味いしか言わないと思っていたのに…ラガーの魅力を全部言ってくれるとは…

 

「父さんも早く飲まないと全部飲まれますよ…」

 

「リーフは飲まないのかい?」

 

「あげるって約束したので…あと無ければまた造ればいいので…」

 

あぁ…ラガーはエールと違って造るのに時間がかかるのに。

 

 

 

 

その後中庭で父さんとルンバさんは飲むことになった。ちなみにエリノラも醸造所に案内してあげた。多分俺のエールを造る種である麦ジュースは残っていないだろう。

 

「そうだ。リーフ、このエールを王都に売ってみるのはどうだい?」

 

「え?」

 

父さんの提案に素っ頓狂な声をあげてしまった。

 

「それはいいな!俺も王都で飲みたいぜ」

 

「そろそろトリエラ商会が来る頃だからそこで取引をすれば王都で売ることが出来るよ」

 

トリエラ商会…確か父さんと懇意にしている所だったかな?

 

王都で流通出来れば、明らかに下火なエールも一躍人気になるかもしれない。

 

だけと…

 

「多分無理ですね」

 

「えっ?」

 

「なんだと!?」

 

2人が驚きの声をあげる。

 

「王都まで7日ですよね。そうなれば確実にエールの原料である麦は傷みます。傷んだエールを王都で売ったとなれば、トリエラ商会の顔に泥を塗りますし父さんの名声にも響きます」

 

「それなら傷まないようにすれば…」

 

「麦を傷まないようにするために、そして、出来たエールに泡と香りを付けるために今回はホップというものを使用しました。がそれを待ってしてもこの炎天下、麦が傷まない保証がどこにもありません」

 

氷の魔道具があれば話は別だが、そんなすぐに用意は難しいだろう。それにかなり高価だと聞くし…

 

「エールが流通出来ればそのお金で新たなエールを造る資金も出来たんですが、今はまだ近隣の街で少しずつ流通させて冬に向けて仕込むのがいいのかなと思います」

 

「ちょっと待った」

 

ルンバさんが手を挙げ言葉を発した。

 

「そのエールの中にある麦を腐らせないようにホップとやらを入れたんだろ?ならそのホップをさらに多く投入したらその分だけ腐りにくくなるんじゃないか?」

 

「ルンバ…そんな簡単な話じゃないんじゃないかな?」

 

「そうか?」

 

ルンバさんの言葉に何かが引っかかる。そして、俺の身体に電撃が走る。

 

「IPAだ!」

 

『!?』

 

なんで気づかなかったんだ!?

 

そうだ…麦が腐るなら腐らせないように大量のホップを投入すればいい。

そうして出来たエールが前世でもあったじゃないか!?

 

「アイピーエー?ってのは何だ?新しいエールの名前か?」

 

「父さん…エールを流通させる話、お受けします」

 

「本当かい?リーフ。いきなりだね」

 

「これが上手くいけば王都…いやその先の街や国までも品質を落とさず流通させることができるかもしれません。そのためには…」

 

『そのためには?』

 

俺はポケットからホップを取り出し父さんに見せる。

 

「こいつを…ホップを村中からかき集めてください!!」

 

こうして新たなエールが誕生することになった。

 

 

 




今回のモデルは、アサヒビールのスーパードライだったりします。

スーパードライのキレは本当に素晴らしいものだと思っています。


後更新頻度をあげたい。

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