カグラ行きが決まったため急いで荷造りをしなければならないのだが、まさか明日出発だとは夢にも思わなかった。
「なんのエールを持って行くべきか…」
俺は母さんに頼まれている麦ジュースの仕込みをしながら思考する。
カグラに行って未知なる酒を楽しみたいという思いもあるが、それ以上に俺の造ったエールがどんな評価を受けるか、それもまた面白いなと思ってしまっている。
だが、カグラまで2週間…温度に気を遣ってもエールが傷む可能性は大いに考えられる。
そうなると、ラガーは無理だな。これから暑くなるだろうから1週間も保たないだろう。
そうなると残っているのはエールとIPAか。上面発酵組の2つなら持っていけるか。
エールなら2週間、ホップを大量に投入したIPAなら4週間は保つだろう。そうなると…
カグラに着いた時点で安全に飲めるのはIPAだけか…
途中で造るという手段もあるにはあるが果たしてそんな時間取れるのか?
どっちにしろ、遠いよなぁ。
「リーフ兄さん、麦ジュースちょうだい!」
呑気におねだりしてくるのは弟のアルフリートだ。
「ちょうだいって…お前はいつでもどこでもキンキンに冷えた麦ジュースが飲めるじゃないか」
「いやあ、やっぱ出来立てが1番美味しいと思うんだよね」
アルはそう言って熱々の出来立て麦ジュースをコップに注ぐ。
まったく羨ましい限りだ。空間魔法だかの魔法でいつでもどこでも新鮮なのが飲めるんだから…あっ。
「なるほど、いい案を思いついた」
「どうしたの?リーフ兄さん」
「うん。ちょっと頼みたいことがあるんだけどいいかな?アルフリート=アイテムボックス君」
「アルフリート=アイテムボックス君!?」
せっかく便利な弟がいるんだから遠慮なく使わせてもらうとしようか。
「そう、アイテムボックスもとい空間魔法を持っているアルフリート=アイテムボック「アルフリート=スロウレット!!」…アルに頼みたいんだよ」
「何さ?」
「空間魔法の中にエールを保存させてくれないか?」
アルの持っている空間魔法…その中では時間が止まっているらしい。つまりはエールも傷まないということ。そしてラガーに至っては冷やしたまま保存すればいつでも冷やした状態で飲めるし…売れる。カグラでラガーの評価を聞くには是非とも利用したい魔法だ。
「それは全然構わないけど、俺に何のメリットがあるの?俺はまだエールが飲めないよ?」
「もちろんタダでとは言わないよ。父さんに頼まれている剣の稽古…この旅行中一切やらないってのはどうかな?」
そう。俺は父さんに1ヶ月旅をする間アルに剣の稽古をしておけと言われてしまっているのだ。
俺に剣の稽古なんて出来ないから元々やらないつもりだったが、どうせなら交渉のカードとして使わせてもらおう。
「今のリーフ兄さんが父さんの言うことを聞いて素直に剣の稽古するとは思えないかな」
「チッ、そう上手くいかないか。じゃあ、ルンバさんが稽古しようって言ってきた時に俺が守るってのはどう?」
確か父さんはルンバさんにも頼んでいた気がする。
「うーん。どうしようかな」
もう少しってところか…それなら。
「そっかぁ…ダメかぁ。そうなるとルンバさんに「美味しいエールを用意しますのでアルと一緒に汗をかいてきたらいかがですか?」って言っちゃうかもなぁ」
「それは嫌だ!!」
明らかな拒絶反応。俺が言えたことじゃないけどそんなに稽古が嫌いか。
「わ…分かったよ。その条件を飲むよ」
「あと、氷も頼むね」
「ええっ!?それは約束と違くない?」
「俺さ、結構お前の為に頑張っていると思うんだ…。だからさ少しくらいお願い聞いてくれてもいいんじゃないかな?」
こういう時は泣き落とし作戦だ。決して氷のことを忘れていたとかそんなことではない。決して。
「うう、分かったよ。その代わり麦ジュースはいつでもどこでも無くなったら飲ませてもらうからね!」
「くっ、まぁいいだろう」
無くなれば造ればいい…材料もまだある。問題は場所だが、それはおいおい考えるとしよう。
「あっ!忘れてた。母さんが麦ジュースちゃんと造ってるかどうか…「またあの人か!?いつも麦ジュース麦ジュースって!今度お通じに効く草でも入れてやろうか!」
「お通じが何ですって?」
「あ」
目の前には笑顔でこちらを見る母さんがいた。
「…監視しにくるらしいから気をつけてね」
人の話は最後まで聞くべきだよねうん。
「もし、麦ジュースに変なものでも入れてみなさい。潰すわよ?」
潰すって何を!?
「分かったら、さっさと造りなさい。いいわね」
母さんはそう言うと踵を返して部屋から出て行った。
「お…おい!あの人って俺たちの母親なんだろ?親がするような目じゃなかったぞ?」
「この村の女性陣はみんなそんな感じだよ」
「えっ?」
「リーフ兄さんとそのうち分かるよ。この村の女性はみんなおっかないってね」
そんなもの俺は知りたくない!
ちょっとずつ更新頻度が上がってきた(適当)