なんかカードゲーム型eスポーツのある世界に転生したんだが 作:九十九もちもち
「…………」
ごく平凡な町並みの、ごく平凡な一軒家の一室。
その家庭の一人息子の男子学生が、ベッドの上で気怠げにスマホとにらめっこしていた。
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【ウマ娘】ミキシオン総合スレpart75【ガチ嫁にする】
1:名無しプレイヤー
ほんとこの子達眺めていたい、なんならずっとpvpせずイチャついたる
2:名無しプレイヤー
わかる
3:名無しプレイヤー
わかる、でも俺はしっかり試合にも出す両刀派
4:名無しプレイヤー
どの子が好きかはとりあえずおいといて、平均60km出せるのが丁度いい塩梅のスピード感よな
5:名無しプレイヤー
何よりあの低コストとそれによるステルス性能で速く走れるのが強みなんよ
6:名無しプレイヤー
こないだ都市マップで通り道にオジゾウサン仕掛けたク○野郎絶対許さん
7:名無しプレイヤー
あー俺の他にもオジゾウサン引っ掛かった人いたのか。やっぱ地雷系が辛い……てか、あんなとこに設置する方がどう考えてもバチアタリだろ
8:名無しプレイヤー
そんならドリームオーラが事故防止に便利だぞ。コストが気になるならウッドオーラかフレイムオーラで妥協するのもアリだな。あとどの局面でも索敵が正義だからEWACジェガン一機は用意しとけ。
9:名無しプレイヤー
ごめんMSはちょい食傷気味なんだわ、最近マッチすんのがどいつもこいつもそれ主力のやつばっかで……
10:名無しプレイヤー
贅沢いうなや、機械系以外の索敵役はセオリーいまいち確立されてないんだから
11:名無しプレイヤー
あ、俺索敵役の戦闘機みてーなカードダブってんだった。それとトレードする? ちな今欲しいのは大型剣のリュウノアギトか、フォトン杖のサイコウォンドね
12:名無しプレイヤー
>>11 頼むわ。この際MSでなけりゃある程度妥協するで。あとリュウノアギトならあった、いつトレードするん?
13:名無しプレイヤー
お、マジか。んじゃ部屋ID
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14:名無しプレイヤー
ウマ娘もいいけど、最近実装されたガルクとかいうのも捨てがたい。早く乗ったり並走してみたい
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(そろそろ準備すっか)
そう判断し、一旦スマホをしまいベッドから身を起こす。
「ここ一週間ですっかりウマ娘がトレンド入り、か」
僅かに寝惚け気味のまぶたを擦り、上半身を起こす。
そしてドア越しに聞こえてくる、朝食を作り終えた旨の報告に応えた。
「まだ慣れないな、このコンテンツがある日常は」
小さく、しかし深いため息をつく。
そう、俺はいわゆる転生者だ。
交通事故か何か(この辺の記憶は曖昧)で死亡し、この世界で他人として新たな生を満喫している。
のだが、完全に赤の他人になったというわけではなく……
「まさか、もう一人の『里山康介』とはねぇ」
未だにこの事実が苦笑いを作らせる。
里山康介とは他ならぬ俺の名前だ。
つまり、平行世界の自分自身に憑依してしまったのである。
「もう決まっちまったろ、今更ゴネんな」
気だるげに自身を叱咤し、頭をわしゃわしゃと掻きむしる。
これは神界にも色々事情があって決定された事項らしい。
詳しいことは余り覚えていないが、少なくとも担当の神様一人でどうこうできる事柄でなかったのは明白だ。
じっくり選ばせてくれと頼みたかったが、担当神を困らせるのも筋違いだと判断し、今に至る。
「しかし神様ってのも随分ブラック勤務なんだなぁ」
今思い返してみても、あれはちょっと同情する。
この体へ移る数時間前(あくまでも自身の体感時間) 転生先が別の自分と決まったはいいが、その為の準備がまだ完了していなかったらしく、幾つかは自分で『慣らし』をする羽目になった。
その際ついでに転生特典を選べと勧められたので、少し考えた後に、新しい肉体への早期順応を基準として選べるだけ選んだ。
理由としては、純粋に利便性と、転生して早々のトラブルをなるべく避けたかったからだ。
また、特典候補の中にチートといえるものが無かったのも一因である。
これについては、ここ10年程で転生者達が好き放題し過ぎたせいで、神界に多大な悪影響が出てしまったとのこと。
自分を含め死者達の仕分けが滞っていたのもこれが原因である。
なんとも傍迷惑な話だが、嘆いたって始まらないしもう過ぎた事だ。
「おはよー、今日目玉焼き?」
リビングに入り、それとなく朝食を催促。
「そうよ、早く食べちゃいなさい」
柔らかい笑みを向ける母。俺がこの体になってから1ヶ月程経つが、今のところ誰かから怪しまれるような事態は起きていない。
先述の通りトラブル回避の為『転生先の人物の記憶も保持』や『順応高速化』といった転生特典を選んだからというのもあるが、家族を始めとした周囲の環境が前の世界と殆ど変わらなかったというのが大きい。
「やっぱ目玉焼きには醤油だよな~」
そろそろ1日の始まりを噛み締めてもいいだろう。
瑞々しく艶やかな黄色の円と、それを取り囲む白水塊へ漆黒を垂れ流す。
「お前はホントに醤油派だなぁ、たまにはソースとかも試してみればいいのに」
同じく目玉焼きを頬張る父が口を挟む。
「気が向いたらね」
他には白米、味噌汁と無駄を削ぎ落とした構成のメニューを、そつなく三角食べで口に運ぶ。
「ところで康介、あんたあの新しいゲーム始めるつもり?」
新しいゲームとは、先程見ていた掲示板でも話題になっていたミキシオンのことだ。
この世界は元の世界とそこまで変わらない様相だが、ミキシオンやその土台である異世界関連の技術だけは明らかに違った。
無数の異世界、平行世界を観測し時には交流を持つことさえあるという。
転生特典やこの世界の情報媒体で、全貌を知った時は大層驚いたものだ。その余韻は今なお脊髄に残り続けている。
生前はそれなりのゲーマーだったこともあり、自分も小遣い叩いて、ついこの間購入したわけである。
「ん、そうだけど」
まだ飲み込んでいないタイミングで返答した為、やや乱れた発音に。
「わかってると思うけど、それで成績が下がるようだったらお小遣い減らすからね」
柔和ながらも確かな厳格さを感じさせる声色で釘を刺してくる。
「も~大丈夫だって。この前の成績知ってるでしょ、心配要らないよ」
幸い、教育施設で教える内容も、元の世界とほぼ同じだったのでその辺は問題ない。
ーーーー
食事を終え、部屋に戻り件のゲーム機を手に取る。
自分のよく知ってる据え置きや携帯型とは違い、頭に取り付けるゴーグルタイプのデザインだ。
どうも異世界の一つにある『ナーブギア』とかいうものを参考にしたらしい。
早くやりたいという欲求に負け、取り出した後の箱は開いたまま机に放置。保証書やら付属のストラップやらもその周りに散らばりっぱなしだ。
自分を担当した神は、別段使命や呪いを与えたわけではない。純粋に死人として新たな
なので好きに生きることにした。
そこでミキシオンの存在を知り、ゲーマーとして第二の青春を捧げるに相応しいモノは、これだと買いに走ったわけである。
「…………よし、さーて」
早速ゴーグルを付け、起動。
「!……っ」
自分の経験してきたゲームでは味わったことのない、意識が何かに引き寄せられ落とされるような感覚。
(これが、ダイブか……!)
そういったゲームがこの世界にあることは、SNSなどで知っていたが、やはり百聞は一見にしかず。
「……」
「…………!」
「確かに、変わってる」
さっきまでいた自室とは完全に異なる風景。
真っ暗な空間に、薄ぼんやりと光る地面(床?)
そして、そんな
液晶越しに見つめるしかなかった従来と違い、直接触れたりすることが出来るのだ。
作り物という点こそ変わらないものの、ただの電子データに過ぎない3Dモデルと違い、れっきとした物質として存在している。
(理論上は、そこで独自の生命を作り、既存のものから外れた文明を築くまでの過程をシミュレート出来る程だからなぁ)
以前見たテレビの特集を思い出しつつ、起動やログインといった七面倒な事項を済ませる。
その次はMMOらしくキャラクリだ。
「名前は……そうだな『ヤス』にしよう」
『康』の読み方の一つから適当に選ぶ。
安直極まりないが、かといって特別拘る理由もない。
この世界でのネット面の治安や法整備などはかなり行き届いているので、本名でも大して問題ないが、そこはまあ習慣というやつだ。
あとはアバターのカスタマイズだが……もう面倒なので適当な日本人男性型のアセットを使う。後からの変更が可能なのも動画サイトなどで知っているため躊躇はない。
そしていよいよーーーー
「
自らの相棒を決める儀式が始まる。
ただのプログラム進行ではあるが、この仮想の海で最初の一歩を共にする者を決定するのだ。いちゲーマーとしてワクワクしないわけがない。
その選別方法は色々あるが、自分は運営側AIに任せるという、所謂ソシャゲのガチャに近い方式を選んだ。
理由は、まあ一言でいえばおセンチな感情からだ。このAIでカードを引くシステムは完全なランダムではなく、そのプレイヤーとの相性を優先して選別される。
ここでいう相性とは、簡単にいうとどれだけ性能を引き出せるかの度合いである。どうもプレイヤー側の脳波や生体情報と密接に関わっているらしいが、軽く調べただけで専門用語だらけの論文にぶち当たりまくったので考察は止めておいた。
まあ、ある意味では運命の相手と出会えるやり方なのだ。
因みに、この選別、実体化を行うシステムは異世界の一つにある『サーヴァント』『霊基』といったものの技術を元にしている。
更にはその『サーヴァント』も、カードのカテゴリの一つとしてミキシオン内に出回っている。
「お見合いじゃあるまいし」
フッ、と鼻息と共に冷笑する。だがこの方法にしたのは紛れもなく自分の意思。後悔の類いは微塵もない。寧ろ高揚感は膨れ上がるばかりだ。初回の一枚は無料という仕様もそれに拍車をかける。
あれこれ考えている内に選別が終わったらしい。
目の前から『選別中です』のテキストウィンドウが消え、入れ替わりで因子情報の実体化が始まる。
数秒ほど閃光やら明滅やらが無秩序に発生し、瞬く間に何かを形作り、やがてそれは無事完了を迎える。
「……」
暫しの間、言葉を奪われた。
遂に姿を表したそれが異様な外見だったというわけではない。
それどころか、平凡そのもの。選別されたのはごく普通の青年だったのだ。
彼はこちらが挨拶しようとする前に名乗り上げる。
「はじめまして。俺、五代雄介っていうんだ。よろしくね」
どこか、笑顔が印象的な男であった。