「やっほー、久しぶりだねぇお兄ちゃん」
そういって腕に抱きついてくるのは、もうこの世にはいないはずの祐治の妹である佑香。
「久しぶり、もっと会いに来てくれよ寂しいじゃないか」
「えー、だってそんなしょっちゅう会ってたらありがたみがなくなっちゃうし?」
ここは祐治の夢の中。
佑香が亡くなってから一年近くの間祐治は学校へも行かず一日中《プラネット・フィールド》をやり、夜になると寝る事で夢の中で佑香に会えるのではないかと必死に佑香との思い出を頭の中に巡らせながら寝るという生活をしていた。
だがそんな事をしても佑香が夢の中に出てくるのは半年以上経った先の祐治が女性権利者団体の集会に乗り込もうとした前日の夜であった。
そこで祐治は散々佑香に説教され心を入れ替え少しずつ前向き始めた。
それ以降たまに佑香は祐治の夢の中に現れ取り留めの無い雑談に花を咲かせる事があった。
「お兄ちゃんに頻繁に会ってたらいつまで経っても妹離れできないと思ってね?だけどシャルちゃんのお陰でかなり心が落ち着いてきたみたいだしさ」
こうやって佑香は俺の心境が変化すると時たま現れてお節介を焼いてくれる。
「シャルロットはシャルロットだ。佑香は佑香で一生俺の妹なんだからな」
シャルロットと出会ってから自分の相手に対する感情を真っ直ぐ伝える事が増えてきた気がする。
「ん~それじゃお兄ちゃんが妹離れできるのはいつになるやら」
やれやれとワザとらしく呆れて見せる佑香、だが俺としては妹離れなんてしてらるつもりは無い。
「まぁ、一生懸命考えてくれてるところ悪いんだけど妹離れなんてするつもりは無いからな?なんたって佑香は俺の中で一生生き続けるんだからな」
「お兄ちゃんよくそんな恥ずかしい事言えるよね~、聞いてるこっちが恥ずかしいよ。でも佑香的にはとってもいいと思うけどね~」
そう言うと佑香は先程まで祐治の腕に抱きついていた手を一旦離し、今度は正面から祐治の脇に手を差し込み胸に顔を押し付けるように抱きつく。
「ん~~~お兄ちゃん成分補充しま~す。な~んかシャルちゃんに妬けてきちゃったな」
「佑香もシャルロットも愛すべき妹だからな」
祐治は左の腕を佑香の背中に回し軽く抱きしめ、右手で頭を撫でる。
「俺は決めたんだよ、大事にする相手はとことん大切にしてやるって」
「まったく都合いいんだから」
そういってそっけなく返す佑香だが顔は胸に埋めてしまっているので見えないが髪の毛の間からみえる真っ赤になった耳を見て祐治は満足するのだった。
「さてお兄ちゃん、そろそろ起きたほうがいいんじゃないかな?今日は色々と大変なんでしょ?」
そういいながら体を離そうとする佑香を離すまいと体に回した左手に力を込めて強めに抱きしめる。
「んっ....どうしたの?」
「このまま夢から覚めさせてくれないか?」
「もぅ....しょうがないにゃぁ.....」
照れながらも嫌がるそぶりすら見せない佑香を強く抱きしめると、それに負けないように佑香も強く抱きしめ返してくる。
そして意識が段々とまどろみながらも最後まで佑香の体の感触を楽しんだ。
「お、おはよ~....」
目を覚ますと正面にシャルロットの顔があった。
顔を赤くしながら真っ直ぐこちらの目を見つめてくる。
「あぁ、すまないシャル」
どうやら夢の中で佑香を抱きしめた拍子にこちら側でもシャルロットを抱きしめていたようだ。
「でもどうしてここにいるんだ?」
「そ、その~。自分の部屋で横になってたんだけど全然寝れなく、それでお兄ちゃんの寝顔でも見てようかな~と思って眺めてたら寒くなってきちゃって、それでお邪魔しちゃったんだけど....」
「そうか」
とりあえず抱きしめていたシャルロットを開放して起きる準備を始める。
「そ、それとさっきのシャルって、もしかして僕の事かな?」
「あー、なんか呼びやすかったからなぁ....嫌だったら止めるけど」
夢の中で佑香がシャルちゃんと呼んでいたのを聞いてついこちら側でも出てしまったが、実際にシャルと言って見るととても言いやすかった。
「ううん。そうやってあだ名で呼ばれたこと無いから嬉しい、これからお兄ちゃんはそう呼んでよ」
どうやらシャルも気に入ってくれたようだ。これからはシャルと呼ぶことにしよう。
「おう、それじゃちょっと朝の走りこみに行ってくるから.....そうだな、もしかしたら呼ぶかもしれないからいつでも外に出られるようにしておいてくれないか?」
「ん?それはいいけど、よくわからないけど待ってるね」
そういって部屋を去っていくシャルロットを見届け、祐治は寝巻きから動きやすい服装に着替えると歯を磨き顔を洗って家を後にした。
「ゆうくん、やっぱり行くんだよね?」
「当然」
昨日のじぃやの話を聞いた後アニー達は何やら作戦を立てたのか各々忙しく動き回っていた。
それを見て祐治も何か手伝おうかと言い出したがデュノア社の問題だと一蹴されてしまった。
「世話になってるからね、何かできないものか....囮役的な」
「そういうと思って作戦を立てておいたよ」
「流石だ、頼りになるね」
「ふっふ~ん当然でしょ?作戦といってもゆうくんは囮なんだけどね」
それから朝錬をしながらシノンの立てた作戦を聞き、ドイツ軍の襲来に備えるのであった。
「さてどうしようか?」
所変わってアリーナに併設されている研究所内。
ここではアニーとセザールが難しい顔をして話し合っている。
「まさかISを二機も持ってくるとは、どうやら結構本気みたいね」
「一機だけなら何とかしたんだけどなぁ」
そういってPCに何かを打ち込んでは修正するといった作業を繰り返すセザール、その横であごに手を当て何かを考えるそぶりを見せるアニー。
「「どうしよう」」
>聞こえますか?
「じぃやからの通信かな」
「良好よ、何かあったのかしら?」
>はい、たった今祐治様と合流し、秘密鉱山の近くに潜んでいるところです
「ふ~ん、やっぱり来たか」
「はぁ、戦場太郎....」
食堂で部外者なんていわないで、なんていいながらも今回の件はデュノア社の問題だからと祐治には関わらせないようにしていた二人だったが、手詰まりの現状を打開できるかもしれない希望が見えてきたのか、呆れながらも顔には笑みが浮かんでいた。
>IS一機は予定通りに、もう一機は祐治様がアリーなまで囮役となってつれて来るそうなのでそちらの準備もお願いします
「おっけ~、それじゃセザールこっちは任せたわよ」
「そっちも失敗しないでくれよ、多分奇襲の一回目しか成功しないと思うから」
ヒラヒラと手を振りながら研究所を去っていくアニーを見送るとセザールは祐治が連れてくるもう一機のISの対策を考え始めた。
「さて、どうしようか....っとメール?....何々、ふむふむ、これは面白い。流石戦場太郎だ、いいことを考える」
とある人物(サポートAI)から送られてきたメールの内容をよんだセザールは満足そうに笑みを浮かべると早速その準備を始めるのだった。
「祐治様、作戦の確認をいたしましょう」
ここは秘密鉱山を監視するための隠れ小屋の中。
ここでは祐治とじぃやとシノンが最後の確認作業を行っている。
「私が副隊長のクラリッサ・ハルフォーフを引き連れてアリーナへ向かう、後はアニーとじぃやが上手くやる。ですか」
おおよそ作戦とは言いがたい大雑把な内容ではあるが、じぃやいわく、見ず知らずの場所ならともかく、デュノア社の敷地内、しかも100年近くもの間世界から存在を隠している秘密鉱山ともあれば尻の青い女子供に遅れは取る事は無いそうだ。
それでも隊長こそいないものの副隊長と専用機、さらにもう一機のISの二機で来るとは思っていなかったため作戦に変更が加えられた。
祐治の囮、という作戦が。
「問題はその一つだけですので、祐治様さえ作戦を成功させられれば、全て成功したも同然です」
「責任重大ですね....シノン、逃走経路の案内頼んだよ。ISと鬼ごっこか、楽しそうだ」
そういって全身の心地よい震えに身を任せ、今か今かとシュヴァルツェ・ハーゼの到着を心待ちにするのだった。
(違法な人体実験、もし隊長に行われた実験内容が漏れていたとするなら....それは絶対にあってはならない、隊長のような思いをする人がこれ以上増えてはいけない.....)
「お姉様?ご機嫌が優れないのでしょうか?」
「え?いや、大丈夫だよ。作戦の通り、私と貴方でISを使って実験施設の制圧、残りの部隊員で施設内の捜索。内通者によればそこで違法な実験が行われているということですが....」
「お姉様そんな顔なさらずに、こちらにはIS二機があります、かならず上手くいきますよ」
シュヴァルツェ・ハーゼの副隊長クラリッサとその他の部隊員達はデュノア社に物資を運搬する車両中に潜み確実にデュノア社へと進攻している。
だが彼女らはデュノア社を少し甘く見ていたようである。
現に彼女らシュヴァルツェ・ハーゼの動きは知れ渡っており、すでに敷地内では警戒態勢がしかれており彼女らが無事に脱出するという事は不可能な状態であった。
追い詰められているとも知らないシュヴァルツェ・ハーゼと迎え撃つ祐治とデュノア社の愉快な仲間達。
勝敗はすでに決しているといっても過言では無いが、さらに祐治とシノンの提案により色めき立つデュノア社員達。
後は祐治の囮役が成功するか否かで勝敗は完全にに決することになる。