「とりあえず、千冬姉の名前は守るさ」
------勝者、セシリア・オルコット------
「おつかれ、一夏」
エネルギー切れという腑に落ちない負け方で納得の行かない表情をする一夏に祐治は労いの言葉をかける。
負けはしたが専用機、しかもオールレンジ攻撃を仕掛けてくる機体に初見であれだけ戦えれば十分すぎると言うものだろう。
「祐治か、帰って来てたのか」
「今しがたね。それにしても一夏結構やるじゃない驚いたよ」
「負けちまったけどな」
一夏は項垂れながらも実力を認められたことが嬉しかったのか少し明るい表情で奥で待つ箒の元へと向かって行った。
「で、どうなの?あの娘には勝てそう?」
「えぇ、アニーから貰った映像と見比べてもこれといった変化は無さそうですから問題ありませんよ」
現在アリーナのピット内では祐治とアニー、セザールと良蔵が祐治の関係者と言う事でこの場に集まっている。
そしてセシリアの《ブルー・ティアーズ》は補給のため30分の休憩時間が設けられている。
「そうそう、戦場太郎。この戦いの映像を知り合いに見せるから織斑みたいな恥ずかしい負け方しないでよ?」
デュノア社からここIS学園に戻ってくるまでの間、アニーから借りたセシリア関係の映像をずっと見ていたため、ある程度の動きや癖、《ブルー・ティアーズ》の武装関係は頭のなかに入っている。
「大丈夫ですよ、気分はとても落ち着いていますし、やる気も十分ですから」
セザールと良蔵の知り合いに特殊な刃物を作る人がいて、その人に祐治用のナイフを一本作ってもらうと言う話になった。
その人はちょっと変わった人で自分が認めた人にしか物を作らないらしく今回のセシリアとの戦いを見せてどうどう反応するかを見るらしい。
「そうそう、そういえばこれ使って。わが社の新作《ビーム撹乱弾》」
「これ、もしかして秘密鉱山の?」
「そう、とりあえず試作品として一発だけ作ったから余裕があったら使って」
セザールから手渡されたショットシェルを拡張領域に仕舞う。
休憩時間の間何をしようかと悩んでいるとアリーナの方が騒がしくなってきた。
「はい皆さん!!こちらを注目!!」
司会進行の黛 薫子(まゆずみ かおるこ)がアリーナの巨大なスクリーンを指差した。
そしてそのスクリーンには今まで映し出されていたアリーナの映像が消え、とある動画が流れ始めた。
「かんちゃ~ん、もう帰っちゃうの?」
「帰る....面白くなかったし」
「え~、今からきりりんの勝負が始まるのに~」
「その人知らないし....」
本音にかんちゃんと呼ばれているのは《更識 簪(さらしき かんざし)》
彼女が本音の制止を振り切りアリーナを後にしようとする。
「こちらを注目!!」
薫子の大きな声につられ、指差されたスクリーンを見ると彼女の表情が変わった。
スクリーンに映し出されている映像は祐治がアップロードしたフラグムービーの一つで《プラネット・フィールド2》で一際調子が良かった部分を切り張りした物だった。
敵の拠点にこっそりと忍び込み、タイミングを見計らい拠点を制圧する。
制圧が完了するまで拠点を奪い返しに来る敵を一人で倒し続けたり。
遥か彼方を飛んでいる大型輸送機をロケットランチャーで打ち落としたり。
味方の輸送ヘリで移動中に攻撃してきた敵戦闘機をロケットランチャーで打ち落としたり。
とても普段では出来ないような物をまとめた動画を見て女子生徒たちの大半は何が凄いのか分かっていないようだが、小数だが反応を示す生徒達もいた。
「戦場太郎....」
彼女簪もそのうちの一人。
この映像を投稿した戦場太郎の名を呟くと本音の隣に座り込んだ。
「あれ~、かんちゃんどうしたの?」
「もう少しだけ....見ていく」
「ふ~ん、でもあれ凄いね~、映画みたい」
「うん、あの人は戦場太郎って言ってね、SGとロケランを使わせたら彼の右に出るものはいない。AIM力も凄いけど、何より凄いのは洞察力と反射神経と判断能力。敵陣のど真ん中に突っ込んでいっても中々死なない、敵がどこにいて、どこが安全で、どうやって攻めればいいかを常に考えて動いてる。彼が敵陣に突っ込んでいくと敵が皆そっちを向くから息を合わせればどんな拠点でも落とせる。とくにこの前の戦場でも.....」
それから簪の、いかに戦場太郎が凄いのかと言う熱論は休憩時間が終わるまで続いた。
「か、かんちゃん。そろそろ試合始まるみたいだから....」
「そうみたいね」
かんちゃんがあんなに喋るのを見るのって始めてかも。戦場太郎って人はそんなに凄いのか~。一度会ってみたいかも
本音が簪の饒舌っぷりに驚いているとカタパルトから《ブルー・ティアーズ》が現れた。
「さぁお待たせしました!!お次は先程まで流れていた動画の投稿主戦場太郎こと、桐島祐治!!!」
薫子の紹介と共に反対側のカタパルトからラファールを身に纏った祐治が現れる。
あれが、戦場太郎....桐島....祐治.....
簪は心の中で祐治の名前を呟くと、先程までのいやいや本音に付き合っていたと言う考えは消え去り、アリーナの中を滑らかに動く祐治に釘付けになった。
「あ、どうも」
祐治は長旅で凝り固まった体を解きほぐすようにアリーナの中をラファールで軽く飛び回り、セシリアの正面までやってきた。
「あんまり遅いものですから、フランスにお逃げになったのかと思いましたわ」
「この戦いって結構重要でね、がんばらないといけないんだよね俺にとっては」
「まぁいいですわ。祖国を侮辱した事、後悔なさい!!」
「やる気十分だね、その前に言っておきたいことがある」
セシリアの持つ雰囲気が少し変わっていたため煽る事を止め正面から正々堂々と戦おうと祐治は思った。
だがその前にはっきりとしなくてはならないことがある。
「えー、一年一組の女諸君に告ぐ。オルコットが日本を侮辱した際に何一つ反論しなかったくせに一夏がハンデをつけてやろうかと言ったとたん、ヘラヘラと笑って男が女より強いわけが無いとか言っていた事が非常に腹立たしい。だから今日、この場でハッキリさせてやる、女が強かった次代など存在しない、よくて平等だった、とな」
「貴方そんな事ばかり言っていると孤立しますわよ?」
「おやおや、あのオルコットともあろうお方がわたくしの心配ですか?一つ言っておくけど、孤立と敵対は違うよ?」
「どういう意味ですの?」
「俺はただ、敵意を向けられてるから敵意で返す、好意を向けられれば好意で返す。ただそれだけ」
「そう、変わったお方ですのね」
「よく言われる」
そういうとお互いに距離をとり、武器を展開して構える。
「ですが祖国を侮辱した事には変わりありませんのよ!!」
「それはこっちの台詞だ!!」
そして祐治の発言で起こったブーイングが最高潮に達すると共に試合開始のブザーが鳴り響いた。
「わざわざフランスまで行って作ってきたのがショットガンだなんて笑えますわね、おーっほっほっほがぁ!!」
「油断大敵」
ショットガンを馬鹿にされ、ちょっと頭に来た祐治はセシリアへスラッグでHSを決める。
高笑い中に当てたせいで凄い声を出すセシリアを見て、まったく同じ事がデュノア社でもあったなと思い出し、この戦いを見守っているセザール達も大笑いしているんだろうなと思いながら笑みを浮かべる。
「ゆ、油断しましたわ!!」
羞恥心で顔を赤くしながらも《スターライトmkⅢ》を祐治へ向け正確な射撃を撃ち込む。
祐治はそれを大げさに回避していくが、2~3発ほど大げさに避けるとそれからはセシリアが撃つ前に回避行動を取るようになったきた。
あ、当たりませんわ。どうなっているんですの?一夏さんもここまででは.....?今の動きは.....
的確に避け的確に攻撃を当てていく祐治に焦りが出始めたセシリアが《スターライトmkⅢ》のエネルギー切れに気がつかずトリガーを引くと、それに反応して回避行動を取る祐治に気がついた。
それから何度か撃ったり撃たなかったりを繰り返していると一つの答えにたどり着いた。
撃つ前に避けている
「お行きなさい、《ブルーティアーズ》!!」
このままではいけないとセシリアは四つのビットを展開し、祐治へとオールレンジ攻撃を仕掛ける。
セシリアは撃つ前に避けていると言うが、実際にはセシリアの反応速度が遅いのと、撃とうとしてから撃つまでに無駄な動作が多すぎるだけである。
祐治は常に照準をセシリアに合わせてあり撃つ場合はトリガーを引くだけ、微調整もトリガーを引き終わるまでに行うため無駄が無い。
だがセシリアはまず武器を明後日の方向に構えているため、撃つ場合に、構える、狙う、撃つ、この三つの動作が必要になる。
例えばセシリアの反応速度がコンマ2秒だとすると、構えるのに2秒、狙うのに2秒、トリガーを引くのに2秒。
コンマ6秒かかるので、反応速度がコンマ1秒前後の祐治にしてみれば避けるのは容易いのである。
「ビット確認.........今!!!」
レーダー上に新しく四つの反応が出ると移動時間に考えていた作戦を決行する。
まずセシリアから一直線に逃げる。
ビット兵器の扱い方が下手なセシリアはこうする事によって祐治を追うような動きをビットに命令するため、動きが非常に単調になるだろうと予測していた。
そして祐治の読み通りに真っ直ぐこちらに向かってくる四つのビット兵器、これを確認するとデュノア社で散々やってきた直線移動からの半円移動をビットへ向けて行う。
祐治は気がついていないが、これを行う際にラファールが霞んで残像のように軌道が見えるほどの早い動きをするため回りからは《朧月》と呼ばれている。
これによってビットの進行方向の逆に回りこんだ祐治はセシリアの指令が届くより早く四つ全てのビットにバックショットを撃ちこみ、これを破壊した。
「な、なんですの今の動きは....」
「おやおや?どうしました突っ立って、たかがビット四つやられただけ。まだ決着はついていない、そうだよね?」
「当然ですわ!!」
ビット四つを壊し、セシリアに向き直ると、あまりの出来事に動揺し、動きの無くなった彼女に祐治は声をかけ鼓舞する。
だが威勢のいい声とは裏腹に《スターライトmkⅢ》のトリガーにかけた指が動かない。
撃ったとしても避けられるんじゃないか?
避けた後には攻撃されるんじゃないか?
先程から攻撃を一方的に受けてきたセシリアは残り少ないシールドエネルギーを見て、こちらが攻撃すれば確実に反撃が帰ってくるだろうという思いに動けないでいた。
「今度はこっちから行くぞ!!」
セザールから貰った《ビーム撹乱弾》を弾倉に押し込むと、瞬時加速を用いてセシリアに接近する。
それに反応して《スターライトmkⅢ》からエネルギー弾が撃ち出される。
それと同時に祐治も《ビーム撹乱弾》を放つと、撃ち出されたショットシェルがすぐに爆散し周囲に細かい金属の粒子を撒き散らす。
《スターライトmkⅢ》から放たれたエネルギー弾がそれにぶつかると眩い光を放ち跡形も無くその場から消え去った。
「っ!!ぶ、ブルーティアーズ!!」
セシリアは見たことも無い消え方をした《スターライトmkⅢ》のエネルギー弾に驚きつつも接近し続ける祐治に対して残る二つの《ブルー・ティアーズ》からミサイルを放つ。
「もらった!!」
だがそれを読んでいた祐治は放たれてすぐのミサイルをバックショットで撃ち落す。
「い、インターセプ「貴様は強くない」
ミサイルが近距離で撃ち落されたことにより煙幕で正面が見えなくなったセシリアだったが《ハイパー・センサー》がさらに近づいてくる祐治を捉えたため唯一の近接武器である《インターセプター》を展開して応戦しようとした。
だが《インターセプター》を振ろうとした腕は掴まれ、気が付けば腹部にそれが刺さっていた。
------勝者、桐島祐治------
「はぁ、負けてしまいましたのね.....」
祐治に負け、ふらふらとピットに戻って来たセシリア
一夏と違い完膚なきまでにやられてしまったと言う事実に酷く落ち込む。
見たことも無い機動
撃つ前に避けられる攻撃
自分よりも遥かに高い射撃能力
どれをとっても自分が負けている気がして仕方が無かった
一回り以上小さくなっているとはいえ相手は訓練機の《ラファール・リヴァイヴ》、専用機を使って訓練機にここまで大差を付けられセシリアの中に築き上げられていたものが崩壊する音が聞こえる様だった
いや~桐島君のIS捌きは目を見張るものがありましたよ
これもプラネットフィールド2を一万時間以上やった成果ですよ
セシリアが落ち込んでいるとピットの外から誰かが談笑している声が聞こえてきた。
「オルコット、入りますよ~」
返事も待たずに開くドアに目を向けると、そこには祐治とスーツを着た男性が立っていた。
「落ち込んでいるところ悪いんだけど、この方、国際IS委員会のイギリス支部の方です」
「どうもお久しぶりです」
そういって手を差し出してくる。
「お、お久しぶりです」
状況が理解できていないセシリアだったが差し出された手を握り返した。
「いや~、イギリス代表候補生が日本で暴言を吐いたと聞いて飛んできたんですけど、どうやら取り越し苦労でした」
「そ、それは.....」
ふとセシリアは一週間前の自分の発言を思い出し、今更ながらとんでもない事を言ってしまったと顔を青くする。
「愛国者どうしの熱い意見のぶつかり合いだったと言う事でしたのでね、桐島君」
その言葉につられ、セシリアは男性の後ろでニコニコしている祐治に視線を向ける。
「そうなんですよ、売り言葉に買い言葉ってやつで、ついお互いに熱くなり過ぎてしまって。お互い言い過ぎてしまいましたよ」
「え?ど、どういうことですの?」
「今度からはもっと穏やかな方法でお互いの感情をぶつけ合ってくれ、と言う事です。さていい戦いも見れましたし私はここいらでお暇いたしますね」
そういって国際IS委員会イギリス支部の男性はピットを去っていった。
残されたセシリアはいまだに現状が理解できていないのか男性が去った扉を見つめたまま複雑な表情を浮かべている。
「オルコット」
「は、はい!!」
「反省してる?」
「し、してます....」
「それじゃ今度から気をつけてね?いやほんとびっくりしたよ、誰かが録音データを委員会に送りつけるんだから。ま、今回の件はこれに一件落着だから、俺は帰るよ」
そういって祐治はピットから出て行こうとする。
「あ、ありがとうございます!!」
セシリアは去り際の祐治に頭を下げる。
それを確認した祐治は何も言わず笑みだけを浮かべてピットを後にした。
「今日も暑いですわね~」
炎天下の中、ヘルメットに作業服、会社の名前が入ったベストを着るセシリアは額に浮かんだ汗を手ぬぐいで拭取る。
そしてまた地面にドリルを突き立てる
ガガガガガガガガ
ここはとある解体現場
(株)オルコット解体の社長であるセシリアはこうやって職員と共に現場に出て自慢のドリルを使って作業に勤しんでいる。
「おーいセシリア、一服だぞ」
声をかけられた方を向くと、この会社を立ち上げたときから付き合ってくださっている祐治さんが飲み物や煎餅、飴といったものが入ったコンビニの袋を高く挙げていた。
「今参ります」
「いや~今日も暑いなぁ」
「ふふ、そうですわね」
浅黒く焼けた肌、半袖から伸びた岩のような筋肉で肥大化し太い血管が幾つも浮き上がる腕。
太陽の光に反射する汗。
まぶしい笑顔、これを見ているだけでやる気になる。
祐治さんがいたからこそ今の会社がある。
最初の頃は上手くやっていけるか自身がありませんでしたけど、祐治さんの圧倒的な肉体から生み出される豪快な解体術に憧れて続々と社員と仕事が増え、今では一部上場するほどの大きさにまでなった。
もちろんわたくしだって努力しました、それは皆さん認めてくださいます。
ですがそれ以上に祐治さんと一緒にいられることが........
「は!?ゆ、夢でしたのね、は、ははは」
活動報告でアンケートをとりたいと思います。
セシリアの扱いについてです。
ちなみにビーム撹乱弾はMSイグルーでビグ・ラングが撃ってたあれ。