IS 散弾の閃き   作:mizurahi

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20話 従者と主 

目が覚めるとそこには江戸時代を思わせる町並みが広がっていた。

四方を山という天然の城壁に囲まれ、真っ直ぐに伸びた道の先には一際大きな山があり、それと一体化したような城、山城があり車が通ることを前提としていない細くて舗装されていない道、周囲には立派な武家屋敷に長屋、茶屋、蔵など、現代ではまずお目にかかれない様々な建物が立ち並んでいた。

 

「これは打鉄の専有領域なのか?」

 

「正確には専有領域との境だよ」

 

祐治は江戸時代にタイムスリップしたような感覚を心地よく感じながら独り言を呟くと、それの答えが帰ってきた。

周囲には人影が見えず誰もいないだろうと思っていた祐治は予想外の反応に周囲を見渡して声の主を探す。

 

「いない?」

 

「ゆうくん、こっちこっち」

 

声はすれど姿が見当たらないと周囲を見渡していると、袖を誰かに引っ張られる。

 

「あれ、もしかしてシノン?」

 

「やぁ」

 

声の主はシノンであった。

何故見つけられなかったかと言うと、シノンの身長が祐治の腰の高さと同じくらいで、すぐ側に立っていたため丁度視界に入らなかったのである。

 

「ほう、本物だ」

 

シノンの背丈に会わせるように腰を落として目線を合わせた祐治は立体映像で映し出されているデフォルメされた姿では無く、服装はそのままに3~4歳児ほどの幼女になっているシノンの頭から生えた兎耳を触ったり頭を撫でたり頬をつついたりしていく。

 

「ちょ、ちょっと〜」

 

まさかこうやって人工知能であるシノンに触れたりできるなんて思っても見なかった祐治は、つい嬉しくなってしまい少し嫌がりながらも拒絶されないのをいい事に触れ合う事をやめれなかった。

 

「ふう」

 

「満足した?」

 

「それはもう大満足です。それにしても、ホログラムの時と見た目が違うけど」

 

「だってゆうくんロリコンさんでしょ?」

 

「一体何時からそんな設定になったんだ?確かに幼い女の子は好きだけど、ちゃんと理由があるんだからね?」

 

「可愛いからでしょ?」

 

「まぁ確かにシノンは可愛いんだけど、それだけじゃないんだよね。幼い子ほど女尊男卑の考えに染まってないでしょ?それだけなんだけど」

 

「知ってた!!」

 

「からかったなシノン」

 

「ひゃ~たすけて~」

 

そんなくだらないやり取りをしながら祐治はシノンの柔らかい頬を軽く抓むと痛くならないように注意しながら引っ張ったり押し込んだりしてお仕置きをする。

 

「ふあ~、ふうくんほろほろふちがねのほころにいこほよ(ゆうくんそろそろ打鉄の所に行こうよ)」

 

「それもそうだな、何か用があって呼ばれたんだろうし」

 

楽しいシノンとのやり取りですっかり忘れていたが、ここはISのコアネットワーク内にある打鉄の専有領域との境目。

打鉄の点検整備が終わってすぐに強制的に没入(ダイブ)させられたところを考えると急用だったり、整備に不満があるのか....何となく理由は解っているけれど。

とにかく呼ばれたからには会わなければと思い、シノンの頬を離して軽く撫でた後、打鉄の下まで案内してもらうように促す事にした。

 

「それじゃ早速行ってみようか、シノン案内よろしく」

 

「あいあいさ~」

 

そういってシノンは打鉄の下へと向かって歩き出すが、見た目が3~4歳児のシノンと祐治では歩幅に大きな差があるため祐治の前を駆け足気味で進むシノン。

 

「うわぁ!!」

 

「おっと危ない、その身体で焦るのは良くないぞ」

 

3~4歳の身体というのは成長段階で全体のバランスが悪く、ちょっとした事で転びそうになるため、祐治はシノンのすぐ傍で対応できるように構えていた。

そのお陰で転びそうになったシノンは祐治に支えられ、転ばずに済んだ。

 

「ありがと!!」

 

「どういたしまして、ほら手を出して」

 

「うん!!」

 

支えていたシノンを立たせると手を取り、転ばないように並んでゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか?」

 

シノンに連れられてやって来たのは巨大な山城の正面。

 

「この山城の中が打鉄の専有領域。で、打鉄はこっち」

 

シノンが指差したのは城ではなく、城を正面に見て右手にある小さな道場。

この道場の中に打鉄がいると言う事なのだが、なぜ専有領域にいないのだろうか、そんな疑問が浮かんでくる。

 

「とりあえず入るか」

 

祐治はシノンの手を引き、道場へと入っていった。

 

開け放たれた道場の入り口から中へと入る。

入り口は木製の引き戸が備え付けられており、入ってすぐに石を敷き詰めた玄関があり。50cmほど上がった先に中央を四角く板張りして四方を畳で囲う道場が広がっていた。

そして中央奥の畳の上に正座をして姿勢を正した状態で瞑想している人が一人。

 

「あれが、打鉄か」

 

「そう、それじゃゆうくんがんばって!!」

 

どうやらここからは一人で行って来いと言う事なんだろうとシノンの言葉から判断し、石畳で靴と靴下を脱いで道場に上がった。

 

「来たか」

 

祐治が道場に上がり正座をしている打鉄に向かって歩いていくと祐治に気が付いた打鉄が目を開き立ち上がった。

凛とした打鉄の声が響き渡る。背中の中ほどまである烏の濡れは色の艶のある髪を後ろで一本結びにし、美しい髪をなびかせている。

顔立ちも精悍で鋭い目つきで祐治を睨めつける。

紺鼠色の袴と道着を身につけ足袋を履き、左手に木刀を持っている打鉄は、その木刀を祐治に向ける。

 

「この恨み晴らさせてもらおうか!!」

 

その言葉と共に打鉄は畳を蹴るように踏み込み、人間離れした瞬発力で祐治に肉薄した。

 

「やはり来るか、気が済むまで相手になってやる!!」

 

打鉄の人間離れした踏み込みから勢いをそのまま乗せた

真向斬り。

大きく振りかぶり巧を描くように降り下ろされる木刀を祐治は打鉄に左肩を向けるように体をひねる事です避ける。

だが畳に打ち付けられる寸前まで降り下ろされた木刀が勢いを殺す事なくVの字を描く様に祐治に向かってた。

 

「っつ!?」

 

向かってくる木刀を両腕の前腕部で受け止めると痛みと共に後方に1m程吹き飛ばされた。

 

「ゆうくん、見た目に惑わされちゃ駄目だよ。手加減してくれてるけど相手はISだからね」

 

「ご丁寧にどうも」

 

今のは掬い上げる様な物だったから吹き飛ばされるだけで痛みは大した事なかったけど、あれだけ吹き飛ばされるなんて異常だ。

だが相手がISなら納得できる。最初の降り下ろす一太刀を運よく避けれただけ儲け者か、あんな物にまともに当たっていたら今頃どうなっていた事か想像するだけで全身が震え上がる。

 

「どうした?その程度か?某が受けた屈辱がこの程度で許されるものと思わない事だ」

 

振り抜いた木刀を構えなおし、今にも切りかかってきそうな程の殺気を滲ませ祐治を睨みつける。

 

打鉄の怒りはよくわかる。実際にばらして自分の目で見たからね。

生半可な扱いじゃあそこまで酷くはならない、それほどまでに酷い有様だった。

 

そしてISコア、これはシノンから聞いた話だけど彼女らは大なり小なり人間と交流することを楽しみにしていた。

そして待ちに待った人間との交流の結果があれだ、怒りたくもなるさ。

だが失望していないのが不幸中の幸い、まだ何とかできる。いや、俺が何とかするしかないんだ。

 

祐治はしっかりと打鉄を見据え、必ず彼女の思いに答えてやろうと覚悟を決めた。

 

「まだ立ち上がるか。だが好都合!!」

 

言葉と共に自身の間合いへと一瞬で踏み込む、そして祐治の腹部へ向けて木刀を横薙ぎに払う。

 

「ぐっ!!!」

 

祐治の反応速度を持ってすれば避けれなくとも防ぐ事くらいなら出来たかもしれない。

だが、そうしなかった。祐治は自身の分厚い腹筋で木刀を受け止めた。

 

まだだ、まだ足りない!!

 

それから何度も打鉄の振るう木刀を体に受る。

だが祐治の目に曇りは無い。灼熱の闘志が瞳の奥で爛々と輝き続け、今か今かと機会を伺う。

 

何故、戦場太郎が有名になったか。

スラッグ弾や偏差撃ちが得意で反射神経に優れる人はいくらでもいる。

祐治もその中の一人だが、彼にはそれを最大限に生かす予知能力に近いずば抜けた洞察力と判断応力の高さがある。

最初は自分ならこの状態でここを通る、だからここで待ち伏せすれば一方的に攻撃出来る。

その程度の物だったが、数を重ねていくうちに自分の行動原理を元にした予測を建て相手を翻弄し常に有利な立場に立ち続ける様になる。

それが戦場での生存時間を飛躍的に高める結果となったため祐治は相手を観察する余裕が生まれる。

そうして長い間相手を観察していると少しずつ相手が攻撃してくるタイミングが掴めるようになり、更には攻撃タイミングをわざとずらし自分に有利になるように相手を誘導する事もある。

そう言った物の積み重ねにより戦場太郎というスーパー歩兵は

 

「多分敵はあそことあそこにいる」

自分ならここを通る相手に対して優位に戦うならそこから狙う。

こういった立ち回りは流れの速い戦場ではゆっくりと考えている暇など無く、大体の動きは無意識に行ってしまうため、祐治は頭を空にしてひたすら戦場を走り回り自分なら無意識にどういった立ち回りをするのかを調べあげた。

 

「ならばここを通って行けば死角になるし、同時に攻撃される心配もなくなる」

 

戦場を走り回り、頭の中に細かな地形情報を持つ祐治は相手のいる場所さえ解ってしまえば、そこから狙うと死角になる場所、相手に気が付かれずに倒すための道筋や手段を持つ。

 

「一つ、二つ、三つ....クリア」

 

そういった情報と能力を最大限に生かせば、どんな境地だろうとも一秒にも満たない一対一の有利な時間を作りだし圧倒的な反応速度とAIM力をもって生き残る。

 

これが戦場太郎がスーパー歩兵と呼ばれる要因である。

 

そしてこれを現在置かれている状況に置き換える。

 

.....今!!

 

祐治が来ると思ったタイミングで木刀が降り下ろされる。

 

「っく」

 

それを左腕で防ぐ。

幾度となく降り下ろされる木刀を体に受け続け祐治の体はボロボロである。

今の一振りで感覚の無くなっていた左腕に力が入らなくなりだらしなく垂れ下がり、しばらく使い物にならなくなってしまう。

 

だがそれでも両足で力強く床を踏みしめ、最初に受けた一撃以外だけを防いだ右腕は、ほぼいつも通り。

爛々と輝く闘志を秘めた瞳には一切の曇りはなく、天井知らずの高まり続ける高揚感のせいか痛みと言う感覚がまるで無く、打鉄が向けてくる殺意すら心地よく感じてしまっている。

 

「ゆうくん!!受け取って!!」

 

「待ってました!!」

 

シノンから投げられた物、それは小太刀サイズの木刀。

これを右手で掴み素早く構える。

 

「もし、俺が勝ったら一つお願い事を聞いてもらえるかな?」

 

「勝つ未来があればな」

 

一切表情を変えずに言い放つ打鉄。

その一言に祐治は一瞬口角を吊り上げ笑みを浮かべると打鉄を見据え、集中力を高めていく。

 

次の一手で決める。

 

祐治は心の中で確固たる決意をし、打鉄の次の一手に対応すべく構えを取る。

 

祐治は受け取った小太刀に持ち、胸元で構える。そして左肩を打鉄に向けるように少し半身になると姿勢を落とす。

そして今までは受ける一方だったが初めて打鉄の間合いへと足を進めていく。

 

 

一歩、また一歩と祐治と打鉄は己の攻撃が届く間合いへと近づいていく。

だが二人には武器の間合いの差と言う決定的な違いがある。

普通の木刀を持つ打鉄の方が明らかに有利である。

それに比べて祐治は剣道や武術に関してはまったくの素人で完全な射撃能力特化である。

そんな祐治が打鉄に勝つためには小太刀の素早い振りを最大限に生かすしかない。

 

だがそんな境地に立たされていても祐治には勝算があった。

確かに剣術や武道と言ったものには縁が無いが、彼は《プラネット・フィールド》を一万時間以上プレイしている。

そんな祐治はローカルサーバーであるナイフ鯖というナイフのみで戦うサーバーにも長らくお邪魔していた時期がある。

そこではキャラクターの性能は皆同じ、そんな中でナイフ一本で戦っている者たちに必要なもの、それは間合いを完全に見切る能力である。

ここでナイフ廃人と散々戦ったことにより現実世界で格闘術の経験が無いにもかかわらず、祐治は間合いを完全に読みきる能力が備わっており今まで何度も何度も打鉄の木刀を受けた事によって。

 

打鉄の間合い、攻撃するタイミングをほぼ完全に見切っている。

 

もちろんそれに気が付かれない様に避け損ねたように見せたり、防ぐこともせず身体で受けたりと言うのを繰り返してきた。

だがシノンから受け取った小太刀サイズの木刀を手にした事によって全ての準備が整った。

 

さぁ行くぞ。後一歩.....そこだ!!!

 

ゆっくりと間合いを詰めて来た打鉄が床を踏み込み一気に距離を詰めながら上段から木刀を振り下ろす。

 

「な!?」

 

だが祐治はそれを完全に読み、打鉄より間合いが狭い分彼女より僅かに早く踏み込む。

祐治の鍛え抜かれた脚力から生まれる爆発的な力は打鉄の踏み込む速度に迫る勢いで自身の身体を加速させ木刀が振り下ろされるよりも早くに小太刀の間合いに踏み込む。

そして振り切れていない木刀を小太刀ではじく。

 

カン、という木刀同士がぶつかり合う乾いた音と共に道場に静寂が訪れる。

 

「負けた、か.....」

 

そう呟く打鉄の首筋には小太刀が添えられていた。

 




長くなったから二分割。

オリジナルキャラが増えすぎて性格を考えるのが大変。

近いうちに登場させるコア、ブルー・ティアーズとレーゲン三姉妹。
倉持技研から一人、祐治に近接武器を作る鍛冶屋を一人。

あと戦闘パートなんだけど射撃だけだと結構すらすら書けるけど格闘メインだと私自身にそういう物の経験が無いから書くのが大変。
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