「お~!!ゆうくんやったね!!」
祐治の勝利を見届けたシノンが道場に上がり走って向かってくる。
だが祐治はすでに限界を超える身体の負荷に、立っていることすらままならない状態で勝った事を確認するとその場に倒れこみそうになる。
「お疲れ様です、ご主人様」
心地よい風と共に暖かく柔らかい何かが後ろから抱きつき祐治の倒れそうな身体をしっかりと支える。
「ラファールか、ありがとう助かるよ。少し支えておいてくれ立っているのがだいぶきつい」
「はい、喜んで」
勝利を確信した瞬間から高揚感が急速に引いていき、今まで感じなかった痛みや疲れが一気に襲ってきたことにより祐治は一人で立っているのすら困難な状態に陥ってしまったが、ラファールに身体を支えられながらも駆け寄ってくるシノンはしっかりと受け止める。
「ラファール!!なぜ人間に味方する」
「えーと....私はご主人様の使用人であって人間の味方と言う訳ではないのですが」
祐治を後ろから抱きつく形で支えているラファールは祐治の脇から顔だけを出して打鉄の疑問に答える。
「打鉄だって私と同じ様に仕えるに足りうる人を探してたんじゃないんですか?私は見つけましたよ?」
そういってラファールは祐治を支えている腕に少し力を込めて身体を密着させる。
「ねぇ打鉄。もしかしてISとのリンクって切ったままなんじゃない?そろそろ繋いでもいいんじゃないかな?」
コアとISのリンク
ISと言う乗り物を動かす際にはコアが操縦者の意思を汲み取り、それをISに反映させると言うのが最も効率よくISを動かせる。
そしてIS適正の高い操縦者と言うのはコアが搭乗者にどれだけ興味を記しているか、と言うのもで、興味のある相手には進んでどうしたいのか、何を考ええいるのかと言うのを積極的に汲み取ろうとするので、結果的に反応速度が上がったりする。
適正の低い搭乗者にはそれと反対のことが起きる。
「なぜ今になって、その様な事を」
「まぁまぁ、いいからいいから」
「シノンがそこまで言うなら致し方ない」
ラファールの発言に何か考えるようなそぶりを見せる打鉄だったがシノンの言葉に素直に応じる姿をみて実はシノンて結構凄いやつなんじゃないか?そんな疑問を抱くようになった。
「それにしてもラファールはどうしてここにいるんだ?」
「えーと....私はご主人様に仕えるのが第一ですから、ご主人様の為とあれば何処へでも駆けつけます」
そういって笑みを浮かべるラファール。
世界の戦力バランスを崩したISにそう言われると非常に心強いな。
まだまだ自分の身を守りきれる自信は無いけれど、シノンにラファール、デュノア社と少しずつではあるけど確実に味方が増えていく。
一夏は自分の置かれている立場を理解し切れていないみたいだけど、世界最強と名高い姉や篠ノ野 束博士が付いているから簡単には手出しされないだろうけど頼る事は出来ない。
「どうしましたご主人様。とても難しそうな顔をしていますけれど....」
「そう?ラファールにそう言ってもらえるなんて心強いなと思ってね。これからも色々あるだろうけどよろしく頼むよ?」
「はい!!ご主人様のためにがんばります!!」
まったくラファールの笑顔は反則技だな。
屈託の無い祐治を完全に信頼しているラファールの浮かべる笑顔を見ていると自然と気持ちが落ち着いてくる。
そしてここまで信用してくれているラファールの気持ちを裏切る事無く、更なる信頼を得るために自分に出来る事は手を抜く事無く最大限に行っていこうと言う気持ちになる。
「ちょっと~、ゆうくんラファール、私もいるんだからね」
「判ってるよ、それにこうやってラファールや打鉄に会えたのはシノンのお陰なんだから常に感謝しているよ」
「私もシノンのお陰でこうやってご主人様に巡り合えたのですから感謝しても仕切れません」
「ふふ~ん、判ってるならいいよ」
「なんだこれは」
祐治がラファールとシノンの二人と何気ない会話をしていると、先程まで黙っていた打鉄が目を見開き驚いたような声を上げる。
「いや、これは何かの間違いでは?」
打鉄は何かを言いながら道場から出て行ってしまう。
「どうしたんだ?」
「追ってみましょうか」
そうして三人は出て行った打鉄を追うために道場を後にした。
外に出るとそこにはISを身に纏った打鉄が佇んでいた。
「コアネットワーク内でもISって展開できるのか」
「出来るよ。できると言っても現実世界のISを再現するだけだからラファールが打鉄を展開したり、打鉄がラファールを展開することはできないんだけどね」
「そうか.....たとえば俺がこの場でISを展開する事って出来ないのか?」
「どうなんだろ?前例が無いから何とも言えないかな」
「えーと....それなら出来ますよ。IS自体を再現するだけならそれほど難しくはありませんから。でもご主人様以外は無理ですね。出来ない事はないんですけど、やりたくありません」
「裏を返せばコアと仲良くなればISに乗せてもらえるかもしれないって事?」
「はい、そうなります」
「そうか、機会があれば乗る事もあるかもしれないね」
と言う事はISの訓練をコアネットワーク内で出来るかもしれないということか。
学園じゃ満足に乗れないしトレーニングもしなきゃいけないからこれを上手く利用しよう。
「シノン、このISを直したのは君か?」
「違うよ、私とゆうくんだよ」
「どうかな打鉄、何か不具合とか気になる事はあるかな?言ってくれれば戻った後に直しておくけど」
「い、いや問題は無いでござる。某としたことが恩人に酷い事をしてしまった」
「ござる?」
「えーと....打鉄?無理して変な喋り方する必要も無いと思いますけれど」
「え?あ、こ、これは違うでござ....いや違うぞ」
「俺もこっちの方がいいかな、あんなにつんけんされたら楽しくおしゃべりも出来ないしね」
「ん~....と、とにかくそれは置いといて。お主はこれを直してくれたんだな?」
「その通り。とにかく酷い有様だったよ、それで何か問題は無いか?」
祐治の言葉に打鉄は目をせわしなく動かしこちらからでは見えないISの細かなデータを確認し始めた。
「問題....無し。完璧だ」
「それはよかった」
「いやよくない。某はお主に酷い事をしてしまった」
「そんなに気にする事はないぞ。最初に酷い事をしたのは我々人間の方だ、あれだけで済んだのだから俺としては幸運だと思っているんだけど」
「い、いやしかし」
「それにね。よく考えてみればISコアって地球に住む人類が初めて出会ったそれ以外の知的生命体だよ?それに現実世界と区別が付かないほど精巧に再現されたこの仮想世界、これを再現しているコアネットワークの処理能力は既存のコンピューターを圧倒的に上回っている。はっきりって脅威だから絶対に敵にはまわしてはいけないと思うんだ。
それにさっきのは溜まった不満を少しでも取り除ければなと思ってやったことなんだよ。
本当は整備に不満があって呼び出されたのかと思ってたけどさっきの話しを聞いてると知らなかっただけで、整備していた事を伝えていたら滅多打ちにされずに済んでいたかもしれないね」
「と、当然でござる!!某は人間に使われるために生み出されたのだからISさえ万全の状態ならば文句は無いでござるよ!!」
「そうか、これからは打鉄に認められるように精進していこうかな。まだ未熟者だがこれからよろしく頼むぞ打鉄」
「応、でござる!!」
祐治が差し出したては打鉄にしっかりと握り返され、先程まで殺気を振り撒いていた人物とは思えないほど晴れやかな笑みを浮かべる打鉄を見て、祐治は絶対に裏切らないようにしようと心に誓うのであった。
「さてと、そろそろ寝る時間だし戻ろうかな。ありがとうラファール」
「どういたしまして」
「そうか、帰ってしまうか」
「ふふ、そんな残念そうにしないでよ。明日時間を見つけてゆっくりと話そう」
「お、応....」
自分が残念そうな表情をしている事を指摘され顔を赤くしている打鉄とのこれからの関係を考えながらシノンにログアウトプロセスの起動を促す。
「おはよう」
「ん??あぁ....おはよう?」
コアネットワークから現実世界へと戻り意識が覚醒すると後頭部に柔らかな感触と気分が落ち着く柔らかく優しい匂い、そして美少女の顔が目と鼻の先に目一杯広がっていた。
「えっと、更織さん?」
「簪」
「えっと?」
「簪」
「か、簪さん?」
「簪」
「....簪」
「うん、それでいい」
「一体何をしているのでしょうか....」
「膝枕」
不思議な体験をしている。目が覚めたら凄い美少女に膝枕をされ、名前で呼ぶように強制された。
記憶力に自信があるわけではないが彼女、簪とは初対面のはずなのに彼女はどうしてこんな事をするのだろうか。
「あの〜、こうしてもらえるのは嬉しいんですけど、身体中汚れまみれで簪の制服が汚れてしまうから、顔を離してもらえないかなーって....」
軍手越しにも関わらず真っ黒になった手で押し退ける訳にもいかない。
汚れた軍手で顔を拭ったせいで体をひねる訳にもいかず、近すぎる簪の顔が退かない限りこの状態から抜け出せそうにない。
「どうして倒れたの?」
祐治のお願いを無視して簪の瞳は祐治だけを見つめて問い詰める。
「フランスから帰ってきてそのまま戦って今に至るから、その....疲れが出たんですよ」
本来アラスカ条約で禁止されているコアネットワークへの没入。これだけでも大問題なのにコアと対話しているなんて事がバレたら一大事どころの騒ぎではない。
そう判断した祐治は嘘をつくことにした。
「.....」
簪は大きな瞳で祐治を見つめ続ける。
そしてその瞳は更に大きさを増し....
「ち、近い....」
「ふぅ」
鼻先が触れ合うほど近づいた簪は小さなため息を一つつくと上体を起こした。
祐治はその一瞬を逃さず上体を起こし、勢いそのままに立ち上がる。
あっという間に膝からいなくなった祐治に名残惜しそうな視線を投げかける簪は、そのままゆっくりと立ち上がり「待ってるから」と一言残して整備室から去っていってしまった。
「一体なんだったんだ.....」
答えが返ってこないと知りつつも混乱する自分を落ち着かせるために祐治は呟いた。
そしてそんなやり取りを一人の少女が覗き見していた。
こ、これは一大事かも!! あのかんちゃんがあんなことするなんて。これはおねぇちゃんに相談だ。
この作品のヒロインは簪です
次話から戦場太郎と簪の関係が進展します