簪ちゃん大幅強化第一弾。
それと短め。
祐治が簪に果たし状を手渡して一週間が経った放課後。普段ならば祐治しかいないこの第五アリーナ。
このアリーナにある中央の直径15M程の唯一まっ平らな円形の部分に二つの影があった。
更識 簪
日本の量産型IS、打鉄を身に纏う彼女は日本の代表候補生でありながら織斑 一夏の登場で専用機の開発が大幅に遅れてしまうどころか、一向に開発再開の目処が立っていない不運な少女。
だが目の前に立っている彼女はどうだろうか?堂々とした佇まい、祐治へと向けられた視線には力強さと全てを見透かされているような不思議な力を感じ取れる。
そしてその正面に立つ桐島 祐治。簪と同じく打鉄を身に纏っているが、そのISは光を反射し周りの景色を薄らと映し出すほどに磨きあげられている。
彼はISの適性があるとわかってから僅か2.3ヶ月の間に信じられないような勢いでISの操縦技術を成熟させ、その実力はイギリス代表候補生を無傷で打倒すほど。
だがそんな彼は、そう言った事にも一切慢心する事無く高みを目指し続け、その一環として日本の代表候補生との一騎打ちを今まさに行おうとしている所である。
「よし!!準備はいいか?」
「いつでも」
祐治と簪との距離は約5m。祐治の掛け声と共にお互いに武装を展開する。
「行くぞ!!」
祐治は開始の合図と共に小太刀を構えると。同じように
そして簪の間合いに入る寸前で朧月を使い背後を取る。
「ん?」
だが祐治は自身の間合いでも無い、まして完全に背後を取っているにもかかわらず小太刀を振るう。
そして祐治が小太刀を振るうと同時に簪は振り返る事無く正確に祐治に向けて夢現を突き刺す。
祐治が振るった一太刀は簪が突き刺した夢現を撫でるように弾き、僅かに太刀筋がずれた夢現の切っ先は紙一重で顔のすぐ真横を通り過ぎていく。
だが弾かれた夢現は簪が振り向こうとする力をそのままに祐治の顔を切り裂かんと横薙ぎに振るわれた。
しかし夢現は何の手応えも無く虚しく空を切り裂くだけだった。
「疑似バックブースト....」
簪は祐治へと振り向き、夢現を構えなおすと短く呟いた。
《疑似バックブースト》
左右への緊急回避があるFPS TPSで使われる小技の一つ。
左右への緊急回避、ロールやドッヂ、ブースト移動と言った緊急回避用の行動がある半面、後方への緊急回避が無く、後退しながらの射撃、引き打ちをしようにも通常時の移動に比べて後方への移動は非常に遅い場合が多く、そう言った場合に使用される小技。
正面を向いた状態から右もしくは左へ視点を90度移動させ、右へ向いたのなら右への緊急回避、左へ向いたのなら左への緊急回避を行い、すぐさま視点を正面へ向ける事によって疑似的に後方への緊急回避を行う、これを疑似バックブーストと呼ぶ。
さらにこれの応用に慣性バックブーストと言うものがあり、後方へ下がりつつ右、または左へ緊急回避を行うと斜めバックブーストとなり、右、左と交互に行うことによって正面を向いた状態でジグザグに下がれるため、被弾率を大幅に下げるつつ相手に対して一方的に攻撃する事が出来る。
なんだか不思議な感覚だ。
打鉄との一週間、俺の睡眠時間である約8時間の全てを一対一の実戦訓練に充て、何とか合せられるようになってきたと言うのに彼女とはどうか?
たった一言二言しか交わしてないと言うのに手に取るように動きがわかる。
そして彼女も。
「いくぞ!!」
祐治は気合の籠った掛け声と共に距離を詰めるために一歩踏み込む。
そして二歩目は
勢いそのままに小太刀で突き刺し、それと同時に朧月を使い胴部を引き裂くような大きな被害を加えようとする祐治。
だがあと一歩という所で簪は夢現をすくい上げるように振り上げ祐治が突き刺さんと構えていた小太刀を上方へと弾く。
弾かれた小太刀をしっかりと握り、弾き飛ばされる事を防げた祐治は、体勢を崩しながらも今まさに振り下ろされようとしている夢現を回避するために朧月は発動し、横薙ぎに一閃。
だがそれも振り下ろしながら後方に突き出された夢現の柄で往なされる。
「私の簪ちゃんが、あんなに楽しそうに....」
「楯無お嬢様....」
「かんちゃ~ん、きりり~んどっちも頑張れ~」
そしてそんな二人の姿を観客席から見守る数人の姿が有った。
生徒会長であり簪の姉であり、学園最強とうたわれる
同じく生徒会役員であり本音の姉である
そして祐治と同じクラスの本音。
盛り上がり続ける二人の演武の様な戦いに徐々に魅了されて行く三人。
その三人が見守る中 祐治と簪はまるで踊る様にお互いを信じ、全力で求め答えるかのように攻撃を受けては弾き、答えては往なす。
何度も何度も繰り返し行ってきた舞の様に全力でありながら危なげなく、激しく吹き荒れる風の様に絡み合い舞い踊る
お互いの持つ技術を惜しむ事無くぶつけ合い、決闘でありながらお互いが最大限に楽しんでいるというのがありありと伝わってくるようだった。
そして見られているかどうかなんて眼中に無い祐治と簪は打ち合うたびにお互いを少しづつ確実に理解を深め、燃え上がるような熱い情熱をぶつけ合い激しさを増す動きは信用が信頼へと昇華していく過程そのもの。
打てば響く
阿吽の呼吸
百戦錬磨の
お互いに確かな実力があるのは当然ながら、相手を深い所から理解し合う二人は、個々の力では到達できない領域へと足を踏み入れ、一と一が混ざり合い二ではなく十にも百にもなるような天井知らずの化学反応を起こす。
今まさに世界に二つとない一対となる歯車が噛みあおうとしている瞬間だった。
この感覚は....そうか。彼女がそうなのか。
太郎、やっと気がついた?待ちくたびれた。
仮想の戦場で出会い、惹かれあう二人は決して交り合うとこの無い世界で生きていた。
だが仮想世界とISが広大な砂漠に落とされた一粒宝石の様な可能性を探し当てる手助けとなり二人はそれを見つけたのである。
寸分の狂いなく噛みあった歯車はゆっくりと二人の新たな世界を動かし始める。
激しさを増し続ける動きとは裏腹に、二人だけの世界は徐々に靄がかかり、お互いの体温を肌で感じているような心地よい感覚が祐治と簪を包み込む。
ちょっと短いけど次からは普通の長さに戻す。
簪ちゃんて精神面をちょっとどうにかするだけでチート化しそうだったからやってみたかったんだ。
次は現実世界での初めての共同作業です、お楽しみに。