「あー、こんな事になるなんて聞いてないんですけどー」
シールドエネルギーの切れた打鉄を除装し、地べたに仰向けで大の字に横になった祐治が力無く口にした。
流石は主、お見事!!
えーと....ご主人様かっこいいです!!
ゆうくん!!凄いよ!!
と世界一可愛い(祐治視点で)三人娘にそう言われると、「まぁ、悪くない気分かな?」なんて頬を緩ます祐治であった。
「そうだそうだ、操縦者どうなってるんだろ」
よっこいしょ、と大げさな掛け声と共に疲れ切った身体に鞭を入れ起き上がると雷電をよじ登り操縦席へと向かう祐治であった。
「お客さん、終点ですよ」
もうちょっとまともな声のかけ方無いの!?とシノンから突っ込みを入れられながら、コンコンとキャノピーを軽く叩き中に居るであろう操縦者に向けて声をかけてみるが反応なし。
しかも偏向ガラスか何かを使っているのか外からでは中の様子がうかがえないので操縦者がどうなっているのか祐治には解らずじまいだった。
「キャノピー開けてみようか」
さてどうするかと悩んでいる祐治に声をかけたのはシノン。
雷電の噴進器が壊れた際も外部から機体を制御したりしていたので、そう言う事も出来るのかと祐治は一人関心すると、頼んだと短く告げた。
「えーんど、おーぷーんってね」
シノンがキャノピーを開けるのに合わせて某
そこには一人の祐治と同じくらいの年の少女が寝ているかのように穏やかな表情を浮かべていた。
彼女、オストヴィントの状態を確かめるべく操縦席を見渡す祐治だったが、どうにも違和感が拭えなかった。
機体を操作するための操縦桿の様なものこそあれど一般的な操縦席とは大きく異なり計器などの機体の状況を確かめる物や、各種スイッチの様な本来あるはずの物が一切無い。
それどころかオストヴィントの座っている、と言うより軽く仰向けに寝転がっているような操縦席は彼女専用に作られた専用の空間かと思えるほどに彼女を包み込む様な形状のシートであった。
しかも対Gスーツの様な物も着ていないし足をゆったりと伸ばし、背を完全に預け、手を軽く前に出した姿勢は、とてもこの機体を操縦している様には見えなかった。
「それは置いておいて、えーと起きてくださーい」
これは人をダメにするシリーズの新作かな?なんてくだらない事を思いながらも祐治はオストヴィントに声をかけるが反応なし。
首筋に手を当て脈を測る、異常無し。
口元に手をかざし呼吸をしているか確認、異常無し。
体温も異常無し、目立った外傷も無し。
「たぶん気絶しているだけでしょう」
簡単な応急処置程度ならできるが航空機の操縦者に対する処置の知識など持ち合わせていない祐治は下手に手を出すのを止めて迎えに来るであろう特自の隊員達を大人しく待つ事にした。
「おーにーさまー!!」
とりあえず命に別状は無いだろうと判断した祐治が疲れた身体を休めるために雷電を飛び降り横になっていると聞き慣れた可愛らしい声とディーゼル車特有のエンジン音が聞こえてきた。
その声と音のする方へと視線を向けると自衛隊で採用されている、いすゞ73式大型トラックが一台こちらに向かって走ってきている所だった
そしてその荷台からは黒兎隊の面々が満面の笑みを浮かべながら祐治へと手を振っていた。
「「「お兄様!!」」」
73式大型トラックが止まると荷台から元気よく飛び出してきた黒兎隊が祐治の前で整列し、見事な敬礼を披露して見せた。
「相変わらず元気そうだね。ハンナ、リリー、吉田」
黒兎隊の中でも特に祐治の事を気にかけている三人が我先にと飛びだし、それに少し遅れる様にしてトラックの荷台から降りて来たのはクラリッサとアリサ。
「わざわざ来てもらったのにこんな事になってすまない」
「いや、気にしないでください。これでも結構楽しんでいるんですから」
申し訳なさそうに頭を下げるクラリッサに対して笑みを浮かべながら気にするなと声をかけると少し表情が柔らかくなり気が楽になった様に見えた。
「すみません、私が勝手な事を言ったばかりにこんな事に....」
「そうか、アリサのおかげか。いや良い体験をさせてもらったよ、アリサには感謝してもしきれない位ににね」
祐治にしてみれば今回の件は特殊な体験と言うだけで無く、特自との接点ができると言うのが最も大きなところだった。
「桐島 祐治君だね?」
「え?はいそうです」
黒兎隊との挨拶を終えたのを見計らうようにして声をかけて来たのは二型迷彩服を身に纏った特自隊員と思われる人物。
「皆を代表して礼を言いたい。ラインリッヒ一尉の身を守ってくれて本当にありがとう」
そう言って深々と頭を下げる隊員、周りを見るとトラックから降りて来た数名の隊員が同じような行動を取っていた。
「そんな!頭を上げて下さい。当たり前のことをしただけじゃないですか」
「当たり前、君の中ではそうなのか。そうかIS乗りにもこんな良い奴がいたんだな....」
その言葉を聞いて確かにIS乗りにまともじゃない人が多いなと思いだし、その人たちなら雷電と中に乗っている少女をそのまま葬り去った可能性もあるかな、と思う祐治だったが冷静に考えてみるとラファールも打鉄もシールドエネルギー切れまで追い込まれるほどの強敵に果たしてどれだけのIS操縦者が相手になるかなと考えるといらぬ心配かもしれないと思うのであった。
「とにかくありがとう」
「いえいえ、それより雷電の操縦者、ラインリッヒさん?彼女の容体はどうなんですか?」
「それなら今調べてもらってる所だが命に別条は無い、脳に過負荷がかかったために一時的に保護機能が働いただけだ。少しすれば意識は戻るから大丈夫だ」
「それは良かった」
「とにかく疲れただろう。あのカーゴに乗ってゆっくり休んでいてくれ。ラインリッヒを機体から降ろしたら一緒に本部へと向かう」
黒兎隊が乗って来た73式大型トラックを指さしながら休んでいいぞと言われたので、お言葉に甘えてトラックの荷台へと乗りこみ黒兎隊の面々と会話をしながら時間が経つのを待つのだった。
幌で覆われた73式大型トラックの荷台に乗りこみ研究所へと向かっている祐治達一向。
このいすゞ73式大型トラックは標準積載量(悪路や精密機器を搭載した時の最大積載量)3t半、最大積載量6t。過去何度も発生している自然災害で多大な活躍をした傑作車両である。
幌で覆われた荷台には左右に長椅子の様な座席が設けられており、人員だけならば22名の輸送が可能である。
現在この荷台には左側にハンナ、祐治、リリーの三人。向い側にはクラリッサ、吉田、アリサと言う並びで座っている。
そして中央には雷電の操縦席にあった座席ごと荷台に乗せられた気絶中のオストヴィント、そして先ほどまでいた特自の隊員は雷電を回収するための車両が来るまで運転手と助手席に乗る一人を除いて現地待機となった。
「んー......」
一人唸りながら今だ気絶しているオストヴィントの顔を覗き込む祐治。
「どう、したんだ?」
それに気がついて声をかけるハンナ。
「いえね、雷電と直接やりあって今こうして操縦者を見るとどうにも腑に落ちない所があって」
あれだけの高機動戦闘を行っておきながらGスーツも無し、操縦席にある筈の計器類や各種装置の少なさ。いったいどんな仕掛けがあるのか祐治は気になってしょうがなかった。
「それは我々も気になって聞いてみたのだが、軍事機密と言う事で教えては貰えなかった」
「そうか、そんなに凄い技術なのか」
ますます興味が出て来た祐治が興味津津といった感じでオストヴィントを眺めてい居ると、目が合った。
「おはようございます?」
気絶しているのを良い事に全身をなめ回す様にじっくり見ていた祐治は、何の前触れもなく目を覚ましたオストヴィントに実は目が覚めていて自身の行動を今まで気が付いていながら黙っていたのではないかと、そんな不安にかられ、まともに頭が回らずにどうしようもない挨拶をすることしかできなかった。
「私の身体に随分と興味が御有りの様だな、桐島」
「あ、あはは。いや~その~....」
「はっきりしろ」
「はい、興味があります!!」
祐治としてはいやらしい意味では無くあれだけの高機動戦闘に耐えうる身体の作り方や状況判断能力について、と言うことだったが。
「お兄様、そんな....」
と、ハンナ。
「私、魅力なんでしょうか....」
とリリー。
「ふっ」
なぜか誇らしげな吉田。
祐治の反応に三者三様の反応を見せるが、祐治から見れば明らかに勘違いしてると解るので誤解を解こうとするが....
「まぁいいだろう。私も女だ、自分より強い男に興味があると言われて悪い気はしない。そうだな、勝者には褒美が必要だろう」
そういって操縦席から降り、祐治の正面に立つとおもむろに服を脱ごうとした。
「いい加減にしてください、ラインリッヒ」
祐治が止めるよりも早く怒気を含んだクラリッサの声がオストヴィントの動きを止めた。
「まったく、そんなに怒る事は無いだろうに」
やれやれと言わんばかりの表情を浮かべたオストヴィントは脱ぎかけた上着を正すとアリサの隣に腰かけた。
「どうしたんですか?クラリッサ」
祐治から見て多少やり過ぎた所はあるかなと思われる行動だったが、どうしてそこまで怒りを露わにするのか不思議でしょうがなかった。
「彼女は隊長の姉にあたるんです」
「またその話か。何度も言ってるだろう」
命を賭けるほどに隊長に入れ込んでいるクラリッサからみれば良い気分では無いのだろうと祐治は思った。
「確かに私が生まれたのはラウラよりも先だ。それにヴォーダン・オージェの事は知っているが私の研究所は全く関係無い。そう何度も言ってるだろう」
「しかし!!」
「クラリッサ、君もしつこいな。関係無いんだ気にするな、桐島からも何とか言ってくれ」
「いや、いきなり言われましても....」
いきなり話題を振られ、この二人の関係がどうなっているのかまったく理解できていない祐治は、はー、とかへー、とか生返事をするしかないのだった。
「確かに私も悪い。だがなこればっかりは軍事機密で話せないんだ。だから君たちは黒兎隊の隊長ラウラ・ボーデビッヒと私、オストヴィント・ラインリッヒは関係ないと、それだけ理解してくれればいいんだ」
「しかしですね」
「まったく、いいか?今はまだ話せないが君達が信用に値すると上が判断すれば話せるようになる、かもしれない」
「んー」
(あの二人、ずっとあんな感じなの?)
(顔を合わせてからずっとだ)
(そうかー)
結局、研究所までの間、クラリッサとオストヴィントは永遠と同じようなやり取りを繰り返していた。
文字数この先ばらばらになる。