「ついたぞ」
クラリッサとオストヴィントのやり取りを横目で見ながら小声でハンナ達と会話をしたり窓から見える眺めを興味深く眺めていると目的地に着いたのか停車すると外から特自の隊員に声をかけられた。
「ほぉー」
荷台から降りてまず目に入ってきたのは幌の窓から最も興味を引かれた強化外骨格、甲冑を身に纏った特自隊員の演習風景だった。
「どうだ?なかなか凄いだろ?」
「えぇ....」
陣営を二つに分けた演習は片方の統率のとれた無駄の無い動きに甲冑の能力を最大限に発揮した陸上と上空からの三次元機動、正確な射撃と的確な指示で相手陣営を追い込んでいく。
「あれ?黒兎の子達じゃないか」
特自甲冑部隊を相手にしていたのは同じく甲冑を身に纏った黒兎隊の面々。
甲冑は特自の虎の子、そんな代物を海外の部隊に使わせても大丈夫なのか?と疑問が浮かんでくるが黒兎隊側からプロトテュープが登場したことにより祐治は両陣営の動きに集中することにした。
「これは....」
ISが登場したことによって黒兎隊の士気は一段と高まりを見せたが、対IS用に生まれた特自は僅かな動揺を見せることなく自身の役割を果たすべく動き始めていた。
前面に展開していた特自隊員による、閃光弾と装備している重火器による集中攻撃で気を反らし、後方で待機していた隊員によるミサイルの飽和攻撃。
大量のミサイルアラートに気を取られた僅かな隙に、さらに後方で構えていた隊員によるレーザー攻撃。
これをまともに受けたプロトテュープに遅れて飛んできたミサイルが殺到する。
個を押し潰す圧倒的な物量によってシールドエネルギーを全て失い、地上へと降り立った。
「どうやら終わったようだね」
後ろから聞こえて来た声の通り、特自と黒兎隊の面々はプロトテュープの周囲に集まっていた。
「初めまして、僕はここ桜井研究所所長の
声のした方へと振り向くと、そこには白衣を着た若い男性研究員、桜井 健一が立っていた。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
「いや~、黒兎隊の人たちが言うように君が来てくれて本当によかったよ。このデータは非常に役に立つからね」
「本当にISに通常兵器で挑んでいるんですね。話には聞いたことありましたけど、本当に存在しているとは思ってなかったんですよ」
「それはそうだろうね。世界最強と名高いISに挑むなんて普通じゃない。だけど僕たちはそれを可能にしなきゃならないんだ」
「と言う事はあそこで黒兎隊とやっていた事も?」
「あれは甲冑だけでどこまでやれるかを調べてもらってたんだよ。甲冑だけじゃ厳しいかな、シールドエネルギーを削りきる事はできるけど、条件が厳しすぎるかな?」
「今、実際に倒したのでは?」
「本来の戦場ならあそこまで緻密な段取りなんかやってる余裕ないからね。今は少しずつ条件を厳しくしながら、どこから難しくなるのかを検証している所なんだ」
「なるほど」
ISは最強。誰もが覚えているであろう白騎士事件。
世界中から向けられた世界各国の弾道ミサイルをたった一機のISが撃ち落とし、捕縛しようと派遣された戦車や戦闘機などの通常兵器を完膚なきまでに破壊した。
この事件以降ISに立ち向かう者はいなくなった。
だがそれは余りにも強大すぎる力だった。
ISが一機あれば一国を相手にすることすらできると言われているほど強力とまで言われている。
そんな者が悪い奴らの手に渡ったらどうなるだろうか?最悪の状況を誰もが浮かべるだろう。
立ち向かえるか?否、警察や軍隊ですら相手にならない。
悪者に渡ったISを誰が止めるか、ISにしか止める事が出来ない。
もし、悪者がISに乗り、好き放題やり始めた時に止める手立てが今は存在しないに等しい。
そこで生まれたのが、特殊機動兵器自衛隊なのである。ISはISでしか相手にならない、そんな常識を打ち破るためにここ桜井研究所では日夜研究がすすめられているのだった。
「目標はこの強化外骨格、甲冑をISと同等、もしくはそれ以上の性能まで引き上げる事かな?」
「そんな重要な物を自衛隊関係者でもないドイツの軍隊に貸し与えてもいいのでしょうか」
「それは構わないんだ。もともと今の強化外骨格じゃISの相手なんてとてもじゃないけど務まらないからね。画期的な技術を思いついたからそれを研究中って所かな。ただ1年2年でできる代物じゃないから、僕が生きているうちに完成できれば良い方かなって程度にはね」
「見た限りでは一応ISを倒したように見えましたが」
「ISには攻撃をしないって絶対条件があったからね。本当に倒すならああやって待ち伏せするしかない、空を自在に飛び回り、強力な火力と最先端のレーダー装置を持った相手の通る位置を予測し、気が付かれない様に部隊を配置し、逃げられない様に一瞬でシールドエネルギーを削りきる。とっても難しいね」
口では難しいと言いつつもその口調からは諦めと言う感情は一切感じる事が出来なかった。
「さて、黒兎隊の皆に会いに行ってみてはどうかね?」
「ではお言葉に甘えまして」
黒兎隊の奮闘を見守った祐治はトラックの荷台から降りたハンナ、リリィ、吉田の三人と共に戦い終わったばかりの黒兎隊の元へと向かった。
「皆お疲れさま」
「「「「お兄様!!」」」」
先ほどまでの戦闘で疲れきり肩で息をしていた黒兎隊だったが祐治の声を聞くと姿勢をただし綺麗な隊列を作り敬礼をする。
普段の可愛らしい姿と違い強化外骨格を身に纏っているため、それはそれは様になる光景だった。
「皆の戦いぶりを少し見せてもらった。」
そんな中で反応がなかったのがISプロトテュープを身に纏ったアリサだった。
「どうしたアリサ?」
「あ、あぁお兄様...お恥ずかしながら眠気が」
祐治の問いかけに恥ずかしそうに頬を赤く染めるアリサ。それもそのはず、祐治が特自と接触してから一睡もせず状況を見守っていた為に訓練を積んでいるとはいえ10代の少女には体力的に厳しい状態だった。
「そうか、ISは万能とはい言え無理をし過ぎないようだけ気を付けてくれ」
「はい、お兄様」
祐治の柔らかな表現での注意にしっかりとした返事をするアリサ。
ぐぅ~
「ん?今のは....」
「お腹の音、ですか?」
「わ、私じゃないぞ!?」
「「「もしかして、お兄様?」」」
黒兎隊の面々に敬礼され、アリサに身を案じる様に一声かけ、かっこよく決まっていた祐治だったが前日からの手厚い歓迎に集中力を研ぎ澄ませ呑まず食わずでいたが、ここにきて落ち着いた事によってその押し殺されていた欲求が表に出て来たのである。
「ご飯行こうか」
そう言ってそそくさと歩きだしてしまう祐治。
「あ、お兄様!?食堂待って下さい!!」
「食堂の場所はお解りですか?」
「その前に甲冑を脱がないと!!」
こうしていつもの様にどたばたと騒がしくも笑顔の絶えない黒兎隊達と祐治は一路食堂へと向かうのだった。
「さて桐島....と言うのは同じ呼び名の人がいるから祐治、今回の件は想像以上だったよ」
「いえ、こちらとしても得る物が多くとても感謝しています」
黒兎隊との食事を終えた祐治はその後、代わる代わる演習を終えた黒兎隊の隊員達に特自施設の案内をしてもらい、現在は特自の最高責任者である、ウルセライの私室へと招かれていた。
「ぜひこれからも我々に協力してもらいたいね。それとあの娘達にも会いに来てくれ、彼女達の君に会った時の変りっぷりには関心するよ。デュノア社であった事は聞いていたがこれほどとはね」
「デュノア社の皆さんが協力してくれたからこそこう言った関係を築き上げられました。向こうの人たちには感謝してもしきれません」
「まぁ、それでも君に確かな実力があってこそだ。これからも暇さえあればぜひこちらに来て相手になってほしい」
「えぇ、その時は喜んでお相手させていただきます」
祐治が手を差すとウルセライはその手を取り握手をする。
「これで僕達は協力体制だ、もし君に何かあれば表だって手助けはできないかもしれないができる限りの事はしよう。それと昔の名残で情報屋をやっているから気になる事があったら調べるよ。あと娼館も営んでるから女に困ったら言ってくれ」
協力と情報はとても嬉しいのですが女、ですか?と苦笑いを浮かべる祐治だった。
「さて帰りますか」
黒兎隊と特自の施設を回ったり特自隊員の訓練風景を眺めているとあっという間に時は流れ燃えるような夕焼けが西の空を染め上げる時間となっていた。
「もうこんな時間か」
「寂しくなりますねぇ~」
「楽しい時間は過ぎるのが早いでありますな~」
「また会えますよね?」
見送りに来てくれた黒兎隊と共に特自の滑走路へとやって来た祐治。なんでもIS学園まで送ってくれると言うので、それを待っている所である。
「そうだ、はいこれ連絡先ね?フランスで渡しそびれちゃったからね」
「え!?よ、よろしいんですか?」
「え?駄目だった?」
「い、いいいい、いえ!!ありがとうございます」
黒兎隊全員と連絡先の交換を終えると、なにやら小さな声で相談をし始めた。
「あの!!」
「ん?」
相談を始めて数分、覚悟を決めた様な表情でアリサが声をかけて来た。
「お兄様が良ければ我々が情報共有の為に使っているアプリを使っていただけないでしょうか?」
「それはいいけど、なんて言うアプリ?」
「本当ですか!?えっと、実は配信とかはしてなくて今の所ドイツ軍内部の一部の人たちしか使ってないんです」
「なるほど....」
「もちろんセキュリティも非常に強固ですしお兄様の端末情報を抜き取ったりとかは不可能なのでご安心してください」
「いや、そこは皆を信用してるから疑ったりはしないよ。しかし配信してないとするとどうやって手に入れたらいいのだろうか」
「ありがとうございます!!では私がお兄様の端末に直接送りますのでそこから登録をしてください」
こうして送られてきたアプリをインストールしてみたがドイツ語表記でドイツ語がさっぱりな祐治は黒兎隊の手を借り登録を済ませ黒兎隊の全員が居るグループへと招待された。
招待を受け、グループへと参加すると今までに投稿された写真や動画、何気ない会話が過去数百件に及び投稿されていると表示されていた。
「これは、過去の投稿を見れるようだけど、いいの?」
「はい、お兄様には我々の事を知ってもらいたいので!!もしよければ少し会話でも返してくれると嬉しいかなーなんて....」
「時間がある時は返すよ」
その言葉に黒兎隊は色めき立ち、どんな事を書きこむのかなとか、これでいつでもお兄様に連絡が取れると凄いはしゃぎようだった。
アプリの表記がドイツ語なため詳しい操作方法などを教わっていると轟音を響かせ一機の航空機が格納庫から姿を現した。
「雷電.....」
まさかとは思ったが格納庫から出て来た雷電は祐治の目の前で停止し、パイロットが手で乗れ、と言う合図をしたため黒兎隊に別れの挨拶をして機体の窪みを使い二番席へと乗りこんだ。
手を振りながら見送ってくれている黒兎隊を写真に収めるとキャノピーが閉まりパイロットの声が聞こえて来た。
「シートベルト、ヘルメットを被って」
「はい」
「では、発進。気絶するから覚悟しておくんだな」
え?と言う一瞬の疑問と共にとてつもないGが襲い、ものの数秒で祐治は意識を手放した。
「起きろ、着いたぞ」
「....ッ、なにが、あったんだ....」
「ほら、ぼさっとしてないで構えて」
「は、はい。ありがとうございました?構えて?」
祐治がまたしても疑問を浮かべているとキャノピーが開き、パイロットのイジェクトと言う言葉と共に座席ごと空へ撃ち上げられた。
「な、なんですとおおおおお」
しかも周りをよく見ると地上が遥か彼方に見えるほどの高度、5000m
「寒い!!と言うかIS修理中で起動できないんですけど、パラシュートとか無いわけ!?どうするの!!」
日が完全に沈みきって無いとは言え、まだまだ春の陽気が漂う季節。上空5000mと言えば氷点下10度を下回る寒さ。
さらに祐治のラファールと打鉄は雷電との戦いで大きく損傷し修理中。そんな中でコアネットワークを介してチャントが飛んできた。
「えと、誰だ?どちら様ですか今余裕ないんですけど」
「ごめんごめん、さっき伝え忘れちゃったんだけど協力者が君を回収してくれるから安心していいよ」
チャントの相手はウルセライ。しかも短くそれだけを伝えるとチャントは切れてしまった。
協力者と聞いてもこの現状で何一つ安心できる事など無く、近づいて来る地上を見ながらどうやってこの状況を凌ぐかを必死で考えていく。
「いや、これどうしようもない!!」
「なにがどうしようも無いですって?」
ふと聞きなれた声が聞こえて来たなと思うと後ろから何かに掴まれ、落下速度がどんどん落ちて行くのが感じ取れた。
「鈴?」
「そうよ、なかなか楽しそうな事やってるじゃない」
「いや、全然楽しくないから、もう勘弁してほしいくらい」
祐治を迎えに来た協力者と言うのは鈴音。
強化外骨格を身に纏った鈴音は祐治を座席ごと固定し、速度をゆるめながら地上、IS学園へと向かって行くのだった。
もっとテンポ良く進めていけるように意識する