IS 散弾の閃き   作:mizurahi

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35話 強化

  特自との交流戦いから数日後、祐治の持つISは万全の状態となっていた。

 

「さて朝練朝練っと...?」

 

 いつもの様に第五アリーナへとやって来た祐治は入口に誰かが居る事に気が付いた。

 

「たくろう?こんな朝早くからこんな所で何を?」

「おはよう....太郎がここで朝からトレーニングをしてるって聞いて」

 それを聞いて一緒に、と言う事なんだろうけど....

「眠そうですね」

「そんなことない」

  祐治は簪の生活リズムをよく知っている。PF2を一番やりこんでいた時期も簪は祐治よりも寝る時間が遅く、それは今も変わっていないらしく今にも閉じそうな瞼を必死で堪えているような状態は誰が見ても眠そうの一言に尽きる程。

「とりあえず見ていく?」

 その言葉に簪は無言の肯定を表し二人はアリーナへと踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  結局、朝練の内容はいつも通りで違う所を上げるとすれば今にも寝そうな簪がうとうとしながら祐治の姿を眺めていたくらいだった。

 そしていつも通りにシャワーで汗を流した祐治は簪と共に朝食を取るために食堂へと向かっている所である。

「たくろう、眠そうだが大丈夫?」

「問題無い」

  祐治が思うに簪の睡眠時間は彼女の生活リズムから考えて2~3時間だろうと予測し、身体の出来上がっていない時期に少なすぎる睡眠時間によくない印象を持つのだった。

「何か寝れない原因でも?」

「....」

 PF2をやると言ってもクランの面々も0時を回る頃には殆どログアウトしているため自然と活動時間も0時以降は行われる事は少ない。

 簪も10代の少女、やりたい事は沢山あると思うがよく知った人物故に身体を誰よりも大切にしている祐治は遠回しにでも生活を改めさせられないかと糸口を探す事にした。

「....専用機」

「格納庫にあった?」

「そう....とりあえずご飯」

 肝心な情報が聞き出せるかと思った矢先二人は食堂へと着いてしまったため食事を選び個室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その稼働データがあれば完成すると?」

「そう、私の弐式は高機動型、欲しいデータが少なすぎて進んでない」

 食事を終えた二人は食堂の前で話していた内容の続きをしていた。

  簪の専用機、打鉄弐式は白式の開発が急に決まった事によって後回しにされた。

 簪としてはそのこと自体は気にしている訳では無い、むしろ自分好みのISを妥協する事無く作り上げる事が出来ると好機として捉えていた。

 だが完成したかと思われた弐式は性能に対しての実際の動きが悪く調べ上げるとOS側の制御が動きに着いてこれていないと言う事だった。

 祐治と同じくPF2プレイヤーの簪は情報処理能力の他に先のデュノア社で行われた対抗戦で見せたリトルバードの腕前を見て解る通りビークルの操縦にも長けており、それがISの技術にも大きく反映されていた。

 

「ISの高機動戦闘の実働データか....」

 ふと祐治はISを相手に怯むどころか真っ向から挑んで来た特自の雷電との戦闘を思い出した。

 

 なぁシノン、実働データってそんなに重要な物なのか?

 そうだよ~、ゆうくんの超高機動戦闘のデータなんかは実戦で積み重ねた物だしラファールも打鉄も今は機動力に重点を置いてるから凄い価値があるよ?

 そう、ならそれコピーして渡せるようにできる?

 できるけど、本当にいいの?

  良いも悪いも、たくろうは.....そうだな何と言うか味方というか裏切られる未来が想像できないし裏切る未来も想像できない。

  そこまで言うなら.....おや?あの眼鏡なんだか凄い事になってる....っと完了。直接送っといたよ。

  ありがとシノン。

  どういたしまして!!

 

「....!!なにこれ.....」

 シノンが送った実働データが届いたのか簪は先ほどまでの眠そうな表情から一転驚きを露わにした。

「届いた?」

「これ太郎が?」

「そう、使えそう?」

「......十分」

 祐治の問いかけに答えるや否や空中にレーザー投影されたキーボードを三つ展開しせわしなく手と瞳を動かし何かを猛烈な勢いで打ち込んでいく。

 ちなみに祐治のラファールと打鉄のOSはシノンが常に最適化しているため価値が付くどころか世界中の技術者がどんな手を使ってでも手に入れようとする程の逸品に仕上がっている。

「現金なやつ」

 

  相手を侮辱する訳でもなくただ喜んでいる簪を見てほほが緩むのを隠すつもりで呟いた。

 だがそんな一言も隠しきれない笑みを浮かべる祐治の表情を簪は視界の隅でしっかりと見ていたのであった。

 

「せめて自室か整備室でやった方がいいんじゃないか?」

「今忙しい」

「ここじゃ誰が来るか解らないから集中できないでしょ」

「....たしかに....はい」

 祐治の提案に素直に頷くとてを差し出し、連れていってと無言の催促をする簪。

「しょうがないね、ちょっと待ってて」

 

 こうして祐治は二人分の食器を返却し、半分仮想の世界に旅立っている簪の手を取り打鉄弐式が置いてある整備室へと連れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼に作業に没頭している簪へ昼食を差し入れに行く以外はいつも通りの学園生活を送り、放課後になった。

 祐治は今フラファール同様特殊な一次移行を行った打鉄の動きを確かめるべく高機動訓練が可能な第三アリーナへとやってきていた。

 

「さて、人が少ないとは言え遠隔コールを誰かに見られる訳にはいかないな」

 

 祐治はアリーナへ直接立ちいる事のできる格納庫の一つに入るとシノンの協力で外部から人が入らない様にロックをかけてもらう。

 

「打鉄」

「応!!」

 

 誰もいない事を確認すると打鉄の名を呼び、それに反応するように光の粒子が祐治周りを取り囲みひと際輝きを増すと、その中から打鉄を身に纏った祐治が現れた。

  第三アリーナへと降り立った祐治。

 それに気が付いたのか既にISを身に纏い練習を行っていた生徒達の視線が祐治へと集まるがそんな事などお構いなしにPIC起動させ僅かに浮き上がると圧縮加速(ダブル・ブースト)用の大型噴進機《橘花》にエネルギーを充填させる。

 

「それじゃ生まれ変わった打鉄の力、思う存分発揮してくれ」

「任せるでござるよ」

 

 祐治と打鉄の短いやり取りが終わると同時に橘花にエネルギーを最大まで充填され祐治はアリーナの中央に天高くそびえる巨大な円柱を見上げながら、その頂へと向けて飛び出した。

 

 轟音と共にアリーナを縦に稲妻の様な痕跡が走る。

 八回分の瞬時加速(イグニッション・ブースト)はISの高等技術でもある二段階加速(ダブル・イグニッション)個別連続加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)と比べても1から100への到達速度がずば抜けて早いが、常に橘花にエネルギーを充填していなければならない特性上燃費が悪く、特に速度が遅ければ遅いほど消費エネルギーは増える。

 だがその加速性能と最高速度は一夏の専用機白式よりも優れている程で、現に祐治よりも先にアリーナ内で訓練を行っていた生徒達をごぼう抜きにし、誰よりも早くアリーナの頂上へと到達した。

 

「っと、これ凄いな。流石だ打鉄」

「と、当然でござろう。某が主のためを思っての姿でござるからな」

「ありがたいね、そこまで思ってくれるだなんて」

「だが主よ、まだまだ及第点には程遠い是ござるよ」

「解ってる。その為の訓練だ、ご教授お願いするよ」

「応!!」

 

 こうしてIS学園の生徒たちが知ったら誰もが羨ましがるであろうコアからの直接的な教えによって祐治の機動制御術はさらに高みを目指していく事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっし、これでどうか!!」

「うむ、随分と様になって来たでござるよ。だがまだまだ及第点とは言えぬ、主にはもっと上を目指してもらわなければならないでござるからな。

「当然だ、打鉄との約束を守るためにはこの程度ではな。でも詰め込み過ぎもよくないから少し休憩するか」

 

 エネルギー消費が最大の弱点である橘花を打鉄との訓練でより効率的に無駄なく使いこなそうとする祐治であったが、この僅かな時間で完璧に使いこなせるほど単純な物では無い事は嫌と言うほど理解させられた為、無理をせず一休みして頭の中を一度整理してからもう一度挑む事にした。

 練習中の他の生徒達の邪魔にならない様にアリーナの片隅へと移動する祐治であったが、周りの生徒達は超高速機動に目を奪われ練習どころでは無く祐治の動きに釘付けになっていたが訓練を中止した祐治に気が付くとハッとしたように自分たちの練習を再開した。

 

「おーい祐治」

「ん?一夏か、どうした」

「いや祐治がここに居るって聞いてな」

「ふーん?」

祐治に声をかけて来たのは白式を身に纏った一夏。

「祐治、俺と手合わせしてくれないか?」

「ISを使った私闘は禁止されてなかったか?」

「まぁな、でもこれは祐治にISの扱い方を教えてもらうためだ」

「それなら、良いのか?でも教えてもらうならもっと良い人いるんじゃないか?」

「俺は祐治が入試の時にISで教官と戦っている映像を始めてみた時から一度でいいから手合わせしてみたいって思ってたんだ」

「えー、あの時はISの扱い方なんて殆ど知らなかったからな恥ずかしいな。もっとまともな映像が手に入ったらそれあげるよ。まぁ、そう言う事なら」

 こうやって手放しで自分の実力を認めてもらえるのは悪い気分ではないし、その気持ちを裏切らないために手合わせをしてお互いの実力を測るのも良いだろうと祐治は判断した。

 

「本気で行くぞ、一夏!!」

「望む所だ」

 こうして急遽行われる事となった祐治対一夏の模擬戦。

 その異変に気が付いたのか、それとも一夏の事が気になっただけか、先ほどまでの祐治が行っていた時の訓練とは違い周りで練習を行っていた生徒達が祐治達を取り囲むように集まって来た。

 

「行くぞ祐治!!」

「来い!!」

 

 上空へ飛び上がり雪片弐型を構える一夏に対して祐治は地面に両足を付け葵を構える。

 

「打鉄、良いとこ見せようじゃないか」

「任せるでござる」

 

「うおおおおおおおおお!!」

掛け声と共に祐治へと向かって急降下しながら雪片弐型を振り下ろす一夏。

「パワーアシスト全開!!ぶっ飛べ!!」

  真正面から全力でぶつかってくる一夏に対して祐治もそれに答える様に持てる全ての力を出し切る。

 

 上空から急降下し位置エネルギーを使った真っ向切りは単純な力技で威力が高い事は一目瞭然。

 だが祐治はその場から動こうとはせず、ただ一歩踏み込むと位置エネルギーとISのパワーアシストが乗った雪片弐型に対して逆胴一閃。

 交差する二つのISと金属同士がぶつかり合う轟音と少し遅れて地面に突き刺さる雪片弐型。

 

「ッ!!負けたか」

「そう簡単にやられはせんよ」

  吹き飛ばされら雪片弐型を拾い、一夏へと手渡す祐治。

「さんきゅー。そうだ、これから皆に稽古を付けて貰う事になってるんだが祐治も見て行かないか?」

「そうだな、見て行こうか」

 

 こうして祐治は一夏が普段どんな訓練を行っているのか気になったため、急遽訓練内容を見て行くことに決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって第一アリーナのピット内。

 

「あれ?お兄ちゃんどうしたの?」

「シャル達が一夏の訓練に付き合てるって聞いてね」

「そうなんだ。今日はお兄ちゃんが見てくれてるから頑張らなきゃだね」

 ピット内で一夏と雑談をしながらアリーナ内で訓練している生徒達を眺めているとシャルロットが現れ自然な動きで祐治の腕に抱きつく。

 そんな姿を一夏は仲が良いな~と思いつつ眺めているとセシリア、箒が現れ訓練が開始された。

 

 

 

「ほー、なかなか良い訓練だな」

 

 一夏達の訓練には参加せずピット内から眺めていた祐治はISを出来のいいおもちゃ程度にしか思っていない女たちの訓練なぞ大した事無いだろうと思っていたがシャルを筆頭にした一夏強化訓練は合理的で理にかなったものだった。

 

 形式的には一夏対箒、セシリア、シャルの三対一なのだが、まず打鉄を身に纏った箒が一夏へと近接攻撃を行う、隙を見てはセシリアの後方からの射撃攻撃、二人の隙を突こうとした所でシャルロットの攻撃、といった具合に気を休ませず、常に遠距離近距離の攻撃に対する思考を張り巡らさせ、目の前の敵だけでなく常に誰かに狙われていると言う意識を持たせ動き一つ一つに意味を持たせ無駄な行動をそぎ落とすと言う物だった。

 

「これは一夏強くなるな」

 クラス代表を決めるセシリアとの戦いから比べて動きに無駄が無くなり及第点には程遠いが二手三手先を見越して動こうとする姿に祐治は期待せざる負えなかった。

「そう思うだろ?たくろう」

「そうね」

 そしていつの間にか祐治の隣でアリーナを眺めていたたくろう。

「打鉄弐式の方はいいのか?」

「もう終わった」

「そうか」

 短い受け答えをしながらも一夏達の訓練を眺めているとシャルロットの合図で休憩時間へと移る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、きつい」

「一夏体力ないね」

「一夏弛んでいるぞ!!」

「なかなかスパルタじゃないか、お疲れ」

「おぉ祐治、どうだった?」

「素晴らしいな。次に一夏とやりあうのが楽しみだよ、コーチに恵まれたな」

「あぁ、まったくだ皆ありがと」

 にこにこと笑みを浮かべてどういたしましてと微笑むシャルロットと頬を赤らめながら当然だろうと言い放つ箒を一瞥し、アリーナへと視線を向けると休憩時間にもかかわらず訓練を続けるセシリアの姿があった。

 

「セシリア、休憩は良いのか?」

「え、えぇ。わたくしはただ狙って撃ってただけですので」

「そうか、なら意思の無い的より生きた的を相手にした方がいいだろ」

「え?」

 セシリアの疑問をよそに祐治は別のピットへと移動すると打鉄を呼びだしアリーナへと飛び出した。

 

「祐治....さん?」

「そうだ」

 全身装甲化され、巨大な四発の噴進機橘花を装備し本来の姿から大きく変化した打鉄に驚くセシリア。

「この生まれ変った打鉄を捉えられるかな?」

「ッ!?行きますわ!!」

 

 スターライトMk.Ⅱを構え祐治へと向けて放つセシリアだったが前と変わらず撃つまでに余計な動作が多く銃口から光が放たれる時には祐治は既に狙った場所にはいなかった。

 

「相変わらず当たらないですのね」

「これはセシリアの問題だ。直さないと先は無いぞ」

 一夏達の休憩時間が終わるまで祐治とセシリアの射的ゲームは続いた....セシリア脅威の命中率0と言う結果で。

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れセシリア。そろそろ休憩時間が終わるころだから戻ったらどうだ?」

「....」

「どうした?」

「祐治さんはわたくしの問題点解っていらっしゃいますのよね?」

「まぁ、多少は」

「.....わたくし、とても悔しいですわ」

「そうか」

「祐治さん、わたくしに戦い方を教えていただけないでしょうか?」

「いいよ、まずは皆との手合わせで自分の弱点を理解してみようか」

 

 こうしてセシリア強化への道は幕を開けるのだった。

 

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