「そうか、その歳でその重圧に耐え続けていくのは酷だろう....」
迎えに来た車の後部座席で祐治はシャルロットの生い立ちについて詳しく聞かせてもらっていた。
シャルロットはデュノア社の社長の娘であるが愛人の子で、本家とは別に暮らしていた。
シャルロット自身はそんな事は聞いておらず、ただ大好きな母親と一緒に居れるだけで幸せだった。
だがそんな生活も長くは続かなかった。
シャルロットの母は元々病弱であり本家からの僅かばかりの援助で生活していたがそれ以上迷惑をかけまいと少しづつ弱まって行く身体の事を伏せ続けた結果、シャルロットがわずか十三の時に静かに息を引き取った。
それからというもの、シャルロットの身柄は本家に移され、IS適正検査の結果、適正値が高い事が判明。
それによりシャルロット・デュノアではなく、デュノア社ISテストパイロットシャルロット・デュノアとして生活してゆく事になる。
だが母親というものは自分の腹を痛めて産んだ子ならいざ知らず、他人、しかも愛人の子などに愛情など生まれるはずもなく、社長であるシャルロットの父に気がつかれないように少しずつ少しずつ重圧をかけてあそこまで追い込んでいった。
(シノン、デュノア社とデュノアの両親と義母の情報って調べられるか?)
(調べられるけど、どうして?)
(落ち目のデュノア社、こんな女が起こす行動なんて誰にでもわかる、交友関係を中心に調べておいてくれ)
(わかった)
「祐治はさ、その....死にたいって思った事ない?」
「あるよ、それはもう何度もね?俺はそんなに強い人間じゃないし」
「た、たとえば?」
「父親の出すトレーニングの課題を達成できない時。大会で結果を残せなかったとき。とにかく自分の思ったとおりに行かないときに情けなくなって死んでしまいたくなる」
「でも、そんな時にふと鏡を見るとね、なんか凄い気持ち悪い奴が写ってるんだよ、それが俺。それはそれは気持ち悪くてねー、イヤイヤ!!こんな顔見てられないって死にたい事なんてすぐ忘れちゃう」
「それにさうちの家族皆凄い前向きだし佑香も後ろ向きな人を嫌ってたからね。俺だけ後ろ向きで家族の恥さらしなんてまっぴらごめんだしね?」
「....」
祐治の発言に思うところがあったのか、シャルロットは考え込むようなしぐさを見せた。
ちなみに祐治を迎えに来た初老の男性はシャルロットが小さいときからの知り合いで、病弱なシャルロットの母親を助けてくれた人だと言っていた。
「なら....それなら僕は祐治の妹になるよ!!」
「えぇ....」
シャルロットの飛躍した発言につい言葉に詰まってしまう祐治であったが、祐治からシャルロットを見れば明るくなったと言えば聞こえがいいが、どうしても違和感がぬぐい切れない。
「それはいい案でございます」
今まで一言も喋らなかった初老の男性(シャルロットはじぃやと呼んでいる)が会話に混ざった。
「今までシャルロット様には母親しか頼る相手がおりませんでした。そんな母親を失ってからというもの本家の方々からの虐めのような仕打ち、わずか15の少女には耐えがたい苦痛です。私からもおねがいです、どうかシャルロット様の兄、いえ頼れる兄になっていただけませんか」
「.....」
祐治は悩んでいる。
ここではいと言うのは簡単だ。
だが佑香を失って一年、少し落ち着いてきたとはいえ、まだまだ傷は深い。
そんな自分が彼女の支えになれるのだろうか?
下手をしたら彼女に佑香の姿を重ねてしまい自分がだめになってしまうのではないか?
ここで期待させておいて無理でしたなんて後で言ってしまえば彼女は本当にだめになってしまうのではないか?
「桐島様、真に勝手な事を言っているのは承知の上です。私とて本家に長く使えさせて貰っている身です。世間に知られてはならない情報の一つや二つ持っているのです。お願いします、シャルロット様を本家から引き離してはくれませんか?」
「じぃや.....」
デュノア社といえばフランスで一番大きな企業である。
そんなデュノア社に揺すりをかければ自分の人生がどうなるか、そんな事は誰にでもわかる。
それをしてでもシャルロットを救ってやりたい、そんな気持ちが伝わってきた。
自分の人生、命、すべてをかけて何かをしようとする者を見ると祐治はどうしても力になってやりたいと思ってしまう。
「分かりました。妹に、というのはまだ心の準備ができていませんが、もしデュノアを本家から上手く切り離せたとしたら喜んで妹として迎えたいと思います。」
「祐治様....ありがとうございます」
「祐治....」
「いや、気が早いぞ相手はフランス一の大企業だ、そう簡単に物事は進まない」
お節介って結構大変な事になるんだな、と自信の軽はずみな行動の結果に自称気味な笑みを心の中で浮かべ、やると決めたからには絶対に成功させると強く決心した。
「祐治様、シャルロット様、着きましたよ」
車に揺られる事数時間、あたりはすっかり暗くなっている。
なぜこうなったかといえば、空港から逃げ出した祐治はデュノア社と間逆の方向へ約150kmほど自転車で走っており、祐治とシャルロットが車で拾われた場所からデュノア社まで200kmという距離になってしまったからである。
「シャルロット、起きなさいついたぞ」
「ん~、お兄ちゃんおはよう」
車の中でまずは形からとシャルロットに押し切られる形で祐治を兄として、シャルロットをシャルロットとして呼ぶ事が決まった。
「あぁおはよう、さぁ行こうか」
「ではお二方、こちらへどうぞ」
シャルロットと祐治は車から降りるとじぃやの後ろを並んでデュノア社へと歩き始めた。
三人の足取りは軽い。
祐治はこれから始まるであろう未知の体験に。
シャルロットは絶望の中で見えた一筋の希望を抱き。
じぃやは孫のように可愛がったシャルロットの明るい未来を信じて。
「よっし、早速行ってみようか!!」
「「「デュノア社主催、第一回オフラインイベント!!」」」
ここはデュノア社にある会議室の一つ。
デュノア社に着いた祐治は白衣を着た研究員とつなぎを来た技術屋数十名に囲まれ、気がついたらここまでつれてこられていた。
この部屋には10台のPCが設置されている。
配置としては正面に1台、左右に1台と8台。
「お兄ちゃんがんばって~」
「いいとこ見せちゃうよ」
祐治と共に連れてこられたシャルロットは無邪気に手を振って応援している。
「いやぁ~まさかシャルロットちゃんにお兄ちゃんができるなんてねー。しかもそれがあの戦場太郎だとはね~」
戦場太郎というのは祐治が大規模FPSで使っている名前である。
デュノア社に武器開発の依頼が来た際に束からそういった情報を受けていたらしい。
彼女はアニー・ブラッスール、祐治の専用武器開発の主任であり、クランデュノアトルーパーズのマスター。
彼女のクランとは全世界対抗戦で戦った覚えがある。
彼女いわく、手も足も出なかった!! らしい。
そしてここに集まっているのはクランデュノアトルーパーズの皆さん。
なんでもここで実際に祐治と戦ってみようというのがこの集まりらしい。
「まったく、アニーがどうしてもって言うもんだからしょうがなく来てやったのに待ちぼうけ食らっちまったからな。おい桐島、ふざけ戦いを見せやがったら下りるからな」
そういって不敵な笑みを浮かべるのは三田 良蔵(みた りょうぞう)現在日本で唯一の銃火器専門店である三田銃砲店の社長。
なんでも散弾銃を作らせたら右に出るものは居ないといわれる人物である。
戦場太郎のIS装備が作れると聞いてショットガンは絶対に外せないと思ったアニーが呼び寄せた。
「それじゃ早速説明するよ。今回はこの戦場太郎のデータ取りが目的。本来はISに乗って~とかやるんだろうけど彼にはそんな事必要ない、というか私はIS詳しくないし!!」
デュノア社の社員としてそれでいいのかと突っ込みを入れたくなる祐治であった。
「なので彼のデータを取るために我々とこの大規模FPS内で戦ってもらう事にした。ゲームの設定は公式のものを使う。チケットは300、リスポーンは15秒、拠点は一つ、乗りもはリトルバード(ミニガンを二つ装備した小型ヘリ)が一つあるだけ。対戦方式は我々デュノアトルーパーズの8人対戦場太郎一人!!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
それを聞いてギャラリー数十名とPCの前に座るデュノアトルーパーズの皆さんは大いに盛り上がった。
「それじゃ早速始めちゃおうか。まぁ戦場太郎君、これはデータ取りだから勝敗は関係ないよ?」
「負ける勝負なんて初めからしませんよ?」
それを聞いてアニーは不敵な笑みを浮かべ周りはさらに盛り上がった。
(しかし実際は厳しい戦いになる。1対8は流石に勝てるかどうか....)
それでも勝つために全力で挑もうとゲームに集中し始めた。
「装備はいつも通りで行くか」
joined by 戦場太郎
870コンバット マグナムアモ(威力減衰無効)12ゲージスラッグ(マグナムとあわせて全距離ヘッドショット一撃) 装弾数4
REX(中距離までヘッドショット一撃) 装弾数6
RPG-7 装弾数6
リペアツール(工兵なので外せない)
軽量戦闘装備 (移動速度上昇)
戦場は市街地
一部爆破され瓦礫と化している場所があるが高いビルが立ち並び建物の中から拠点を見下ろす事ができる。
拠点は中央わずかに開けた場所にあるが周りの建物内から攻撃されやすい。
それぞれの沸き位置は北と南。
ようは祐治にとても不利な状況。
戦闘開始まで30秒
(さてやるだけやってみますか)
25
「相手は一人よ、最初は全員で突っ込んで拠点を取ったら後は建物内から攻撃する分隊と拠点の周りで圧力をかける分隊に分かれるよ。余裕があればリトルバードも使って。」
20
「さってこの状況であいつはどうする」
15
(ふん、いくら戦場太郎がスーパー歩兵って呼ばれてたってこれなら負けない)
10
(ゆうくん、こんな奴らに負けちゃだめだよ)
5
(当然でしょ?)
1
「お兄ちゃん負けるな~」
0、開始!!
(この地点なら拠点に一番最初に着ける!!)
開幕と同時に祐治は一直線に拠点まで走る。
誰よりも先に拠点に着いた祐治は突っ込んでくる相手を確認する。
(一人、二人、三人、四人...四人が限界か)
突っ込んでくる相手を順調に倒していく祐治であったが四人倒したところで同時に突っ込んできた残りの四人にやられてしまう。
(流石に8人抜きは難しいか)
15秒の沸き待ちが終わり、再度戦場に降り立つ。
(こっからが正念場だな)
死ぬ間際に付けたスポットをMAPで確認する限り、祐治を倒したときに突っ込んできた四人は二人ずつに分かれて拠点の西と東の建物から拠点を見下ろし、残った四人が拠点の周りで圧力をかけて行くのだろうと予測した。
(まず建物の中からだな)
「流石戦場太郎、中々やるじゃない、だけどこの状態でどうする?」
「戦場太郎発見、東の建物に入るつもりだ」
「よし出口を見張れ」
「な、やられた、西側二人やられた」
「なんだと」
「だめだ東もやられた」
まず祐治は東の建物前で西の敵がいると予測した場所にRPG-7を撃ち、壁に穴を開けると予想通り中にいた二人を870コンバットで倒す。
そのまま東の建物に入るとそのまま中にいた二人を手榴弾で倒す。
(下に一人居るな)
祐治は建物の下にいる一人に向かって窓から飛び降り、そのままナイフキルした。
(後は拠点の奥に三人、リスポーンする前に倒さないと)
どこに隠れているかは大体の予測がついているので拠点に絡みつつ同時に狙われにくいところにカヴァーし、痺れを切らして顔を出してくる奴から順番に倒していった。
「8人抜きだと!?」
「落ち着け、今のはこちらが油断しただけだ、モーションマイン(一定の範囲内で動く相手をMAP上に表示する投擲物)を切らさず投げて動きを制限しろ」
その後少しの間は拠点を防衛していた祐治であったが数で押してくる相手には限界があり拠点を奪われてしまう。
そして再度攻撃をしようにも三つも四つも飛んでくるモーションセンサー相手に中々思うように動けず、顔を出した奴を遠くから打ち倒す事はできても中々拠点まではたどり着けなくなっていった。
(参ったな、どうするか....もう一人、せめてもう一人居れば)
そんな事を祐治が思っていると相手はリトルバードを飛ばし完全に畳み掛けようとし始めた。
(どうする....)
joined by 旅の宿
正直な事を言って勝つ見込みが殆どなくどうしようかと悩んでいたとき、一人のプレイヤーが戦場に入ってきた。
>太郎久しぶり。フランスのサーバーでなにやってるの?
「たくろうか、助かった。詳しい事は説明している暇がないんだ。あいつ等を倒すために協力してくれないか?」
>いいよ。
「助かる、たぶん一週間くらいログインできないと思うから皆に伝えておいて。」
プレイヤー 旅の宿。
祐治がたくろうと呼ぶこのプレイヤーは祐治が一番長く一緒に分隊を組んで遊んでいる相手で、ヴォイスチャットを一切使わないのだが本来動きが止まるはずのチャットを普通に戦闘しながら打ったり。
相手の動きを正確に予測したりと、とにかく並列処理に長けている。
世界対抗戦で日本が勝てたのもこの旅の宿の影響が大きい。
「相手は建物内から拠点を攻撃する四人と拠点の周りで圧力をかける四人で分かれて行動してる。」
>分かってる、太郎は今すぐにリトルバードを落として。私がリスポしたら一緒にリトルバードの湧き位置まで行こう、そしたらリトルバードで援護するから。
「わかった、よし!!これなら勝てる」
たくろうという最高の相棒が来てくれたことにより俄然やる気が出てきた祐治は、その数秒後にRPG-7でリトルバードを落とし、リスポーンしたたくろうと共にリトルバードの湧き位置へ向かっていった。
「隊長、敵さん増えましたけど」
「ちょうどいいじゃないか、少し張り合いがなかったところだ、それに一人増えたくらいでどうという事はない」
「さっきまで散々やられていたくせによくよんなことが「なんかいったかい?」
「「「いえ、なにも」」」
祐治と旅の宿は相手を倒しながら危なげ無くリトルバードの沸き位置までやってきた。
>後10秒で湧く、チケットは260対150。ここからは私たちの時間、そうだね?
「あぁそうだ」
>それじゃ私は地上の敵を倒すから太郎は建物をお願い。
「了解」
そういって湧いたリトルバードに乗り、飛び上がった旅の宿は狭い建物と建物の間を縫うように飛び、攻撃されながらもあっという間に地上分隊を全滅させた。
「なんだあいつ、化け物か?」
「旅の宿、確か対抗戦でもいたな。だが目立った動きはしてなかったはずだが」
それもそのはず、対抗戦での旅の宿の役割は偵察と予測。
味方の攻撃ヘリに乗り上空からMAP上から敵の動きを見て、動きを予測し最適な作戦を常に立て続けるという事をやっていたのでスコア自体は最下位だったかチームの貢献度は誰よりも高い。
>こっちは終わったけど太郎は?
「早い早い、あと一人....よし倒した」
>そのまま拠点で合流、少しダメージを受けたから修理して、すぐに前に出る。
「了解」
そのまま順調に拠点を占領し、建物に入られないように前線を押し上げる。
「ここまで前線を上げれば建物に入る事すら難しい、このままベースレイプだ」
>もちろん、そのつもり。
「なんだあのリトルバードの動きは、攻撃があたらない」
旅の宿はリトルバードを手足のように動かし、建物の一階より少し高く車が一台やっと通れるくらいの幅の本来ヘリが飛ぶ事を想定していないはずの道を苦も無く行き来し相手の攻撃を受けないようにしつつリスポーン近くを飛び回っている。
祐治はそれを援護するように少し後ろの方から旅の宿を狙うために上を向いて無防備な姿を晒す相手を次々と倒してゆく。
ここまで来ると相手は手も足もでなくなり、そのままチケットはなくなり祐治の勝ちとなった。
「勝った!!たくろうありがと」
>お疲れ様。また今度ゆっくり遊ぼう。
そう言って旅の宿は戦場を後にした。
スコア
戦場太郎 32k 10D
旅の宿 95k 0D
「まったく、やっぱ凄いなあいつ、一度どんな奴か会ってみたいものだ」
「お兄ちゃんやったね」
「最初の八人抜きは見事だったぜ。まヘリのパイロットに全部持ってかれたけどな」
そういって祐治に近づいて来たのはシャルロットと良蔵。
「お前のためにならISの武器だろうと何だろうと作ってやろうじゃないか、楽しみにしとけ」
そういって祐治の背中を叩くとお通夜モードのデュノアトルーパーズの元へ大笑いしながら歩いていってしまった。
「桐島様、お見事です」
「シャルロットもじぃやもありがと」
「あー負けた負けた、負けましたよ!!良蔵うるさいぞ!!」
「あっはっはっは!!八人で殴りかかっておいて負けてやんのだっせー」
そうして賑やかな中、フランス第一日目は過ぎていった。
ここからはオリジナルキャラがメイン
たくろうは誰だろうね
名前から大体予想はつくんだけどね
旅の宿 たくろう
戦場太郎とよく一緒に分隊を組んでいるプレイヤー。祐治はたくろうと呼んでいる。
対抗戦でも同じ分隊で戦っていた。
祐治がショットガンによる近距離担当でたくろうが中遠距離で支援に徹する。
状況判断能力が高く、常に戦場の動きを把握し、相手の動きを読むことに長けている。実際対抗戦で勝てたのもこのプレイヤーの活躍が大きい。