ピピピピ....ピピピピ....
「眠い....寒い....でも起きないと体内時計がおかしくなる」
ただいまの時刻は朝の4時半、祐治が普段起きる時間である。
「顔を洗って走ってくれば目も覚めるだろう」
そういっていつも朝の走り込みようの服に着替え長袖のジャージを着ると部屋を出てた。
「シャルロットを起こさないようにっと。起きたときに心配をかけないように書置きを残しておかないとな」
シャルロットを起こさないように足音を抑えて洗面所まで行き、顔を洗って歯を磨くくと居間のテーブルに一言書置きを残し、まだ日も昇りきっておらず薄暗い外へと出て行った。
「寒い、長袖のジャージを持ってきて正解だったな」
フランスの気候は日本より少し遅れているくらいで4月のこの時間だと10℃を越えるか越えないかといった辺りである。
「さてデュノア社の探索をかねて朝の走り込みを始めますか」
その頃IS学園では。
「部長、噂で聞いたんですけど水泳部に織斑君が入部したって本当ですか!!?」
「入部したのは桐島だぞ」
昼休み、食堂でそんな話をしているのは水泳部の部長であるソリアッドと水泳部部員数名。
「えーなんだ期待して損した」
「私も織斑君て聞いて期待してたのに」
「桐島君て噂では男女差別が凄いらしいよ、イギリスの代表候補生にも罵声を浴びせたって話しだし」
ソリアッドは自分が実際に話して感じた印象と周りの祐治に対する印象がまったく違う事に驚いた。
「お前たち実際に桐島と話してそう思ったのか?」
「え?話した事ありませんよ」
「私も」
「私も無いかな、顔くらいは見た事あるけど。まぁかっこよくなかったけどね」
そういって部員数名は祐治の悪評について語りだした。
「そんな変な人を入部させる事ありませんよ、今からでも遅くないです入部を取り消したほうがいいのでは?」
「笑わせるな」
先程まで祐治の悪口や噂話で盛り上がっていた部員たちはソリアッドの苛立ちを含んだ一言で静かになった。
「ど、どうしたんです?そんな怖い声出しちゃって、ははは...」
「さっきから大人しく聞いていれば、会った事も話した事もない相手に対して失礼だとは思わないのか?男女差別が酷い?それを君たちが言うか?とにかく、桐島のことは私が実際に会って話して決めた事だ。本当に噂通りならばすぐに退部してもらうが
な。とにかくこの話は終わりだ」
(こんな時に本人が居ないとは、私には彼が性格の悪い奴だとは思えないが....)
「駄目だ、お腹空いた.....」
学園で祐治に対する悪い噂が出回っている事など眼中に無い祐治は走り込みで空腹が限界に達してしまいハンガーノック状態になりフラフラと家に向かって歩いている。
「ゆうくんて空腹キャラ?」
「なんだその空腹キャラって言うのは。昨日の夜にシャルロットが作ってくれたご飯、凄く美味しかったんだけど量が少なかったんだよ」
「たしかにゆうくん沢山食べるもんね」
やや呆れ気味なシノンにツッコミを入れる元気すらない祐治はおぼつかない足取りで家まで帰ってきた。
「なんだか良い匂いがする、もしかしたら食べ物にありつけるかも」
家から漂ってくる匂いに期待を膨らませ、おぼつかない足取りながらも玄関にたどり着いた。
「ただいまー」
「あ、お兄ちゃんおかえりー。今ご飯の支度をしてるからね」
玄関を開け、ただいまと祐治が言うとパンの焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。
昨日の夜に食べたご飯も美味しかったので朝食にも自然と期待をしてしまう。
「シャルロット、悪いんだけど何かつまみ食いできるものは無いか?お腹空いて倒れそうだ」
「もぉ、しょうがないな。昨日の残りだけどポトフを温めたところだからこれで我慢して?」
そういってシャルロットが出してきてくれたのは昨日祐治が食べた肉じゃがに見た目が似ているなと思ったポトフだった。
「悪いね。......んん、美味い!!」
「まったくお兄ちゃんは。そうそう今日の予定だけど朝一でISを使った演習があるみたいだから準備しておいてだって」
「あぁ分かった。ちょっとシャワー浴びてくる」
空腹な祐治は出されたポトフを物凄い勢いで食べると、シャワーを浴びてくると言い残し、部屋を後にした。
「ん~シャルロットはまだ本調子じゃ無さそうだな」
「どうしたの?藪から棒に」
ちなみに祐治がお風呂やシャワーを浴びているときのシノンは姿を消して声だけ。
「いや、さっき顔を見た限りだと疲れが抜け切ってなかったみたいだから、よほど疲れがたまってたんだなと思って」
祐治が体調を気にするのは理由があって、自転車で300kmを越える距離を走る場合、単独で走る事は殆ど無く、クラブや知り合い、見ず知らずの人でもトレインという列を作って先頭が風除けになって後ろの人が空気抵抗を受けないようにし、体力を回復していき、先頭が疲れたら先頭の人が速度を落とし、二番目以降の人が追い抜いていくというのを繰り返すローテーションを行い協力し合って走るため自分はもちろんの事、周りの人達の顔色や体の無駄な動きの有無などを見て体調が悪そうなら声をかけたりして全員で走りきろうとする。
特にこういった考えが表に出てきたのは佑香の存在が大きい。
「そう?私には元気そうに見えたけど...」
「ふっふっふ、どうやらISの天才も人間の持つ可能性には興味がないようだな」
「いいんです~、私の役割はゆうくんの支援が誰よりも一番に出来れば」
「心強いね~、期待しちゃうよ?」
「まっかせなさ~い」
「お兄ちゃん、ご飯で来たよ~」
祐治が今一番求めている食事の用意が出来たようなので急いでシャワーを済ませてシャルロットの元へ向かった。
「お待たせ、ん~良い匂い」
「召し上がれ」
「いただきます」
祐治はシャルロットと向かい合って座り、テーブルに並べられた美味しそうなご飯を食べ始めた。
「昨日の夜に食べたのも美味しかったけど、出来立ては尚美味しいね」
「そう言ってもらえると作り甲斐があるよ」
美味しい美味しいといいながらかなりの勢いで食べていく祐治に気分を良くしたのかシャルロットは祐治を眺めて笑顔を浮かべている。
「ん?どうしたシャルロット.....あぁ、食べ方おかしいか?小さいときから日本食が殆どだったからこういった食事は慣れてないんだ」
「ううん、違うよ。自分の作った料理を美味しい言ってもらいながら本当に美味しそうに食べてるのを見ると幸せだな~って思って」
「そんな大袈裟な....」
「大袈裟だと思うけど...こんな風に誰かのために一生懸命ご飯を作ったりする余裕ができるなんて....」
そういって笑顔を向けるシャルロットの瞳には涙が溜まっており、今にも溢れそうになっている。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「じっとして」
祐治は身を乗り出して指でシャルロットの涙を拭ってやる。
「あ、あれ?...おかしいな....どうして止まらないんだ...」
祐治がシャルロットの涙を拭ってやると何かが吹っ切れたかのようにとめどなく涙が溢れてくる。
そして祐治は一旦涙を拭うのを止め、席を離れるとタオルを持ってシャルロットの隣に座った。
「はい、顔こっちに向けて」
祐治はシャルロットを自分のほうに向けるために一旦座りなおしてもらい、手に持ったタオルでシャルロットの涙を優しく拭う。
「俺はシャルロットが今までどんな生活をしてきたのか知らないけど、昨日会ったときの辛い顔は絶対にさせない、それだけは誓う。だから泣きたいときは泣いていいし辛い事があれば相談してくれ。だから溜め込まないで頼ってくれ、俺に出来る事はやるから、いいね?」
「うん...うん....ありがとう....」
それからシャルロットが落ち着くまで祐治は頭を撫でてやったり涙を拭ったりした。
「ありがとう、落ち着いたよ。お兄ちゃん、お願いがあるんだけど」
「なにかな?」
「これからいつまで一緒にここに居れるか分からないけど、その間僕の作ったご飯、食べてくれる?」
すっかり落ち着いたシャルロットがまっすぐこちらを見てお願い事がある、なんていうものだからどんな事を言われるのか構えていた祐治はシャルロットの可愛らしいお願いに顔を綻ばせると。
「そんなの、こちらからお願いしたいくらいだ。これからも美味しいご飯を期待してるよ?もう少し量が多くてもいいかな?」
「え?男の人がどの位食べるか分からないから結構多めに作ったのに足りなかった?」
「人よりすこぶる燃費が悪くてね、それに美味しいから沢山食べれてしまうんだよ」
「ふふ、嬉しい。よっしやる気出てきた、覚悟してよね」
そういって力強い笑みを浮かべるシャルロットにつられて祐治も自然と頬が緩んでしまう。
ピーンポーン
「祐治様、シャルロット様。準備できておりますか?」
「あ、じぃやだ。あれ嘘もうこんな時間」
「全然気にしてなかった、急がないと!!」
朝食を終え、祐治とシャルロットは佑香の事やシャルロットの母親の話などをしていたら盛り上がってしまい、祐治の武器開発が本格的に始まるというのに約束の時間を過ぎてしまっていた。
「申し訳ない」
「声を聞けば分かります、シャルロット様はすっかり元気になられたようですね」
シャワーを浴びるついでに殆どの準備を終わらせていた祐治が先にじぃやの元へ行き、シャルロットは急いで準備をしているところである。
「泣き虫ですけどね」
「泣き虫....ですか...」
祐治のシャルロットは泣き虫だと言う発言にじぃやは少し驚いたような表情を浮かべる
「昔はそんな事はなかったのですか?」
「えぇ、元気で社交性のある子でしたけど、泣き虫ではなかったかと」
「余程溜め込んでしまったのでしょうね」
「はい、シャルロット様は自分を押し殺して常に本家の方々の顔色を伺っていましたから、ですが桐島様のお陰でそれも心配いらなくなりましたね。ですがこの調子で行きますと....」
「じぃや、あまり俺を試さないでくださいよ。貴方みたいな立派な方に試されてしまうと生きた心地がしません。俺はシャルロットと一生変わらない兄妹という関係を目指しています。今はシャルロットが溜め込んでしまったものを吐き出している所ですから」
「そうですか、しっかりと考えていらしたのですね」
じぃやも一日たって冷静さを取り戻したのか、たかだか15歳の少年に大きな事を任せていいのだろうかと、そういった考えが浮かんできたのだろう。
だが祐治も中途半端なことをするつもりは一切無く、本気でシャルロットの事を考えていたため、その気持ちをじぃやにぶつけると安心したような表情を浮かべた。
「ごめんなさい!!僕とした事が時間をまったく気にしてなくて」
「いえいえ、向こうの方達は分かってくださる方ばかりですから、ご安心を」
あわただしく家から飛び出してきたシャルロットと共に三人は本格的に始まる祐治の武器開発へと向かっていった。