ソーナンスが繋いだ絆! ムサシとチリ!   作:haldon

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 ムサシはチリと共に、ポケモン用のサンドイッチを作っていました。パルデアではポケモンにサンドイッチを与えるのがスタンダードなのだとか。美味しそうな匂いに、野生のポケモンたちが遠巻きにこちらを伺っています。

 

「なんや、自分カレシおらへんの? こんなに可愛いのに勿体ない。世の男共は見る目があらへんわ」

 

「ですよねー。チリちゃんさんがもらってくださってもいいんですよ?」

 

「あはは、自分おもろいこと言うやん」

 

 ムサシはガクリと肩を落としました。冗談だと思われてしまったようです。しかし、彼女は諦めません。

 

「チリちゃんさんには、恋人とかいらっしゃらないんですか?」

 

「おらんよ。まあ、強いて言うならこの子らかな」

 

 チリが愛おしげな目を向けるのは、相棒のドオーです。ソーナンスと仲良くなったのか、二匹でじゃれ合っている様子はなんとも微笑ましく、チリの顔にも優しい笑みが浮かびました。それを見たムサシの乙女心は、相変わらずコイキングのように跳ね回っているのでした。

 

 

 

 

 コジロウは、大きな公園にやってきました。自然豊かで、野生のポケモンがたくさん生息しています。ピクニックをする人も多いようで、そこここで楽しそうな笑い声があがっていました。

 

「こんなところにムサシ……いるかぁ?」

 

 彼女のイメージにはそぐいませんが、なんとなく、彼は歩を進めます。どうしてだか苦しくなって、コジロウは胸元を握りしめました。

 少し歩くと、ひときわ沢山のポケモンに囲まれた二人組がいました。後ろ姿ですが、コジロウの目は惹きつけられました。

 

「へぇー、そうなんですね!」

 

 聞き慣れた声がします。しかし、いつもコジロウやニャースに向けられるそれとは違う声でした。コジロウは声をかけそびれたまま、二人を眺めました。

 片割れは、間違いなくムサシでした。でも、一緒にいるのは誰でしょう? 小柄な男性のようにも、背の高い女性のようにも見えます。二人はポケモンたちと一緒に、何か食べているようです。

 

「えへへへへっ」

 

 少女のように、ムサシは無邪気に笑っています。コジロウが思わず目をそらすと、そこにいたソーナンスと目が合いました。

 

「ソー、」

 

「シーッ」

 

 声を上げようとしたソーナンスを、彼は咄嗟に制します。なんとなく、ムサシに自分の存在を悟られたくなかったのです。ソーナンスは、戸惑ったようにコジロウを見、ムサシを見。けれど、コジロウの意図を汲んで、自分もシーッと手を口に当てたのでした。

 

 

 

 

「ソーナンス、あんたもサンドイッチ食べ……ソーナンス?」

 

 振り返ったムサシは、あらぬ方を見つめているソーナンスに気が付きました。

 

「どうしたのよ、なんかあった?」

 

「ソソ、ソーナンス……」

 

 ソーナンスは両方の手を口元にやって、ムグムグとしています。

 

「どしたん?」

 

「さあ……つまみ食いでもしたんじゃないですか」

 

 ムサシは肩をすくめると、楽しいチリとの歓談に戻りました。

 チリが周りのポケモンにもサンドイッチを分け与えるせいで、野生ポケモンがどんどん集まってきています。こうやってこの辺りのポケモンの分布や様子を確認しているそうです。なんの打算もなしに野生ポケモンと触れ合うのは久しぶりで、それもまた、ムサシには楽しい時間でした。

 

「つまみ食い……かぁ」

 

 だから、ムサシは気づきませんでした。ソーナンスがずっと、一本の木を見つめていることも。その木の陰から、青い髪が見え隠れしていることも。

 それに気づいたチリが、目を細めたことも。

 

 

 

 

 チリがこのあと出かけるというので、ムサシは早めにアジトに帰りました。その途中のこと。

 

「あれ、コジロウ?」

 

「あ、ム、ムサシ……」

 

 何やら難しい顔で歩くコジロウとばったり。

 

「なんだ、アンタも出かけてたのね。どこ行ってたのよ?」

 

「ど、どこでもいいだろ」

 

「ふーん? まあいっか、興味ないし」

 

 ニャースが待ってるからとそう言って、ムサシはコジロウを促して歩きます。コジロウは少し遅れてついてきます。

 ただいま、とアジトの扉を開けると、憤慨した様子のニャースが飛びかかってきました。

 

「おみゃーら! ニャーを放っといて出かけるなんてヒドいニャ! ヒドイデニャ!」

 

「あははー、ごめんごめん。んで? なんか進捗あった?」

 

「それニャ!」

 

 ニャースはムサシから飛び降りると、得意げに胸を張ります。

 

「件の『強いトレーナー』の正体が分かったのニャ」

 

「へえ、たまにはやるじゃんニャース」

 

「ひと言余計ニャ」

 

 そう言いながらも、満更でもない様子のニャース。ひらりとテーブルに飛び乗って、ムサシたちを手招きしました。二人は素直に顔を寄せます。

 

「その正体はニャ、にゃんと、」

 

「「にゃんと?」」

 

「にゃんと!」

 

「「にゃんと!」」

 

「地面使いの四天王、チリなんだニャ!」

 

「四天王!? すっごい大物じゃん!」

 

 思いもよらぬビッグネームに、ムサシは飛び上がりました。これはジャリボーイより大きな獲物かもしれません。隣のコジロウがなにやら固まっているのが気になりますが、そんなことより四天王です。

 

「四天王の……名前なんだって?」

 

「チリだニャ」

 

「そう、チリ! ……チリ?」

 

 聞き覚えのある名前に、ムサシはぱちくりとまばたきをして固まりました。え? 人違いだよね? たまたまだよね? まさか、あの人じゃないよね? ―――たくさんの疑問や戸惑いが頭の中を駆け巡りますが、どれも言葉にはなりません。

 

『四天王なら、画像データもあるよー』

 

 ご丁寧にも、ロトムがその四天王とやらの顔写真を見せてくれます。ロトムの画面の中でにこやかに笑っているのは、ムサシの大好きなあの顔でした。

 

「チリ……ちゃんさん……」

 

 急に、世界がぐるりと回ったようでした。目の前が真っ暗になって、頭の中は真っ白になって、ニャースの声が遠くで聞こえます。ムサシは呆然としたまま、ふら、ふらと足を運びました。

 

「ムサシ? どこ行くニャ?」

 

「ちょっと……一人にして」

 

 そう言い残して、アジトを出ます。扉の閉まる音が、やけに大きく響きました。

 

 

 

 

「いったいどうしたっていうにゃか、ムサシは」

 

「あー……」

 

 コジロウには、ムサシがショックを受けた理由が分かっていました。思い出すのは、先程の公園での出来事です―――

 

 

 ―――ムサシが公園を去ったあと、コジロウは何だか気が重くて、その場を動けないでいました。

 

「なあ、自分」

 

 突然背後からかけられた声に、コジロウはビクッと飛び上がりました。見れば、さっきまでムサシと一緒にいたあの人が、コジロウを睨みつけているではありませんか。完全に油断していたので、接近に気が付かなかったようです。

 

「自分、ムサシちゃんのなんなん?」

 

「なんなん、って……」

 

「カレシ?」

 

 コジロウは虚を突かれて一瞬固まりました。それから、ぶんぶんぶんと首を横に振ります。

 

「ち、違う、けど」

 

「じゃ、ストーカー?」

 

「違う違う! オレはただ、最近ムサシが一人で出かけちゃうから、なんだろうな、と思って……」

 

 ふうん、とその人は目を細めています。謎の圧力を感じて、コジロウはたじろぎました。けれど、負けてばかりではいられない、と気合を入れます。

 

「お、お前こそムサシのなんなんだよ?」

 

「友達や」

 

「友達? ただの?」

 

「ただじゃなかったら、なんぼやっちゅうの」

 

 ふん、と鼻を鳴らすその姿に、怯んだ様子はありまけん。どうも、コジロウの方が分が悪そうです。

 

「何者や知らんけど、自分ムサシちゃんの知り合いやろ? ならなんでこんなところで隠れとったん? 声かけてくれればよかったんに」

 

「だって……邪魔しちゃ悪いかなって思ったからさ」

 

 さっきのムサシは楽しそうでした。少なくとも、邪魔をするのが憚られる程度には。でも、その姿を思い出すと、なぜだか胸のあたりがモヤモヤしました。

 

「ほーん」

 

 コジロウの返事に何を思ったのでしょうか、その人はふわりと目元を和ませます。それだけで、さっきまで感じていた圧力が消え去って、コジロウは内心で息を付きました。

 

「なるほど、ムサシちゃんのこと心配しとるのはホンマみたいやな。自分、名前は?」

 

「こ、コジロウ」

 

「ん、うちはチリちゃんや。よろしゅう」

 

 さっきまでとは打って変わって親しげな笑顔に、コジロウも思わず毒気を抜かれて握手を交わします。それから、いや握手してる場合じゃない! と首を横に振りました。

 

「で、で、お前はなんなんだ?」

 

「だから言うたやないの。ムサシちゃんの友達やで」

 

「でも、それにしちゃ……」

 

「それにしちゃ、なんや?」

 

 コジロウは口ごもります。自分が何を言おうとしたのか、よく分かりませんでした。それでもなんとか言葉を絞り出します。

 

「ムサシとは……ずいぶん仲いいみたいだったから」

 

「友達やもん、当たり前やない?」

 

「そりゃ……そうなんだけど、そうじゃなくて」

 

 俯いて、もごもごと言葉にならない声を発していると、チリがその顔を覗き込んできました。驚いたコジロウが仰け反ると、チリはからからと笑いました。

 

「もしかして、嫉妬しとるん? 安心しいや、男女の関係と、女同士の友情は、違うもんやで」

 

「嫉妬って、そんなんじゃ……!」

 

 言いかけて、ハッとします。あれ、いま……?

 

「女同士、の?」

 

「女同士の?」

 

 コジロウが首を傾げると、チリも同じように首を傾げました。二人は向かい合わせになって、同じ方に傾きながら、言葉を交わします。

 

「お前、女?」

 

「失礼なやっちゃな、うちは女やで。……まあよく間違われるんはそうやけど」

 

「ムサシにそれ、言ったか?」

 

「特に言うとらん……けど……」

 

 これはまさか、とコジロウは青ざめます。同時に同じことを思ったのか、チリも青ざめています。突然、がばりとチリが頭を抱えてうずくまりました。

 

「まさか、ムサシちゃん、うちのこと男だと思っとる? あああ、言われてみれば心当たりあるう!」

 

「お、おお」

 

「どないしよ、いや待ちぃ、うちの口から言うからな、コジロちゃんはムサシちゃんに言わんといてや」

 

「お、おう」

 

 コジロウは相槌を打つしかできません。それからチリはすっくと立ち上がると、真っ直ぐにコジロウを見つめました。

 

「もしホンマに誤解を与えとったなら、それはうちの責任や。うちがケジメつけなあかん。すまんな、自分。迷惑かけるかもしらんけど」

 

「い、いや、それは別にいいよ……」

 

 そう言うと、チリは微笑みました。コジロウが思わず見とれてしまうほど、優しくて、素敵な笑顔でした。

 

「うちが言うこっちゃないけどな、ムサシちゃんのこと、頼むな―――」

 

 

 ―――コジロウは悩みました。ムサシにチリが女だと打ち明けるべきだろうかと。それでチリのことを諦めたなら、ショックは消えるかもしれません。でも逆に、真実を知ることで、ますますショックを受けるかもしれません。そもそも、チリとの約束もありますし。

 でも、このままではだめだ、ということだけは分かりました。だから決意を決めて、コジロウはアジトの扉を開けました。

 ムサシは、扉を出てすぐのところにうずくまっていました。ソーナンスが心配そうな顔をして、寄り添っています。

 

「……なによ」

 

 ムサシが言葉をこぼします。その声色は、怒っているようでもあり、泣いているようでもありました。

 

「チリちゃんに会いにいけよ」

 

 コジロウは言います。チリの名前を出したためか、ムサシが少しだけ顔を上げて、コジロウを見上げました。

 

「……なんで」

 

「後悔させたくないんだ」

 

 コジロウは、自分がどんな表情をしているか、分かりませんでした。でも、そんな自分を見たムサシが、少しだけ驚いたように目を丸くしたので、よほどひどい顔をしていたに違いありません。

 

「……ありがと」

 

 ムサシはそれだけ言って立ち上がると、こちらを一瞥もせず走り出しました。ソーナンスがその後を、とたとたと追いかけていきました。

 それは、見方を変えればただの丸投げの結論かもしれません。でも、コジロウにとっては決意の結論でした。どんな結果が待っていようと、自分はそれを受け止める、という決意の。

 

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