中短編くらいのあんまり長くない話ですがイタチさんが鼬に転生するという多分一回くらいは皆考えた事あるんじゃないかなネタの新連載始めました。
時系列的にはサラダちゃん7歳の時の物語です。
正直BORUTOは連載おってないので、BORUTOの二次創作というよりNARUTO外伝~七代目火影と緋色の花つ月~の二次創作くらいに思っていただけると&気軽にコメントいただけると助かります。
それではどうぞ。
……間違いも多い人生だった。
それでもその人生に後悔はない。
「お前はオレのことを、ずっと許さなくていい……」
最愛の弟を引き寄せる。少し怯えたようなその態度は、これまでのオレのやらかしを反映しているみたいで、胸が痛まないと言えば嘘になる。
だが、これが最期だ。
オレはもう逃げない。
最期だからこそ本当のことを少しだけお前に伝える。
「お前がこれからどうなろうとおれはお前をずっと愛している」
言えるとは思っていなかった。もう会えるなど思ってなかった。だけど、サスケ、オレの最愛の弟、お前の行く末が幸福である事をオレは、兄として願っている。
* * *
……眠りから覚めたら、ふと、そんな記憶を思い出した。
彼は火の国、木ノ葉隠れの里近郊に住む生後約5週間ほどの子鼬だ。
眼が見えるようになったのもつい昨日からだ。
名前は無い。
いや、それは当然のことだ。
何故なら彼は野生動物であり、その親も兄弟もそうであるからには名前などというものは概念すら存在していない。今も彼の兄弟達は不思議そうな顔をして彼を見つめている。
「キュ~?(へい、兄弟どうした?)」
「キュキュ~?(まだ眠いの~?)」
因みに彼は今生では4人の兄弟達に恵まれたのだが、前世のうちはイタチと呼ばれていた人間時代の記憶のように、どちらが兄とか弟とか姉とか妹という概念はない。鼬は多産であり、強いて言うなら五つ子なのだがどの子が一番先に生まれたのかなど、母が考慮することはまずありえないからだ。
故にどちらが上とか下とかなく、兄弟は兄弟である。
(兄? 弟? 前世……?)
そこまで思考してから、この若いを通り超して赤子と呼んで良い赤ちゃん鼬の雄は首を傾げた。
(何故オレはあの記憶をオレの前世と判断した?)
自分でもわからないし、見たことないが、あれは人間という生き物の記憶だ。人間の中でも、苦悩に満ちたうちはイタチと呼ばれていた男の21年分の記憶、しかしそれをこの子鼬は自分の記憶……推定前世と判断した。それは何故か、なんとなく漠然とそうだと思ったからだ。母を見てこの雌が母だと思うように。
だがこの時点で荒唐無稽で、それ自体がわけのわからない事である。
何故なら生まれて生後5週間の彼は目が見えるようになったばかりで、この穴蔵の中から出ていったことなどないし、彼が知っている世界は母と兄弟たちにこの小さな巣穴、それだけだ。
鼬の雄は胤付けこそすれど、人間のように子育てに関与することはない。それ故に彼は父親にあたる鼬のことすら知らないし、人間という生き物とて見たことがない。それなのに、どうしてこんなに冷静にそれが前世と受け入れているのか、我ながら不思議であった。
だが、考えるだけ無駄な行為かもしれないとも、思っていた。
「キュ~キュ~(ほらあんた達何を騒いでるのさっさとお乳飲みなさい)」
そんな彼と兄弟たちのやりとりを見て母鼬は呆れたような鳴き声を上げながら、自分の乳を指し示す。
「きゅ~(は~い)」
兄弟達は素直に母の言葉に従ってングングと母の乳を一生懸命吸う。
「キュー(ほら、あんたも)」
そのどこかけだるげで少し面倒くさそうな母の言葉に、前世の人間の記憶が邪魔をして少し戸惑いつつも近より、そろりと母の乳を吸う。すると思っていた以上に腹が減っていたのだろう、んくんくと吸い上げながら「嗚呼、美味しいな」とそんな事を考えた。
そうしてお腹いっぱいになると眠くなってくる、赤ん坊の性である。
ここら辺は鼬も人間も変わらないんだな、とうちはイタチという男の記憶をもって転生した元人間の子鼬は眠りについた。
『イタチさんの鼬ライフ』
……―――ところで鼬の寿命は短い。
その平均年齢は1,9歳ほどであり、5月~8月くらいに生まれ、生後8~10週間程で乳離れし、生後約3ヶ月ほどで一人前となる。
とはいえ、流石に生後6週間ではまだまだ鼬の基準から見ても赤ん坊であり、漸く活発に巣穴の中をうろつき回れる体力ができはじめた、程度でしかない。
だが、うちはイタチという男の記憶を持つこの子鼬は、人間だった前世の記憶がある影響故か、普通の鼬とは精神状態が異なるらしく、ある程度過不足なく動けるようになった頃から、前世の修行の真似事みたいなことをし始めるようになった。
「きゅう~(イタチ~? 何してるの?)」
ちょっと顔の白い面積が広い雌の姉妹が、クリクリの目に不思議そうな色を乗せて、兄弟にあたる子鼬を見つめる。
子鼬は前世の記憶がある影響故か、鼬には名前という風習がないことは承知しながらも、他の兄弟達には自身を「イタチ」と呼ばせていた。
所謂自分で自分に前世の己の名をつけた状態だ。
だがこの名で呼ばれるのが一番しっくりくるのだから、仕方ない。
そんな言い訳を自分の脳内でしながら、「きゅ(狩りの練習だ)」と答える。
そんなイタチの返答に姉妹は、更に不思議そうにしながら「きゅきゅ(わたしたち、まだまだ子供だよ?)」とその行動に疑問を抱いた。
「きゅ(でもやって損は無いだろう?)」
「きゅ~(イタチって本当に変わっているね、変なの~)」
そんな姉妹の鼬として至極最もな感想を聞かなかったフリをして精神を統一する。
転生し、人間のうちはイタチではなく、今は只の野生動物の子鼬でしかないイタチには写輪眼が使えないのは当然のこと、忍術も幻術も最早使うことは不可能だ。
なにせ練り上げるべきチャクラが無いのだから当然だろう。
それだけでなく、前世で得意とした手裏剣術も、こんな水かきのついた小さな手じゃ出来るわけがない。それでも、前世の経験は無意味にはならないとイタチと自らを名乗る子鼬は思う。
体術。
チャクラを練ることは出来ずとも戦い方の基盤はある。
イタチは例えただの野生動物であろうと、自分が弱い事を良しとするつもりはない。
いざという時、力が無くて嘆くハメになることは出来れば避けたいものだ。
当然ただの子鼬にしか過ぎない今の自分がそこまで強くなれないことはわかっている。だからといってそれが努力しない理由にはならない、それだけの話だ。
この手では最早手裏剣を使うこともクナイを握ることも出来ない。
だが、それでいいのだ、今の自分は人間では無く鼬なのだから。
なら、その武器は何か。
イタチは自分の手を見つめる。
……そう、この爪だ。
武器となるのは身軽な体と爪、そして鼬の代名詞である肛門線から放出可能な悪臭、それだけ。
だが、小柄な体をしているがそもそも鼬とは凶暴な生き物で有り、体長は成人しても30㎝に満たない大きさながら自身より大きな獲物を仕留めることとて珍しくは無い。
ネズミに小鳥、昆虫、蛙に蛇などを捕食する他に、その手には水かきがついているように、水中を泳ぐことも得意で、ザリガニや魚などを食すこともあり、基本は肉食動物だ。
とはいえ、アケビや柿、ヤマブドウの実等を食らう事もあるので、基本肉食動物なだけで果実なども食せるのだが。あと食事量は体重の40%と以外と大食いである。
……まあ今は母鼬の乳で育てられている身であるイタチにはまだ早い話であるが。
何が言いたいかといえば、可愛い顔して鼬は結構凶暴で大きさのわりに高い戦闘力を有した生き物だということだ。非情にすばしっこく、舐めてかかると散々な目にあうことだろう。
イタチには人間だった頃の記憶もあるが、今の自分はしっかり野生動物の鼬であると認識はある。つまり人間の頃の事は参考にすることはあれど、どちらにせよ同じ戦い方でいく気などサラサラないし、そもそも人間の真似事をして強くなることは不可能だ。
それでも強くなりたい。
それは人間のように、ではなく、あくまでも鼬として、鼬の体で出来る範囲で誰よりも強くなりたいということだ。
実際人間の頃の知識が無駄になることもない。
どんな生き物であれど、急所はあるからだ。
イタチは鼬として戦い方を模索し、昇華しなければならない。
今は子鼬として日々を過ごすイタチは集中しながら、構えを取る。そんな真剣な兄弟の様子に、姉妹はピリリとした緊張感さえ孕みながら見守る。
そして、次の刹那、イタチは駆けた。
戦うべき架空の誰かを想定して、爪を同じ所に違わず三度振り下ろし、後ろに跳躍、クルリと回って後ろ足で強烈な回し蹴りし、続いて架空の相手の振う攻撃を避けるように攪乱するような動きで後方に三ステップ、前足で地を蹴り、クルリと回転して強烈な膝蹴りからの天井移動、そして三度の爪の振り下ろし。
それらが瞬きする間にもつかぬ早さで繰り広げられた。
1人稽古だ。
誰もいないのに、まるで誰かと踊っているかのような無駄の無い精錬された動きに、姉妹は吃驚したように尻尾をぶわりと立てる。
とてもではないが、普通の鼬がするとは思えない挙動に、不思議な心もあるが、それ以上にこの雌鼬は綺麗だ、とそう自分の兄弟を思った。そんな風にポカンと姉妹が見惚れている間にも他の兄弟達も恒例のイタチの演舞に似た修行風景に気付いたらしい「きゅ~(あ、イタチまたやってる~)」「きゅう(兄弟すげえ)」などとワラワラ近寄ってくるが、イタチはそんな自分の兄弟達の様子を気にすることもなく、相変わらずクルクルと踊るように修行を繰り返していた。
「きゅ?(なにしてるの?)」
とそんなことを繰り返している間に、狩りに出かけた母親も丁度戻ってきたらしい。どさりと、降ろされた獲物を見るにあたり、今日の母のご飯は蛇らしい。
仕留めた獲物にかじりつきながら母鼬は呆れたような声で鼬に言う。
「きゅう(あんた本当に変わった子ね。なんかニンゲンみたい)」
その母の言葉に、まだまだ好奇心旺盛な子供達四匹は「きゅ?(ニンゲン?)「きゅ~?(ニンゲンってなあに?)」と母に尋ねる。
それに母はそっけない口調で「きゅう(時々森に現われるおっかない生き物よ)」とそんな答えを返した。
「きゅうきゅ(それよりあんたたちも早くお乳飲みなさい)」
そういって母鼬はごろんと、子供達が乳を吸いやすいように横向けに横たわる。それを見て子供達はもはや興味は自分のご飯に変わったのか、上機嫌に母の乳に吸い寄せられていった。
「きゅ(おいしーい)」
それらの微笑ましいやりとりに、今日の修行を切り上げて、イタチはすくすく育つ兄弟達に和やかな気分になって手を止める。
「きゅ(ほら、あんたも)」
母は1人微笑ましそうに兄弟達を見ているイタチを面倒そうに呼ぶ。
兄弟達に、自身をイタチと呼ばせているイタチであるが、母がそう彼のことを呼んだことは無い。極普通の森に住む鼬として生まれ育った母鼬にしてみれば、息子であるこの一風変わった雄鼬の振る舞いは、まるでニンゲンの真似事をしているようで、さぞ薄気味悪いことなのだろう。
それでも、他の兄弟達と分け隔ての無いその態度を有り難いとイタチは思った。
母の乳を吸う。
どんなに鼬離れした思考があれど、体は正直だ。思っていた以上に腹が減っていたのかんくんくと夢中になって母の乳を吸ってしまう。
こうしていると、まだ自分が子供……それも動物の赤子であることを嫌でも実感する。だが、鼬の寿命は前世である人間に比べればずっと短い。いつまでも、母のゆりかごで甘やかされているなど、有り得ないのだ。あと2週間もすれば狩りを覚え、夏を過ぎれば一人前となり巣立ちをする。それが鼬という生き物の宿命だ。
この今は微笑ましい小さな兄弟達も、あと2ヶ月もすれば、母と大差ない体格に育つことだろう。否、鼬の雄と雌では平均的な大きさは10㎝ほども違う。その事を考えれば、兄弟達の多くは自分を含めて母よりも大きく育つことだろう。それが短いのか長いのか……人間の感覚にしてみれば短いだろうが、元々鼬の寿命は1,9歳ほどだ。だから寿命からすればそこまで短くもない。多分、短く感じてしまうのは人間だった頃の記憶を持つ自分にとってだけだろうと、そうイタチは分析する。
そして巣立てば最後、余程のことがない限りこの母と再会することは無いだろう。
再会したとしても、ほぼ他人のようなものだ。平均寿命からしても、次の繁殖期には亡くなっている。
その事に思うことがないといえば嘘になる。
前世、うちはイタチという名前の人間であった頃、己が選んだ選択は、親不孝者の誹りを受けてもおかしくないものだったからだ。
結局、サスケを頼むとそう言われたのに、前世の自分に出来たのは弟の道を瞳力で歪めるだけだった。そんなどうしようもない兄だった。弟が正しい道を歩いていくことを、確かに願っていた筈なのに。一人で出来ると嘯き嘘ばかり突き続けた本当にどうしようもない兄だった。
だから、本当を言うと親孝行を今世ではしたい気持ちもあるのだ。それは前世に対する罪滅ぼしなのかもしれない。だが、それは鼬という生き物の生態的にはそぐわない価値観だ。巣立ってまで親子に固執されるほうが母であるこの雌鼬にとっては迷惑な行為だろう。
だから、今は素直に乳を吸い、母の言うことを聞いて眠りにつく。
それだけが今のイタチにとって出来る唯一の親孝行だった。
そして生後約二ヶ月弱を迎え、漸く狩りに出られるようになった。
先週から母の乳を吸う生活からは解放され、母の捕ってきた獲物を食すようになった。元々前世の人間だった頃は嫌いな食べ物がステーキであったように、肉が得意ではないので内心心配ではあったが、たとえ人間の記憶や知識があろうが現時点のイタチはただの子鼬、肉食動物なだけにいざ口に含むと大体平気だった。
兄弟達の半数はまだ母の乳を吸っているが、自分以外にも肉を食うようになったわけで、母1人で狩りは大変だ。だからオレも狩りにいくと、餌を分けて貰ったその日に宣言したのだが、母には「きゅう(あんたね、あんたはいいかもしれないけど、他の兄弟のことも考えてあげなさい。ちょっとは足並み揃えたらどうなの?)」と指摘されて反省した。
前世でも穢土転生で蘇ったときには1人でなんでも出来るとそう思うのは間違いだったと反省したものだが、結局死んでも根本的な性格というのはそうそう変わらなかったらしい。確かに、現世の兄弟達はまだ狩りに出られるような状況では無い、そう思い直し、兄弟達の成長を待つ間はただただ自分を鍛える時間へと充てた。
そして今日、初めて兄弟皆揃って母に連れられ狩りに出かける。
はじめての外出に兄弟達は大はしゃぎだ。
「きゅ!(オレ大物しとめるんだ!)」
「きゅ~(外ってどれくらい広いのかな)」
ワクワクとそんな擬音が聞こえてきそうなくらいの兄弟達の様子に思わず苦笑する。全く、ハイキングじゃ無いんだぞ、と言いたくなるがそれを言ったらハイキングってなになに? のあれなにこれなに? 合戦に巻き込まれ、余計母に手間をかけることとなるだろう、そう思うから、一番後ろから兄弟達を見守りつつ、イタチは沈黙を守る。
そうして穴蔵から森に出て、母は色々注意事項を語りながら、実際に目の前で獲物を狩ってみせる。とりあえずは川での泳ぎ方実演を兼ねて、最初に狩りの獲物で仕留めたのは小ぶりの沢ガニだ。捕った獲物を目の前で食しながら「きゅ(ほら、あんたたちもやってみなさい)」と母が促し、兄弟達も真似してザリガニやアメンボなどを捕る。
カニや虫をボリボリ食べながら兄弟達は初めての狩りにご機嫌だ。そしてはじめての森に油断もあったのだろう、その危険に真っ先に気付いたのは、当然のように兄弟達皆を視界に納めていたイタチだった。
ヒュ。
そんな風を切る音と同時に、母から最も離れた位置にいた姉妹に向かって1羽のハイタカが急降下する。元々鼬の天敵は猛禽類に狐や野良猫などが該当する。そのまま、見過ごせば姉妹は彼らの餌となり、食物連鎖の糧として消えていくことだろう。
見過ごせば、であるが。
ビュ。
姉妹が狙われていると悟ると同時にイタチは、足下にある手頃な大きさの石を後ろ足の甲に乗せ、前足を地面につけ、回転を加えながら蹴り飛ばすことによって、鋭い一撃を投石し、まさに姉妹の体を掴もうとしたその刹那に天敵の行動を妨害する。
正確無比な石の一撃は狙い違わずハイタカの爪のあたりに当たり、一筋の血が流れる。
それによって思わずハイタカは姉妹を狙うことも忘れ、慌てて羽をばたつかせ急上昇しようとするが、その合間に既に接近は完了している。そのままイタチは地面を蹴って跳躍すると、肛門線から悪臭の元を放ち、怯んだ隙に水かきのついた爪で翼の付け根を掴み、クルリと体の回転を利用して鋭い後ろ蹴りを脳天に決めた。それによって目を回したハイタカが落下を始める。
運も良かった。
鷹などの猛禽類は鼬の天敵であるが、ハイタカは猛禽類としては小柄なほうであり、雄らしきこいつは30㎝ほどの大きさで、今のイタチより大きいのは間違いないが、それでもなんとか出来る範囲の体格差だ。そんな計算をしながら、そのまま爪で冷静にこのハイタカの目を潰し、自然落下に合わせて首に圧をかけ、鋭い石の上に落ちるように蹴りによって位置を調整し、ゴギリと首を折り絶命させた。
クルリ。
地面に衝突する前に体制を整え、シュタっと降りると、兄弟達はポカンとしながら皆イタチを凝視している。ついで、兄弟達は目を輝かせながら、どーんとその毛皮でイタチの体を包み込み、「きゅー!(兄弟すげー)」「きゅう!(かっこいい!)」「きゅうきゅ~!(おいおい兄弟今の一瞬でなにやったんだよ~!)「きゅ!(兄貴と呼ばせて!)」「きゅ~!(イタチの獲物が一番おっきいよ!)」などなどわちゃわちゃしながら興奮気味に騒いだ。
それにイタチは困ったような面はゆいような感情を持て余しながら、先ほどイタチが今仕留めたハイタカに襲われそうになっていた姉妹に向かって言葉をかける。
「きゅ?(怪我はないか?)」
「きゅう(うん、ちょっと吃驚したけど大丈夫だよ)」
姉妹は大きな獲物を仕留めたにもかかわらず、全く何の興奮もなく淡々と平常運転で自分の心配をはじめた兄弟鼬に戸惑ったような反応を返しながら、「きゅ?(食べないの?)」と尻尾でハイタカを示す。
そして絶命しているハイタカを見て、人間だったら苦笑しているだろうなと思いながら、イタチはヒゲをピクピクと動かす。
自分より1,5倍ほど大きな獲物だ。
本来猛禽類は天敵ではあるが、自分よりも大きな獲物を仕留めること自体は鼬としておかしなことではないが、さてどうするか。いくら今の自分が肉食動物だろうが、これほど食える気はしない。
「……きゅ?(……お前達も食べるか?)」
「きゅ?(いいの?)」
「きゅ(ああ、皆で食べた方が美味いからな)」
そうイタチは誘い、兄弟達皆で想定より随分とでかいその獲物にかじりつく。
そんな自分が生んだ子供達のやりとりを眺めた母鼬は、もし彼女が人間であったならば確実にため息をついているだろう仕草で尻尾を揺らし、自分も獲物を食しつつも他の兄弟を生暖かい目で見守る息子の前に立ち、それから「きゅ(おまえ)」とイタチに話しかけた。
その瞳には冷めた色が宿っており、ピリリとした緊張感を孕みながら、イタチは「きゅ(母さん)」と母鼬を呼ぶ。自分と殆ど体格の変わらなくなった母は、「きゅ(お前には何も教えることは無いわ)」と突き放したような鳴き声で言う。
「きゅ(好きなところにお行き)」
その言葉に思わず唖然とする。
鼬は巣立ちが早い。そうはいってもまだ二ヶ月弱だ。通常あと2週間か3週間くらいは狩りの仕方を教えられながら母元で育てられる、それが鼬の普通だと本能で知っていた。
「きゅ(お前がいたらあの子達は成長が出来ない)」
だから、邪魔なのだと母は言う。
イタチは最早人間ではない。うちはイタチという人間の記憶をもったまま転生してしまったとはいえ、ただの野生動物なのだ。野生動物と人間は根本的にその生活も常識も違う。それは当然のことだ。野生動物がいつまでも誰かに守られ生きる? そんなの間違っている。少なくとも母鼬にとってはそれが常識だ。彼女は母親の義務として子供達に1人でも生きていけるようにしなければならない。
確かに成程、イタチの御陰で娘は命が助かったのだろう。だからなんだ? 1人で生きる力がなければどちらにせよ遅かれ早かれ別の生き物の餌となる。それは当たり前のことだ。それを過保護にも守るつもりか? たかが一緒に生まれた兄弟風情が?
それは鼬の生態的に間違いだ、と母鼬は思った。
故に宣言する。お前はもう巣立ちだと。本来の巣立ちの時期よりも早く、この共に育てれば害悪にしかならないニンゲンのような息子に対して宣言する。それは彼女なりの慈悲でもあった。
「きゅ(オマエならどうとでも生きていけるでしょう。さっさとお行き)」
イタチはそんな母鼬の心根の底まで見通し、ああこれはもうどうにもならないんだな、とそう諦めるような心境で受け入れた。兄弟達を見る。クリクリとした目が可愛らしい4匹の兄弟達。おそらく、彼らと会うのもこれが最後なのだろう。名残惜しいような気持ちもあれど身納めるように3秒ほどじっくりと眺めた。そして母に振り返り「きゅ(お世話になりました)」そう宣言し、尻尾を丸めた。
それが別れだ。
呆気ないものだった。
もう振り向くこともなく、森を駆ける。そんな息子の挙動を眺めることすらせず音だけ聞いて、母鼬は「きゅ(本当、変な子だったわ)」そうニンゲンだったらため息をついてそうな仕草で鼻をピクピクさせ、夢中でハイタカをモグモグ食べている子供達の元に向かう。
「きゅ?(あれイタチは?)」
そんな子供達に「きゅ(あの子は先に巣立ったの。あの子の事はもう忘れなさい)」そう告げて4匹に減った子供達を連れて巣穴へと戻っていった。
そして、イタチを名乗る子鼬は、木の上を駆けるように森を進む。
もう、家族はいない。
正確にはいるけれど、もう彼らの元に帰る事は無い。
母にも兄弟達にもきっと二度と会えないだろう。
それを寂しいとは思う、それでもそれ以上の興奮が今この胸にある。
この森の景色全てに見覚えがあった。知っている。同じではないけれど、わかっている。
ここは火の国木ノ葉隠れの里付近の森だ。
なら、この先にあるのは……。
そしてうちはイタチの記憶を持つ子鼬はついにそれを目撃する。
今生では初めて見るけれど、見慣れたものと同時に見慣れないそれを。
歴代の火影の顔が刻まれた火影岩。
右から数えて4人は前世の頃から馴染みのある姿。
そしてその横には更に3人の顔岩と、発展した町並みが広がっていた。
(帰ってきた)
そんな感慨と共に、子鼬はただただ7つの顔岩に見惚れていた。
続く