イタチさんの鼬ライフ(完)   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
前作はベースとなる文章が出来上がってたのもあり、ほぼ毎日更新でしたが、今作は週に1~2回くらいのペースでまったり投稿していけたらなと思ってます。


その3、イタチさんペットになる!

 

 

 正直、最初に自分を守るように飛び出してきたその影を見た時、サラダが思ったのはひょっとしてパパ? という期待だった。

 だが、飛び出してきたそれはあまりに小さかったので、そんなわけがないことを二重の意味で突きつけられる。

(やっぱりパパじゃ無いか)

 思わずガッカリしてしまったけれど、それは今までを思えば当たり前と言えば当たり前だった。

 だって物心がついてから一度も帰ってくることのなかった父だ。こんなところで、帰ってくるわけがない。それでも父が自分を守るためにピンチに駆けつけてくれる! そんな願望を抱いている自分が少しだけ惨めだった。

 けれど、そんな感傷に浸っている暇も無い。

 暴走した猪はもう眼前に迫っているし、自分を守るように目前に飛び出した何か……ふわふわの尻尾といい、大きさといい、小動物っぽい……が危険だと思ったからだ。

 思わず「危ない、逃げて」って言おうとしたサラダだったが、その小動物の行動に眼鏡の奥の黒い瞳をまん丸に見開き、再び驚かされることとなる。

 その、ぬいぐるみのように小さく可愛らしい小動物は、勇猛果敢にも暴れ猪に向かって跳躍、向かっていったのだ。まるでそれが当然のように、一切の恐れも無く。

 蛮勇、という言葉で片付けるにはあまりにも精錬された動きだった。

(凄い……)

 サラダは正確にあの小動物が猪に何をしたのか把握できていたとはいえない。

 だがあんな小さな体で荒ぶる猪を牽制し、攻撃を仕掛け、自分の危険も顧みず、このままだとサラダのほうに向かって突進してきそうだった猪を別方向に誘導し、大木にぶつけさせ、倒してしまった。

 柔よく剛を制すという言葉もあるが、小動物のあんまりにも鮮やかな手並みにサラダは吃驚した。

 そしてシュタっとその生き物は、怪我がないかサラダの身を案じるように地面に降り立つ。

「きゅ?」

 まるで怪我は無いかと尋ねるかのように一鳴きして、凜とした立ち姿で彼女を見つめるそれは、一匹の若い鼬だった。

 野生動物、なのだと思う。多分。

 少なくとも誰かに飼われているようには見えないし、こんなところに口寄せ獣が現われた! とかも術者らしき影が全く見えない以上なさそうに思える。

 だがその立ち姿は凜としていて、どこか気品があるようにサラダには見えた。可愛らしいつぶらな瞳をしていたけれど、そこには確かに知性の光が宿っているように思う。

 おそらくは誰かのペットや忍獣ではなく野生動物なんだろうけど、この子はとてつもなく頭が良い。

 それはさっきの猪との戦いを見ただけでわかった。

 勇敢に自分よりずっと大きな相手に向かっていったけれど、その立ち振る舞いを見ても決して無謀に何も考えずに挑んだわけではなかったのは、そこで倒れている猪自身が証明している。

 そして自惚れでなければ、この小さな動物は自分を、サラダを守るために飛び出してあの猪をやっつけた、そういう風に見えた。

 だから少女は勇気を出して、その自分を見つめる小動物に話しかけた。

「あの……あなたが助けてくれたの……?」

 そろりと近寄ってもこの自分を助けてくれたらしき鼬は逃げない。

 普通の野生動物なら人間が近寄れば逃げる筈なのに、そこでとどまってサラダが自分によってくることを受け入れている。それに少しだけ少女はほっとしながら更にもう一歩鼬へと近づく。

 当然だが、その魂が何者かはともかく、身体的にはただの森の子鼬に過ぎないイタチが彼女のような人間の言葉を話すことはない。それでも「きゅ」と短い鳴き声と、こくりと縦に肯く行為でそうだと肯定を示した。

 そんな自分の恩人……恩獣? にあたる森の子鼬の行為に、サラダはフワリと柔らかな笑みを浮かべて「助けてくれてありがとう」と感謝の言葉を告げる。

 そして、至近距離まで近づいたことにより、あることに気付いて少女はぎょっと再び声を上げた。

「大変! それ血じゃない! 怪我してたの!?」

 言われてイタチは自分の右前足に視線を落とす。

 そこにあるのは猪の血で真っ赤にそまった前足だ。

 爪を立てるように腕を突っ込んで猪の眼球を潰した際に浴びた返り血であり、イタチ自身には怪我は無い。だが、今はただの子鼬であり、当然きゅ~と鳴くことは出来ても人間の言語を喋ることは、口の構造上出来そうにないイタチとしては『大丈夫だ心配いらない。これはオレの血じゃ無いから気にしなくて良い』と知らせる手段がなくて困った。

 そんなイタチに対して、確信混じりに少女が言う。

「ねえ、あなたは私の言ってることわかるんだよね?」

 分かるか分からないかと言われたら当然わかる。

 故にそれを肯定するようにイタチは一つ頷きで返す。

「なら、鼬さん、お願いだからうちに来て、私に手当させてくれないかな? 助けて貰ったお礼をさせてよ」

 そう言って少女はこんな小動物に対して、心配だって色を隠す事も無く本心から真摯に懇願する。

 それに少しだけイタチは悩んだ。

 もしも、これが前世のうちはイタチの頃であったならば、肯くことはまずなかっただろう。

 何故なら彼は真相はどうであれ里に仇なすS級犯罪者という立場だったし、手助けするにしても、彼女に気付かれぬようこっそりとやる方法ならいくつも持っていた。

 だが、今のイタチは人間ですらなく、前世の人生経験とその戦闘センスにズバ抜けた知性の御陰で、流石にアカデミー入学したての子供よりかはマシ程度の戦力しかない、ただの森の子鼬である。

 この子が心配だったのも確かだが、遠くからこっそり見守って里の入り口まで送るだけのつもりでいたし、こんな風に最初は接触するつもりもなかったのだ。

 だが、うちはイタチという人間は既に亡くなっており、今の自分はただの子鼬だ。

 だからこそ、うちはイタチのように犯罪者としてこそこそと裏から手をまわす必要が無い存在なのも、また事実だ。

(それに今のオレは弱い……)

 いや、鍛えたところでただの野生動物……それも肉食獣とはいえチャクラも扱えない小動物に過ぎない自分が強くなることには限度がある。そしてこの子……おそらくはサスケの娘だろう、が心配で側で守ってやりたいというのもまた素直な自分の本音なのだ。

 かつてうちはイタチと名乗っていた時の人生は嘘に塗れたものだったけれど、もう自分は前世のように自分に嘘をつきたくない。弱い事も、出来ないことも出来ることも、まるごと自分自身であると認めてあげたい。

 ならば、却ってこれは都合が良いのかも知れないと、イタチは思い直した。

 今の自分にどれほどのことが出来るかを思えば気休めにしかならないだろうけれど、守るなら近くにいたほうが都合がいいのだ。

 遠くから守る。

 そんなことが出来るほどイタチは強くないのだから。

 だからイタチは、「きゅ」と一声鳴くと、了承の意を示すようにこくりと頷き、自分に目線を合わせるようにしゃがみ込んでいる幼い少女の腕にすりっと尻尾を一巻きしたあと、するりと彼女の手の上に乗った。

「わっ」

 これまでの反応からこの子鼬が尋常でなく頭が良いことには察しがついていたサラダであるが、柔らかい尻尾の感触とまさかそんな行動にイタチが出るとは思っていなかったからだろう、最初は吃驚する。

 だが、自分の手の平の上に収まって、つぶらな瞳で逃げることも怯えることもなくじぃと見つめてくる子鼬に、「か、かわいい~……」と呟いて、デレッとした緩んだ笑みを見せ、ついで自分が今どんな顔をしたのか自覚したのかゴホンと咳払いを一つ。

 次に頬を恥ずかしそうに赤く染めたまま、「じゃあ、一緒に行くよ」とツンと取り澄ましたような表情を浮かべて、そっと大事そうに小さな小動物の体を抱え、今度こそ修練場から里までの道のりを歩き始めた。

 イタチはそんな態度を取るサラダに、なんだか前世の弟の幼い頃を思い出して、『フフッ、可愛くて優しい、良い子だな』と微笑ましい気持ち混じりに、すっかり心は姪っ子を見守る伯父さん気分で自分を包む少女の手に頬を摺り合わせて、親愛を示した。

 そんなイタチの行動にその心境がわかる筈の無いサラダはといえば『え、今、私にすりついてきた? か、可愛っ、え、何この子可愛くない? いやいや、可愛いよね? だって、さっきまであんなおっきい猪に立ち向かっていくくらい勇気があったんだよ? なのに、私には懐いてくれるの? 何このリラックスした態度、私の事信頼してくれてるの? え、何可愛い。可愛すぎてわけわかんないよ。毛並みもつやつやのフワフワだし、軽くて温かくてちっちゃくて……ああ、もう本当可愛い、可愛い過ぎるよ~!』と必死ににやけないように表情筋と格闘しながら内心で悶絶していた。

 この世に自分に懐いてくれる、ふわふわの毛並みをした小動物が嫌いな女子など、滅多にいないのだ。

 その老成した内面さえ知らなければ、今世のイタチは完璧にただのちっちゃくて可愛らしい幼女好みの小動物なのであった。

 けれど、その血に染まった右手がただの可愛い生き物では無いことも同時に示していて……猪の眼球を潰した際についた返り血であり彼自身は一切怪我をしていないのだが、それを視界に収めたサラダは『もう、こんな時に私は何考えてるの』とついその鼬の愛らしさにはしゃいでしまった自分を嗜めて、帰路を急ぐ。

 

「ただいま」

 ガチャ。

 誰も今家にはいないことは承知しながらも、習慣として帰りの挨拶をかけながらそのうちはの家紋が描かれた一軒家のドアの鍵を開ける。

 とりあえず玄関脇にひとまずサラダは荷物をおくと、子鼬を抱えたまま風呂場へと直行し、洗面器にぬるま湯を満たすと「ごめんね、ちょっと綺麗にするからね」と声をかけて、彼の体を洗った。

「あれ?」

 とりあえず綺麗に洗ってから傷口を消毒しなきゃと思っていたサラダであるが、血を落としてみればどこにも傷が無い。そのことに目をパチクリとしながら吃驚しつつサラダは子鼬に尋ねる。

「あなた、怪我してなかったの?」

 その質問にイタチはこくりと頷くことで返事とした。

「そっかあ……ああ、良かったぁ」

 そういってへなへなと座り込む少女のその反応に、随分と心配されていたようだと気付き、戸惑うような感情を人間だった記憶を持つ子鼬の彼は覚えた。それと同時に新鮮な気持ちも。

 思えば、前世のうちはイタチだった頃も、森の只の子鼬として生まれた今世でも、あまり誰かに心配というものをされた覚えがない。心配というのは弟とか自分が誰かにするものであり、受ける側になった記憶は驚くほどなかった。前世の母とシスイくらい、だろうか。

 いや、でもなんだかんだ彼らにはイタチなら大丈夫、とそう思われてたように思うから、こんな風に安堵のあまり座り込まれるレベルで心配されるとなると、とんと覚えは無い。

 しかしまあ前世の人間の頃と違って、今の自分はこの目の前の小さな女の子より更に小さいただの子鼬だ。彼女から見ればか弱く見えるだろうし、それは心配もするか。

 あまり心配というものをされたことのない身としてはなんだか不思議な感覚で、くすぐったいが嫌な気分じゃ無い。寧ろ、微笑ましいし嬉しいくらいだ。

(本当に、優しい子だな)

 そう思ってイタチは『気持ちは嬉しい』と感謝の意を伝えるように、彼女の体にするりと尻尾を擦り付け、座り込む彼女の肩に登り、頬へのキスの代わりのように鼻をくっつけた。

 その小動物が懐いてきた! としか見えないイタチの仕草にサラダの乙女心はキュンキュンである。

 だから期待するように、サラダは「ねぇ、鼬さん、うちの子になる?」と尋ねた。

 半分無意識に出た台詞だったのだろう。

 言うと同時にはっとした彼女は「あ、でも、そのママが許可してくれたらで、あなたが嫌じゃなかったら、なんだけどっ!」とわたわたして、それから少し自信なさげに眉をしょんぼりと下げながら「どうかな?」と不安げな上目遣いでイタチに尋ねた。

「私と家族になってくれる……?」

 ペットも家族という。

 だから、彼と、この自分を助けてくれた不思議で賢い子鼬と家族になれたなら、とても嬉しいと少女は思ったのだ。

 そのサラダの言葉を聞いて、イタチは一も二も無く気付けばこくりと肯いていた。

 それを見て、少女もそれはそれは嬉しそうに花が咲くように笑った。

 そして「そういえば名乗ってなかったね! 私、うちはサラダって言うの! よろしくね鼬さん!!」そうはしゃぐように笑い、家の中のこととかどこに何があるかイタチを胸に抱えて楽しそうに説明しながら家中を歩き回る。

 そんな前世の姪らしき少女の一生懸命な紹介を、微笑ましく相槌をうちながら聞きつつ、イタチは先ほど言われた事を脳内で反芻する。

(家族……か)

 何故彼女の提案に、自分がうちはイタチという、推定目の前の少女から見て伯父の記憶や知性を持ちながら、一も二もなく肯いたのか。

 それは、嬉しかったからだ。

 もう二度と手に入らないと思っていた家族の絆を、与えてくれるという少女の言葉はあまりにも甘美な誘惑だった。

 

 前世でイタチは自ら家族の絆を断ち切った。

 それは戦争を起こさない為であった。

 それは任務であった。

 それは脅されたからでもあった。

 それでもその道を選んだのは前世の己だ。

 きっと何度あの日に戻っても、うちはイタチという人間は同じ選択をするだろう。

 たとえどんなに辛かったとしても、たとえどんなに身を裂かれるような痛みを胸に抱えたとしても、うちはイタチは何よりも平和が欲しかった。

 何も知らない弟が健やかに生きていける、そんな未来が欲しかった。

 クーデターなんて最初っから成功するはずもない、成功したとしてもまた戦争に情勢を戻してしまう愚行にしか見えなかった。一族の大人達のあまりにもお粗末な愚かしさに、目眩すら抱えていた。利用されていることにも、何故気付かないのか。

 二重スパイとされ、シスイも失い、あの頃のイタチが疲れ果ててたのも事実だ。

 三代目にもうちはのことについて少しでも先延ばしにしてくれと、そればかりで、具体的な解決策もなく月日が過ぎるばかりで、ただ実際にクーデターが決行される前にダンゾウの命を飲み、せめて弟だけでも助かるように動いた。

 自分が一族殺しの大罪人として全ての悪名を背負い、犯罪者として弟……うちはサスケの手によって亡くなり、サスケを一族の仇を討った英雄にすることでうちはの汚名を雪ぐ。

 それこそが里と一族を頼むと遺言し亡くなった親友シスイへの手向けだと、そう自分に言い訳していた。

 が、実際の所は自分がただ弟に断罪されたかっただけだ。

 一族虐殺が辛くないなんて嘘だ。

 たとえどんなに愚かだと思っていようとも、それでも彼らを手にかけることに何も思わない筈がないだろう。イタチもうちはだったのだから。

 だから、うちはでありながら、うちはの罪を何も知らないサスケの手で裁かれたかったのだ、他ならぬイタチ自身が。

 愛する弟に力を与え、愛する弟の手にかかって終わりたかった。断罪される日を待ち望んでいた。

 それをサスケの為だと嘘をついたから、失敗した。

 それがうちはイタチという男の人生だった。

 弟が正しい道を歩んでいくことを兄として願っていた筈なのに、自分の願望をサスケの為だと嘯いて歪めた駄目な兄貴だった。

 それでも、里の為に犯罪者として死んだこと、そのこと自体には全く後悔はしていない。影から里を支える忍び、それこそが本当の忍びだとそうシスイに教えられたから。

 幼かった弟から家族を奪ったのは己の前世だと、イタチは自覚している。

 そのことを思えば、このサスケの娘らしき少女と家族になりたいなどどの口で言えるというのか。

 それでもうちはイタチはもう死んだのだ。

 死者が蘇ることは無い。

 自分の自意識はイタチだと訴えているが、それでももううちはイタチの罪も、どこにもないのだ。

 だから前世の弟の縁者だろう彼女に家族になりたいと言われた事が、ただ嬉しかった。

(今度こそ……)

 家族として誰よりも側で、愛する木ノ葉隠れの里で、見守っていけたなら……それはどんなに幸せで素敵な事だろう。この弟の面影を持つ無邪気に笑う少女を、こんな小動物にも心を砕く優しい女の子を守っていけたなら、どんなにオレは嬉しいことか。そう、彼は思った。

 少女は嬉しそうに、イタチの小さくて柔らかな体を宝物のように優しく抱きしめる。

「えへへ……」

 年相応の笑顔を浮かべた彼女はとても可愛いらしくて、見ているだけでこちらも嬉しくなる。

 そんな気持ちを伝えるようにイタチは彼女の小さな手に額をすり寄せる。それに少女は益々笑顔になる、という永久機関だった。

 が、ボーンと時計の針が19時を伝えたことにより、サラダは「そうだ、御夕飯食べなくちゃ」とはっと我に返り、冷蔵庫にしまってあった夕飯を取り出すとレンジにかける。

 それから「ねぇ」とイタチに振り返り、「あなたも何かいる?」と尋ねたので、子鼬はフルフルと首を横に振ることによって答えとした。

「そっか。じゃあお水出すから。お水だけでも良かったら飲んで」

 そう答えつつ、サラダは鼬って何食べるんだろ? と思いつつ、まだこの子を本当に飼えるのかわかんないし、ママに聞いてからでいいよね、と考えながら、小皿に水を満たしてコトリとイタチの前へと置いた。

 ここで遠慮するのもおかしいだろうと思った彼は、大人しくサラダの用意した水を静かに飲み、彼女が夕飯を1人で食べる姿を眺める。

 そうして食べ終わった食器を水につけ、サラダは自分の部屋に子鼬を招き寄せると、ぽふり。枕に寄りかかりながらイタチを撫でつつ、寂しそうな声音で言った。

「今日はね、ママは夜勤だから帰ってこないの」

 夜勤って知ってる? 夜にお仕事に出ることだよ、とサラダは習いたての知識を披露するように、わざとはしゃいだ声音で彼に説明し、大好きな母についてイタチに語った。

「私のママはね、凄いんだよ。優しくて強くて、綺麗で格好いいんだ。みんながママを頼りにしててさ、チョーイチリューのくノ一って奴なんだよ?」

 その言葉だけで母親をとても慕っていることが伝わってくる。

 それにイタチは寂しそうなところ悪いが、少しほっとした。

 そもそも彼が少女についていこうとしたのは、いつまで経っても保護者の迎えがなかったことが心配だったからだ。そしてたとえ平和な時代だろうと、忍びである以上は殉職という可能性から切り離すことは出来ない。だから、最悪彼女の母親は亡くなってしまったから迎えにこれなかったんじゃないかと思ったものだが、どうやらそういうことではないらしい。

「ママはね、ほんっとうにすごいんだっ!」

 そういってキラキラ輝く笑顔で母親の自慢をする娘に、『兄さんはすごいや!』そうはしゃいでた前世の弟の姿をだぶらせた。

「でもね」

 けれど、やはり少女は寂しそうに笑って、自分の膝をキュッと抱え込み、自嘲するような声で自分の本音を出会って一日の小動物へと零す。

「私の我が儘でママを困らせたくないから、行かないでなんて言えないけど……本当はちょっとだけ寂しいの」

 イタチはそんな風に寂しさを持て余している健気な娘を慰めるように、「きゅ」と一鳴きした。

 そんな子鼬を前に、サラダは「あ、でも本当にちょっとだけ、ちょっとだけだよ!?」と慌てたように手を振る。どうやらイタチの気遣いは普通に届いていたようだ。

 そして少女は、年の割には大人びた微笑みを浮かべて、イタチの体を抱き上げると、そっと視線を合わせて静かな声で望みを口にした。

「だからさ、あなたがいてくれたらすごく、嬉しいな……」

 

 

 次の日の朝、夜勤を終えたうちはサクラ……旧姓春野サクラは「サラダ、ただいまー」と声をかけ、愛しの我が家へと帰宅した。

「ママ、おかえりー」

 トタトタと可愛らしい足音を立てて、愛しい娘が愛くるしい笑顔と共に自分を出迎えてくれる。くぅーこれさえあれば10年は戦えるわ! と思う親馬鹿なサクラだった。

 そうして2人で朝食を取り終わった後、サラダはもじもじしながら、「あのね、ママ、私ね、ママにお願いがあるんだ」そう上目遣いに尋ねる。

 それに内心サクラは『くぅー! 流石私とサスケくんの子供!! 世界一可愛いわしゃんなろー!!』と荒ぶっていたが、表面上は優しいママの笑顔のまま「なあに?」と尋ねた。

 すると、トン、そんな軽い音を立てて一匹の子鼬がリビングへと姿を見せる。

「この子を飼いたいの」

 そのちょっと思っても見なかった娘の願いにサクラは少しだけ吃驚するも、即答することもなく、じっくりと部屋に入ってきた鼬の姿を見る。

(忍獣……とかじゃないみたいだけど、ただの鼬でもないわね……)

 チャクラ反応とかは一切無いし、誰かのペットでもなさそうだ。その事から考えると野生動物と考えるべきなんだろうけれど、それはあまりにも隙がない立ち姿だった。

 まるで一流の忍びのような気配の消し方だ。おまけにただ立っているだけなのにその鼬はどこか優美で品があり、野生の荒々しさなど微塵も感じさせない。そしてその涼やかな瞳に映る理性の光……。

(……似てるわ)

 一見すると可愛らしいクリクリした小動物らしい瞳なのだが、そこに宿った知性の光はカツユ様達、契約した忍獣達を思わせた。きっとこの子はとても賢い。サラダの言葉に従うように現われた事といい、間違いなく人の言葉を理解していると思われる。

 可愛い娘にあまり不審なものは近づけたくはないのだが……。

(でも、まあ大丈夫でしょう)

 害意は微塵も感じないし、見たところ娘を大事にしてくれているようだ。

 それに生き物を飼うことは情操教育にも良いだろうし、娘には散々寂しい思いをさせている負い目もある。だからサクラは「ちゃんと自分で面倒を見るならいいわよ」と快く快諾をした。

 それにサラダはぱぁあーと笑って、「やったー!」と飛び跳ねるように喜び、そんな少女を見て、イタチもまた『良かったな、サラダ』と喜んだ。

「これからもよろしくね! 鼬さん!!」

 

 こうしてイタチはサラダに飼われることとなったのだった。

 

 続く

 

 

 

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