○月✕日
ノートに書く。くそったれ。異世界なんてクソだ。喜んでる主人公どもは全員が頭のイカれたクソだ。ノウミソなんかくさってやがるんだ。気がまぎれる。文字はいだいだ。あぁくそ、こんなことになるならもっとにほんでの生活を、毎日を、楽しんでいるべきだった。おやじとおふくろは心配するだろうか? 会社 どうりゃう じょおし あいつらはどうでも どうでもいい。家族はしんぱいだ。でもオレだって死にたくない。ちくしょう、クソだ、明日には夢がさめてるとほしい。しにたくない。しにたくない。くそったれしぬたくいやだ。
○月□日
今日はバグ技が使えるのか試してみた。アイテム増殖や変化が使えたのは幸運でしかない。ついでに、無条件ではないがいくつかの、ほかのゲームの能力らしきものも使えた。
多少の冷静さを取り戻した途端に腹が減っていることを自覚したときには変な笑い声が出てしまった。もしかしたら自分は早くも狂気に蝕まれたのかとも思ったが……まぁ、自分がそうかもしれないと疑っている間は大丈夫だろう。昨日の日記は完全にヤベェ奴のそれだが。
ともかく、経営シミュレーション系の能力が使えるおかげで食事がなんとかなるだけでも助かる。サバイバル系の世界観では食事の問題は切実だからな。
○月△日
じっくりと観察してみたところ、ステータス画面が本来のモノとは所々違っていた。この世界では誰でもステータス画面を見ることができるという設定だったハズなので、なにか上手い言い訳を考えておく必要があるかもしれない。
ただ、それはそれとしてメタルマックス系のステ項目やスキルがあるのはありがたい。四脚でも分類的には『戦車』なら適応されるハズだ。
しかし、アレを見ているとアーマード・コアを思い出す。ゲームで楽しむぶんにはともかく、あの世界に転生しなくて本当に良かったと思う。コジマ粒子でなくとも、地下世界は管理者がいるし火星なんかは……下手すりゃ転移と同時に即死してたかもな。
○月☆日
鏡を見た。若返ってた。なんで?
少し心に余裕ができたのでビルの中を探索してみた。エナジー鉱石の欠片を運良く見付けることができたので、アイテム増殖バグを使い『リサイクル強化』など素材獲得にボーナスが付くスキルを取得してガラクタを集めた。
特に電機部品を含む各種機械類はお宝そのものだ。おかげさまで一応は文明的な生活ができるようになったのだから。ソファーやら毛布やらでベッドもどきをクラフトできたのも嬉しい。今日はいくらかマシな就寝になってほしい。
○月◇日
地下で歩行戦車を見付けた。レアリティは最低のアイアン級だが、機銃とミサイルユニットが付いている『フラット2式』ならアタリだろう。たぶん。
戦闘するかどうかはともかく、シールド防御機能が使えるだけで生存率は桁違いに高まる。修理はスクラップとスキルでどうにでもなるし、燃料となるエナジー鉱石はバグで無限に使える。
どうせなら廃棄されたバイオロイドでも見付かれば治療して護衛にできたのだが、贅沢は言うまい。
○月↑日
クソだ。
ねむい。でも寝れそうにない。
○月↓日
2かい目だ。
こんなじょうたいでもはら減るらしい。
○月◎日
やはり自分は手遅れで、狂気にのまれているのかもしれない。
今日は3回目のバンデットの襲撃があったが、特に問題なく処理することができた。正直、連中が乗っていた歩行戦車がスクラップとして回収できてよかったとしか思わなかった。機銃でアイツらの頭が派手に弾けたところを見ても、もう吐き気のひとつすら感じない。
殺し合いに慣れてしまったところで、本格的に日本と決別する意味を込めて服を変えた。この世界では標準的な、戦闘機のパイロットが着てるようなヤツに防風帽とゴーグルを合わせたモノだ。いっそ人が生活しているようなエリアを目指して傭兵家業でも試してみようか?
○月ゞ日
ドラクエのスライムピアスが再現できた。でも耳に穴を開けるのはちょっとアレなのでフラット2式の駆動キーのアクセサリーにしよう。
○月〆日
せっかくなので、クロノトリガーのサラのおまもり……のようなモノをクラフトしてみた。見た目はシンプルな首飾りだが、ステータス異常の無効化はしっかりと付与されているので問題はない、と思う。
ついでにバイオハザードやコールオブデューティを全力で思い出しながら銃器もクラフトしておいた。できれば生身での戦闘は遠慮したいが、まぁムリだろう。ここはそういう世界観のゲームなんだし。
○月∞日
ここは中エリア334という場所らしい。名前ではなくナンバーが割り振られていた街のことなんてさすがに全部は覚えていないので、ここがどこなのかは結局わからないままだ。周囲が岩山だらけなのをヒントにしようにも、自分がどのナンバリングの世界に転移したのか不明なのであまり考える意味は無いかもしれない。
できれば主人公などのメインキャストに関わらずにいたいところだが、ソレを望んで成功したというラノベをオレは読んだ記憶がないので、そのときは素直に諦めるしかないかもしれん。あぁ、面倒だ。
○月?日
マシンセルの小規模な群れと戦闘になった。バンデットよりお前らが先に来いよと言いたい。スクラップ美味しかったです。
あと、ついでにバイオロイドもやってきた。というか追われてた。女性型の、身長はオレの肩ぐらいまでのヤツで言葉遣いも丁寧なタイプだ。こればかりはメインキャラかどうかはわからんかった。型式を聞いてみたが外伝を含む全てのシリーズに出てくるヤツなので判断材料にもならん。オフィスビルの時計が正確で日付が間違ってないことだけはわかったが。
○月!日
食われた。性的に。
この作品がエロゲーなのをすっかり忘れてた。とにかく生きるために忙しくてそっち方面のことなど優先順位が低くて頭の片隅にすら存在しなかった。
だが悲しいかな命の危機が近いときほど逞しくなるというのは本当らしい。あと地道にステータスを育てていたこともあって、バイオロイドのほうが先にダウンして寝息を立てている。そっちから襲ってきたくせに情けないヤツめ。
○月+日
オレがオーガニストじゃないと確信してからバイオロイドの距離感がムダに近い。顔が良くてエロいこと大歓迎の女の子に好かれていると書けば羨ましいシチュエーションだが、如何せん戦闘能力に直結する要素なので下半身任せにして疎かにすると後悔することになる。
向こうにしても食事など比べ物にならないほどしっかりとエネルギーを補給でき、ノーリスクでステータスアップができるので気軽にヤレる男の確保は優先事項なのだ。正直、そこまでエロに餓えてないのでエナジー鉱石直接食ってて欲しい。
○月■日
名前が欲しいというのでアインと名付けた。ネーミングセンスの無い人間が拘った名前を考えてもろくなことにならないのでコレでいいのだ。
歩行戦車の操縦に関するスキルのレベルを上げていた影響でバイオロイドも運転技能型に変化していた。どうせなら戦闘技能型になって歩いて行動するときの護衛をできるようになってほしかったが、そもそもバイオロイドの時点でオレより何倍も強いのであまり関係ないかもしれない。
回収した歩行戦車やマシンセルのスクラップと、バンデットから剥ぎ取った銃器の残骸で本人の装備は整ったので、明日からはアインが乗るぶんの歩行戦車の組み立てを始める予定だ。バイオロイド用に性能を調整するとエナジー鉱石の消費も増えるがオレには関係の無い話だし、なんなら鉱脈探しに出かけるのもいい。廃墟の街で過ごす毎日にも飽きてきた、というか嫌気がさしてきたので外に出たい。
いい加減自然のある風景を見ないと頭が痛くなりそうだ。人工物だけに支配された景色、それも全てが破壊された残骸ばかりなんだ。
ここに比べれば東京や大阪のような都会も命で溢れた天国だった。ちくしょう、日本に帰りたい。子どものときのようにジイちゃんとバアちゃんの畑仕事を手伝って、頑張ったなって頭をなでて欲しい。クソが。
( ゚Д゚)⇐シーン切り替えを表す置物
今回の人間はアタリのようだ。与えられた歩行戦車を操縦しながら、アインと名付けられたバイオロイドは薄く笑っていた。
前の主人は善人ではあったが、戦闘用バイオロイドにとっては退屈で物足りない人物だったのだ。護衛や警備の任務そのものは嫌いではないのだが、如何せんエリアそのものが平和な部類であったため引き金を引く機会が全く無かったのだ。
だから逃げ出した。刺激の無い日々の中で死んだように生きるぐらいなら、荒野で昆虫やら獣やらと融合したマシンセルに殺され人知れず朽ち果てるほうがまだ納得できると考えたのだ。
実際に追いかけ回されたときはかなり焦ったが、おかげでこうして新しい主人と出会えたので結果オーライというものだろう。
(益荒男ぶりが頼もしいのも嬉しい誤算でしたねぇ……。初対面の反応からオーガニストでは無いと確信していましたが、まさか反対に組伏せられてしまうとは。レアリティで表すならプラチナ、いえ、最上級であるブラック級の主人ですね……フフッ)
見た目こそ人間と変わらないが、バイオロイドは正真正銘の工業製品である。自然狂信者でありバイオロイドどころか身体の一部が機械化された強化人間すらも駆逐対象としてくるオーガニストは論外として、偏見の無い普通の男でもバイオロイド相手に“反応する”者など下手なロストアイテムよりも珍しい存在だ。
あまりにも価値観が違いすぎることに多少の疑問はあるものの、主人の過去などアインにとってはどうでもよいことだった。何故なら彼女にとって重要なのは今回の主人がタフで御立派なモノを携えていて甲斐性があり、そして性行為だけでなく戦闘行為についても消極的ではないという事実だけなのだから。
(ようやく戦闘が始まりましたね。正直、主人を囮に迂回作戦というのはあまり良い気分ではないのですが……それだけ信頼されているのだと前向きに受け止めましょう。私は私の役目を果たさなければ)
銃声と爆発音が確認できたと同時にアインは歩行戦車の出力を最大まで高め、全力ダッシュで手頃な高さのビルへと向かう。
本来であれば屋上へ向かうためには歩行戦車が通れるだけの通路が備わっているビルを探す必要があるのだが、事前に主人からエナジー鉱石は大量に確保しているので心配は無用であると言われていたため遠慮なく外壁を登ることができる。
エナジーを大量に消費して脚部に特殊なフィールドを形成して垂直の壁ですら地面と同様に移動できる、これこそが歩行戦車の最大の強みだ。
問題があるとすれば車両戦車とは違い乗馬のような跨がるスタイルに近いため、カルシウムとタンパク質で作られた人間の身体では自重を支えきれず落下してしまうことぐらいか。
「車両戦車1、歩行戦車3、そして軽装の歩兵役が17。一番後ろに控えている悪趣味な装飾の歩行戦車が頭目でしょうか。まぁ、どのみち全員仕留めるので順番などあまり関係ありませんが」
インベントリから主人お手製の銃器を──ステータス画面に『アンチマテリアル』と表示された巨大なライフルを取り出して構える。生身の人間が使用することなど全く想定されていないイカれた武器だが、戦闘用バイオロイドであるアインにとっては下腹部が熱くなるほど魅力的なオモチャでしかない。
歩行戦車のジェネレータと接続しなければ弾丸を実体化することができないという欠点があるものの、ここまで大型のライフルはどのみち屋内では使えまい。適材適所、ここは存分に、そして素直に威力を楽しむとしよう。
人間とバイオロイドを一目で区別するためのオッドアイ、アインの右目にエナジーが集中し紅く輝く。
以前の彼女であれば厳しい距離での狙撃なのだが、先のお楽しみで主人の能力を吸収したことで射撃技能もかなり高まっているので問題はない。
バイオロイドという存在が忌避される理由のひとつがコレだ。人間の血肉を取り込むことでステータスの一部や技能レベルを吸収できるという能力は、兵器としては有効でも隣人として迎えるには物騒過ぎる。
それでも自分たちに頼らねば我が身を護ることすら儘ならない人間が大勢いるという現状はアインにしてみれば滑稽そのものなのだが。バイオロイドの根絶を掲げるオーガニストでさえ拳銃を握ったことすらない者が大多数だろうに。
そういう意味でも今回の主人は大当たりなのだ。初めから情報提供を存在意義とする精液は吸収効率が桁違いであり体内のナノマシンも一晩で進化できる。脳髄のようにひとりから一回だけ、などという制限も無いのでコストパフォーマンスも良好だ。
そして努力して積み重ねた技術が一度肌を重ねただけで奪われるという事実について、彼は承知の上で平然としているところなども実に好ましい。
ついでに言うなら苛立ちや不安などのストレスを払拭するために肉欲のまま貪ることを躊躇わない弱さも可愛げがあった。彼を終の主人としたいと考えているアインにしてみれば、精神安定剤の如く活用し依存してくれるのは願ったり叶ったりである。
「さぁ皆様、ダンスのお時間ですよ。精一杯賑やかな曲を奏でて差し上げますから、派手に楽しく踊ってくださいねぇ?」
エナジーを高めた影響で風になびいていた長い黒髪もすっかり真紅に染まり、完全に射撃準備が整った。
「──ばぁん♪」
初弾、命中。頭目らしき大柄の男の上半身に直径20センチほどの穴が空く。
「ばん、ばぁ~んッ♪」
2発目、3発目も問題なく命中。これで歩行戦車は無効化できた。これがしっかりと訓練された企業の私兵団や名のある傭兵団であれば、すぐに死体を引き摺り下ろして別の人間が乗る場面だろうが……所詮はその日暮らしが限界の野盗の群れである。後方からの狙撃で混乱して身を隠すことすらできていない。
当然、そのような致命的な隙を主人が見逃すハズがない。ばら蒔かれたミサイルの爆風が逃げ遅れた盗賊たちを容赦なく吹き飛ばす。それでもまだ車両戦車に動きがないのは恐怖による動揺だろう。
活性化したナノマシンにより強化された視力が、人間だったモノの残骸を鮮明に認識する。
ソレを見て嫌悪とも憎悪とも後悔とも違う、バイオロイドの自分には定義できない複雑な表情を浮かべる我が主のなんと愛しいことか。
生き残りを処理するためにビルから飛び降りる。歩行戦車が中に入ることを想定していない人間基準のビルであれば、5階程度の高さでは怪我などしない。
コンクリートの地面が四脚を受け止め大きな音を立てて砕けるが、バイオロイドの筋力であればバランスを保つことなど容易である。
戦利品となる敵の歩行戦車だけは傷付けないように、蠢く盗賊たちへ機銃を撃ち込みながら前進する。すでに戦闘の興奮で防弾スーツの下は大変
そうなれば適当な建物に主人を連れ込んでのお楽しみの始まりだ。血と鋼と火薬の匂いの中での情事は初の試みだが……いやはや、ほんの少し想像しただけで全身のナノマシンたちが歓喜でザワザワと騒ぎだした。
主人には悪いが、満足するまでとことん搾り取らせてもらうとしよう。きっと彼も戦闘で昂った精神を落ち着かせるために最後まで付き合ってくれるハズだ。終わったあとに小言を言われるかもしれないが。
どこまでも心が満たされる喜びを感じながら、アインは車両戦車から這い出てきた盗賊の頭を踏み潰した。