エタらないようには注意します。
感想、評価よろしくお願いします。
彼女に連れられるがままにたどり着いたのは滝壺。注意深く見ればその裏には洞窟があることがわかる。どうやらここで生活しているらしく、周囲にはテントやランタンといった生活用品が見て取れた。
「まぁ、何もないけどゆっくりしてきなよ。」
人に会ったのは一週間ぶりだからね、そういって彼女はテントの中へと引っ込んでいく。
初めは落ち着きのない様子であたりを警戒していたこいつ(ミズゴロウというらしい)、も緊張から解放されたか、あるいは洞窟内の独特な湿気を気に入ったのかどことなく嬉しそうだ。
そんな様子を横目に、成り行きで関係を持ってしまった非日常について少年はしばしの間考えを巡らせる。
「おや、もう元気一杯みたいだね」
その声のするほうにいるのは件の少女だ。その手にはティーセットを携え、傍らには巨大なカタツムリのような生物を侍らせているように見える。
よくみれば蝸牛のように見えるそれは、頭部に触手のような部位を持ち、体のいたるところから粘液を滴らせている二足歩行の生物であることが分かった。その視線は鋭く、敵意を宿しているかに見える。
「紅茶でも一杯いかがかな?」
コーヒーがいい、そう答えると彼女は少し残念そうにした。
「…まぁそれぐらいは我慢してくれたまえ」
紅茶の味はとても甘かったということだけ言っておこう。
「俺をあんたの弟子にしてくれ」
紅茶を少し口に含んだ後、彼は開口一番そう放った。紅茶、口に合わなかっただろうか、むこうでじゃれ合う私のヌメルゴンと彼のミズゴロウを尻目にそんなくだらないことを私は考える。
「私はそこまでの器ではないな。他の人をあたってくれ。」
数日前に見知らぬ土地に迷い込んだ挙句、そのときからやたらとポケモンに襲われてばかりで安息の余地もない。そんな中でこんなことを頼まれれば苛立つのも当然だろう。
「この通りだ、頼む!」
「だから遠慮するといっているだろう。」
頭を下げてきた彼に再度否定の意思を伝えるも、向こうの意思は固いようでまったく怯む気配はない。それどころか、許されるならばいまにも地に膝をついて頼み込みそうな勢いである。
「第一私以外にも適任はいるだろうに、まずは初心者向けのトレーナーの講習会にでも参加してみるといい」
そんな私の言葉に、彼は驚くような表情をした。その表情は、まるでそんなことなど考えていなかった、とでも言わんばかりの顔ぶりだ。
「どうしたんだいマメパトがタネマシンガンでも食らったような表情して?これぐらいスクールやインターネットでも発信しているだろうに…」
「ないんだ、そんなものは。それどころかそんな言い回しだって今はじめて聞いた」
「…はぁ?」
おそらく今の私の顔には呆れのような表情が浮かんでいるだろう。自分でもこんな声色がでるんだな、とある意味新鮮である。
そして彼は、絞り出すかのように驚くべき言葉を口にした。
「半年ぐらい前だったか、この星に隕石が落ちてきたんだったな。でも誰も気にしてなんていなかったんだ、そのあとすぐに見たこともないような生物が現れるまでは」
アンタがいうにはポケットモンスター、だったか。そういってかれは尚も信じがたい内容を続ける。
曰く当初この世界にポケモンは存在していなかったこと。
曰くその数を爆発的に増やし今や全国にまで広がったこと、その過程で既存の生物と置き換わるようになっていったこと。
曰くこの現象は日本のみで完結していること。などと
たしかにあり得ない話ではない。
実際のところポケモンという種の起源というのはあいまいで、シンオウ神話に語られる神が作り上げたともいわれており、そんなオカルトがまかり通るほどにその進化、変遷、さらには彼らの生殖機構までの一切がブラックボックスである。案外本当にかかわっているかもしれないな、そんな風に私は思った。
「人間っていうのは案外ちっぽけな存在だ。火も吹けなければ電撃も出せない。海を意のままに泳ぐことも、コンクリートブロックを一撃で砕くことだって、俺たちが必死に努力して、それでも届かない人間がいて、それなのにあいつらは片手間で成し遂げてしまう。たまに思うんだ、もしあいつらが全力で襲ってきたら人間に戦う術なんて残されてないんじゃないかって」
そこまで言って彼は言葉を切る。その視線は私たちから離れたところでじゃれ合っている二匹に向けられていた。
「おれは自分がそこまで出来た人間じゃないってことは知ってる。あいつらのせいで、高校生にもなったばかりだってのに一度も友達と遊びにだって行けてないし、それに学校もアルバイトもどこも店じまいだ。」
それでも彼らは愛おしい。よき隣人として暮らしたい。だからそんな一時の感情で嫌いになりたくない。
だから自分に戦い方を教えてほしい。
それは、彼という人間の心からのお願いだったのだろう。
「あとは、有り体に言えば…そうだな、一目惚れみたいなもんだな。的確な指示を出しているアンタも、それに応えてくれたアンタのポケモンも、なんていうかこう、すごく輝いて見えた。」
それに助けてくれたときのあんたはまるでヒーローみたいだった。そんな余計なことまでも彼は言った。
そうか、そうですか。
今まで戦ってきた
ある時は世界を救うために、ある時は純粋にバトルを楽しむために、またある時はポケモンと絆を深めるために。
彼らの目には迷いはなく、それどころかワクワクしたように、自分こそが勝利者であるという、曇りのない自信が見て取れた。
その誰もが、強固な信念を持っていた。
あるいは|山で、川で、森で、草原で、海で、街中で、空で《目と目が合ったらポケモン勝負》、その
彼の眼はそのうちの誰かに重なって見えた。
「君、名前は」
え、と驚いたように言葉を漏らす。
「いいから、教えて」
急かすように彼女は言う。
「ユウキ、天戸祐希」
「そう」
ユウキ、ユウキっていうんだ。
なにやら合点がいったように、しばらくの間彼女はうんうんと頷いた。
彼──祐希が同じように彼女の名を尋ねる。
「私の名前?ミズキだよ」
似てる名前だね?これからよろしく。そう言って彼女は朗らかにほほ笑んだ。
山中を一人と一匹が歩く。
祐希は彼女──ミズキとひとしきりこの世界と向こう側──ミズゴロウの元居た世界の情報の交換をした。
(SNSやテレビで知っていたつもりだったけど、想像以上だった。)
未だ火竜の熱にひりつく腕の痛みを感じながら、彼は思索に耽る──自分の求めていた出会いとは斯様なものだっただろうか、と。
確かに自分はこんな出来事は未だ、いやかつて日本全国の高校生の中でも経験した者のいないようなことではあろうが、などとちぐはぐな思考が飛び交う。
そんな中で、手の中のボールを改めて意識する。先ほどまで疲れ果て眠っていたのだろう彼は、自分が足を止めたことを感じたのか振り返ってこちらに目を合わせようとする。思わずこちらも膝を折って視線を合わせてやれば、愛おし気げな笑みを返してくる。
そんな彼に一抹の親愛を抱きながら今日の出来事を思い返す。
大蜘蛛と火竜との闘い、この手の中にある命、異界からの来訪者と彼女への弟子入り、そのどれもが今まで彼が経験したことのない非日常であった。
(もとはといえば毎日の外出は自分を変えてくれるナニカを求めていたものだったよな)
(そう考えると、人生何が起こるかわからないモンだな)
そもそも自分としてもお礼を言うだけだったのにまさかあんな言葉が出るなんて思ってもみなかった。あのとき目の前にいたのはこの機を逃せばもう二度と出会うことのないだろう少女、ここを逃せば自分はそんな平凡な日々に逆戻りではないか。そんな考えが自分の頭をよぎったのは確かだ。
しかしそれ以上に、今となっては知りえないことだが存外一目惚れというのも嘘ではなかったのかもしれない。そんな思考を振り切るかのように、彼──天戸祐希は一人の友人を連れ、意を決して走り出す。
傾きつつある日の光を受けた雨上がりのアスファルトの路面は、彼のひそかな決心を応援するかのようにキラキラと輝いていた。
会話これであってるのかな。なんか不自然なところないかなってよく思う