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夜遅く──ポケモンも人も一部を除いて寝静まる頃、それにかかわりなく高速道路はトラックが疾走する。運転手の年のころは50といったところか、ノルマを終えた男は慣れた手つきでハンドルを操作し、自信ありげにアクセルを踏んでいる。しかしその顔には焦りの感情が見えた。
一連の新生物出現事件からおよそ半年、それは人間社会の活動に大きな影響を与えていた。
男の所属する運搬会社もその一つだ。行政の政策により最近まで夜間の移動や活動が自粛されていた中、その反動か、社内ではここ最近ひっきりなしに固定電話のベルが鳴っている。
自分には関係のないことだ。男は思考を切り替えラジオを聞き流しながら、自分の運転技術の低下を実感するのだった。
しばらくして、車両の姿がまばらに認められたハイウェイは、今や男の運転する車両のみになっていた。都市伝説ではこういう時に幽霊が出るんだよな。そんなことを考えていた男は、不意に視線を感じ取る。そこでバックミラーを確認すれば、仄かな赤い光を映し出していることに気が付いた
夜遅くまでご苦労なことだ。自分と同じ境遇の人間に親近感でも抱いたのか男はそんな思いを抱くが、そこでふと疑問に思う。近づいてくる音は少しも聞こえなかったしこの一帯にはICもPAもなかったはず──ならばアレはなんだ。
まさか、本当に。そんな考えが男の中に現れる。
そしてそんな考えを巡らせていた間に、いつの間に増えていたのか、バックミラーの無数の光の数を認めた瞬間、恐怖心からか思わず男はペダルを目いっぱい踏んでいた。
行け、早く行け。そんな思いが寄せては返すが、表示される速度メーターの値に反して車両の足取りは重く一向に進む気配はない。そして無情にも光はどんどんと距離を詰めていき、それに伴ってバックミラーへと移る眼光も加速度的にその数を増やしていく。
その無数の視線を感じとれるまでに”ソレ”に引き寄せられたためだろう。恐怖が彼のキャパシティを超えてしまったらしく、男はたまらず叫び声をあげる。
それは浮遊する鉄の塊であり、どこか機械のパーツを思わせる生き物であった。球状の頭部にある一つ目は何を考えているのか、無機質に赤く光り輝いている。その後ろには鉄のアームのようなパーツが取り付けられたようになっており、先端には鋭利な三本の突起が見て取れる。
そんな現実離れした生物はトラックをあっという間に追い越すと、そのまま前方へと駆け抜けていった。それに続くようにその仲間も後に続いていく。
呆けたようにそんな光景を見ていた男を、いきなり後部からの複数の衝撃が襲う。
高速で衝突した無数の100キログラム近くの鉄の塊は車両背部のコンテナをべこぼこに歪ませ、なお余りある衝撃を以てトラックをガードレール際へと突き飛ばし、結果的に男の意識を刈り取ることに成功する。
そこに残されたのはみるも無残に損傷したトラックとその運転手のみであった。
仲間からの信号を受け取る、そして己の意識を覚醒させる。
どうやらいくらかの個体ははあの見慣れぬ鉄の大箱によって体内の磁気を狂わされたらしい。もとより、見知らぬ土地より追放されし我らに、一体どのように生きる術が有ろう。そんなことを自問する仲間の信号は遠く離れ、まさに消え失せようとしている。
否、希望は未だ絶たれてはいない。
この近くにはいかなる理屈か多く電波が飛び交っている、なればこそ、今はその大本にたどり着くことを第一の課題としよう。
さすればこの体の疼きもすぐさま消え失せようか。そう思考する
夏の暑さも未だ冷めやらぬ九月一日。政府の外出自粛令の解除により、断続的に開かれていた学校はそのおよそ10日前から本来の運営形態へと戻っていた。
かねての自粛令の影響により、夏休みは10日ほど早めに切り上げられたらしい、しかしそれに反して不満の声は少なく──もとより毎日が夏休みのようなものであったためだろう──むしろ友人との再会をありがたがる者も多かったためであろう、それは好意的な態度を以て受け入れられたようだ。
そんな空気の中で彼──おそらくはこの世界で二番目のポケモントレーナーとなった少年、
「そういえばお前、なんか雰囲気変わったな。」
「お前が言うな。どうしたその体は、この前会ったときはマシュマロみたいな体してたくせに一体全体どうしてそうなる。」
「チッチッチッ、男子三日会わざればなんとやら。この俺は生まれ変わったのだ、あの地獄のような特訓を経てな。お前も目にしただろう、筋肉の精鋭達を。」
「…ああ、アレか。それでその地獄のような合宿とやらでなにか良いことでもあったか?」
ここのところよく目にする筋骨隆々の生徒の謎が腑に落ちる。いやそれにしたって変わりすぎではないのか、そんなことを気にしながら、ふと自分の夏休みを振り返る。それはもう、刺激的な夏休みであったと。
(バトルしませんかバトル、いまならポケモンのタマゴ付きです)
(毎日ご苦労ですね、今日の分もお疲れ様です。それはそれとしてバトルしようか)
(タマゴの孵し方がわからない?そういえばタマゴを持って沢山のポケモンとバトルすると早くタマゴが孵りやすいって聞いたことがあるな。だからやろうか、バトル)
(お腹すいたー!ご飯作ってー!モンスターボールあげるからさー!)
(おかえりなさいませバトルにしますか?バトルにしますか?それとも私とバトルしますか?)
たいそう刺激てきであったようだ。少なくとも最後に至っては妹と結託したらしく自分の家で待ち構えていたようだった。正直かなり恐怖を感じた。
おまけに妹も妹である。ミズキ、──山中で出会った少女──と結託、意気投合したことでここ最近の朝早い外出に対する誤解は解けたものの、また新しい誤解をされてしまったような気がする。実際にそれは思った通りで、実家に帰った妹からそのことを報告された両親は息子に
「そういう天戸君もさ、なんか夏休みの間に仲良くなった子いるみたいじゃない?」
「なんだ、お前もお前でやることやってるじゃねえか。今度俺にも紹介してくれよ。」
(断じて違う、あいつとはそんな関係じゃない。)
そんな風に否定されれば余計に噂が広まってしまうだろう。それは自分の意図することではない。
故に彼が取ったのは沈黙、自分は工程も否定もしないから好きなように解釈しろ、というメッセージを込めたものだ、
後日、その毅然とした態度に対し確信を持った同級生たちによって、「面白そうだから無闇矢鱈に騒ぎ立てることはせず静かに見守ってあげよう」という暗黙の了解が流れることを、彼はまだ知らない。
家に帰宅しボールから手持ちのポケモンたちを出す。最初はミズゴロウ一匹のみであった部屋は気がつけば多くのポケモンとその生活の跡で溢れていった。
「ピリルルル?」
こちらを覗き込んでくるのはムックルが成長した(ミズキに言わせれば進化というらしい)姿であるムクバードだ。驚いたことに1番早く進化したのは彼で、元々好戦的な気質だったからか、野生ポケモンとの戦闘に積極的に参加しその才気をいかんなく発揮している姿が多く見られたが、まさかミズゴロウよりも早く進化するとは思っても見なかった。
「ヒュヒィ....」
そしてつい先日手持ちに加わったのが、赤いユリの花弁のような首周りの突起が特徴的なポケモン、メラルバだ。つい先日タマゴから孵ったばかりでいろいろなことに興味深々であるためか、ことあるごとに自由気ままに動き回っている気がしている。今は走り回って疲れたのか、羽化を待つ蛹のように自分の腕にぴったりと止まって眠っている。
(じぃーっ)
そして今膝の上で、感情の見えない視線を向けているのが自分の相棒、ミズゴロウである。かまって欲しいのか、時折自分の胸に頬ずりしてくる姿はどこか愛くるしく、それに応じて頭をなでてやるとすぐにこちらから顔を背けてしまうが、そうなってはまたスキンシップをしてくる態度をみるに、満更でもないらしい。
「お前もやってほしいか?」
どこから持ってきたのであろうか、いつの間にかブラシを咥えていたムクバードに声をかけると、嬉しそうにこちらに寄ってくる。それに気を悪くしたのか、ミズゴロウは彼に向き直って水流を放射する態勢に入る、このままいけば部屋中水浸しだがそれだけは何としてでも回避したい。
しかしそこで、周囲の喧騒が気になったのか、それとも自分の意識が彼から外れたことを感じ取ったのか、タイミング悪くメラルバが目を覚ます。そして遊んでほしかったのか、ミズゴロウの背中目掛けてダイブした。
そう技を放つためにその全神経を集中させているミズゴロウに対して、である。
結果は語るまでもないだろう。
強いて言えば自分はコインランドリーを初めて使用した、ということだけここに記しておく。
そんなこんなで新学期を迎え、その後今までの反動として定期試験の対策に追わた日々を終え、久しぶりに我が師に会いに行く日となった。
正直言ってここまで忙しくなるとは思いだにしなかったので、事の次第を事前に連絡していたとはいえ少々会いに行くのが気まずいのではあるがそれはそれこれはこれ、新顔の紹介もかねていつものように山の方へ向かっていると、何やら様子がおかしいことに気が付く。
次の瞬間──周りを閃光が包み込む。
そんな閃光に目がくらみ漸く周りの状況を把握できるようになったとき、そこには一体の鉄の塊が鎮座していた。空模様は先ほどの快晴とは打って変わって黒紫に薄暗く淀み、日の光さえ届かぬような、さながら深海に居るように感じた。
無機質な赤い眼光と目が合う、そして──
ドゴッ!ガガガガッ!
鉄腕は意に従うがままに、命を手中に収めんとした。
フォートリビュートフェス連休前に終わるとか聞いてないんだわ