感想、評価よろしくお願いします。
突然だがポケモンとヒトとの付き合い方について少し語ろう。なかでも特に意見が分かれるのが「手持ちのポケモンをモンスターボールに入れているか否か」というところだろう。以前この世界(メタ的にいえばこの作品の世界)のようにポケモンとヒトとの距離が遠かった時代には、ポケモンをボールにいれるもっとも大きな理由に、トレーナーがポケモンを持たない人間を怯えさせないようにするためのある種の礼儀、というものがあった。その考えは時代を追うに従い風化したものの、ポケモンをボールに入れるという習慣は今日に至るまで続いている。
ポケモンをボールに閉じ込めることを良しとしない人々もいれば、それは双方の安全を顧みれば致し方ないとして容認する人々もいる。ポケモンの中にも狭い空間──例えばモンスターボールの内部のような──を嫌がる個体もいれば、別にそういったこだわりを持たない個体もいる。
この傾向はタマゴから孵って間もないような、トレーナーとの信頼関係を十全に築けていないポケモンがよくとる行動の一つに、合図なしにボールから勝手に出てくる、もしくは出てこないというものがある。
後者ならともかく前者の行動をとられるようであれば、それは暗にトレーナー失格とみなされているに等しい。仮にそうでなかったとしてもそのような行動が多発させるようであれば、それはトレーナー自身に責任能力がないと見なされる為、最悪の場合トレーナー資格の剥奪に繋がり得る。大多数のトレーナーは手持ちとのコミュニケーションを心がけ、そうならないように合図以外ではモンスターボールから出てこないように合意・躾しようとする理由が主にこれである。
しかしこの場合、祐希がそのように指示していなかったことは幸運に働いた。
ボールから指示なしに出てきたのは三体、ムクバード、メラルバ、そしてミズゴロウ。ムクバードは呆けたようにその様子を眺めていた主人──祐希の肩をつかみ、全力を以て空へと舞い上がる。そして舞い上がるついでに”かぜおこし”で土煙を払うと、その間隙をつくようにしてミズゴロウが”みずでっぽう”を仕掛ける。追撃に移ろうとした
がしかし、そこに待ったをかけたのはメラルバであった。火炎をまとった突進は、いままでのどれよりも余程堪えたらしく、メタングはその矛先を目障りな毛虫へと変更する。そこに飛び込んでくるのは先ほど視界から外れたムクバード、態勢を立て直した主人の指示によってか間一髪で目の前から獲物を搔っ攫い、さらわれた当の本人は、今度は主人の指示によって火炎を纏い錐揉み回転しながらメタングの頭頂を踏んづけるようにして、祐希のもとへと戻ってくる。
形勢は三対一、己の有利は変わりないが、この人数を不調で相手にするのは少しばかり気が滅入る。その身を突き動かす本能によるものか、はたまた
あの鉄の塊はどうやらメタングというポケモンだったらしい。それを確認した自分はいつもの場所へと向かうその前に、連絡用に渡されていた通信機器で連絡を取ろうとするが─
『お掛けになった電話は現在電波の届かない状況にいるか…』
「クソッ!やっぱり駄目か」
どうやらこの空間には電波を阻害する働きがあるようで通信が上手くいかないようだ。ミズキに連絡しようにもこの黒い空間は少なく見積もってもおよそ山の麓までは続いているらしく、今から自分は決死のサバイバルを強いられることになるらしい。
「偵察、行ってくれるか。ムクバード」
ムクバードへそう問いかければ彼は力強く頷く。確固とした決意をその顔に滲ませ、大空へと舞い上がった。
彼の導きに従ってしばらく歩いたころ、どうやら開けた場所が見つかったらしい。ひとまず自分達はそこに身を寄せることにした。緊張の糸が途切れたのか、皆ひとまずの休息を思い思いに取っているらしい。
そんな様子を眺めていると、どうやら騒ぎを聞きつけたのか他のポケモン達も続々とここに集まってきたようで、気が付けばここの一帯はポケモン達で溢れていた。といっても彼らの様子からは争う気など毛頭ないように思え、自分たちと同じく避難場所をもとめて来たに見える。
(あのポケモンはたしかルクシオとかいうポケモンだっただろうか、それにあの背が高いのはキノガッサであっちはイワパレス、スコルピやヒノヤコマもいるな)
そのほかにもヘラクロスやニドクインのような、山で見られる多くのポケモンがここに身を寄せ合っているのがわかる。
「ギャーオ!」
その平穏を引き裂くかのように赤い頭部が特徴的な竜──名前は確かクリムガンといっただろうか──が木々をかき分けて出現する。その目は血走ったように赤く輝き、先ほどから低いうなり声をあげているそれは、全身の鱗を逆立たせて襲ってくる。
「”でんこうせっか”!」
ムクバードに命じて攻撃させるものの、単純なレベル差によるものか単に防御力が高いのか、その攻撃は効き目が薄いように見える。お返しと言わんばかりにクリムガンは、口からドラゴン型のエネルギーを吐き出して攻撃、それが当たったムクバードは雷に打たれたようにその場で動かなくなり大地へと堕ちていく。
「ピュイィィ...」
「不味いっ...!」
撃ち落されたムクバードを間一髪のところでボールに収納、逃げようとするが、いつの間にか周囲を沢山の似たような状態のポケモン達によって包囲されていたことに気が付いたようだ。
二つの火山のようなコブを持つラクダのようなポケモン──バグーダに、毒々しい紫色と棘が特徴的なポケモン、ペンドラー。
セイウチのような牙が特徴的なトドゼルガもいれば、古代最強の海の王者を思わせる見た目のポケモン、アーマルド。
その他にもおおくの攻撃的な能力をもつポケモンが多く出現していた。いずれもその眼光は赤く妖しく輝いており、おおよそこちらに対して友好的な態度ではないことを伺わせる。
真っ先に動いたのはペンドラー、こちらの動きを読み取ったのか、その体躯を震わせるや否や頭部に黄緑のエネルギーを集中させ突起を形作る、瞬間こちらに向けて突撃した。
しかしそれは予想外の相手によって防がれる。その行動の主はイワパレス、さきほどの自分の行動がプラスに働いたのか、その巨体をもってペンドラーの攻撃を受け止めると自身の周りに巨岩を複数生成、それを敵対者へと投擲した。
雪崩のような岩の大群はどうやらペンドラーやアーマルドには効果覿面だったらしく、その動きを一時的に怯ませることに成功する。しかしそれは一時的に前線の動きを抑制しただけで、彼らの後方からはどんどんとポケモン達が襲い掛かってくる。
それに立ち向かうはニドキングやカイロスのような重量級をも相手にできるポケモン達、その間を縫うようにして飛び出したのはクロバットやファイアローのような飛行可能なポケモン達だ。彼らの同胞を守るため、わが身すら顧みずに毒や超音波・炎を用いて果敢に攻撃を仕掛けていく。しかしそれでも尚、襲撃者の勢いは止まることはない。
先ほど自分を守ってくれたイワパレスが、ふとこちらを振り返る。
「早くここから立ち去れ。」
その目はそんな風に語るかのようだった。
「恩に着る」
伝わるかはわからないがそんな思惑を込めて視線を送ると、こちらの意はどうやら伝わったらしく、一瞬老獪な笑みをこぼすと再び目の前のアーマルドへと突撃していった。
そんな様子を横目に自分は森を駆け抜ける。周囲の状況を確認しながら、この領域から脱し生きて帰ることだけを目的に只々走り続ける。トライアスロン選手にも負けないぐらいのペースで走っているのに全くと言っていいほど疲れが感じられないのは生命の危機に対する火事場の馬鹿力からか、あるいはもう自分がこの世のものではなくなってしまったからか。普段なら気になるようなことも今はどうでもよかった。
一体自分はどれほど走り続けただろう。気が付けば自分は境界付近にたどり着いたらしい。
しかし運悪く目の前に鈍色の物体が飛び込んでくる。一瞬身構えるも、果たしてそれはメタングであった。よく見ればその体はところどころにかすり傷ができており、腕のツメは一部が欠けていることがわかる。
対峙するのは彼の体と同じく鈍色の大蛇であった。その鋼鉄の体には傷ひとつなく万全の様子であることを伺わせる。その目はこちらを品定めするかのようであり、その目線に当てられたからか自分は足がすくみ上るような感触を覚える。
ふと、懐に振動を感じる。
それと同時に出てきたのは二匹、メラルバ、そして相棒のミズゴロウ。
見慣れた視線がこちらを向く。
──いつものように早く指示を出せ──
そんなふうに言葉が通じずとも目で語り掛けてくる。格上の相手を目前にしてそれでも怯むところを知らないその眼には。自分に対する熱い信頼が見て取れた。
「ああそうか─そうだよな。」
自分が思っていた以上にこの子達には期待されていたらしい。こんな状況だというのに笑いと涙がこぼれてくる。そんな態度に気を損ねたのか、ハガネールは牙を剝き出しにして威嚇する。
思えば初めて相棒に会った時だってこんな絶体絶命だった。それにくらべればなんということはない。今の自分には頼れる仲間たちがいるではないか。
「かかって来いよ木偶の坊。」
そんなことを言って自分を奮い立たせ、そして目の前の敵を睨みつけた。
次の次あたりで掲示板です