諸々の目途が立ったので投稿を再開します
「それ」はただそこに存在する。
宇宙にも似た漆黒の闇が広がる空間、そこに存在するのは純白の存在。
全天に点在する星々はそのどれもが銀河系の一つであり、時折意思を持つかのように激しく明滅する。
その中でも今、特別の輝きを放つものが一つ存在し、星々の隙間を縫うようにして極彩の粒子が流れ込む。
「それ」は蠢く
空間の中心が歪み捻じれる。虚空から現れた祭具を想起させる円輪から赤子が生まれるように次々と足や胴体といった体の部位を生やしながら、「それ」幾つかの世界で認知されている姿へと変貌を遂げる。
神々しさを称える純白の胴体に竜のごとき四肢、そして目を引くのはその体に装着された金色の輪。
幾つかの世界でアルセウスと呼称されるその存在は、その無機質な視線を一点へと向ける。
時は来たれり
撒いた種の芽吹きはすぐそこに迫っている
アルセウスは"見た"ような動作を取った後姿を消し、静寂のみがその場を支配していた
衣・食・住
『人間』が健康で文化的な最低限度の生活を送る為に必要な三要素、そしてそれらを根本から支える紙幣。これら財貨を得る対価に人間は社会の中でその歯車として
私もその例に漏れず、社会の中での義務を果たそうとしているところだ。
「…以上です。本日はありがとうございました。」
「ありがとうございました」
幾度となく聞いたこの一言。自分が好感触だったとしても最後まで油断するのは禁物、退出から帰宅のその瞬間まで
なんてことはそこまで信じている訳ではないが、私のようなバックボーンのない異世界の人間の場合気を配るに越したことはないだろう。
最悪ポケモントレーナーであることさえ露見しなければ何とかなるのではないか、電車に揺られてそんなことを考えていた自分の目に飛び込んできたのは協力者からの大量のメッセージ。
興味半分に画面をスクロールしていくとある写真に目が留まる。
進化や拾得物に関する写真の中で異彩を放つその写真、何時だったか似たようなモノを見たことがある気がする。
黒い靄、使用可能な金銭、自分という存在、突発的に発生したポケモン達
そんな考えのもと記憶を探ってみると辿り着いたのは前世の記憶、その中でも自分の好きな作品に関するものだった。
ポケットモンスター、略してポケモンと呼ばれるそれは、爆発的な人気を誇る世界的なゲームコンテンツだった。全世界の老若男女が熱狂し、かくいう私も寝る時間すら惜しんでベッドの中でプレイした記憶がある。
けれどこの世界では突発的に発生した未知の存在にして、人間に悪意なく超常の力を向けてくる恐怖の対象として受け止められている。
このような現状と類似した作品世界、なおかつ同様の現象が起こっている作品が一つある。
それこそが≪ポケモンLEGENDS アルセウス≫という私が死ぬ前に最後にプレイしたゲームだ。
ヒスイ地方─後にシンオウと呼ばれる地に送られた主人公がその土地で起こる事件を解決していくストーリー、シリーズ作品に登場するキャラ達の祖先、そしてこれまでになかったアクションを取り入れたこのゲームは、発売時こそ賛否両論を以て受け止められたものの、公式からのファンに対するサービス精神が伝わったこともあり、新しいシリーズを期待されるに至った。
さしずめ自分はアルセウスによって遣わされた使徒だろうか。それならば互換性のないはずの金銭が使えることにも説明がつく。
ならば私に与えられた使命、そして彼の
そんな中聞えてきたのは目的地への到着の知らせ。
…まぁいいか。
流れに身を任せるのも悪くはない。そんなことを思いながら、私は目の前の
手元の本から目を離し、声のするほうへと振り返る。
そこにいたのはこの夏、スリリングな時間を共に過ごした少女、ミズキであった。いつものようなカジュアルなジャージ姿ではなくビシッとしたスーツ姿であるにも関わらず、急いで帰ってきた為か、服装や髪は乱れその全身は昇気しているように見える。
自身の健康と具体的に何があったのについて答えていくと、その顔に陰りが見えていく。空が黒く変化したこと、大量の尋常な様子でないポケモンと相対したこと。そして今現在自分のポケモンにあたりの調査を頼んでいることを伝えると、しばらくの間思いつめた顔で沈黙した後、絞り出すように口を開いた。
「よく、頑張ったね──本当に、無事で何よりだよ。」
いやーそれにしても大変だったねー、そんな風にいつもの取り繕った口調に戻ると意外な申し出をしてきた
「家、泊めてもらってもいいかい?」
「…以上で九州地方北部で突発的に発生した現象についての報告を終了するロト」
「ご苦労、下がって結構」
ビジネスホテルの一室で男は報告を受け取る。文字に起こしてみればなんともないような状況であるが、しかし特異な点がいくつか存在した。
まず、現代の技術で作られたとは思えないような宙に浮かぶ物体である。オレンジ色のスマートフォンにみえるそれは、プラズマのごとく青いエネルギーが物体を包み込んでいる。背面には小憎たらしい笑顔が浮かんでおり、それが超常の存在であることを伺わせる。
「きゅおん」
「ッスゥー、フハァー、はぁ幸福、クソ熱い日にはキュウコン吸いに限るね」
傍らには白銀の狐、通常ではありえない九本の尻尾を持ち、そして床に降りた霜は、その儚げな雰囲気も相まってまさしく神の使いとでもいうべきか。
そしてそんな生き物を愛でているということそのものが、これ以上なくその異常性を示している。
「まったくウチの神様も横暴だよねいきなり夢に出てきたと思えば”こっちの世界に向こうから新しい来訪者が来た”なんてさぁ突然前世の記憶甦らされた上に手持ちの入ったモンスタボール持たせてよく言うよ。ただでさえ今は他の部署とのやりとりで忙しくて最近になってやっと全体としてポケモン対策の足並みが整ってきたっていうのにさかと思ったら追加で仕事発注してきてあー腹立ってきたいつか絶対に直接文句言いに行ってやる」
ある日いきなり家にボールが届いたのが始まりだった。
「確かに感謝はしてるよ、ポケモンとこうやって生で触れ合えるなんて夢にも思わなかった。でもさレジェンズアルセウスしろとは聞いてないのよ」
口から呪詛を垂れ流しているとふと気づく
「向こうって、どこだろう?」