転生したらフォルテだった件   作:雷影

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ヒイロと再会を果たした紅丸達。
ヒイロが魔国連邦(テンペスト)に来た理由を聞く時。
そして……ヒイロがフォルテから猪八戒達の覚悟を知る事になる。


101話 紅蓮の絆 ラージャ小亜国

ヒイロの襲撃から紅丸達と再会したその夜。

 

リムルとフォルテは旅館の宴会場でヒイロ達をもて成した。

宴会場には、リムル、フォルテ、シズさん、アイリス、

紅丸、朱菜、紫苑、蒼影、白老、黒兵衛がおり、嵐牙、

ゴスペルが宴会場の左右で寝そべり、リムルの隣で大量の漫画に囲まれながらヴェルドラが仰向けで寝そべりながら漫画を読んでおり、その左右でアゲンストとヴェルキオンが座って漫画を読んでいた。

 

 

そして、紅丸からヒイロの事を聞いたリムルとフォルテ。

 

「なるほど。」

 

「ヒイロは大鬼族(オーガ)の里での幼馴染だったのか。」

 

「はい。俺達の兄貴分的な存在でした。」

 

「ガキ大将みたいなものだ。」

 

ヒイロの言葉を聞いた後、リムルとフォルテは皆を見る。

 

「う〜ん。」

 

「「ウフフ…。」」

 

ヒイロと再会出来た事を心から喜びながら酒を飲む皆の姿を。

 

「見れば分かるよ。」

 

「本当に皆から慕われていた事がな。」

 

「フッ…。“慕われていた”か…。」

 

「ん?」

 

「本当の兄貴みたいなもんなんですよ。あの折れた角だって、俺を庇って受けた傷ですから。」

 

そう。ヒイロのあの折れた角は、幼き頃に紅丸を助ける為に悪喰鬼熊(オーガベア)に一人で戦いを挑んで折れたそうだ。

その戦いの中でユニークスキル怪力無双(ミサカイナシ)を獲得し、ヒイロの男気を認めた紅丸の父からあの長巻を授かったのだ。

 

鬼人に進化した今は、右側に立派な黒い角、左側が白い短めの角となっている。

 

「そうか。」

 

「男の勲章だな。」

 

紅丸の話を聞いて、ヒイロがどれだけ頼れる兄貴分だったのかリムルとフォルテは、その折れた角を見て理解出来た。

 

大鬼族(オーガ)にとって角は誇りだと紅丸から聞いていたから。

 

「崖から落ちそうになった私を助けてくれた事もありました。」

 

「よく喧嘩もしてましたよね紅丸と。」

 

朱菜が助けられた事を話すと、紫苑が紅丸とヒイロの喧嘩の話を持ち出した。

やはり、里の仲間…兄貴分だったヒイロがいて皆嬉しくて話が弾む様だ。

 

「まぁ、いつも俺が負けてたんですけどね。」

 

そう言いながら頭を掻く紅丸。

 

「おいおい、俺が負けた事もあったろう。」

 

「里の若手で一番強かったべ。だから、傭兵として出稼ぎに出たんだべ。」

 

黒兵衛がそう話してくれた。

 

「十人を連れてな。だが雇い主には恵まれなかった。」

 

「そういえば結局、どこの国に雇われたんだ?」

 

紅丸がヒイロに聞くと、ヒイロはその国の名を口にした。

 

「ジスターヴ。魔王クレイマンの所だ。」

 

あっ!

 

ヒイロの言葉に皆が驚いた。

 

(まさか、クレイマンの所に雇われていたとはな。……

クレイマンがゲルミュッドの提案に乗って猪八戒達を利用した。……真の仇の元に雇われていたという事になる。)

 

なんと不運な事だとフォルテは思った。

ヒイロの部下の二人もこの事は知らなかった様で驚いていた。

 

「フッ…かなり稼げると思ったんだがな。そんな時、

大鬼族(オーガ)の里が襲撃されると知って…軍を脱走したんだ。しかし…。」

 

ヒイロは悔やむ様に膝の上に乗せている両手を強く握り締める。

 

確かに、クレイマンは莫大な財産を持っていた。クレイマンを倒した俺達は、その遺産全てを手に入れたからからな。

そして、……クレイマンが脱走した傭兵を許す筈はない。

 

「兄様…。」

 

朱菜はヒイロを心配し声を掛ける。

 

「いや…。今は考えまい。それよりも、この再会を喜ばないとな。同胞の死は、全くの無駄じゃなかったのだから。」

 

「そうですね。生きてるだけで丸もうけです。」

 

「「「うん。」」」

 

ヒイロの言葉に紫苑が笑顔でそう答えると、蒼影、黒兵衛、白老も頷く。

 

リムルとフォルテも、紫苑の今の言葉を聞いて笑みを浮かべた。

ファルムスの手によって一度その命を奪われた紫苑。

あの時の悲しみと後悔…そして激しい怒りをフォルテは忘れてはいない。

そして、紫苑や皆を生き返らせる為に、リムルとフォルテは覚悟を決めて真なる魔王となって奇跡を起こし紫苑達を生き返らせる事が出来た。

 

そんな紫苑だからこそ、自分が今生きているというこの

奇跡を、一番理解しているのだ。

 

紫苑の言葉に紅丸も笑みを浮かべ朱菜も、そんな紫苑を笑顔を浮かべながら見ていた。

 

「ぷはっ!」

 

皆に見守られながらお酒を飲み紫苑の姿にヒイロも自然と笑みを浮かべた。

 

「遭遇戦で瀕死だった俺を…、ラージャ小亜国の女王トワ様が救ってくれたんだ。それで今は彼女に仕えている。」

 

「ラージャ小亜国…(確か魔国連邦(テンペスト)の西側にある小国だったな)。」

 

フォルテは魔国連邦(テンペスト)の周囲にある小国などもある程度は調べて知っていた。

 

「その方が兄様に名前を?名付けは命懸けの行為。簡単に出来る事ではないのに…。」

 

ヒイロの話を聞いていた朱菜がそう口を開いた。

 

そう。名付けは本来危険を伴う行為。名付けを行った場合、名を与えた者に大量の魔素(エネルギー)や生命力を吸収されるので、下手に名付けを行えば名付け親が死んでしまうのだ。

 

(俺とリムルが無事だったのは、ヴェルドラに名付けされた事やリムルの中のヴェルドラ、俺の中のグレイザーから魔素を奪って代用していたからだ。)

 

「ああ…。ラージャは金を採掘する事で生計を立てている小さな国なんだが…、かなり昔に大きな金脈を掘り尽くしてしまって、かつての繁栄は見る影もない有様で…。そんな苦境の中、トワ様は文字通り身を削って…国の為、民の為に動かれている。」

 

 

 

 

これはヒイロが魔国連邦(テンペスト)に来る切っ掛けとなった出来事。

 

地下にあるであろう沐浴の場で身を清めるトワ。

その身体には左半身を蝕む様に紫のアザの様なものが広がっていた。

身を清め終えたトワは、階段を登り其処に祀られているこの国の初代女王と美しい女神を形どった浮き彫り(レリーフ)に手を合わせ祈り崇める。

 

その後、私室で着替えアグリーティアラを冠ると、謁見の間で騎士達の前で堂々とその姿を見せる。

そして、湖へと向かったトワの目に映るのは、湖を蝕む様に湧き出る毒だった。

 

それを悲しい眼差しで見つめた後、トワは目を閉じながら両手を前に突き出し広げると、トワの頭のティアラが紫の強い光を放つ。

その光は湖全域に広がると、毒に侵されていた湖の水が全て浄化された。

 

湖が浄化されるのを見届けたトワは、その場に力尽き倒れた。

 

「トワ様ー‼︎」

 

ヒイロは急ぎトワの元へと駆け出す。

倒れたトワの身体には変化が起こり、紫のアザが両足にまで蝕む様に広がっていた。

 

そして、トワは私室に運ばれチクアンによる治療が施された。

 

夕陽の光が差し込むトワの私室前の外廊下では、ヒイロとモブジそしてモノクルを付けた大臣がトワを心配しながら立っていた。

そして、私室の扉が開きチクアンが部屋から出てきた。

 

「チクアン殿。女王様の容体は?」

 

モブジは真っ先にチクアンに問いかける。

 

「ん…、芳しくはない。これ以上鉱山の毒を中和するのに魔力を使えば、歴代の女王様と同じように、呪いに全身を侵されてしまうじゃろう。」

 

「あのティアラ…。王家の者はティアラの魔力を使い湖の鉱山毒を中和し、民を毒から守る事が出来る。だが……。」

 

「代償として、ティアラにかけられている呪毒を受けてしまう…か。」

 

「「「うむ。」」」

 

そう。トワが倒れたのは、ティアラの力を使う代償による呪毒が原因だった。

 

「名付けをせねば女王様の生命力もあれほど損なわれはしなかったじゃろうに。…おっと、これは失言じゃったな。」

 

チクアンはヒイロを見ながら申し訳なさそうにそう言った。

 

「じゃが、あらゆる薬を試しても呪毒には効果がなかったのじゃ。」

 

「う〜ん。金を採掘せねば食料の輸入も出来ず、民を食わせる事もままならぬ。」

 

「しかし…、しかし女王様にこれ以上の無理はさせられぬ。」

 

困り悩む大臣とモブジ。すると、ヒイロがある提案を口にする。

 

「はっ!ジュラの大森林を開墾するというのはどうだ?」

 

「あの森を?」

 

「食い物を自給自足で得るんだ。民達は田畑を耕し、俺や兵達で狩猟すればいい。」

 

「バカを申すな!かの暴風竜ヴェルドラ様が守護する森を侵すなど、正気の沙汰ではないわ。」

 

「ヒイロ。お主は元々ジュラの大森林の中に住んでおったから知らぬだろうが、森周辺の国家間には“森は不可侵”という暗黙の取り決めがある。」

 

「ヴェルドラ様の怒りを買えば、被害は想像を絶する事になるであろう。触らぬ神に祟りなし。」

 

そう。森周辺の国家にはヴェルドラを恐れそんな取り決めがあるのだ。それは、最近までは魔王間でもあった取り決めでもあった。

 

「じゃあこのままトワ様が一人で苦しんでいればいいとでも言うのか?それがお前の言う“正気の沙汰”か?」

 

「うう…。」

 

「落ち着け。わしらとて同じ気持ちだ。先代からも女王様を託されておる。女王様はなんとしても守る。それが、この老ぼれの最後の務めだからな。」

 

「ならば…。」

 

「緊急のご注進!」

 

ヒイロ達が話し合っていると、兵士の一人が急いである報告をしにやって来た。

 

「ジュラの大森林に侵攻したファルムス王国軍が、

魔国連邦(テンペスト)という国と戦になり全滅したとの報告です。」

 

魔国連邦(テンペスト)豚頭族(オーク)共を食い止めたあの?」

 

「それほどの戦力が…。」

 

「更に王国軍の死体を糧に、暴風竜ヴェルドラが復活を果たし、そのヴェルドラの膨大な魔素より新たな竜種が二体誕生したと。」

 

「言ってるそばからこれだ。分かったか?これだから森は不可侵なのだ。」

 

「自業自得よのう…。」

 

「ですが、魔国連邦(テンペスト)の盟主リムルが、復活したばかりのヴェルドラ様と交渉を成功させ、同じく盟主のフォルテが新たな竜種二体にその力を認められ、ファルムス軍以外の被害を事前に防いだ…との事です。」

 

「何と…。」

 

この報告にはモブジ達も驚くしかなかった。

 

「盟主リムルと盟主フォルテ…。まっすぐ事情を話せば、開墾の許可もあるいは…。」

 

「ふむ…。いろいろな魔物も受け入れている国と聞くしな。」

 

「確かに。」

 

「俺が魔国連邦(テンペスト)への使者になろう。今さらそれで文句はあるまい。」

 

ヒイロの言葉に、モブジと大臣は互いに見る。

 

「分かった。」

 

「くれぐれも慎重にな。藪を突いて、蛇に出られても困るぞ。」

 

「分かってるさ。会いたいのは竜だからな。蛇じゃ話にならん。」

 

 

こうして、ヒイロはラージャ小亜国の使者としてこの魔国連邦(テンペスト)にやって来たのだった。

 

 

 

 

「それでこいつらとここまで来たんだが、いきなりゲルド殿と猪八戒殿…いや、魔国連邦(テンペスト)の者に、刃を向けてしまい申し訳なかった。」

 

「「むぐ⁉︎申し訳ありませんでした!」」

 

そう話して頭を下げるヒイロ。

それに気付いた部下の2人もすぐさま頭を下げた。

ちなみに、男性の方がフジで女性の方がキキョウと言うらしい。

 

「まあ、事情が事情だしな。気にするな。」

 

「何も知らない中、仇が目の前にいたんだ。ヒイロの気持ちは良く分かる。」

 

フォルテも、紫苑の仇であるフォルゲンを見つけその発言を聞いて怒りに呑まれてしまったからこそ、ヒイロの気持ちが痛いほど分かるのだった。

 

「「ハァ…。」」

 

リムルとフォルテの言葉にヒイロ達は安堵した。

 

「よし!じゃあ追加の情報を聞かせておこう。」

 

「追加?」

 

ヒイロ達は、まだリムルとフォルテが魔王になった事までは知らないのだ。

 

「フフ…。」

 

「俺達は魔王になった。」

 

リムルは笑顔を浮かべ、フォルテは真剣な表情でそう言うと同時に魔王覇気を放った。

 

「「うわあー!」」

 

「あ〜!あっごめんごめん。」

 

「少し強過ぎた様だな。」

 

手加減して放った魔王覇気にヒイロは耐えられたが、フジとキキョウは耐えられず吹き飛ばされてしまった。

 

リムルとフォルテはすぐさま覇気を抑えた。

 

「ぐっ…。」

 

「魔王?」

 

「そうなんです!」

 

「クレイマンの奴を倒して、他の魔王達にも認められたんです。」

 

「え〜いや〜それ程でも〜。」

 

「リムル。…顔をが緩んでいるぞ。」

 

「クレイマンを倒した?」

 

クレイマンを倒したと聞いてヒイロは驚いた。

 

「フッフ〜ン!リムル様と〜ってもカッコ良かったです。」

 

「えへ〜ん?ハハハ」

 

「…だから顔が緩み過ぎだ。」

 

紫苑が誇らしげにリムルを自慢し、リムルも満更ではないので照れまくっており、そんなリムルをフォルテが注意していた。

 

「フォルテ様も、最古の魔王であるギィ・クリムゾンにその力を認められて、凶戦士帝王(バーサークカイザー)という称号を得たんです。」

 

「そうか…。」

 

朱菜からも衝撃的過ぎる情報を聞いて、余りにも凄まじい内容にヒイロを驚くしかなかった。

 

「うう…。」

 

「ハァ…。」

 

リムルとフォルテの魔王覇気に当てられたフジとキキョウは何とか席へと戻れた。

 

「それで、開墾の許可が欲しいんだったな。」

 

「なあ、ヴェルドラ。」

 

「ん?」

 

「森に立ち入ったらダメなのか?何でだ?」

 

「知らんよ。」

 

「…アゲンストとヴェルキオンはどうだ?」

 

「うむ。それは人間達が決めたこと故に、我や兄者が決めた訳ではない。」

 

「まぁ、人間達からすれば、勝手に荒らして我らの怒りに触れるのを恐れるのも分かるがな。」

 

フォルテとリムルの問いにヴェルドラ達はそう答えた。

 

「…だってさ!」

 

「っと言う訳だ。」

 

「ああ…。」

 

「ヴェル…。」

 

「ドラ?」

 

「おっと紹介してなかったな。」

 

「此処にいる三人は、俺達の親友であるヴェルドラ、

アゲンスト、ヴェルキオンだ。」

 

「暴風竜ヴェルドラ=テンペストである。」

 

「逆風竜ヴェルドラ=アゲンストである。」

 

「電脳竜ヴェルキオン=テンペストだ。」

 

「「えーつ⁉︎」」

 

今まで目の前で読書をしていた三人がヴェルドラ達だと知って驚愕するフジとキキョウ。

 

「騒々しくせぬのなら、勝手に森に入るが良かろう。」

 

「お前達の事情は理解したからな。」

 

「なら、問題は無かろう。」

 

「「クァーッハッハッハッハッ!」」

 

そう言って漫画を読みながら高笑いを上げるヴェルドラとアゲンストだった。

 

「ヴェルドラ様…。」

 

ヒイロは目の前の人の姿であるヴェルドラに少し困惑していた。

 

「あ〜まあその…。」

 

「これで許可も下りた。もう大丈夫だという事だ。」

 

フォルテがそうヒイロに言った直後だった。

 

「私も参加するのだ!」

 

「「ミリム⁉︎」」

 

突然音速でミリムがリムルとフォルテの前に現れた。

 

「今日は宴なのだろう?何で知らせてくれないのだ!」

 

「落ち着けミリム。」

 

「いや、宴じゃなくて使者が来てるんだけど。」

 

フォルテとリムルはミリムに説明するが、…聞いてくれない。

 

「宴ではないか呑んでるし!私を呼ばないなんて水くさいではないか。」

 

そう言いながらリムルの肩を掴んで揺さぶるミリム。

 

「おい!」

 

「マブダチだからって放っておいたらいけないのだ。なあヴェルドラ!」

 

「ムッ!これは宴であったのか?我の分が無いではないか。」

 

「いや兄者…。」

 

「…宴ではないぞ。」

 

ヴェルドラの言葉にアゲンストとヴェルキオンがそう言うのだった。

 

「ミリムって…あの?」

 

「いや……まさかね。」

 

ヒイロ達は目の前の常識から外れた事態に戸惑っていた。

まぁ、ヴェルドラ達だけでなく、ミリムまで現れたのだから無理はない。

 

「リムル殿!フォルテ殿!」

 

そんな中、ヒイロはリムルとフォルテに話しかける。

 

「ん?」

 

「ほらミリム。ちょっと落ち着くんだ。」

 

フォルテはそう言って、ミリムの手を掴んで自分の元に引き寄せた。

フォルテに引き寄せられ胸板に触れたミリムは、頬を赤らめながらフォルテの隣に座った。

 

「待たせてすまない。さぁ話してくれ。」

 

フォルテがそう言うと、ヒイロは両手を畳につけて頭を下げる体勢をとった。

 

「ジュラ・テンペスト連邦国の盟主リムル=テンペスト殿とフォルテ=テンペスト殿に正式にお願いしたい。このままではラージャ小亜国は滅んでしまう。俺は命の恩人であるトワ様とー、トワ様が大切になさっている民を救いたい。どうか、ラージャの為にも力を貸して頂きたい。」

 

そう言ってヒイロとフジとキキョウはリムルとフォルテに頭を下げて願い出る。

 

「あ…。」

 

「ん…。」

 

リムルとフォルテは頭を下げて願い出るヒイロを見据えていると、紅丸が口を開いた。

 

「リムル様、フォルテ様。俺からもお願いします。」

 

(わたくし)からも。」

 

紅丸、朱菜それに紫苑達も一斉に頭を下げて願い出る。

皆がヒイロを願いを叶えたいのが、それだけ良く伝わってくる。

 

「おいおい、みんな頭を上げろよ。」

 

「皆が願い出なくても、力は貸すつもりだ。」

 

「トワさんは国民思いの人みたいだし、ラージャって国も見てみたい。」

 

「一度、御見舞いとしてトワって人に会わせてくれないか?」

 

「はあっ!もちろんです。」

 

リムルとフォルテの言葉に皆頭を上げる。

 

「リムル様、フォルテ様。ありがとうございます。」

 

「「「「「「「ありがとうございます。」」」」」」」

 

「ご厚情、感謝する。」

 

そうして皆再び頭を下げるのだった。

 

 

その夜、フォルテはヒイロを自分の自室に呼んでいた。

 

「フォルテ殿。俺に話たい事とは…?」

 

「ああ。猪八戒達の事についてだ。」

 

フォルテのその言葉に、ヒイロは真剣な顔となる。

 

「ヒイロ。…お前の中ではやはり納得出来ていない筈だ。だからこそ、知って欲しいんだ。猪八戒の“覚悟”を。」

 

そして、フォルテは思念伝達でヒイロに猪八戒達の過去を見せる。

 

ヒイロの目の前に広がるのは、何処まで広がる罅割れた大地と枯れ果てた木々だった。

 

「此処は……。」

 

「今は滅びた嘗ての猪人族(ハイオーク)達の故郷だったオービックだ。」

 

フォルテがヒイロに説明したその時だった。

 

わあぁん。えぇぇん。ひっく…ひっく。わあぁぁん。

 

子供の泣き声が聞こえきた。

ヒイロは声のする方に振り向くと、そこにいたのは….

豚頭族(オーク)の子供達だった。

 

泣き続ける豚頭族(オーク)の子供達を見たヒイロはその姿に絶句した。

何故なら、子供達の身体は信じられないくらいに痩せ細り骨格が浮き出るほどガリガリに痩せていたのだ。

 

「これは……。」

 

豚頭族(オーク)の故郷は大飢饉によって、皆お腹を空かせ子供達は泣いているんだ。」

 

フォルテの言葉にヒイロもすぐ理解した。こんな状況で食べ物が手に入るはずがない事を。

 

すると、泣き続ける子供達の前に二人の豚頭族(オーク)がやって来た。

 

「あの二人は…。」

 

「嘗ての猪八戒とゲルドだ。」

 

猪八戒だった豚頭族(オーク)は、その場でしゃがんで子供達の話し掛ける。

 

『腹が減ったのか。少し待っていなさい。』

 

そう言って猪八戒は自分の左腕を掴むと…。

 

ミシミシゴキッ!

 

無理矢理引き千切り子供達に与えたのだ。

 

『さぁ食べなさい。』

 

子供達は必死に猪八戒の腕を食べる。

 

『しっかり食べて大きくなるのだぞ。』

 

その光景は見ていて辛すぎるものだった。

子供達を救う為に、猪八戒はまさに身を削っていたのだ。

 

しばらくすると、猪八戒の腕は新たに生えて再生した。

豚頭族(オーク)の頃から高い再生能力を持っていたのだ。

 

そんな猪八戒の姿を見ていたゲルドだった豚頭族(オーク)は跪いて声を上げる。

 

『王よ、もうおやめください。この大飢饉の中、王である貴方まで失っては我ら豚頭族(オーク)にはもはや絶望しかありません。』

 

『…一昨日生まれた子が今朝飢えて死んだ。昨日生まれた子はもう虫の息だ。…この身はいかに切り刻もうと再生するというに……これがすでに絶望でなくて何だというのだ。』

 

猪八戒はそう言いながら再生した腕に触れる。

ゲルドの話から、猪八戒はずっと子供達の為にその身を削って与えていたことが分かる。だが、どんなに自分の身を削ろうと、同胞の…子供達を飢えから救う事は出来ず、一人…また一人と未来ある子供達の命が散っていった。

その光景を見続けた猪八戒の言う通り、それは絶望でしかなかった。

 

猪八戒の言葉を聞いたヒイロは悲しい表情で嘗ての猪八戒を見ていた。

 

『王よ……。』

 

『森に入り食料を探す。』

 

『!しかしジュラの森は暴風竜の加護を受けし場所…。』

 

『その暴風竜が封印されて久しい、少しばかりの恵みを。』

 

そして、猪八戒は一人でジュラの森を目指したが、猪八戒自身の飢えに敵わず体力の限界を迎えて倒れた。

 

『腹が減った…何でもいい飯が食いたい。』

 

力尽き…もはやこれまでだと猪八戒が思ったその時だった。

あの魔人が現れたのは。

 

『お前に名前と食事をやろう。』

 

そう言って猪八戒の前に現れたのは、シルクハットを被り白いタキシードに身を包み、顔をペストマスクで覆った魔人だった。

 

『………彼方は?』

 

『俺の名はゲルミュッド。俺のことは父と思うがいい。』

 

そう、クレイマンの差し金のゲルミュッドだった。

ゲルミュッドの提案に悩む猪八戒。

 

『……此処で死ぬか?』

 

だが、同胞達を救いたい猪八戒は此処で死ぬ訳にはいかなかった。

 

『……名前を……そして食事を…。』

 

ゲルミュッドはそっと猪八戒の頭に触れて名を与えた。

 

『お前の名はゲルド。』

 

『ゲルド…。』

 

そう猪八戒の最初の名はゲルドだった。

ゲルミュッドに名付けられ魔素を与えられた猪八戒は光る。

 

『やがてジュラの大森林を手中に収め豚頭魔王(オーク・ディザスター)となる者だ。』

 

そして、ゲルミュッドは血の滴る肉を取り出し猪八戒に与えた。

猪八戒は起き上がり、その肉を貪るように食う。

 

喰らい尽くした後、ゲルミュッドは更にダークチップを猪八戒に与えその力で猪八戒は強靭な肉体へと身体が変化し豚頭帝(オークロード)に進化した。

 

 

 

「…これはゲルミュッドを裏で操っていたクレイマンの計画だった。」

 

「クレイマン⁉︎」

 

フォルテの言葉にヒイロは驚愕した。自分達が真の仇の元に雇われていたのだから。

 

「もっとも、そのクレイマンも何者に操られていた事が分かったから、この計画もクレイマンが考えたのかは分からないんだかな。」

 

「…クレイマンが操られていた?」

 

フォルテの口から明かされる衝撃の真実にヒイロはただ驚くしかなかった。

 

そして記憶が進むと、ゲルミュッドが自分の名付けを断った大鬼族(オーガ)の里を滅ぼす様に猪八戒に命じていた。

 

「ゲルミュッドは自分の駒となる最強の魔王を誕生させる為に色んな魔物に名付けをしていた。その中には当然

大鬼族(オーガ)達もいた。だがそれを断られた奴は、猪八戒達を使って里を滅ぼしたんだ。」

 

「そうか…奴が俺達の里を!」

 

ヒイロはゲルミュッドを怒りの眼差しで睨んだ。

 

そして更に記憶が進みあの大激突戦となった。

紅丸達の活躍で次々と倒される豚頭族(オーク)達。

 

そして遂に猪八戒達と戦おうとした時にゲルミュッドが姿を現した。

 

『どういう事だ⁉︎このゲルミュッド様の計画を台無しにしやがって!』

 

計画を邪魔され荒れるゲルミュッド。

 

『もう少しで俺の手足となって働く、新しい魔王が誕生したというのに!』

 

『新しい魔王だと?』

 

『そうだ!だから名付けをしまくった!種を蒔きまくったんだ!最強の駒を生み出す為にな‼︎』

 

『その為に…。』

 

『我らの里にも。』

 

『来たと言う事か!』

 

全ての元凶であるゲルミュッドの自白の叫びに紅丸達は怒る。

それはこの記憶を見ているヒイロも同じ、猪八戒達に怒りをぶつけた時よりも眼が真紅に染まり記憶の中のゲルミュッドを睨み続けている。

 

 

その後、フォルテの命令でゲルミュッドを殺さぬ程度に痛めつける紅丸達。

その様子を呆然と見ているだけの猪八戒。

 

「この時の猪八戒は、飢餓者(ウエルモノ)で数多の種族を喰らい得た力と、ダークチップの闇の妖気(ダークオーラ)に意識が侵食され混濁していた。」

 

「猪八戒殿…。」

 

ヒイロは猪八戒と直接対峙した後の仕事やその様子を見ていた。誰よりも同胞を思い、子供達に優しいその姿を。そんな猪八戒が、同胞を救う為にあんな姿になっている事に、ヒイロは心を痛めていた。

 

記憶の中のゲルミュッドは蒼影に拘束され紅丸達に追い詰められていた。

 

『おい!豚頭帝(オークロード)!俺を助けろ!』

 

『……腹が減った…。』

 

『クソが!俺を助けろ豚頭帝(オークロード)!いや……ゲルドよ‼︎

 

名を呼ばれた猪八戒は目を見開き何かを思い出しゆっくりとゲルドの元へと歩み出した。

 

『このクズが!ようやく動き出したか。』

 

猪八戒が動き出した事に安堵したゲルミュッド。

 

『ふははははは!此奴の強さを思い知るがいい!やれ

ゲルド!この俺に歯向かった事を後悔させ「ズバ‼︎」

 

猪八戒がゲルミュッドの首を斬り落とした。

 

「猪八戒殿⁉︎」

 

この行動にはヒイロも驚愕した。そして…。

 

バキ!ゴリッ!グチャ!グチャ!バキ!ボリ!ゴキ!

 

猪八戒はゲルミュッドの遺体を貪り喰ったのだ。

その際ダークチップまで取り込んだが、フォルテが何とか闇の妖気(ダークオーラ)を吸収して更なる強化を阻止する事は出来たが……進化は止められなかった。

 

猪八戒は豚頭魔王(オーク・ディザスター)に進化してしまった。

 

『俺は豚頭魔王(オーク・ディザスター)!この世の全てを喰らう者なり‼︎

名をゲルド…魔王ゲルドである‼︎

 

魔王ゲルドとなった猪八戒は強かった。力で紫苑を斬り飛ばし、白老に首を切断されてもすぐさま繋げてしまう。

蒼影に動きを封じられた後、紅丸の黒炎獄(ヘルフレア)嵐牙(ランガ)の黒雷をを受けたが、何箇所か火傷があるだけだった。

 

『王よ、この身を御身と共に。』

 

『……うむ。』

 

そして仲間の豚頭将軍(オークジェネラル)を喰らい完全に回復してしまった。

 

「若達は…こんな戦いをしていたのか。」

 

ヒイロは魔王化した猪八戒と紅丸達の戦いを見てそう呟いた。

 

その後、リムルが戦い猪八戒と喰い合いをして完全に猪八戒を取り込んだ際、猪八戒の心と繋がった。

そして、フォルテもシズさんと共に猪八戒の心の中へと侵入し最初の記憶を見たのだった。

 

 

そして、リムルとフォルテの背後に背を向けながら立つ猪八戒の姿があった。

 

『あの方は俺に食事と名を与え、そして豚頭帝(オークロード)のもつ飢餓者(ウエルモノ)について教えてくれた。豚頭帝(オークロード)となった俺が喰えば、飢餓者(ウエルモノ)の支配下にある者は死なない…飢える仲間達を救えるのだと。邪悪な企みの駒にされていたようだが、それに賭けるしかなかった。』

 

猪八戒はゲルミュッドに利用されている事に気付いていた。……だが同胞達を救うにはこれしか当時の猪八戒に道はなかったのだ。

 

『たがら俺は喰わなければならない。お前がなんでも喰う

スライムだとしても、俺は喰われるわけにはいかない。』

 

猪八戒はただ救いたかった。飢える同胞を…子供達を飢えから救う為に、飢える力に手を出したのだ。

 

『俺は他の魔物を喰い荒らした。ゲルミュッド様を喰った……同胞すら喰った。同胞は飢えている…俺は負けるわけにはいかない。』

 

もう後戻り出来ない……猪八戒はもう分かっていた。

 

『俺は負けるわけにはいかない。俺が死んだら同胞が罪を背負う。俺は罪深くともよい。皆が飢える事のないように、俺がこの世の全ての飢えを引き受けるのだ!

 

猪八戒は自分が死ねば、自分の犯した罪を同胞達が背負ってしまう事分かっていた。だから負けられなかった。同胞達が…もう飢えて苦しみ、悲しむ事がないように、罪も飢えも全てを自分で背負うとしていたのだ。

 

その姿はまさに、同胞を思う王の姿だった。

 

そこで記憶は終わりフォルテ自室へと意識が戻った。

 

「その後、リムルの説得で猪八戒は飢えから解放され、俺が猪八戒の魂を救いだし新たな物質体(マテリアル・ボディー)と猪八戒の名を与えたんだ。」

 

「そうだったのですね…。」

 

ヒイロは思い出す。自分の最後の一撃の際、全くの無抵抗で自分の一撃を受けようとしていた猪八戒の姿を。

 

「……猪八戒殿は誰よりも優しい男だ。それは魔国連邦(テンペスト)での彼の様子を見て分かった。そんな猪八戒殿が、あれ程の覚悟を持って全ての罪を背負っていた……。」

 

ヒイロはもし自分も同じ立場だったのなら、きっと同じ道を選んでいたと思いながら目を閉じていた。

 

「…許してやってくれとは言わない。ただ知って欲しかった。猪八戒の…同胞達を救おうとした王としての“覚悟”を。」

 

フォルテの言葉を聞いたヒイロは目を開けた。

その瞳には、僅かに燻っていた怒りと憎しみの炎が消えていた。

 

「フォルテ殿。猪八戒殿の事を教えて頂き感謝する。」

 

そう言って頭を下げるヒイロだった。

 

その後も、フォルテは自分の元にクレイマンの配下達やクレイマンを元にした新たな配下を創り出し仲間にした事を話し紹介した。

 

その際、ヤムザと再会した二人の雰囲気が色々やばかったが、何とか説得して和解へと持ち込む事が出来たのだった。

 

 

 

そうして翌朝、ラージャ小亜国に出発する準備が完了した。

飛竜(ワイバーン)三頭にそれぞれ跨るヒイロと朱菜、キキョウと紅丸、フジと紫苑。

リムルは嵐牙(ランガ)に跨り、フォルテは久しぶりにゴスペルに跨って行く事にした。

そして……。

 

「うむ!ラージャ小亜国楽しみであるな。」

 

ヴェルドラも行く事になった。

 

…まぁずっと魔国連邦(テンペスト)の中やフォルテシティの異空間内て過ごしているからたまには外出させるのは良いとフォルテが許可したのだった。

 

「兄者…絶対に暴れない様に。」

 

「もし破ったりしたら……リムルとフォルテが絶対怒るぞ。」

 

「わっ…分かっておる。」

 

アゲンストとヴェルキオンの注意に冷や汗を流すヴェルドラだった。

 

そうして出発の時間となり、ヒイロは白老と黒兵衛に別れの挨拶を交わしていた。

 

「お師匠、達者で!」

 

「また稽古をつけてやるでのう。」

 

「ハハッ。その時は手加減してくれ。」

 

「また顔を見せに来てくれだべ。」

 

「ああ。必ず。」

 

「よし、それじゃあラージャ小亜国に向かって出発だ。」

 

「行くぞ皆。」

 

アオーン!

 

グアアオーーン!

 

嵐牙(ランガ)とゴスペルが遠吠えを上げると、それを合図に飛竜(ワイバーン)達が一斉に駆け出し空へと飛び立った。

ヴェルドラはそのまま人の姿で飛翔し、リムルとフォルテは嵐牙(ランガ)とゴスペルの風操作で空を駆け上がるのだった。

因みに、グレイガも空を駆け上がれる様になっている。

 

「お気をつけて〜。」

 

「いってらっしゃいませ。」

 

「お土産楽しみにしてるっす〜。」

 

「リムル様!」

 

「待ってま〜す。」

 

飛び立ったリムル達を見送るガビル、ゴブタ、スケロウ、カクシン、ヤシチ。

 

こうして、リムル達はラージャ小亜国へと向かったのだった。

 




思念伝達を使って猪八戒達猪人族(ハイオーク)の過去と、猪八戒の同胞達の為に全ての罪を背負う覚悟の姿と意志をヒイロに伝えました。
この真実は、ヒイロには教えておいた方が良いと思いましたから。
猪八戒の過去と思いを振り返るとやはり涙目になります。

次回はラージャ小亜国へ。
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