フォルテがルミナス達との密談を終えた後、今回のルベリオスとの国交樹立の祝いを兼ねた今晩の宴会が始まろうとしていた。
「…という訳で、今夜の宴はすき焼きです!」
おおおおお!
リムルがすき焼き用の牛鹿の霜降り肉を
「これで煮るのか?」
「早く始めようぜ!」
「…なんというか、望んでいた光景ではあるんだけど……それでいいのか
「まぁいいんじゃないか…。」
「
「大理石の模様みたいすね。」
「それは霜降り肉という。」
「‼︎」
アルノーとフリッツがすき焼き用の霜降り肉を目を奪われていると、背後から突然ヴェルドラが声を掛ける。
「では我がすき焼きにおける肉の美味い喰らい方を伝授しようではないか。」
(暴風竜のお料理指南…!)
(俺達もの凄い経験をしてるんじゃ…。)
ヴェルドラから料理指南を受けるというとんでもない展開に、二人は内心驚愕しながら戸惑うのだが、そんな二人の事など気にせずヴェルドラはすき焼き指南を始める。
「まず熱した鉄鍋で
「おおお〜!」
ヴェルドラは手際よく
「ある程度 熱が通ったら割り下を少量入れ肉に絡める。」
「良い匂い…他の材料はまだ入れないのですか?」
「クハハハ!そう急くな。言ったであろう?まずは肉の美味い喰い方を教えると。」
リティスの問いに答えながらヴェルドラは籠手いっぱいの卵を取り出す。
「今の内に
「とんすい?」
「その小ぶりな椀だ。」
「あ、コレですね。」
「そこに肉を入れ卵と絡めて喰らう。」
「え⁉︎」
「た…卵を生で食すのですか?」
これにはバッカスも声を上げる。
この世界では、卵を生で食す文化など無い故に当然の反応だった。
「そうだぞ。これがもの凄く合うのだ。故に、我は付けて喰らう。」
そう言って肉に卵を絡めて喰うヴェルドラ。
「う〜ん美味い!」
「それこっちのテーブルのお肉では…。」
美味しそうに食べるヴェルドラを見ながらさりげにツッコむフリッツ。
「なんだやらんのか?」
「い、いや…ええと……。」
「ほれほれ。早くせぬと熱が通り過ぎて肉が固くなるぞ。」
「“暴ハラ”やめろ。」
「ヴェルドラ。お前に勧められたら大抵の者は断れないだろう。」
ヴェルドラに勧めれ戸惑うバッカス達の姿を見たリムルはヴェルドラの頭を叩き止めフォルテが注意する。
……因みに暴ハラとは暴風竜ハラスメントの略である。
「なんだリムル、フォルテよ。我はただ旨い食べ方をだな…。」
「そりゃあ分かるけど。」
「卵は生食の文化がなければ抵抗があるのが普通だ。」
「
リムルとフォルテの会話を聞いていたフリッツが二人に問い掛ける。
「ああ。衛生管理は徹底しているから大丈夫だが、無理する必要はないぞ。」
「フォルテの言う通り。純粋に肉の味を味わえるしお好みのスタイルで食ってくれ。」
フォルテとリムルの説明を聞いたフリッツは溶いた生卵をじっと見据えた後、……覚悟を決めた。
「よ…よし、俺は生卵を付けるぞ!」
「フリッツ⁉︎」
「なにせ俺は魔黒米を食べても生き延びた男!生卵くらいどうってこと…。」
そう言って生卵を絡めて肉を口へと放り込むフリッツ。
その様子を皆が見守り静寂に包まれる。
「ど…どうだ?」
リムルが恐る恐るフリッツに声を掛けると。
「なにこれ初体験……。」
フリッツはあまりの美味さに惚けてしまっていた。
「いや、ちょっと溶けたんすけど⁉︎」
「溶けた⁉︎」
「旨いのか?」
「旨いっすよ!なんかこう…とろっまろ〜んみたいな?」
「下手か!もっと味の説明をしろ!」
「いや、こんなの初めてだから説明出来ないですよ!」
フリッツに味を説明する様アルノー達は言うが、全く未知の体験と呼べる生卵を絡めたすき焼きの味をフリッツは上手く表現する事が出来なかった。
「駄目だ、フリッツの説明じゃ訳わからん!俺もやるぞ!」
「わ、私も!」
「く…腹を下さなければいいが。」
生卵を絡めたすき焼きの味を知る為に、先程まで抵抗していたアルノー達は一斉に卵を割って溶き始めた。
「……勇敢すぎるだろう。」
「流石は歴戦の猛者達だな。」
そんなアルノー達の姿を見ていたリムルとフォルテはある意味感心する中、アルノー達は生卵を絡め肉を口にした。
「うわっ⁉︎とろっとしてまろやかで……!」
「ホラぁ!」
「こんなに美味しいなんて…!」
「これは確かに説明するのは難しいな。」
アルノー達も生卵を絡めたすき焼きの美味さに驚愕した。
「……まぁ、初めて食べらればそうなるな。」
そんなアルノー達の姿を見ながらギャルドは慣れた手付きですき焼きを食べるのだった。
ギャルドはフォルテ達に保護されている間はずっと
アルノー達がすき焼きに夢中になっていると、リムルはある事が気になりヒナタに問い掛ける。
「そういえばルミナス教って食のタブーとかないの?肉も魚も酒も普通に出してるけど。」
「確かに、宗教によってはそういうのはあるな。」
「ないわよ。選り好み出来る程食事情に余裕なんてないもの。ここと違って。」
そう言いながらご飯を食べながらむくれるヒナタ。
「…というかね。魔黒米も驚いたけど白米って、貴方達ちょっと好き放題し過ぎなんじゃないの?」
「なんだよ。白米は貴重なんだぞ?せっかく同郷の好みで用意したのに。」
ヒナタの態度にムスッと不機嫌となるリムル。
「文句があるなら白米は返してもらっても。」
「そういう話をしているんじゃないわよ!」
リムルがそう言うと、ヒナタは取られまいと必死にご飯の入ったお椀をリムルから遠ざける。
(…やはり日本人として白米は嬉しかった様だ。)
ヒナタが白米を見た時、嬉しさのあまり頬を赤らめ涙目になっていた事をフォルテは見て知っていた。
因みに、白米の品種改良だけは紫苑の力を借りてズルをしていた。
収穫時に紫苑の
この方法では根付かないので研究も続けていたのだが、ハンドレッド事件の詫びとしてゼウスから日本のコシヒカリを大量に持ってきてもらい、いまはそれを栽培し大量生産している。
「それにしても、この再現度には驚く以前に呆れたわ。まさかたった2年でここまで暮らし易い環境を作るとはね。」
「いや〜。も〜と褒めてくれても良いよ?」
「リムル。…調子に乗り過ぎだ。」
ヒナタに感心され調子に乗るリムルを注意するフォルテ。
「そうよふざけないで。優樹から噂は聞いていたけど話半分だったもの。」
「いや、まだだな。食事は兎も角 物流は遅いし情報伝達も話にならない。」
「すき焼きなんて再現しておいてまだ足りないと?」
「食事については満足してるって。問題は娯楽だよ。」
「この世界は遊べる物や場所も少ない。」
「ヴェルドラが読んでる漫画だって前世の世界の産物だし。」
「…本気で言ってる?ルミナス教の加護を受けていない人々にとっては娯楽どころか生き抜くことさえ困難な世界なのよ?」
「勿論分かっている。」
「だからさこそ、魔物とかの脅威は俺達が取り除く。」
フォルテとリムルはヒナタにそう説明し、リムルはお酒を口にする。
「んっんっ…ぷは〜!いや〜お酒に酔えるってのはやっぱりいいね〜!」
ルミナスから毒無効化を弱める方法を教えてもらい、酔える様になったリムルはご機嫌だった。
そんなリムルに代わってフォルテがヒナタへと話す。
「まぁ、そうして娯楽を生み出せる下地を作る訳だ。それに、俺個人として前世の娯楽の再現も既に進めている。」
「ふっ…ははは。」
すると話を聞いていたルミナスが笑った。
「言ったであろうヒナタよ。此奴らは楽しく過ごせる国を作りたいのじゃ。“それには人間の協力が不可欠だから自分達が守る”と妾やギィ達の前で大見得を切った。かましよると思ったがどうやら本気のようじゃ。」
「えっ!俺
「言うたぞ。それも魔王の称号を得る前にな。」
「クレイマンに向かって堂々とな。」
「…大志を抱くのは結構だと思うけど、具体的な方策はあるのかしら?」
「おっ気になるかね。仕方ないなー。まぁ隠しても意味がないから言っちゃうけど〜。」
(聞いて欲しそうね…。)
(また完全に酔っているな…。)
リムルが酔って口が軽くなっている姿にフォルテは溜め息を吐くのだった。
「ヨウムを王に樹立して新国家を興し西側諸国でも影響力を持てる様にするつもりさ。」
「一体何をするつもり?」
「まずはね〜、俺達を人間社会で認知させること。まぁこれは半分成功しているけどね。色んな国のお偉いさん達が俺達の事を知るに至ったし、商人や冒険者達からも噂は流れる。次に街道整備。安心安全な交易路を整備中だ。」
酔って勢いよく次々と話すリムルだが、重要な開発中の情報についてまで話し出した。
「最後に情報伝達。」
「おいリムル⁉︎」
「今の通信手段って主に連絡用の通信水晶で魔法を使える者しか利用できないから、緊急時に送受信できないなんて事もある訳よ。で着目したのがコレ“粘鋼糸”。」
リムルはヒナタ達に見える様に指先から粘鋼糸の糸を出した。
「実験してみたら俺の粘鋼糸の思念伝達率は凄まじかった。魔素が絡んでいるからコイツを使えばたとえ結界で隔離されていてもクリアな意思疎通が可能な事は実証済みだ。でこれが“魔鋼”。粘鋼糸に似た性質がある。」
リムルは次に小さな魔鋼塊をヒナタに見せる。
「これを線状に加工し各都市を有線で結ぶ。後は送受信の為の装置を取り付けたら…。」
「“電話”の完成…ということね。」
リムルの言っている事を理解したヒナタ。
この世界で電話が完全したらどれだけ情報伝達が迅速になるのか日本…元の世界を知る者達なら当然分かる事だ。
「ご名答。ま、厳密には違う形になると思うけどね。こいつを利用すれば色々な国や村々を結ぶネットワークの構築が可能かもしれない。」
「魔鋼をその粘鋼糸に似せて加工するのですか?そのまま粘鋼糸を使えばいいのでは…。」
リムルの話を聞いていたレナードがそう問い掛ける。
「こいつを使える者が限られてるからな。特定の誰かに依存する仕組みじゃ拡がらないし続かない。学習で身に着けられる手段で発展させられなきゃ根付かないしな。」
「学習…。」
「自由学園ほど立派じゃないがウチにも学校はある。その内 俺の教師として伝手も頼って人間の先生も雇うつもりだ。」
(通信網に教育…。この世界でそこまで考える余裕は私にはなかった。)
ヒナタはリムルが子供達の教育まで考えている事に感心した。
「貴方って人は…。」
「なんだね?遠慮なく称えてくれていいんだよ?」
だが酔っている事でいつも以上に調子乗っているリムルの態度にヒナタは苛立った。
「あのね。普通そういうのは国家機密扱いの情報なんだけど?特に通信関係なんて他国の人間に話す内容じゃないわよ。」
「ヒナタの言う通りだぞリムル。もし話すにしてもこんな宴席の場で話す内容じゃない。」
「あ!」
ヒナタとフォルテに言われて漸く気付いたリムル。
フォルテはどうしてもルミナスとヒナタにDr.リーガルやハンドレッドの事を知らせる為に密談で自分の開発などを知らせてはいたが、公の場で話したりは絶対にしない様にしている。
「…確かに。酔っていたせいで調子に乗って喋り過ぎたかもしれない。」
《告。酩酊を防ぐ為“状態異常無効”を再起動します。尚、この耐性への再干渉は当分の期間受け付けません。》
(なっ⁉︎ちょっと待って
(良くやった
《了。任せてください。》
(これでリムルも酔い過ぎるのを控えるだろう。本当にリムルの事を一番分かっている分頼りなるな
フォルテはリムルに
「それにあまり派手にし過ぎると天使の攻撃を受けるわよ。」
「あ…天使?」
「天魔大戦だな。」
「天魔大戦?」
「一定以上に都市が発展すると攻撃してくる存在だよ。」
「五百年周期で起こる大戦だったな。」
フォルテはルミナスとの密談の際、天魔大戦について教えてもらっていた。
五百年周期で天使が襲来し、発展した都市を攻撃する。
この世界は長い歴史があるのに文明があまり発展していない理由が天使による攻撃が原因だった訳だ。
フォルテの発展した技術が表に出れば間違いなく天使の標的になるのでルミナスとヒナタが警告してのだ。
(…リーガル達が徹底して暗躍している理由の一つも天使に狙われない様にする為だろうな。)
「あの羽虫共、この手で始末してやりたいがそれをすると正体がバレるからのう…。もっとも、そこのトカゲのせいで
ルミナスはヴェルドラを睨みながらそう言うと、ルミナスの視線にビクついたヴェルドラはルミナスに向かって見事な土下座を披露した。
「すまん!」
「……フン!まだ許すつもりはないが、トカゲの土下座を見れたのじゃ。今はそれで良しとしてやろう。」
ヴェルドラの土下座を見て少しは気が晴れたルミナスだった。
「天使か…。こちらに手を出すというなら迎え撃つまでだ。」
「リムルの言う通り、その時は容赦なく叩き潰す。」
「フフっ。貴方達ならそう言うと思ったわ。その時は私と共闘する事になるかもね。」
「妾としても二度と妾の都を破壊させはせぬよ。羽虫共にも、そこのトカゲにもな。」
リムルとフォルテの言葉を聞いたヒナタとルミナスは笑みを浮かべながらそう言った。
「リムル、フォルテよ。妾との敵対を避けたいならば、其奴をよく教育しておくが良い。」
「ああ。任せろ。」
「我らも兄者にはしっかり言い聞かせるつもりだ。」
「今回の様な事が二度と起きぬ様に。」
「フッ。頼もしい限りじゃ。」
フォルテ、アゲンスト、ヴェルキオンの言葉を聞いたルミナスは、フォルテ達なら任せられるとヴェルドラの教育に少し期待を抱くのだった。
「まぁまぁ、難しい話はそれくらいで良いじゃないですか〜。」
すると、話を終えたところで泥酔したフリッツがヒナタの元へとやって来た。
「それよりヒナタ様、この肉いらないならもらいますね〜。あむっ♪」
そしてあろう事かヒナタの鍋に残っていた肉に手を出した。
(あ…馬鹿。)
(終わったな…。)
それを見たリムルとフォルテはフリッツがヒナタの逆鱗に触れてしまったと哀れみを込めた眼差しで見た。
「フリッツ…貴方死にたいかしら?」
「えっ⁉︎あれれ?ヒナタ様…目がマジ…。」
ヒナタの殺気の籠った冷たい眼に睨まれたフリッツは冷や汗を流し酔いが一気に冷めたが……時既に遅し。
ドガ!ガス!バゴ!バキ!ドス!ゴッ!ゴッ!ゴッ!バゴォーン!
「だぁ!どっ⁉︎ぐあ!がっ!カッ!あぁ!ああ〜!おおッ!いやァァァァァア‼︎」
フリッツはヒナタによって容赦なくボコボコにされた。
ヒナタの怒りが収まり解放された時には、フリッツはもうズタボロだった。
「大丈夫か?」
「一応
リムルとフォルテは心配し、フリッツに
「うっ…。ありがとうございます。」
「フリッツ…俺達の前世でこういう言葉があるから覚えておいた方がいいぞ。」
「食べ物の恨みは恐ろしいとな。」
「…はい。今身をもって知りました。」
リムルとフォルテの言葉にフリッツは素直に頷いた。
「リムルもだ。フリッツみたいに泥酔しない様にしろよ。」
「……はい。」
リムルも“人のふり見て我がふり直せ”の言葉通りに、泥酔したフリッツの姿に自分を重ねこれからは酔い過ぎない様に気をつけ様と思うのだった。
今回の話ではやはりお酒の飲み過ぎは良くない事が分かりますよね。
転スラ4期2クール目が終わり、3クール目は来年の七月から放送されますが、その前に来年の四月にスピンオフであるクレイマンREVENGEがアニメ化され放送されます!
クレイマンREVENGEは良い話ですから知らない人は漫画を読んでみてください。
来年のクレイマンREVENGEと転スラ4期3クール目が待ち遠しいですね。