ガゼル王、エラルド公爵との密談を終えたリムルとフォルテは会議を再開するべく中庭に戻った。
戻ってみると、目を覚ましたフューズが椅子に座りながら目元にタオルを乗せていた。
やはり、ヴェルドラ復活とアゲンストとヴェルキオンの存在がまだ受け止めきれていないようだった。
「はぁ……………。」
「大丈夫か?」
「これでも飲んで落ち着いてくれ。」
フォルテはフューズに蜂蜜レモンジュースを渡した。
「ありがとうございます。フォルテ殿。」
フューズはジュースを受け取り一気に飲み干した。
「プッハー……こんな重要な話、予め聞かせといて下さいよ。」
「…済まない。」
「……いえ。予め話しておける話でもないですね。……上になんて報告すれば………はぁ……。」
ブルムンド王国で一番苦労しているのはフューズかもしれないな。
「では、フューズも落ち着いたようなので、会議を再開する。まずは、俺達の今までの経緯を説明する。」
そうして俺達は話した。俺とリムルがシズさんと
ヒナタと戦った事を。この話をしている時のシズさんは悲痛な表情を浮かべていた。
そして、ヒナタと戦ったと聞いたフューズが驚いて声を上げた。
「何と⁉︎あの
「ああ。とんでもない強敵だったよ。こっちの話を全く聞いてやくれない。冷酷で恐ろしい殺人者と言った感じかな……あっごめんシズさん。」
リムルは失言だったとシズさんに謝る。
「ううん。大丈夫だよリムルさん。……こっちこそヒナタが迷惑をかけてごめんね。」
シズさん自身、弟子であったヒナタがリムルとフォルテを殺そうとしていたことに複雑な表情を浮かべていた。
そんな中、リムルの話を聞いたフューズが顎に手を当て何やらおかしいと考え込んでいた。
「う〜ん。」
「どうした?」
「いえ………我々の掴んでいた情報とは、少し印象が違いましてね。」
「というと?」
「彼女は、自分を頼って来た者には、必ず手を差し伸べているんです。助言を聞かなかった者は、相手をしないそうですが…………。つまり、理性的で合理的な考え方の持ち主なんですよ。」
なるほど。………人間に対してそうなのか。
元異世界人である俺やリムルはこの世界では魔物だ。
だからこそ、話すら聞かなかった。
フューズの話を聞いていたガゼル王とエラルド公が口を開いた。
「ふむ。流石は情報操作に長けたブルムンド王国のギルマスだな。余の知り得る物と同じだと証言しておこう。」
「我々の情報とも同じですね。ルミナス教の教義を破った事は一度もなく、最も模範的な騎士…………純然たる法と秩序の守護者という事です。」
「それ程の者なら、何故召喚儀式を阻止しようとしないんだ?子供を異世界から無理矢理連れて来るなんて、どう考えても許される事じゃないだろうに。」
普通ならリムルの言う通りだ。ヒナタが聞いた話の通りの者なら、この異世界に関係のない子供達を攫うような召喚儀式を阻止する筈。
……まぁそれが公に行われていたならな。
「彼女が、各国の召喚を見逃していたかどうかは、本当の所は分からないでしょう?」
「フューズの言う通りだな。」
「異世界人を呼び出す召喚魔法は、公には出来ぬ禁断の秘術でしょう。西方諸国評議会では、禁止事項に指定されてますし。問われた所で、国家としても簡単には認めぬでしょうな。」
「やっていないと言われれば、それまでか………。」
「ええ。」
「リムル殿とフォルテ殿に対して問答無用だったのは、ルミナス教の教えに"魔物との取り引きの禁止"という項目があるからでしょうな。」
やはりな。国家が極秘に行っている以上、証拠もないのでは阻止することもできないよな。
ヒナタが、俺達の話を聞かなかった理由の一つも予想通りだった。
「やはり、俺達とは最初から交渉の余地すらないか。西方聖教会が俺達を神敵と認定すれば、ヒナタはそれに従う……それで間違いないなギャルド。」
フォルテはそう言ってギャルドに聞く。
「ああ。ヒナタ様なら間違いなくな。」
そう答えるギャルド……その肩にテリアモンを乗せて
フォルテ達が密談している間、ギャルドはレイヒム大司教に会っていた。
そして、レイヒムから色々と西方聖教会での自分について知った。
密談後にギャルドが俺達にそれを伝えに来た時、ガゼル王とエラルドにまた問いただされたのは言うまでもない。
ギャルドについてはその時に説明し終えている。
「本来なら俺が戻って説得してやりたいところだが、……レイヒムの話だと俺の偽物がいるらしいからな。」
ギャルドとレイヒムがあった時、レイヒムはギャルドが
そして、レイヒムが言うには、ギャルドはあの任務から帰還して教会で普通に過ごしていると……。
「……ヒナタ様や他の連中が見抜けないほどだ。…俺に化けている奴は相当の手練の可能性が高い。」
「そうだな…ギャルドには、話し合いの場を設けてもらう為の使者になってもらう予定だったが…。」
「向こうの偽物が、本物のギャルドを偽物と決めつけるのは目に見えるよな。」
そうなったら、
ヒナタとも、再び無益な戦いをすることにもなる。
リムルとフォルテがどうするべきかと悩んでいると、ディアブロとウルティマが口を開く。
「クフフフフフッ…………!では私達が出向き、始末して参りましょう。」
「フォルテ様の為だしね。」
「ディアブロ、ウルティマ……」
「確かにお前達なら問題ないかもしれないが……それでもヒナタは強敵だぞ?」
「そうですよディアブロ。」
「ん?」
「紫苑?」
「ディアブロとウルティマが出向くなら、私も出向きます。」
「これはこれは紫苑殿、貴女には秘書の心得を教わった恩があるので言いたくありませんが………残念ながら貴女では、ヒナタとやらには勝てぬでしょう。」
「面白い事を言う。ではどちらが上かはっきりさせ………!」
「「させんでよろしい‼︎」」
紫苑がディアブロとバトりそうになったのて、リムルとフォルテが叫んだ。
二人の声にディアブロと紫苑は驚きがっくりする………何故かヴェルドラまで驚いていた。
「ヴェルドラ……。」
「まさか、お前…………。」
「わっ、わわわ…………我はべっべべ…………別に混ざろうとかしておらぬよ!」
「……兄者。」
「混ざろうとしてたであろう…。」
ヴェルドラの態度で丸わかりだった。ヴェルキオンとアゲンストでさえ、ヴェルドラを白い目で見ていた。
二人はフォルテから得た知識により、ヴェルドラより落ち着きがあり、状況を把握出来るようだ。
「向こうから来るなら兎も角、こっちから行く必要はない。」
「ええ〜………。」
「俺達は西方聖教会と敵対したい訳じゃないからな。」
「お前達もだぞ。」
「「すみません。」」
リムルとフォルテがそう言うと、ヴェルドラがぶちぶちと文句を言い、紫苑とディアブロは素直に謝る。
その様子を見て、ウルティマはくすくすと笑っていた。
「ううん!と言う訳で、ヒナタ及び西方聖教会についての議論は以上だ。相手の出方次第では、争う事になるが…………ええ………慎重に対応して、様子を見る事にする。」
「「「「はっ!」」」」
リムルがそう言った後、フォルテはヒナタについて考えていた。
『密告があったの。貴方達がシズ先生を殺したってね。』
『……情報通り日本人って言い張るのね。それ以上の演技は無駄よ。』
俺達の事をヒナタに改竄して伝えた奴がいる……俺達が元人間である事を知る以前の者達は、エレン達とリムルがイングラシアで出会った神楽坂優樹……。
その中で疑わしいのは……考えるまでもないな。
だがその目的が分からない。俺達とヒナタを争わせて奴に何の得があるのか……。
考え込むフォルテ……そんなフォルテにリムルとガゼル王が声を掛けていた。
「フォルテ…おいフォルテ!」
「フォルテよ。」
「あっすまない。少し考え事をしていた。じゃあ本題に戻ろうか。」
まあ現状、まだ確証がない以上様子を見るしかない。もし奴がまた俺達に敵対するようなことがあれば……倒すまでだ。
そうして、俺達は
「うわっ⁉︎」
「「ん?」」
天井から何かがぶつかる音とともに声が聞こえた。
皆が上を見ると、天井のガラスに見たことある妖精が張り付いていた。
「うっうう…………。」
「ラミリス?」
「どうして此処に?」
俺達は、すぐにラミリスを回収した。
「うぅ…………。」
「大丈夫か?」
「一体、どうしたんだ?」
「あっ!話は聞けせてもらったわ!この国、
「なっ⁉︎」
「「「何だって⁉︎」」」
ラミリスの言葉にフォルテは驚き、リムルは紫苑とヴェルドラと共に声を上げる。
「そう!滅亡……………うわぁっ!ちょっちょっと………………何するのよ⁉︎」
ラミリスがそのまま話を続けようとしたが、ディアブロがラミリスの羽を摘み、あっさりと捕まえた……必死に抗うラミリス。
ちなみに、リムル達と共に声を上げていたヴェルドラは、元の場所に戻り再び漫画を読み始めていた。
「ぐぅ…………!私の全力の魔力を持ってしても、逃げ出せない!ぬぬぬ…………!」
「リムル様、フォルテ様。この巫山戯た羽虫にどのような処分を下しましょう?」
「何なら僕が燃やそうか?」
そう言って黒い笑みを浮かべながら掌から炎を出すウルティマ。
「きゃああ!何よ!何なのよ!私が何したっていうのさ!」
必死にディアブロから逃れようとするラミリス……だが原初の悪魔からは逃れられない。
「こっこいつ…………!只者じゃないわね!………助けてよフォルテ!」
逃れられないと悟ったラミリスは、フォルテに助けを求める。
「…ディアブロ、ウルティマ。そのラミリスは俺達の知り合いなんだ。放してやってくれ。」
「承知しました。」
「はーい。」
フォルテに従い、ラミリスを解放するディアブロ。
「ありがとうフォルテ!」
解放されたラミリスは嬉しさのあまりそのままフォルテの頬に抱き付いた。
そんなラミリスを見ていたフューズがフォルテに問う。
「あの、フォルテ殿。その妖精は…………?」
「ああ。ラミリスは妖精女王であり、精霊女王でもある最古の魔王の一人だ。」
「えっへん!」
フォルテに紹介され、自慢げに胸を張るラミリス。
「はぁ………魔王………。」
だが、フューズはあまり驚いていなかった。
「ちょ…………あんた、もっと驚きなさいよ!迷宮妖精のラミリス様とは、私の事なんだけど!なんでそんなあっさりとした反応なわけ?」
「いや、その…………暴風竜復活で驚き過ぎて…………もう驚き疲れたというかなんというか…………。」
フューズがそう答えると、カイジンと黒兵衛は、後ろで漫画を読み続けるヴェルドラとアゲンストをチラリと見た。……ヴェルキオンは真面目に俺達の話を聞いていた。
……無理もない。ヴェルドラ達の復活を知って、フューズはぶっ倒れてしまったからな。
そして、フューズの話を聞いたラミリスは…。
「はあ…………暴風竜?ヴェルドラが復活したですって?んな訳ないでしょ!ヴェルドラは昔、私がワンパンで沈めてやったからね!口ほどにも無かったわよ!あいつの時代はとっくに終わったって訳!恐怖するなら、あんな微風竜じゃなくて、私を畏れ敬うが良いさ!ハ〜ッハハハッ!」
……何も知らないとは幸せであり、怖いものだな。
フォルテの前で高笑いをするラミリス。そんなラミリスを掌に乗せて、フォルテはヴェルドラの元に向かった。
その間も高笑いを続けるラミリス。
「ヴェルドラ。済まないが、会議が終わるまでの間、ラミリスの相手をしてくれないか?」
「んー?我らは今忙しいのだ。遊戯がマリクの操るオシリスと言う天空竜をどう攻略するのか、いよいよ最終局面なのだから。」
「うむ。海馬の言った〝
ヴェルドラとアゲンストは遊戯王を読んでるようだな……懐かしい子供の頃はよく立ち読みしていたなジャンプ……だが、今から大事な会議の本番だ。
ヴェルドラ達には悪いが禁忌のネタバレをする……悪いがな。
「ああ。それはな、遊戯がマリクのリバイバルスライムを洗脳して、無限ループでデッキ切れになるまでカードを引かせたんだ。オシリスの力は無限ではなく、デッキの枚数という限界があったってことだ。じゃあラミリスを頼んだぞ。」
そう言ってラミリスをヴェルキオンに預けるフォルテ。
「ヴェ………⁉︎」
「っ⁉︎」
「ちょっ⁉︎」
フォルテからネタバレされ、ヴェルドラとアゲンストは涙目となり、その表情から〝何でネタバレしちゃうの、酷いぞ〟と言っているのが伝わってくる。
ラミリスは、本当にヴェルドラが復活している事と、ヴェルドラが増えている事に驚きながら困惑した。
そして、ヴェルドラとアゲンストは燃え尽き真っ白となり、ラミリスは気絶した。その容姿をヴェルキオンは苦笑いして見ていた。
「申し訳ない。会談を再開しよう。」
「おっおう…。」
そんなフォルテの姿を見たリムルは、少し引いた表情を浮かべた。
そして、リムルとフォルテは会議を始める。
「では、改めて本題に入ろうと思う。公に発表するのは、以下の筋書きとする。」
「俺達は魔王を名乗るが、覚醒した事は伏せる。欲深いファルムス王国のエドマリス王が、
「魔王二人によって滅ぼされたよりも、戦争によって敗北したとする方が、他の国々も受け入れられるだろう?」
「そして、ファルムス軍の大量の死者が、最悪の封印を解いてしまい、眠れる邪竜である暴風竜ヴェルドラを復活させた。」
俺達は筋書きを話しながら、立ち直り再び漫画を読んでいるヴェルドラとアゲンスト、ラミリスを大事に持つヴェルキオンを見る。
「ん?どうした?」
「我らに構わず続けるがよい。」
「兄者達の言う通りだ。」
ヴェルドラ達の言葉を聞き頷くリムルとフォルテ。
「更に、復活したヴェルドラが戦場で死んだ者達の魂を全て取り込み、更なる力を覚醒させ、己が存在から新たな竜種を二体生み出した。…それがアゲンストとヴェルキオンとする。」
「そのヴェルドラ達を、英雄ヨウムと俺達が協力し、多大な犠牲を出しつつも説得して、怒りを鎮め守護者として祀る事で話をつけた………とする。」
「俺達の魔王化に意味を持たせつつ、ファルムス王国に全ての罪を着せ、俺達が正義であると主張する。」
「ふむ………。」
リムルとフォルテから筋書きを聞き終えると、フューズは顎に手を起き、そんなフューズにガゼル王が口を開く。
「考えてもみよ。人は自分が理解出来ない存在を恐れ、決して認めようとはしない。たった二人で五万もの軍を滅ぼした者に友好を口にされても、信じる事など出来まいよ。」
「確かに……。」
「だが、暴風竜の仕業であるとするならば、理解するのは容易だろう。何しろ、暴風竜は天災なのだからな。」
そう。ヴェルドラは、世界中を暴れ回り、勇者に封印された
そのヴェルドラがやったと言う事なら、誰もが納得するだろう。
「クックック…………!我を天才と呼ぶとは、中々見所のある男よ。」
「そっちのてんさいじゃねぇよ!」
「まさに、てんさい違いだな。」
見当違いのヴェルドラであった。
そんな中で、次に口を開いたのはエラルド公だ。
「私も、この筋書きを支持します。娘のせいでリムル殿とフォルテ殿が魔王になったと恐れられ恨まれるよりも、リムル殿とフォルテ殿が魔王になったお陰で、暴風竜達に対する交渉が可能になったと感謝される方が良いですからね。」
「パパ…………それってなんか姑息ぅ。」
「っ‼︎」
エレンはエラルド公…父親には辛辣なんだな。
娘思いだが……度が行き過ぎているからだろう。
「利点は他にもある。俺達を警戒するであろう他の魔王達が、脅威がヴェルドラ達のみだと勘違いする可能性が高まるからだ。」
「そうなったら、俺達も動き易くなる。何より最大の利点は、俺達がヴェルドラ達と交渉可能だと知れば、下手にちょっかいを出して来る国が減るだろうという事だ。反対意見があれば言ってくれ。特にヴェルドラ達には、俺達の罪を背負わせしまうが………。」
そう言って、リムルはヴェルドラを見る。
「何も問題ないぞ。」
「ん…………。」
「我らはお前達のカルマを共に背負うと決めていた。暴風竜の威、存分に使うが良い。」
「兄者の言う通りだ。我の逆風竜の威も必要ならば、存分に使うが良いぞ。」
「我の電脳竜の威もだ。」
「お前達…ありがとう。」
フォルテはヴェルドラ達に礼を言う。
そのすぐ後、リグルドを筆頭に皆が話し始める。
「確かに納得ですぞ。それならば、他国とも今までと変わらぬ交渉を続けられそうです。」
「はい!流石はリムル様とフォルテ様です!」
「いや。発案はガゼル王だし、俺達は意見を纏めただけだよ。」
「ガゼル王には感謝している。」
「ふん。」
その中、スフィア達も口を開く。
「感謝するぜガゼル王。これで俺達が動く時、リムル様とフォルテ様の援軍が期待出来るって物だ。」
「「うん。」」
「フッ成る程。俺達はクレイマンに集中出来るというわけか。これは、勝たねば俺が無能だったという事になるな。」
そう。ヴェルドラ達にクレイマンや西方聖教会が気を取られている間に、俺達はあらゆる準備を進められる。
「よし。魔王になった過程を公表するにあたっての筋書きだが………ここまでは良いか?」
リムルが皆にそう聞くと、皆は頷いた。
それを見たフォルテが口を開く。
「なら、その筋書きを基に、今後の方針を決める。ヨウム。」
「ん?ううん!おう。」
「「ん?」」
フォルテの声に応えて、ヨウムは咳払いしながら立ち上がる!
そんなヨウムをガゼル王とエラルドが見る中、リムルが説明する。
「ファルムスの新しい国王として、英雄ヨウムを擁立し、新国家の樹立を目指したいと思う。」
「何ですって?ヨウムを?」
「ああ。」
「まず、エドマリス王を解放して、
「しかし、あの国が賠償にまともに応じるとは思えんのですが…………。」
「それが狙いだ。賠償問題はあくまできっかけに過ぎない。本当の目的は、ファルムス王国内で内戦を起こさせる事。一度、ファルムス王国を滅ぼし、新しい国へと生まれ変わらせる。英雄ヨウムを新たな王としてな。」
「幸い、彼は国民からの人気が高い。」
「えぇ………。」
「んん〜?ん?」
腐り切ったファルムス王国を変えるには、根本の王族や貴族を粛正する必要がある。その為にヨウムを新たな王にする。
だが、ヨウムをあまり知らないエラルド公は首を傾げた。
そんな中、ガゼル王が口を開く。
「うむ。よかろう。俺としては、その計画自体に異論はない。」
そう言ってヨウムと向き合うガゼル王。
「あっ……………!」
「ふん!」
そして、ヨウムに向かって英雄覇気を放つ。
「うっ、うう……………!」
ガゼル王から放たれる覇気に対して必死に耐えるヨウム。
「貴様は民を思い、苦しみを負って立つ覚悟があるのか!………どうなのだ。」
覇気に耐えるヨウムに対してガゼル王は問う。
ガゼル王はヨウムを試しているのだ。半端な者に王は任せられない。
ドワルゴンの王として、ヨウムにファルムス王国の民達を任せられるのか、見極める為に。
英雄覇気に耐えながら、ヨウムはガゼル王の問いに答える。
「へっ………知るかよ。」
「…………。」
「俺だって、好きで王になろうってんじゃないんだ。だがよ、俺を信じて託されたこの役目…………断ったんじゃ男が廃るだろうが!」
「ほう?」
「出来もしないと決めつけて、やる前から諦めたくないだけさ。…………惚れた女の前で、カッコつけたかったってのもあるけどよ。」
「ん?」
「はっ…………バカ………。」
「ヒヒっ。」
ヨウムの言葉に、ミュウランは顔を赤くしながら俯き、それを見ていたスフィアがニヤニヤしている。
「やるからには、全力でやってやるさ!」
「…………。」
そう言って、ヨウムはガゼル王と睨み合う。
すると、グルーシスが立ち上がる。
「確かに、こいつはバカだ。だが実にヨウムらしい。ドワーフの王よ。俺も保証する。こいつは確かにバカだが……。」
「何度もバカバカ言うな!」
「無責任ではない。アンタのような英雄王と呼ばれるその時まで、このグルーシスが見届けると誓う。」
「私も誓います。」
ミュウランも立ち上がりそう言う。
やはり、ヨウムには人を惹きつける素質があるな。
二人の言葉を聞いたガゼル王は口を開いた。
「ふっ………ならば良い。……………何かあれば、俺を頼るが良い。」
「えっ………?」
「ハハっ。」
そう言って、ガゼル王は席に座る。
ガゼル王は、ヨウムを認めたのだ。
「しかし、面白い男を見つけた物だな。」
「まさか、惚れた女の為に王になるなどと…………。」
「「ハハハハッ………!」」
「あっいや………。」
そう言って、笑うガゼル王とエラルド公。
すると、フォビオがニヤニヤしながらグルーシスに言う。
「やるじゃねぇかグルーシス。まさか俺達の前で、堂々とカリオン様を裏切る宣言をするとは。」
「うっ!いや、そんなつもりでは……………!」
「フッ。」
フォビオンの発言にオロオロするグルーシスを見て、フォルテがほくそ笑んだ。
そして、ガゼル王がヨウムに言う。
「ヨウムよ。我が国が貴様に望むのは、農作物の生産だ。」
「んん?」
「他国と競合する分野ではなく、独自の分野を伸ばす方が、共存共栄しやすいだろう。」
「俺達からも頼むヨウム。」
「欲しい作物は要相談でな。」
「流石だな旦那達は。任せてくれ。ファルムスは農業も発展しているし、受け入れられると思うぜ。」
着々とヨウムのファルムスの新王への話が進んでいく。
その中、続くようにフューズが口を開いた。
「では、ブルムンドを代表して、提案があります。」
「提案?」
「我らも、ヨウム擁立計画に協力できそうですので。」
「ほぅ。」
「ブルムンドは、ファルムスの貴族、ミュラー侯爵とヘルマン伯爵を懇意にしておるのです。彼らと交渉し、こちらの陣営に加わってもらうというのはどうでしょうか?ヨウム殿が決起した際には、後ろ盾として、頼りになると考えます。」
ファルムスの貴族と繋がりがあったのか。確かに後ろ盾が出来るのは良い。
だが、ブルムンドの王様が何を考えているのか分からないからな……。
「それはありがたい話だが……。ギルマスとはいえ、そんな重要な事を此処で勝手に決め大丈夫か?」
「今の俺は、国家所属の立場であるとご理解下さい。ギルマスとしてではなく、ブルムンド王国情報局統括補佐としての発言です。」
「そうか。……その貴族は信用できるのか?」
「ミュラー侯爵は、ブルムンド王と遠縁に当たりますし、ヘルマン伯爵は、ミュラー侯爵に大きな恩があり、裏切るとは考えられません。」
「なるほど………。しかし、そんな秘密をここで暴露して大丈夫なのか?」
「ハハハハッ!大丈夫です。それに、どうせご存知だったのでしょう?ドワルゴンの暗部の者達ならば、我がブルムンドの情報局に匹敵しますからね。」
「うむ。」
「よし、分かった!フューズ。ミュラー侯爵とヘルマン伯爵とやらに、速やかに、そして密かに連絡を頼む。」
「ああ。任せて下さい。」
「ヨウム。聞いたな?」
「ああ。任せろよ。」
「よし。英雄ヨウムの国取りは、そんな感じだな。英雄の凱旋を華々しく演出しようじゃないか!」
「「「「「「おう!」」」」」」
リムルの言葉に、一同が応える。
すると、エラルド公が突然笑い出した。
「ハハハハッ!」
「ん?」
「………。」
そんなエラルド公をフォルテは静かに見つめていた。
「揃いも揃って、国を担う人々が、他者を疑いもせず、本音で語り合うなどてと………フフッ。これでは警戒してる私の方が滑稽ではないですか。ハハハハッ!」
「ちょっと、パパ。」
エラルド公は、笑い終えるとその場から立ち上がり、フューズを見据える。
「ん?」
「君に問おう。君は、魔物であるリムルとフォルテとやらを、本当に信じているのかね?」
「それは…………どういう意味ですか?」
「魔物が勝手に国を名乗ろうが、何をしようが、ブルムンドはそれを正式な国家と認めなくても良かったのではないのかね?まして、国交まで結ぶ必要は無かっただろう。」
「んん……………。」
「つまりだね。私なら、取引だけ行いつつ、西方聖教会の出方を見ていただろう。利益を享受しつつも、裏でこっそりと通報し問題がないかどうか、全てを一任してね。それが、小国なりの立ち回り方という物では無いのかね?」
エラルド公の言葉は正しい。利益だけを得つつ、様子を見ながら西方聖教会と通じていた方が、小国として一番安全だったはず…人間側からすれば。
「確かに、普通ならエラルド公の言う通りだろうな。…フューズ。済まないが本音を聞かせてくれないか?フューズ達の事は今も信じている。ブルムンド王が何を考えているのか、俺は知りたいんだ。」
「えぇ………ハァ…………あああ〜〜〜!分かったよ!分かりましたよ!それじゃあ、本音で語らせてもらいますよ。そうですよエラルド公。俺もベルヤード……知り合いの貴族も同意見でした。ですが…。」
ブルムンド王はフューズとベルヤードにこう言った。
「信頼関係を結び、共存共栄の関係を築く…それしかない。」
「しっしかし……。」
「
「…というのが、リムル殿がブルムンドに来られる前の王の言葉です。」
なるほど。…確かにブルムンド王からすれば、俺達の力は西方聖教会より強大に思えただろうし、裏切ったら国が滅ぼされると思ってもおかしくない。
「…………そりゃあ、ドワーフ王国やアンタの所は大国だし、選択肢も選び放題でしょうがね。我が国みたいな弱小国家は、一つ間違うと終わりなんですよ。どうせ命運をかけるなら、西方聖教会に助けを求めるのではなく、魔物の主達を信じる方が良い。……結果としては、この選択は正解だった。ブルムンドは、ルミナス教への信心が薄い。俺個人としても本当は、命運をかけるなら、西方聖教会ではなく、魔物の主を……リムル殿とフォルテ殿を信じようと思ってましたからね。…まっそれが理由です。」
「…なるほど、つまり生存戦略として西方聖教会より、
「小狡いなエラルド。他国を試さずとも、俺がリムルを信じているのだから疑うまでもあるまいよ。」
「そうは言うなガゼル。魔物の国との国交となると、そう簡単には決めかねるよ。」
「…で?決断は下させたのだろう?」
「私なりに結論は出ているがね。それを答える前に、リムル殿とフォルテ殿達自身に1つ伺いたい。」
「ちょっとぉパパ!もったいぶらずにさっさと答えてよぉ!」
「ちょっお嬢様、今は不味いですって!」
「そうでやすよ!かっこいい所を見せようと、頑張っておられるんですから!」
「んん……。」
「策士も地に落ちたな。」
カバルとギドにそう言われ、照れるエラルド公。
そんなエラルド公を見てガゼル王は呆れていた。
その様子を見ていたリムルは苦笑いを浮かべた。そして、フォルテとアイコンタクトをし、フォルテが頷いたと同時に、二人はエラルドに向かって魔王覇気を放った。
凄まじい覇気に、エラルド公とエレン達は二人を見る。
「聞こうかエラルド。」
「俺達に何を問う?」
(魔王覇気……………⁉︎なるほど。これは凄まじい……………!)
リムルとフォルテの覇気を耐えながらエラルド公は二人に問う。
「では、魔王リムルに魔王フォルテよ。貴方達に問いたい。貴殿達は魔王として、その力をどう扱うおつもりなのか。」
エラルドの問いを聞いたリムルとフォルテは、魔王覇気を解除し、リムルが口を開く。
「え?何だ、そんな事か。」
「何だ…………?」
「答えは簡単。俺達は、俺達が望むままに暮らしやすい世界を作る。出来るだけ、皆が笑って暮らせる豊かな世界をな。」
「そんな夢物語のような事が、本当に実現出来るとでも⁉︎」
「その為の力だ。力無き理想は無力だが、俺達にはそれを実現させられるだけの力があると確信している。」
ファルムスの惨劇で、自分の力の無さを悔やんだ。そして、皆を生き返らせる為に真なる魔王に進化した。だが、その力は無闇に振るったりはしない。
この力で、皆と共により良き世界を作ると決めたのだ。
リムルとフォルテの言葉を聞いたエラルド公は、……笑みを浮かべた。
「フッ…………。アハハッ!愉快だ!これは愉快ですな!魔王リムルに魔王フォルテよ。カルマ深き魔王達よ。貴方達が覚醒出来た理由が、私にも理解できましたぞ。(エレンちゃんが懐く訳だな。)」
エラルド公はそう思いながらその場で、リムルとフォルテに向かって跪く。
「失礼しました。魔王リムルに魔王フォルテよ。私は魔導王朝サリオンよりの使者として、貴国…………ジュラ・テンペスト連邦国との国交樹立を希望致します。何卒、良き返事を賜りたく存じます。」
「パパ!」
「お、お嬢…………!」
「ちょっ!」
エラルド公がそう言うと、エレン達も頭を下げる。
リムルとフォルテの答えは決まっている。
二人はエラルド公の元まで歩み、リムルがエラルド公に手を差し伸べる。
「こちらからも、良き関係を築きたいと思っていた。」
「その話、是非ともお受けしよう。」
リムルとフォルテがそう言うと、エラルド公も立ち上がり、リムルの手を取り握手を交わすのだった。
それを見て、一同は拍手をした。
こうして、
ブルムンド、ドワルゴンに続いて、人類国家としては三つ目だ。
そうして魔導王朝サリオンとの国交樹立が決まり、次は…打倒クレイマンだ!
「よし、紅丸!」
「カーネル!」
「「はっ。」」
「敵はクレイマン。叩き潰すぞ!」
「容赦はいらない!全力を持って殲滅する!」
「待ってましたよ。その命令を!」
「承知しました。」
「はい!腕がなります!」
リムルとフォルテの命令に紅丸、カーネル、紫苑の三人は笑みを浮かべる。
「そして、三獣士及び、獣人の戦士達も協力を頼む。」
「勿論です。我らは皆、今はリムル様とフォルテ様の指揮下ですわ。」
「ああ。任せてくれ!」
「うん。」
三獣士達も頷き答える。そんな中、ガゼル王がリムルとフォルテに問う。
「リムル、フォルテよ。それで……………勝てるのだろうな?」
「勝てるかどうかじゃない。必ず勝つ!クレイマンに俺達を怒らせた報いを受けてもらう。そして、心の底から後悔させる!」
「簡単に言いますね。魔王クレイマンといえば、数多の魔人を配下に擁する魔王。油断ならない相手ですよ。」
「関係ないな。戦いは数でなく、質だ。」
「やれやれ…………自分の常識が崩れる音が聞こえそうです。」
フォルテとリムルの答えに、エラルド公はそう言うのだった。
こうして、後に人魔会談と呼ばれる会議が終わり、俺達はまた、理想に向けて大きな一歩を踏み出した。
一方、ある北の土地では、赤髪の男が緑の髪のメイドから話を聞いていた。
「…………若い魔物二人が、魔王を名乗った?」
「はい。それを理由に、
それを聞いた赤髪の男は呟く。
「ミリム……………相変わらず、バカの考えは分からんな。」
そして、
そんなクレイマンに、ラプラスが話しかける。
「聞いたで。ユーラザニアへ攻め込むんやて?」
「ああ。首都はミリムが消し飛ばしたが、あの国は人口だけは多い。各地に点在する集落には、人間も多数住んでいる。私の覚醒の為の、ちょうど良い生贄になってくれるだろう。そう思わないか?」
クレイマンは、ファルムスの魂を得られなかった故に、今度はユーラザニアの多くの民の命を奪う事を企んだのだ。
それを聞いたラプラスは…。
(非戦闘員を含め、皆殺しって事かいな。なんや強引すぎるっちゅうか………ちょいと焦りすぎちゃうんか?クレイマン。)
ラプラスはずっとクレイマンと共にいる仲間の一人。故に、どこか彼らしからぬ行動に不安を感じた。
「なあ。
「ああ。それなら問題ない。
「なるほど。向こうが先に裏切ったんなら、筋は通…………って、ミュウランちゃん殺されてもうたんかいな⁉︎」
クレイマンの発言に驚き、ラプラスはお手玉の一つを落とした。
「ああ。
「そうか。ええ子やったんになあ……………。」
そう言って、落とした玉を拾うラプラス。
「ハハハハッ君は優しいな。この前、ティアにも言われたよ。〝道具は大切に扱わないとダメだ〟って。君が教えたんだってねラプラス。だからこそ、道具を壊した者達には、責任を取ってもらわないと。そうする事で、道具への供養になるという物だろう?」
「…………せやな。せめて、その死を無駄にするのだけはやめてやりたいわな。」
「そうだろ?君なら理解してくれると思っていたよ。」
(そういう意味とちゃうんやけどな…………。)
ラプラスの意図が伝わっておらず、ラプラスはクレイマンに聞く。
「なあ、クレイマン。ほんまに自分の意思で、今回の作戦を決めたんやな?」
「私に命令出来るのは、カザリーム様と恩のあるあの方達のみ。それは君が一番よく分かっているだろう。」
「…………分かった。ならええわ。ワイはもう行くけど、最後に友人として忠告や。魔王ミリムの支配を過信せん方がええ。あれは、カザリーム会長よりも、昔からおる太古の魔王の一人なんや。せいぜい油断せんようにな。ほな。」
ラプラスは、そう忠告しながら去って行った。
ラプラスが去った後、クレイマンの手に持つグラスが弾けるように割れた。
「(私が何者かに影響されているとでも言いたいのか?)忌々しい………!」
ラプラスの忠告を聞いたクレイマンは頭を押さえながらそう思った。
…………クレイマン自身は知らない………自分の精神が、ある者によって影響されていることを。
エラルド公もリムルとフォルテを認めサリオンとの国交樹立が決まった。
その一方で次なる作戦を進めるクレイマン……彼は知らない。
この作戦すら、本当に自分の意思で決めた訳ではない事に…。